『SWEET 19 BLUES』はあらゆる好機が
奇跡的に合致して、
10代最後の安室奈美恵の姿を鮮やかに
映し出した歴史的傑作

前向き過ぎる歌詞に見える
“超アイドル”

このブラック、ルーツミュージック要素の導入を、“とにかくいち早く取り入れました!”といった印象すら抱く…と前述したが、それはサウンドからのインプレッションだけでなく、歌詞からも読み取れる。

《I've gotta find a way,so let me go/急いだってしょうがないけど/Because baby I don't wanna cry/止まってるヒマはない/I've gotta find a way,so let me go/行くんだってば もう/Because baby I don't wanna cry》(M6「Don't wanna cry (Eighteen's Summer Mix)」)。

《もうちょっと抱いていて欲しい時も/タイムリミットは曲げない主義でいたい》《もうなんだってアリみたいな時代だから/モタモタしてちゃ損だから》(M8「Chase the Chance (CC Mix)」)。

《あの頃と これからは 確かに何かが変わってく Yo!/出会いとか めぐり逢い そんな事があるから》《誰より経験生かして/無駄には出来ない On my way》(M15「You're my sunshine (Hollywood Mix)」)。

《Body Feels EXIT/ここから きっといつか動くよ/Body Feels EXCITE/体中 熱く深く走る想い》《動くことが 全ての/始まりだって 分かってる》(M16「Body Feels EXIT (Latin House Mix)」)。

いずれも“前へ進むことに躊躇するな”と言っている。細かなニュアンスの違い、シチュエーションの違いはあろうが、要約すればどれもそういうことだろう。今回、連続して聴いた時、個人的には“なぜそんなに生き急いでいるのか?”と思ってしまったほどだ。驚くのはこれらがアルバム用の書き下ろしではなく、シングル曲でもあったということ。この方向性はアルバムのテーマではなく、安室奈美恵というシンガーの根底に置かれたテーマだったと言える。SUPER MONKEY'Sから安室奈美恵 with SUPER MONKEY'Sを経てソロとなり、『SWEET 19 BLUES』はその2作目である。この頃はまだ大方の捉え方としては“安室奈美恵=アイドル”であったであろう。そこで、こうした内容を歌っていたというのは、今さらながら彼女の特異性を示す事実と言える。

さらに言えば──彼女自身が転身を望んだのは1995年の暮れであったと前述した。具体的に言えば、シングル「Don't wanna cry」からネクストレベルを目指したと言われているが、それ以前のシングルであった「Body Feels EXIT」「Chase the Chance」からすでにテーマが通底していたことが実に興味深い。この頃、彼女自身の意思がどの程度、作品に反映されていたのか分からないけれども、小室プロデューサーを頂点とする“チーム安室奈美恵”のスタッフワークにブレがなかったことがよく分かる。その後、自身で自身をプロデュースするアーティストへと成長していく、その萌芽がここにもあったのではないかと言っても、あながち間違いではないのではないだろうか。

OKMusic編集部

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