米倉利紀

米倉利紀

【米倉利紀 インタビュー】
デジタルな時代、浮き彫りになるのは
人間の心のアナログ感

ベスト盤発売にツアーなど、3年間を費やして25周年イヤーを開催していた米倉利紀からオリジナルアルバム『analog』が到着。ラグジュアリーでソウルフルな歌声に乗せて、今まで以上に自身の感情を赤裸々に綴った今作について本人に訊いた。

ベスト盤2タイトル『besties: side-a』『besties: side-b』を経て約2年振りのオリジナルアルバムが完成しましたが、“analog”というタイトルはどんなところから思い付いたものですか?

この2年間で感じたことなんですけど、世の中がどんどんデジタル化されていくじゃないですか。例えばメールや写真ってデータを削除すれば消えちゃうってこと。でも、心に残った記憶や傷って一生かかっても絶対にゼロにはならないと思うんですよ。世の中がデジタルになればなるほど、その心のアナログ感は浮き彫りになっていく気がして。この2年間の自分を振り返った時に、恋愛や人間関係、記憶から消せるものなら消したいと思った写真データを全部削除してみたんです。削除したけど、心の何処かに記憶って残っているんですよね。良い思い出も悲しい思い出も。それをひとつの作品として残したのが今作です。

収録曲の中には「SOCIAL NETWORK SERVICE」というデジタルに支配されたアナログな心に警告を訴え掛けるナンバーもあり、今作は全体を通して今まで以上に米倉さんが自身のことを赤裸々に綴っていると感じました。

そうですね。こんなに自分って脆いんだとか、弱いんだとか、自分で自分を把握している以上の自分に出会え、丸裸になれた時間があった結果の今作なので、今まで以上に赤裸々にみなさんの心に突き刺さる作品ができたのではないかと思っています。

アルバムの冒頭に置かれた「NOTHING LEFT」に綴られた《砕け散った 踏みにじった愛は あなたには贅沢だった》とか《これ以上、与えるものも あなたが奪えるものもない》というフレーズから心に突き刺さってきましたからね。

なかなか歌詞にして歌えることじゃないかもしれませんよね(微笑)。この歌は“自分が空っぽになってしまった”という意味での“NOTHING LEFT”ではなくて、たんまり自分の中に人間力は残っているけど、自分に背を向けた“あなたに捧げるものはもう何もない”という意味。そんな心の状態からこのアルバムはスタートするんです。なかなかのリアル感ですよね。

2曲目の「幻」からはトーンが変わりますね。

ここからしばらくあたたかい曲が続きます。また新しい出会いがあり、無条件に動いた心の表情を歌っています。

そうでしたか(微笑)。「そっと、ずっと」は出会いの中で心が動く瞬間を綴った曲ですが、《優しく眉毛あげて》という描写にはどんな意味が込められているんですか?

これを説明、実際にやってくれって言われるとめっちゃ恥ずかしいんですけど(照笑)。付き合い始めの頃とか気になる人の言葉や声を聞き取れなかった時、“んん?”って眉毛を上げる仕草があるじゃないですか。それです、それ。でも、付き合いが長くなってきたり、険悪な状況の時って“(眉や額にしわを寄せて)えっ?”ってなる。その違い、分かります?(笑) ふとした仕草にキュンとできる感じが「そっと、ずっと」の恋物語です。

米倉さんならではの胸キュンを表現ですね。では、「ココロ」の《掴んだ花びら交わした日から》は?

桜の咲く頃や散る頃に側にいた人。その人と桜を見に行ったり、街を一緒に歩いている時に桜の木を見付けて、風に舞う桜の花びらをキャッチし合った思い出。“桜の花びらをキャッチすると恋が叶う”ってそっと教えてくれたんです。お互いに桜の花びらをキャッチしたあと、“どんな桜の花びらだったの?”って訊かれて僕の手のひらにある花びらを見せた時、めっちゃきれいなハート型だったんですよ。それを見て“わっ、ハート形!”と最高に素敵な笑顔を見せてくれて、パッとその花びらを手に取って、その人が取った桜の花びらを僕の手のひらに置いたんですね。そう、花びらを交換したってこと。で、そのあと、神社に立ち寄っておみくじを引いたんですよ。それぞれに良いことが書いてあったから、交換した花びらをおみくじに包んで、来年の桜の時期までお財布に入れて持っていようってことになったんです。その2カ月後くらいだったかな、その人のInstagramに“財布をなくしました”と上がってました(微笑)。

