【インタビュー】SonoSheet、綺麗ご
とじゃない日常をありのままの言葉で
歌う1stフルアルバム『Short hair』

ここ数年、SUNNY CAR WASHやLucie,Tooなど、栃木県宇都宮市を拠点に活動しているバンドの名前を目にする機会が増えた。2018年12月5日に1stフルアルバム『Short hair』をリリースした3ピースバンドSonoSheetもそんなバンドの一つだ。初の全国流通盤となる今作は、演奏には90年代から活躍を続ける日本のメロコアバンドの影響を色濃く感じさせつつ、よく通る歌声とポップなメロディが耳に残る。そして、歌われているのは、誰もが抱えている内省的な世界だ。綺麗ごとじゃない日常をありのままの言葉で歌うからこそ、その歌は澄んで聴こえる。渡辺裕貴(Vo.Ba)と藤巻宏将(Dr.Cho)に話を聞いた。

■「これがSonoSheetです」って言える作品になっていると思います
■ただ、ジャンルは今でもよくわからないですけど

――SonoSheetは、どんな成り立ちで出来たバンドですか。

渡辺裕貴/Vo.Ba(以下、渡辺):僕がHi-STANDARDのコピーバンドから始まった英語のメロコアバンドをやっていて、そのバンドが20歳くらいのときに解散して、2014年に結成したのがSonoSheetで、2年くらい前に今のメンバーに固まりました。ギターの豊田(由生)君は、もともと僕らのお客さんだったんですけど、メンバーが抜けるときに誘って入ってもらいました。

――藤巻さんは、どうして渡辺さんと一緒にやろうと思ったのでしょうか。

藤巻宏将/Dr.Cho(以下、藤巻):最初にSonoSheetが出した自主制作盤『青の風景』を聴いたときは別に好きじゃなかったんですけど(笑)、次のEP『DAY DREAM』を聴いたときに、良いなと思ったんです。それから僕が地元の栃木県宇都宮市でやっていたバンドが活動できなくなって、そのタイミングで誘われたので加入しました。

――最初に聴いたときと、次に聴いたときには何が違っていたんですか。

藤巻:音楽性は変わっていないですけど、自分の感じ方が変わったんだと思います。

渡辺:今もそうなんですけど、1枚目の自主制作盤って「ジャンルは何ですか」って訊かれても、ちょっとわからないようなところが顕著に出ていた作品だったと思うんです。やりたいことが多すぎて、全部やってみたけれどもジャンルはわからない。それが形になってきたのが、2nd EP『DAY DREAM』だったんです。その後に出した3rd「秒速340メートルの青」は、今のメンバーで作っているので、そこからSonoSheetというバンドがキッチリできた感じです。今回の『Short hair』の中には、昔の曲も入っているんですけど、今のメンバーになってからの方がまとまっていると思いますし、「これがSonoSheetです」って言える作品になっていると思います。ただ、ジャンルは今でもよくわからないですけど。
――ルーツはメロコア、パンクにあるんですよね。

渡辺:それもあるんですけど、もともとは小学生のときに聴いたASIAN KUNG-FU GENERATIONが好きで、中学生でBEAT CRUSADERSとかの英語で歌っているバンドを好きになって、メロコアを好きになったんです。昔やっていたバンドが解散したときに、アジカンが好きだったことに立ち返って、メロディックパンクとかWeezerみたいなパワーポップ的なオケで、日本語でやってみようと思ったんです。メロコアとパワーポップを自由に行き来しつつ、日本語で歌うっていうのは間口が広くて面白いんじゃないかなって。(藤巻は)そこが良いと思ってくれたのかもしれないです。

――初期の頃は、間口が広すぎてまとめられなかった?

渡辺:グラフィック・イコライザーで例えると、ボコボコになっている状態が、良い意味でスッと並びが揃ったイメージですね。

――色んな音楽要素を入れつつ、SonoSheetのオリジナルにできるようになった、ということでしょうか。

渡辺:20歳くらいのときに、どうせ新しいバンドをやるんだったら、型にハマったバンドじゃなくて、自分から出てくるものはどういうものなのかということを考えたんです。そのときに、オケは洋楽っぽいけど、自然に口ずさみたくなる日本語の曲をやってみようと思って。でも、僕は歌うテーマがだいたい「失恋」なので(笑)、「めちゃめちゃハイスタを好きなアジカンの後藤さんが、銀杏BOYZみたいな歌詞を考えたら」みたいなイメージで曲を書くことが多いです。パクリっていうか、オマージュ、サンプリングみたいな感じで、「好きなバンドのこの部分をこの曲に入れちゃおう」っていうことをよくやるんですよ。そこに気付いてくれたら嬉しいし、気付かなければ気付かないで、それは新しいと思うんです。それはすごく楽しいなって。

藤巻:僕もルーツはほとんど一緒なんですけど、曲を作るときに、「ここに、あのバンドの曲のこの部分を入れてほしい」って言われて、ドラムを叩くことが多いですね。
▲渡辺裕貴(Vo.Ba)

――ところで、SonoSheetというバンド名の由来は何ですか?

