映画を観て、映画を語ろう。僕たちの
好きな「映画の音楽」。
■ 今回の参加メンバー
サヌキナオヤ(イラストレーター)
mai(会社員)
小田部仁(ライター)
ミーティア編集部MO
Illustration_Naoya Sanuki
Text&Edit_Momoka Oba
――今回、座談会のテーマを何にしようかなって考えた時に『アンダー・ザ・シルバーレイク』のことで頭がいっぱいで。あの映画って「音楽」が一つのキーになっているじゃないですか。だから「音楽」をテーマにしようと決めたんです。みなさんも観ましたか?
mai : 観ました!
サヌキ : 最高でしたね。
小田部 : 観てない……(笑)。
サヌキ : ネタバレになってしまうから詳しくは説明できないけど、作曲家が暴走するシーンがめちゃくちゃ面白いですよね。
mai : いやぁ、あのシーンは本当にスカッとしました!
サヌキ : アンドリュー・ガーフィールドって実はそんなに好きじゃなかったんですけど、ちょっとだけ好きになったかも。
――わたしも! アンドリュー・ガーフィールドだけはスパイダーマンとして認めてなかったくらい……(笑)。でも、『アンダー・ザ・シルバーレイク』で好きになりました。2018年、音楽が記憶に残っている映画は他に何かありましたか?
小田部 : ド定番だけど、やっぱり『君の名前で僕を呼んで』じゃないですか。イタリアの風景とスフィアン・スティーヴンスの曲があいまって、もうたまんないですよね。あとは……今年は「音楽映画」が話題を呼びましたよね。『ボヘミアン・ラプソディ』とか『アリー/ スター誕生』とか。
mai : たしかにそうですね。去年だと『ベイビー・ドライバー』とか。
――『ラ・ラ・ランド』もありましたしね。
小田部 : 個人的には、数年前の作品だけどグザヴィエ・ドランの『Mommy/マミー』で使われてたOasisの「Wonderwall」がすごく記憶に残っています。僕、ドランと生まれた年が一緒なんですけど。1989年って、ギリギリOasis世代っちゃ世代だから、あの曲に対するドランの個人的な思い入れみたいなものも勝手に感じて……エモくなっちゃいましたね(笑)。
mai : わたしはNetflixにある『リトル・ダンサー』という映画を最近観たんですが、その映画で使われている音楽もすごく良かったです! バレエの映画なんですけど、バレエ音楽じゃなくてロックが流れていて。ストーリーも素晴らしいし、ボロ泣きでした……。
小田部 : 『リトル・ダンサー』はミュージカル版もあって、エルトン・ジョンが音楽を手がけているんです。ラストで主人公のビリーが言う感動的なセリフから着想を得た「Electricity」って曲が、めちゃくちゃイイです。
サヌキ : 『ベイビー・ドライバー』は、好きな映画なんですけど、音楽と映像が合いすぎてるせいか、見ている間なぜか緊張してきてしまって……(笑)。でも、コインランドリーで二人がT.Rexの「Debra」を聴いてるシーンからBECKの「Debora」へ繋がる所は感動しました。
mai : あのシーン、映像もカラフルで可愛いですよね!
小田部 : ところで、みなさんはサントラって買いますか?
mai : 買ったり、サブスクリプションでダウンロードしてよく聴いてます。
小田部 : 最近、良いサントラはありましたか?
サヌキ : 僕は『レディ・バード』かなあ。ジョン・ブライオンの曲が良かったです。
mai : 最近の作品ではないけど、わたしは『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』って映画のサントラをよく聴いてます。
小田部 : あー、それもミュージカルになってますよね! 僕は『メッセージ』のサントラがお気に入りです。映画の音楽としても良いんだけど、ヨハン・ヨハンソンの作品としてちゃんと成立していて。
――“サントラが良い”で言うと、今年は『ブラックパンサー』もあったと思うのですが、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の音楽ってみなさんどう思いますか? 『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズとかも、音楽が素晴らしいじゃないですか。
――『アべンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の時も、音楽が流れた途端「お! アイツらがやって来るぞ!」ってめちゃくちゃテンション上がりましたもん。
サヌキ : わかります。あのシーンは僕も大好き。まだ観られてないけど、『ヴェノム』も音楽がエミネムですもんね。実は今年、エミネムが流れた映画がもう一つあって。リチャード・リンクレイターの『30年後の同窓会』っていう作品なんですけど、おじさん達がトラックに乗っているシーンでカーラジオから「Without Me」が流れるんです。それがストーリーとめちゃくちゃ合っているんですよ。
――えー! 気になる! リンクレイターつながりで、『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』の、車の中で「ラッパーズディライト」を歌うシーンも大好き。野球部全員でラップする、エンドロールの映像も楽しいんですよね。
mai : リンクレイターの映画は、ストーリーだけじゃなくて音楽も良いですよね。
小田部 : 良いけど……心をえぐられすぎるから、なかなか何度も観られない(笑)。
――『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』はすごく楽しい映画だから大丈夫ですよ。
サヌキ : でも僕は、最後のシーンでいつも切なくなっちゃう。
小田部 : そういう青春のノスタルジーで言うと、『ブレックファスト・クラブ』の「Don’t You?」とかはもう王道じゃないですか。この作品の監督であるジョン・ヒューズが近年再評価されてることもあって、いろんな作品でパロディ的に聴く機会も増えた気がする。
――たしかに、2010年代は青春映画で「Don’t You」が使われがちでしたね。『ピッチ・パーフェクト』とか、エマ・ストーン主演の『小悪魔はなぜモテる?!』とか。
小田部 : そうですよね。もはや一つの記号になってるのかも。この作品はアメリカ青春映画の文脈にのってますよ、ただのティーン向けの娯楽作品じゃないですよ……ってことを表すための。
――前にTwitterでmaiさんが『セレステ∞ジェシー』が好きって言っているのを見かけて。わたしも、あの映画の冒頭で流れるリリー・アレンの「Littlest Things」は本当にたまらないなと思います。あれこそ、切なすぎて心がえぐられる系。
mai : もう、めちゃくちゃ辛いですよね。
――あれって、曲は切ないけど、流れている映像は二人が仲良くしてるシーンじゃないですか。その矛盾が切なさをさらに加速させるというか。あー、思い出して辛くなってきた(笑)。映画の最初の1曲で言うと、『ゲット・アウト』で流れるチャイルディッシュ・ガンビーノの「Redbone」も大好き。
小田部 : 僕は、オープニングの曲だと『パルプ・フィクション』の「Misirlou」が最高だと思う。
mai : あれ、超テンション上がりますよね!
