MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第十一回ゲストは北島康雄(四星球)
北島康雄が抱える孤独

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第十一回目のゲストは四星球の北島康雄。音楽から滲み出る、ものすごい剣幕で観客を黙らせるMOROHA。片やコミックバンドの看板を掲げ、観るものを笑いの渦へ巻き込み、会場中を踊らせる四星球。対照的に見える2組がどうして親交があるのか。それは本編で「笑いに使う筋肉と、シリアスな方に使う筋肉は別だと思います?」というアフロの質問に、北島が「表裏一体」と答えた通りである。シリアスと笑いは≒。だからこそ両者は認め合っているのだと、今回の対談で明らかになった。対談後、北島が「うわぁ、喋りすぎた」と照れくさそうに言った。世間に見せる四星球・北島康雄の仮面をアフロが剥がしていく様子は見ものである。——2019年2月4日に行われるMOROHA自主企画「月金でギンギン!~職場の死神背負って来い~」の2マン前に是非とも一読いただきたい。
●「見てくれを気にしないぜ」という自我と「気にするぜ」という自我●
北島:(竹原)ピストルさんとの対談で「紅白で譜面台を置いてたのはどうしてですか?」みたいな質問をしてたやん。かなりガチな企画やなと思った。
アフロ:そうですね。
北島:聞きたいことを聞いてるんや。
アフロ:この連載はそうですね。だから昨日の夜、俺は寝れなかったっすもん。
北島:よう言うわ(笑)!
アフロ:逆に「なんか聞きたいことあったかな」って。
北島:質問を絞り出さなって。
アフロ:でもね、今日は張り切ってZOZOスーツで来られて(笑)。それドットがついてるから、そうでしょ?
北島:お前なんやねん(笑)。
アフロ:アハハハハ。今は遠征で東京に来てるわけじゃないですか。それでも、こうやってオシャレな格好でキメてるじゃないですか。荷物が減って楽だから上下ジャージで行こう、にならないんですね。
北島:うぅ……まぁ……あの、僕に服の話する(笑)?
アフロ:(北島)康雄さんがオシャレなことに対して、みんな突っ込まないじゃないですか。この日のために四星球のインタビューも読んできたんですけど、誰もバンドの核でもある「康雄さんがブリーフを脱いだらオシャレ」という問題を取り上げてなくて。
北島:いや、それは恥ずかしい話や。「僕がなぜオシャレをするか?」っていう(笑)。
アフロ:なんでオシャレなんですか?
北島:「なんでオシャレなんですか?」とか「オシャレっすよね」とか、その話題を振られたら恥ずいやん。だから、ちょうど良い答えを用意してて。
アフロ:はいはい、なんですか?
北島:「オシャレか分かんないっすけど、服は好きですね」って。
アフロ・北島:アハハハハ! 
アフロ:いや、そういう大喜利大会じゃないんすよ! 一応、本質に迫っているつもりですよ。結局、洋服は自我の表れだったりするじゃないですか。「見てくれを気にしないぜ」という自我と「気にするぜ」という自我って、大体同じところにある気がするんですよね。
北島:確かにアフロの言ってる「気にしてる」と「気にしてないぞ」は≒な気はしてて。等身大と言うてるヤツはおかしいよな。
アフロ:そうなんです。四星球の音楽を聴くと「洋服なんてくだらねえ。パンツ一丁でいくんだ」という風に見えるじゃないですか。だけど、その康雄さんはいつも洋服に気を遣っているという。
北島:小学生の頃から服は好きやって。そのままズーッと来てて、途中からバンドが入ってきただけで。
アフロ:服を好きな康雄さんがバンドの会議で「はっぴとブリーフでいきましょう」となった時に「いやいや、待ってよ!」とならなかったですか?
北島:それは僕が言ったから、それは全然別。
アフロ:じゃあ洋服に関して言えば、オンとオフなんですね。
北島:そこまで考えてないよね。子供の時から父さんのMA-1を着るような感じやったから、着たいもの着てるだけ。洋服の「着たいことを着てる」がバンドでは「やりたいことをやってる」に近いかもしれへん。
アフロ:例えば、オシャレなバンドを見て羨ましくならないですか? 「ステージの上でカッコつけてこそなのにな」って。
北島:全然ないな(笑)。それは音楽あってこその格好やん。
アフロ:目立ちたがり屋だったんですか?