渡辺:字面がカッコイイなって思って付けたんですけど、僕は結構クソ野郎なので、「人間性はペラペラだけど、音は出ますよ」っていうのを、後付けで考えました(笑)。

――人間性がペラペラなんですか(笑)。

渡辺:そうなんですよ、ペラペラなんです。

藤巻:ははははは(笑)。基本的に、全員ペラペラです。

――アルバムはペラペラどころか、ガッツリ12曲入ってボリュームたっぷりですが、どんな作品にしようと考えましたか?

渡辺:初めての全国流通盤ということもあって、先を見据えた上での、これまで自分が作ったものの集大成というか。前のバンドが解散してしまったときに、初めて日本語で曲を作ってみようって書いた曲「マイワールド」があったり、かといえば今回のレコーディングの1週間前に作った曲もあったりして、 “思い出のアルバム”みたいな感じです。

藤巻:このアルバムを聴けば、SonoSheetっていうバンドがわかる作品にしたかったです。

――最初に聴いたときに、一本調子で行くバンドなのかな、と思ったんですけど、よく聴いてみると、曲ごとに細かい構成が凝っている印象でした。

渡辺:アルバム自体もそうなんですけど、物語性、起承転結を作りたいっていう気持ちがあるんです。僕は、メロディの作り方って、コース料理みたいなものだと思っていて。前菜があって、肉料理があって、ご飯があってっていう組み合わせだと思っているんです。その中で、きっちり前菜からデザートまであるコースも美味しいし、コーラとハンバーガーみたいな組み合わせのコースも美味しい。だから、AメロとBメロしかない曲もあるし、サビ・Cメロみたいな曲もあるし、メインが美味しすぎてサビをおかわりしちゃう曲もあったりとか、サビのあとにおじやがくる、みたいな。そういう考え方で曲を作っています。ちょっとよくわからないかもしれないですけど(笑)。

――いやいや、言いたいことはわかります。でも、色んな料理が出てきたら、何のお店かわからなくなっちゃうじゃないですか?それがちゃんとSonoSheetというバンドの作品として成り立っているのはどうしてだと思います?

渡辺:もう、最近は狙わなくても自然と僕らっぽくなっている気がします。

藤巻:たしかに、「SonoSheetっぽさ」というのは別に狙っていないです。

――メンバーが思う、SonoSheetっぽさってどんなものですか。

藤巻:男の子っぽさ、子どもっぽさ、ですね。中学生くらいの。

渡辺:男の子って、意外と繊細だぜっていう。でも僕らも20代半ばなので、そういう奴にしかわからない歌もあるし、同世代の奴らが聴いたらグッとくるんじゃないかなって。もちろん、10代にも、上の世代の人たちにも受け入れてほしいと思ってますけど。
▲藤巻宏将(Dr.Cho)

――そこは、狙っているわけではなくて、にじみ出ている感じ?

渡辺:中学生感っていうか、童貞感が出てると思います。ただこれだけは絶対言っておきたいんですけど、童貞じゃないですから。

藤巻:ははははは!(笑)。

――中学生男子の会話ですね(笑)。でも、曲は爽やかに聴こえますけど。そう言われることってないですか。

渡辺:う~ん、「青春っぽい」とかは言われますけど、僕の中で「青春ってそもそもキラキラしているだけのものですか?」っていう気持ちがあるんですよ。8割方、汗と涙と精子みたいなもので、残りの2割がキラキラしているもので、それを合わせたものが青春だと思っているんです。世の中の青春感って、(アニメの)「君の名は。」みたいな感じだと思うんですけど、僕らはどう考えてもそうじゃないので(笑)。

――「YOU AND ME」という曲もあるように、だいたいの歌詞に「君」と「僕」が出てきますし、そこが青春っぽさを感じさせているんじゃないかと思うんですよ。意識的に「君と僕」っていうテーマで歌詞を書いているんですか。

渡辺:それは、そうですね。僕は人生の一大事が女の子のことしかないんですよ。全部そのことを書いているので。「新しい朝」は、甥っ子が生まれたときに作った曲だったりするんですけど、他はだいたい好きな女の子のことと、あとグラビアアイドルに会いに行った話です。

――グラビアアイドルに会いに行った話?