「ボクノキミ、キミノボク」には七里ヶ浜と具体的な地名が明記されているのも印象的でした。

こんなこと言っちゃったら僕に七里ヶ浜に連れて行かれた人は“そうなのかな?”って思ってしまうかもしれないんですけど、だいたい連れて行きます、気に入った人を(笑)。僕の歌詞で海が出てくるものはだいたいここです。それぞれの曲で相手は違いますけどね(笑)。自分が恋をした時のバロメーターです、七里ヶ浜。みなさんにもそういう場所ってあるでしょ? この曲は新しい恋愛が始まるかもって時に、前に付き合ってた人に教えてもらった“愛し方”を心に思い浮かべてるって歌。決して比べているということではなく、恋の積み重ねです。《見えないふり、聞こえないふり》というのは嘘をつくということではなくて、恋愛においてその人を大切に想うひとつの方法かもしれないなということ。当然相手が今どこで何をしているかって気になるし、気になることを疑い出したらきりがない。今は詮索しようと思えばいくらでもできてしまう時代だから。でも、そんなことをしないからこそ、知らないからこそ楽しめること、やさしくなれる気持ちもあるんじゃないかと思ったりします。

そして、アルバムは「大切な日々」で結ばれると。

「NOTHING LEFT」でひとつの恋愛が終わり、ボロボロだった。ちょっと分かりにくい表現ですが、心は満タン状態でのボロボロだったんですよ。“何もかも全部投げ出してしまいたい”という状態。この「大切な日々」の歌詞にあるようにボロボロになりながらも、人間って逃げられないということ、向き合うことの大切さを再確認させられた時期でもあったんです。人間、この世に生まれた以上、使命があると思うんです。この歌詞にあるようにボロボロになりながらも、人間って逃げられないということ、向き合うことの大切さを再確認させられた時期でもあったんです。人間、この世に生まれた以上、使命があると思うのです。「大切な日々」の最後に《嘘のない僕の大切な日々っていいでしょう》と綴っていますが、どんな状況からも逃げなかった自分が強いとか、泣いた自分が弱いとか、そんな次元の話ではなくて、全部ひっくるめて“こんな米倉利紀の人生って素敵でしょ?”と胸を張ってみなさんに言える自分が今、ここにいることを歌詞にしました。

赤裸々に自分のことを綴るのは怖くなかったですか?

僕もひとりの心ある人間だから恋愛もするし、人間関係で悩むこともある。心があるってそういうことですから。そんな自分だから、心にある想いを素直に言葉に、歌詞にできるのだと思っています。いつも“らしくいたい”というのが僕の生き方。今、このデジタルな時代だからこそ言えること。僕たちアーティストもみなさんと同じく心ある人間なんです。感情のないアーティストいう商品ではない。アナログな心をデジタルの世界、CDで伝えたいと思っています。

取材:東條祥恵

アルバム『analog』2019年1月23日発売 徳間ジャパンコミュニケーションズ
    • TKCA-74745
    • ¥3,000(税抜)

【ライヴ情報】

『besties -WE ARE BACK』
2/02(土) 東京・日本消防会館

『sTYle72 inc. presents toshinori YONEKURA concert tour 2019 gotta crush on..... volume. twenty "analog"』
3/16(土) 東京・新宿ReNY
3/17(日) 東京・新宿ReNY
3/23(土) 沖縄・output -OKINAWA SPECIAL
3/23(土) 沖縄・output -plus AFTER PARTY
3/30(土) 神奈川・横浜BAY HALL
3/31(日) 神奈川・横浜BAY HALL
4/05(金) 兵庫・神戸チキンジョージ
4/13(土) 鹿児島・CAPARVO HALL
4/14(日) 熊本・B.9 V1
4/20(土) 宮城・仙台darwin
4/21(日) 青森・Quarter
4/24(水) 東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
4/25(木) 東京・Mt.RAINIER HALL SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
5/11(土) 広島・セカンド・クラッチ
5/19(日) 東京・渋谷WWW
5/26(日) 愛知・名古屋ElectrcLadyLand
6/01(土) 京都・MUSE
6/08(土) 群馬・郡山club#9
6/15(土) 岡山・CRAZYMAMA KINGDOM
6/22(土) 新潟・LOTS
6/29(土) 石川・金沢Eight Hall
7/14(日) 北海道・Zepp Sapporo
7/20(土) 大阪・Zepp Namba
7/21(日) 福岡・Zepp Fukuoka
7/25(木) 東京・Zepp Tokyo

米倉利紀 プロフィール

ヨネクラトシノリ:1992年4月、シングル『未完のアンドロイド』でデビュー。華やかでスムーズなバックトラック、伸びやかで 安定感抜群のヴォーカル力、幾重にも重ねられた印象的なコーラスワークなど、さまざまなトレードマークを持つ本格派R&Bシンガー。他アーティストへの楽曲提供、プロデュースを行なうなど幅広い音楽活動を展開中。米倉利紀 オフィシャルHP

米倉利紀
アルバム『analog』

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OKMusic編集部

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