北島:目立ちたがり屋やった。
アフロ:洋服もその一環だったりします?
北島:それは違くて、姉ちゃんの影響が強いかもな。弟は姉ちゃんに眉毛をいじられたり、好きな服を着させられたりするやん? その影響かもしれん。
アフロ:俺も姉ちゃんに白いタンクトップを着させられて、極太のキーチェーンをぶら下げさせられて(笑)。『池袋ウエストゲートパーク』の大ブーム時期に俺のことをキングにしようとしたんです。
北島:アハハハハ! 丸顔のキングに!
アフロ:アハハハハ……あ、(机に置かれた牡蠣を見て)これって醤油かけた方がいいですか?
大将:お好みで大丈夫です。
アフロ:うぅ〜どうしようかなぁ。
北島:(黙ってアフロを見つめて)……牡蠣に醤油をかけるか気になる程度の会話でしかなかったってことや。僕の服の話なんて。
アフロ:いやいや(笑)。先にお伝えしておくと、明後日(12月16日)がZepp Tokyo(『単独』)なんですよ。こんなしょうもない会話してる場合じゃない!
北島:しょうもない、言うな!
●「好きという言葉を気軽に言わないんだよ」って知っといてもらわないと。誰にでも「好き」と言ってたら、本当の時に伝わらない●
アフロ:康雄さんをいつ呼ぼうか、ずっと考えていたんですよ。この連載が始まった早い段階から。しかるべきタイミングがあるはずだ、と溜めてて。ここで呼んだのは、Zepp Tokyo直前は緊張するだろうなと思ったから……。
北島:和ます要員として(笑)。とにかく、MOROHAはZepp Tokyoまでいったんやね。登っていくのが好きやんな?
アフロ:メジャーと仕事をすると決めた時点で、狙いは登っていくことでしたからね。多くの人に聴いてもらってハッキリと嫌いな人には嫌われたい。
北島:MOROHAを嫌いって言うヤツおるの?
アフロ:いますよ。
北島:アフロは自分から嫌われようとしてるフシがあるやん。
アフロ:俺、大体が嫌いなんですよ。そんな人間だから人からも嫌われてるんです。こっちが嫌っているのに、向こうが好いてくれるわけないっすもんね。康雄さんは嫌いな人いないでしょ?
北島:嫌いな人はおらんけど、興味の有り無しがハッキリしてて。無愛想じゃないけど顔に出ちゃうことはあるかも。
アフロ:その感覚を持ってる人が、どうして以前「アフロ、ちゃんと愛想よくしなきゃダメだろ」と言ったんですか。
北島:あれは年下の子が挨拶に来てたからやん。
アフロ:年齢関係ないじゃないですか。
北島:これは良い機会やから言うわ。絶対に載せてほしいんやけど、「聴いてください」と持ってきてくれたCDの上に自分のタオル乗せて「タオル置き」にしたらあかんわ。
アフロ:いやいや、机の上にCDを置くじゃないですか。だけど机のことを「CD置き」って言わないでしょ?
北島:アハハハハ、机やもんな(笑)。
アフロ:タオルはタオル。CDはCDですから。
北島:だけど上に置く必要はないやん。むしろタオルの上にCDを置こうよ。
アフロ:逆に、タオルの下に置くことでCDを忘れないんですよ。
北島:おじいちゃんか!
アフロ:それを言い出したら大変ですよ。もらった名刺をポケットに入れちゃダメとか、いろいろとマナーが細かいじゃないですか。本当にそれ気にする?と思って。
北島:気にせんけど、CDの上にタオルを置かれたら嫌かな。
アフロ:何がいけないのか分からないけど、康雄さんが「タオルあかんやろ!」と言うからタオルを退けましたよ。
北島:CDの話と繋がるんやけど、年下の子がMOROHAの楽屋へ挨拶に来る空気めっちゃ好きやな。アフロもUKもパブリックイメージは怖い人というイメージがあるやん。
アフロ:そうですかね。
北島:しかも「じゃあ、またどこかで対バンしましょう」とか言う人おるけど、アフロは一切言わんやろ?