渡辺:夏目花実ちゃんという、恵比寿★マスカッツのメンバーのグラビアアイドルの子がいるんですけど、彼女を見るために栃木から2時間くらいかけて、東京のパチンコ屋までイベントを見に行ったんです。そのときに本人に会って感動して作ったのが「TV girl」です。

――話したり、握手したりできたんですか?

渡辺:握手したり、サインをしてもらったりして、こちらの音源も渡しました(笑)。最近は、新作が出る度に、「聴いてください」って事務所に送っていますから。

――こじらせてる感じがありますね(笑)。

渡辺:いや、これが青春ですよ!

藤巻:ぜんぜん、共感しないですけど(笑)。

渡辺:薄っぺらいものが好きな一般の人たちとは違うんですよ。僕は人間が薄っぺらいだけなんで。
■僕の曲を好きって言う女の子は僕のことを好きなはずなんですけど
■「曲は好きだけど」って、僕のことを好きになってくれないですね(笑)

――全国流通となったら、より一般的な人たちも聴いてもらう対象になりますよね。

渡辺:そうですね。自分たちの人間性はさておき(笑)、作品としては万人に受け入れられたいっていう気持ちがあります。僕は、ちょっと昔のJ-POPが好きで、WANDS、ZARDとか、ビーイング系のバンドが好きで、コード進行とかメロディのアップダウンも取り入れていて。なので、曲自体は日本人に刺さるはずだって思っているんです。カラオケで歌ってもらいたいなって。

藤巻:メロディに関しては、全部裕貴さんが持ってくるんですけど、メロディの良さに関しては、信頼しています。それと、歌詞については、僕はその歌詞が生まれた現場をほぼ全て知っているんです。

渡辺:僕がフラれたことを全部話しちゃうので。「この歌詞はこの日のエピソードだな」ってわかっちゃうんです。

藤巻:そういうことを知った上で聴くので、「この出来事をこういう風に言いまわすのか」っていう、他の人とは違う変な楽しみ方がありますね(笑)。

――想像をもとに歌詞を書いたりはしないんですか。

渡辺:そうすると、言葉が弱くなっちゃうんです。良くも悪くも、心が動いた日っていうのは、色んなことがよく見えるから覚えているんです。それをもとに歌詞を書いているので。「裸の大将」的な感じじゃないかと思うんですけど。
――「裸の大将」的な感じって、どういうことですか?

渡辺:「裸の大将」の山下清って、見た景色を家に帰ってから、記憶で画に描いてたらしいんですよ。そういう、すごく濃い一日を描いたような歌詞を書いているんです。風景描写とか、場面が浮かぶ歌詞は、全部僕が経験したことを書いています。でもダサい歌詞を書きたくはないですし、僕の中で納得がいく歌詞を書きたいので。そうなると、実際にあったことを書く方が言葉が強いですし、納得いかないと人に聴かせたくないんです。例えば、アルバムタイトル曲の「Short hair」は、ずっと曲はあったんですけど、歌詞が出来なくて。何回も書き直して、僕がすごいフラれ方をしたときに「これしかない!」と思って、家に帰ってブワーって書いたんです。

――ということは、この曲が渡辺さんの中で一番強い言葉の曲だったから、アルバム・タイトルにしたということですか。

渡辺:そうです。というか、自分をフッた女の子への嫌がらせですね(笑)。呪いです、呪い。

藤巻:ははははは(笑)。呪いって。

――どうしてフラれちゃうんですか?

渡辺:すごく仲が良い女の子なんですけどね。同じ女の子にずっとフラれてるんです。

藤巻:同じ女の子の曲が10曲くらい入ってますから。

――それは本当に呪いですね(笑)。曲にして大丈夫なんですか。

渡辺:その子も曲になっていることを知っているし、聴けばわかるようなことをめちゃくちゃ書いているので、大丈夫です。

――とはいえ、「傷心的妄想時間」はタイトルの通り、妄想について書いているんですよね。

渡辺:というか、これはオナニーの曲なので。〈積み上げる虚無の山〉という歌詞はティッシュのことなんです。

――なるほど(笑)。それも好きな女の子のことを歌っているわけですね。

渡辺:そうです。「新しい朝」と「TV girl」以外は同じ女の子のことを歌っているんですけど、「新しい朝」は甥っ子のことだし、「TV girl」は夏目花実ちゃんのことを歌っていて、どちらも自分にとっての大事件なので入れたんです。なので、僕からすると本物の写真のアルバムを見るような作品になりました。