アフロ:言わないっすね。
北島:毎回、CDを渡した人たちは「イメージ通りの人やったな」と帰っていくよな。大体は「案外、接しやすい人やったな」と思って帰るのが普通やけど。アフロのところへ来る人は緊張の面持ちで楽屋を訪ねて、その緊張のまま帰っていくのが僕は見ててすごい気持ちええ。
アフロ:康雄さんね、ダメだよ。興味ないのに「良いね」とか言っちゃダメ。それは、その人達のためにならない。30歳で音楽を辞めたら、まだ就職先あるけど「康雄さんに「良い」と言ってもらえたから、俺たちはまだ出来るんだ」って一生懸命に続けて。気付いたら40歳になってて、その時に辞めようと思ったら大変よ。康雄さんはそういう立場なんだから。優しい一言でバンドを続けるかどうかを決めちゃうんだよ。
北島:それを気にして動いてるんや?
アフロ:俺はそういう風にしなきゃいかん、と思う。あと「自分は好きという言葉を気軽に言わないんだよ」って知っといてもらわないと。誰にでも「好き」と言ってたら、本当の時に伝わらないじゃないですか。だから大事にしてますね。だけど、康雄さんはみんなに優しい。
北島:僕らはコミックバンドやからさ、来てくれた方には笑ってもらいたいのはあるよね。
アフロ:じゃあ、心を開いてるわけじゃないんだね?
北島:ライブの康雄さんとして接してるところはある。「好き」という言葉は簡単に使わんけど。
アフロ:「いつか一緒にやりましょう」とか言うんですか?
北島:「こいつの熱量すげえな」と思ったら言う。自分が20代の時は熱量勝負のところがあったしな。ライブも観てもらえてなくて、音源も聴いてもらえてないとそこ(熱量)でいくしかないやん。
アフロ:音楽をやっているすべての人にそうなんですけど、「MOROHAが好きなので絶対に一緒に仕事したいです」と言った熱量がいざ仕事をした時、どれだけ続くのかなと思うようになっちゃったんですよ。その熱量が続く人は100人に1人いるかどうか。だから瞳孔開いて、瞬間的にガーッといく感じは誰でも出来るんです。それが本当なのかな?って。
北島:メジャーに行って感じたのは、その熱量をこっち側が持続させなあかんと思った。努力と結果を見せて、良いライブをするとか良い曲を書くとか、思ってもなかった発想を見せるとか。そうすれば向こうも「康雄くん、面白いな」って、より熱が上がるよね。
アフロ:それはメジャーへ行って気付いたんですか?
北島:そうやな。四星球の担当者ってDragon AshサンボマスターBUCK-TICKと同じ人なんやけど、コミックバンドを扱ったことがなかったのよ。最初はそれだけでテンション上がってくれて。次はコミックバンドの1つ奥側の部分も見せるとより上がってくれた。今度は奥じゃなくてメジャーへ行って感じたことを表現したら、さらに熱量が高まった。だから周りの熱量を維持させるには、こっち側が魅了しなくちゃいけないと思う。
アフロ:本当にそうっすね……ぐうの音も出ないほど正論ですよ。だけど俺は、ひねくれ者だからヘソを曲げちゃうんです。それが歌詞になったりするんですよ。
北島:めっちゃMOROHAやなあ! 諸刃(MOROHA)の名のままや! 結局、メジャーに行こうがインディーズにいようが、対何かじゃないとダメなんやな。共存するわけじゃなくて、メジャーへ行ったことで何と戦うか。
●四星球は年間で1本のライブをやってる感じ●
アフロ:そうっすね。そういえば、機材車は買ったんですか?
北島:買ったけど結局入れる荷物も増えるから、パンパンに変わりないかな。まあ僕の責任なんですよ。最初に使うものを考えておけば、少しはスペースを確保できるから。
アフロ:まさやんさんに「これを作ってくれ」とお願いして、その出来に康雄さんが納得できなくて使わなかったことはあるんですか?
北島:めっちゃええこと聞いてくれるやん。それは使えるように内容を変える。
アフロ:それカッコイイ! 使わない選択じゃなくて、使えるネタを考えると。
北島:基本的には使うようにしてて、例えば出し方を変えたら全然イケるやん。まさやんは“ほら貝”を作るのが苦手なんよ。
アフロ:アハハハハ! いやいやいや、なんの会話してるんですか!? 太字ですね。
アフロ・北島:「まさやんは“ほら貝”が苦手」!
北島:ほら貝を使わなあかん状況だったとして。2時間のワンマンやったら、開始45分くらいに「今日はいっぱい小道具を使わせてもらいます。そこで、まさやんに“ほら貝”を発注したんですけど……これ、ほら貝であってますか?」と先に見せておいて、その1時間後くらいには“ほら貝”として認識してくれる。だからフリを入れておけばOK。
アフロ:じゃあ「スイカを作ってくれ」とお願いして。イメージは1/4スイカだったのに丸いスイカを作ってきちゃった。そういうトラブルはないですか?
北島:それやったら、アイツ(まさやん)は5分かからず作れるよ。車まで取りに行っても5分かからんくらい。仮に道具がなかったとしたら、半分のスイカにしてモリスが食べたことにする。
アフロ:四星球は、その瞬発力がすごいと思うんですよ。ラッパーでいうフリースタイルな部分が発達してますよね。それはライブで培われたものなんですか?
北島:ライブ中は脳みそが2つある感じなんよ。今をやっている脳、2手3手先をやってる脳がある。アウトプットに関しての脳はあるけど、インプットの脳がないのよ。
アフロ:え、どういう意味ですか?
北島:例えば、漫画を読みながら映画を観ることは出来ないけど、外に出すときの脳は2つある。外から見ればフリースタイルに見えるけど、感覚的には2つの脳で動いてる感じかな。
アフロ:俺がラップをしている間に、「この後、何を喋ろうかな」って次の曲間のMCを考えるのと同じ感じですか?
北島:それに近いけど、それは次のMCやろ? 次の次も行きたいわけよ。だからライブ終わりに反省する。2手先まで考えながら終わってしまうから、モヤモヤしてすっごい気持ち悪い。
アフロ:それがボケでありフリなのに、オチが出せないまま終わっちゃうわけですね。
北島:そうそう! まだ、あったなって。
アフロ:そしたら終わりがないじゃないですか。
北島:終わりはないよ。
アフロ:物語が続いてるということですか。
北島:まさにその通りで。普通は年間100本、200本ってライブ本数を数えるやん。そうじゃなくて、年間1本のライブをやってる感じなんよ。
アフロ:じゃあ、ずっとライブに来てくれてる人は前回のライブがフリになってる?
北島:そうそう! 年間で1本やってて、その瞬間を切り取ったのがライブ1本。だからモヤモヤしたまま続いているんやなと思う。
アフロ:難しいですよね。元々、作ってきたものが曲としてあるじゃないですか。だけど、その日のものを吸収しようとし過ぎたら、曲の方が薄まっちゃったりして。ライブが終わった後に「今日は曲が留守だったな」と思うことがあって難しい。
●「人のライブなんか観て、俺は何をやってんだ」って●
北島:MOROHAは絶対にそうなるよね。
アフロ:ちなみにライブはめちゃめちゃ自信あると思うんですよ。
北島:自信はあるね。
アフロ:もういっそCDはなくなれ、と思ってない?
北島:それはないよ。CDのセールスがスゴかった96年〜98年を中学時代に見てきてるから、やっぱり1発当てたいよね。あと単純にCDを聴いてくれた人がライブをより楽しめる要素としてほしい。本当は予習という言葉は何やろ、と思うのよ。「YouTubeで予習してきました」って嬉しいけど、アーティスト側から言うことはダサいなと思ってて。そんなのしてこんでも、お前の技量でやれやと思うんよ。予習をしてくれたらライブがスムーズに進むのは分かるけど、するかしないかはお客さんの勝手。だから自分の持ち時間内でやりくりしろよ、と思うんよ。CDを買ってくれた人には、ライブでもう1個先を楽しませたい。なんなら、CDはライブを楽しむ小道具の1個やと思ってます。
アフロ:「初めてのワンマンはどこどこでやって、それから紆余曲折あって遂に武道館までこれた」みたいなバンドのドラマを好きになってくれるのは、音楽シーンのお客さん。だけど、そこだけを相手にするんだったらメジャーと一緒に仕事をしなくて良いわけで。
北島:そうやな。むしろインディーで土の匂いがする方がエエわけやろ?