――1曲目の「それでも、ボクは」は、長いイントロから歌い出してからも、ギターの余韻を引きずっている感じですけど、どんなイメージで作っているんですか。

渡辺:これは、1stEPのときに作った曲なんですけど、HUSKING BEEの「#4」(『FOUR COLOR PROBLEM』収録)を真似した感じです。

――そういうアレンジと、歌詞のイメージをリンクさせようという考えもあるんですか。

藤巻:歌詞は最後に出てくるので、演奏しているときには、どんな歌になるのかわからないです。だから、出来上がったらオナニーの曲になっていたりするんですよ(笑)。

渡辺:まあでも、アルバムを出すこともライヴをすることも、公開オナニーみたいなもんですから。恥ずかしいところを「どうよ!?」って出しているものなので。ロックバンドなんて、そうですよ。僕はそうでありたい。ダメなところや恥ずかしいところを出して、それが良いって言ってくれる人がいれば嬉しいですし、クソだって言われても、それはそれでいいし。もともとペラペラで薄っぺらい僕をより濃くしたものがSonoSheetっていうバンドなので。だから、僕の曲を好きって言う女の子は、僕のことを好きなはずなんですけど、「曲は好きだけど」みたいに言われて、僕のことを好きになってくれる人はあんまりいないですね(笑)。
――藤巻さんは、このアルバムから1曲ピックアップするとしたら、どの曲ですか。

藤巻:僕がこのアルバムで一番好きなところは、「ブルーマンデー」のBメロなんです。サビでもいいんじゃないかっていうくらい、すごくメロディが良いと思うんです。

渡辺:これは、考え方で言うと、GLAYの曲(「Winter,again」)で〈いつか二人で~〉がサビかと思ったら、〈逢いたいから~〉っていうサビがきて、「あ、さっきのはBメロだったんだ」って思う、あの感じで作りました。あと、アレンジには普段はあまり使わない4つ打ちを使っているんですけど、メロコアっぽさよりも、2000年代のギターロックっぽさを意識しています。

――アルバム全体のドラムプレイとしては、どんなことを意識していましたか。

藤巻:僕がドラムを叩く上で大切にしていることは、派手なことをやろうとかではなくて、聴いていて飽きなくて、ビートを聴いているだけで体が揺れちゃうみたいなところなんです。そういう意味だと、1番と2番でAメロのドラムパターンを変えたりっていうところにこだわってます。「ブルーマンデー」とか、「マイワールド」もそうです。

――全国流通盤が出て、これまで以上に活動の幅は広がるんじゃないかと思いますが、2019年からはどんな活動を目指していきますか。

渡辺:もっと大きいバンドになれるように頑張って行きたいですね。バンドの内面的にも、外から見る分にも成長できればいいなと思ってますし、成長することで自分たちが好きなバンドと対バンできる機会があったり、より多くの人にバンドを見せられる機会も増えるんじゃないかと思います。僕みたいに、とくに何の取り柄がない人が、僕らの音楽を聴いてバンドを始めてくれたら超嬉しいですし、僕らを入り口に違うバンドを聴いてくれたら嬉しいです。そうなるためにも、バンドとしてもっと大きくなって色んな人に知ってもらえるように、目標を設定して、それに向かってどうするのかをみんなで考えて動いていけたらいいなと思います。

藤巻:全国流通盤を出したので、今年は今までSonoSheetを知らなかった人たちのところに行きたいです。

渡辺:影響を受けたバンドと一緒にライヴができたら、一番嬉しいですね。好きだから真似ているので、本物と一緒にやってみたい。僕ら的には、いつか<AIR JAM>に出たいです。今は夢物語ですけど、それが現実味を帯びてくるようなバンドになりたいです。そういう夢を持ちつつ、10年20年後もバンドをやめないっていうのが、一番の大きな目標です。

取材・文●岡本貴之
リリース情報

1st Full Album『Short hair』
RELEASE DATE
2018年12月5日(水)
HOR-100
[価格]2,000(税抜)+税
HUNGRY OVER RECORDS
1. それでも、ボクは
2. 新しい朝
3. カラー
4. ハッピーエンド
5. 傷心的妄想時間
6. TV girl
7. YOU AND ME
8. マイワールド
9. フラッシュバック
10. ブルーマンデー
11. デイドリーム
12. Short Hair

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