アフロ:そうなんですよ。だけど1曲目を聴いたお客さんがハッとして、そこにお金を払いたいと思わせるかどうかがメジャーと仕事をするかどうか、そういう音楽をやりたいのかどうかの線引きだと思うんです。そういう意味では、そのメンタルを持っている四星球はメジャーへ行くべきだったんでしょうね。1発で心をもっていかないと意味ないと思ってるでしょ?
北島:1発いかなとは思ってる。だけど、その1発がフリにならなあかんけど。
アフロ:なるほどな。俺はどこかでMOROHAのライブって何回も来るもんじゃねえなと思ってるんです。逆に、何回も来てくれると「ありがてぇな」と思う反面「本当に響いてるかな?」と心配になるんですよ。俺自身の原体験として、ライブに行くこと自体が「何をしてるんだろう」って時間だったんです。「人のライブなんか観て、俺は何をやってんだ」って。
北島:最初の1発で何かを与えられてたら、そいつはライブに来ないで何かを始めているはずだと。それこそMOROHAを好きになったユニバーサルの人(現・担当者)が何回もライブに足を運んでくれた、と言ってたやん。まさにそれやんな。その熱心な姿を見て、アフロはメジャーへ行くことを決めたの?
アフロ:それこそ迷っていた時期があって。ちょっとチャラい系のサラリーマンが電車の中で携帯を見てて、小さくガッツポーズしたんですよ。もしかしたら、一生懸命やっていた仕事の商談が上手くいったのかなって。仕事が上手くいった時にガッツポーズをする瞬間が、この電車にいる全員にあると思えば、誰しも少なからず俺の歌っている曲とリンクする感情があるんじゃないかって。
北島:それはエエ話やな。
●笑いに使う筋肉と、シリアスな方に使う筋肉は別だと思います?●
アフロ:今後の目標ってあるんですか?
北島:発明やな。今までライブのソフトはいっぱい作ってきたから、ほんまのハード作りをしたいというか。
アフロ:今まで四星球がしてきた発明って何ですか?
北島:言っていい? これ、特許を取っていたらめちゃくちゃ儲けてるよ! フェスの発明でいうと、10数年前は『AIR JAM』以外の大型フェスにインディーバンドは出られなかった。僕らは四国で活動していたから、香川の『MONSTER baSH』には出られたんよ。そこに出るバンドって、みんな自分たちで機材セッティングをしない。過去の歴史の中で自らやっていたのが、ガガガSPだけらしい。四星球が出た時も、当然スタッフはおらんから自分たちでセッティングしてた。その待ち時間をどうにかしたいから、セッティング中にネタをやるのを僕らが初めてやりました。
アフロ:よくバンドが「ちょっと本気目のリハやります」みたいな。
北島:そうそう。それはフェスシーンが認めてくれてます。フェスで映像を使ってボケるのも僕らが最初。10数年前は組み込まれた映像を流すしか出来なかったんやけど、そこを無理言って「まさやんのお母さんからビデオレター届いてるネタをやりたいんです」と言ったら、やらせてくれて。2つのステージを行き来するネタも僕らが始めましたね。
アフロ:なるほどなぁ。
北島:最近やった発明は、ワンマンライブで曲を貯金するシステム。「Mr.Cosmo」は曲の途中でミステリーサークルを作って、ステージから降りるんやけど、そこでパッと音を止めて「ミステリーサークルの分は貯金します」と。他にも曲の途中で「ここの部分を貯金します」と言って、5曲くらい貯まったところで貯金をおろすと、その数曲分がちゃんとメドレーになってる。そういうことをどんどん考えて、ゆくゆくは他のバンドマンにも使ってもらえる発明をしたい。
アフロ:普遍性があるものというか。
北島:そうやな。20代の頃は「俺たちのアイデアをパクんなや」という気持ちがあった。30歳になると「パクれるもんなら、やってみろや」になって。そして今、35歳の僕は「どうぞ使ってください」になってきた。
アフロ:例えば、康雄さんのアイデアで俺らを演出するとしたら何が浮かびますか?
北島:MOROHAは完成し切ってるからアレやけど、いつもUKが台に座ってるやん。足も痺れて動きたいなと思った時に、アフロが踏み出した片足の膝上にUKが座って弾く。
アフロ:アハハハハ。
北島:僕が考えるから、どうしても笑いの方へいくな。
アフロ:笑いに使う筋肉と、シリアスな方に使う筋肉は別だと思います?
北島:う〜ん、一緒かなぁ。
アフロ:だとしたらシリアスな方にいけるじゃないですか。
北島:表裏一体というか……シリアスを笑う要素もあるわけやん。例えばバラードの後に僕1人だけ袖へはけて3人が「ライブ続くのに、あいつ何ではけていったん?」と笑いに変わる。だから“シリアスと笑い”はお互いに支え合っているんやな。
アフロ:ただ「笑っていいよ」という雰囲気を出すのが大変ですね。
北島:そうやな(笑)。
アフロ:すごいと思うのが、四星球は超アウェイな環境でもお客をもっていくじゃないですか。後方で腕組みをしてるお客も、すぐに巻き込む。どうしてできるんですか? 腹をくくってるから?
北島:ベタもやるし、私にしかわからないと思わせる笑いも入れるし、尖ったところも出すし、わざとスベる。この4つをやったら誰かは心を開く。しかも、それをもう一周するから今度は「尖ってるのにスベった」「尖ってるのにベタをやってる」という要素が加わって、さらに客を掴むのは早い。
アフロ:四星球のライブを観ながら副音声で解説してほしいですよ。「この時に、ここのお客がこういう顔をしてるやろ? だから、ああいうボールを投げた。そしたら向こうのお客には、さっきのフリが効いてるから、これを思いついたんだけど、それは取っておいて……」みたいな。
北島:まさにそれ。
アフロ:すごいねぇ。前人未到の位置に立っている気がしますよ。
北島:それは嬉しい。『MONSTER baSH』の楽屋で「みんなが相撲を取っている時に、四星球はトラックを持ってきて土俵を作ってる」と言ってくれたやん。それだけやったら普通のありがとうやけど、アフロは「俺も土俵を作ってきた自負はあるので」と言ってくれた。それで僕は「MOROHAと同じだけのことをやれてたんやな」と嬉しかった。メジャーへ行く前は人と違うことをしようと、そればっかり考えてたけど。今は人のやってないことを探すんじゃなくて、自分のやりたいことをやった結果、誰もやってないことなら最高やなと。
アフロ:ロックにも通じることですね。反抗することが目的じゃなくて、自分のやりたいことを追求する。
北島:そのやり方って難しいけど、方法は1つしかなくて。やりたいことをめっちゃ見つけるしかないねん。今はそこに行き着いてて、やりたいことをめっちゃ探してるかな。そこで考えた発明の1つが“貯金システム”やった。最初、お客さんに説明した時「は? この人何を言ってんの?」っていう空気になるの。「だから言ってるやん! 貯金して最後におろすから、その時にみんなのテンションの利子がついて返ってくるから」と。最初に分けからないと思わせることで、それがフリになってるわけよ。
アフロ:……あのさ、孤独じゃないですか?
北島:めっちゃ孤独やな。
アフロ:誰とも分け合えないでしょ?
北島:分け合えへん(笑)。
アフロ:今日みたいに色々話してもらったら理解できるけど、同じ脳みその敷地を持っている人がいないでしょ?
北島:それで、ええねん。メンバーにも核の部分は説明しないようにしてるのよ。それは、演者でありお客さんとしても楽しんでほしいから。僕がバーッとアイデアを出して、3人が中和してお客さんへ届けてくれる。それで四星球は成り立ってる気がする。
アフロ:アイデアがなくなる恐怖はないですか?
北島:めっちゃある。貯金システムをライブでやった日の夜は「この先そんなことが何回浮かぶんかな」とマジで思った。もし年をとって何も出てこなくなってもハッピにブリーフ姿が面白くなるから、その時には今の笑いが追いついてくるのかなと思った。
アフロ:きっとバンドマンの中で「自分たちはできないけど、四星球にやってほしいこと」ってたくさんあると思うんですよね。みんなが作る四星球のライブも面白そうですね。
北島:それはめっちゃ嬉しいなぁ。
アフロ:でも康雄さん厳しそうだなぁ。「全然面白くない!」とか言いそう(笑)。
北島:言わん、言わん。全然言わん!
アフロ:「それサムイんちゃう?」とか。
北島:お前、俺のイメージどんなやねん!
文=真貝聡 撮影=高田梓

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