――あの、Black Eyed Peasの「Pump It」のやつか! 小学生の頃に家族と観た『TAXI』って映画でBEPバージョンが使われてたのをよく覚えてます。
小田部 : 独特の高揚感があって、オープニングの曲として素晴らしいんですよね。
mai : わたしも『パルプ・フィクション』の音楽は大好きで、何回も観ちゃいます。つい昨日は『ハイ・フィデリティ』って映画を観たんですけど、それもすごく良かったですよ。
サヌキ : あー、『ハイ・フィデリティ』大好き!
小田部 : レコード屋が出てくるんですよね。そこで流れてる曲も良いし。
mai : 冴えない男性が主人公の映画って、いつもすごく共感しちゃうんです。
小田部 : 僕は途中からイライラしてあの男のことが嫌いになっちゃった(笑)。maiさんは優しいですね。
サヌキ : 『ハイ・フィデリティ』は、今度ドラマで女性版にリメイクされるみたいですね。
――えー、ドラマも楽しみ! またドラマの話になっちゃうけれど、ダニエル・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ)が製作している『アトランタ』って観ましたか?
サヌキ : 観ました! ラッパーのマネージャーが主人公で、まさに音楽のドラマですよね。
小田部 : ぺーパーボーイペーパーボーイ♪ってね(笑)。ミーゴスが登場するシーンは超笑いました。めちゃくちゃだし意味わかんないけど、なぜか面白いんですよね。
サヌキ : 『シンプソンズ』とかのアニメに通ずるような、箱庭感と意味不明さがありますよね。
小田部 : あのシュール感、ちょっとデヴィッド・リンチっぽいなとも思ったんです。デヴィッド・リンチの作品で流れてる音楽は、アンジェロ・バダラメンティって人が作曲してるんですけど、不気味なサウンドですごく良いんですよ。音楽の選び方もリンチは最高で。リンダ・スコットの「星に語れば」とか……明るい曲調のスタンダード・ナンバーに潜む「邪悪さ」や「不穏な空気」みたいなものを作品の中で効果的に使ってるんですよね。
サヌキ : ちょっと違うかもしれないけど、デヴィッド・フィンチャー版の『ドラゴン・タトゥーの女』で、めちゃくちゃ残酷なシーンで急にエンヤの曲が流れるんですよ。その曲のせいで、ますます狂気じみた映像になるんです。
小田部 : そういう音楽の使われ方も面白いですよね。『時計じかけのオレンジ』で主人公のアレックスがジーン・ケリーの「雨に唄えば」を歌いながら女性を暴行するシーンとかも、中学生の時に観て超トラウマになった覚えがある(笑)。『IT』とかもそうだけど、子どもっぽい音楽と怖い映像の組み合わせは、めちゃくちゃ怖いよね……。
――怖いのは嫌だけど、子どもの歌声が入ってる音楽はハズレがないなっていつも思います。
小田部 : そんなのもう、『かいじゅうたちのいるところ』じゃん!
――まさにそうです。あれ、最高ですよね。もちろん映画も素晴らしいけど、サントラ単体として日常的に聴けるし。個人的にはベスト3に入るくらい好きな映画の音楽です。
小田部 : カレンOは、あのサントラでピークに達しちゃったなって僕は思う。それぐらい好き。ずっと聴いてる。
――そうでしたね、あの映画も面白かったなぁ。Netflixといえば、今年配信された『パッケージ: オレたちの"珍"騒動』って知ってますか? 高校生の男女グループでキャンプに出かけるんですけど、一人の男の子が自分の“大事なところ”を切り落としてしまうんです(笑)。残りの子たちがどうにかしてそれを病院に届けようと奮闘するストーリーなんですけど、途中でブリトニー・スピアーズの「Oops! I Did It Again」を子どもの合唱風にアレンジした曲が流れるんですよ。それがもうおかしくって。
――2000年代前半のブリトニーの曲って、なぜか笑っちゃうんですよね。『スプリング・ブレイカーズ』でもジェームズ・フランコがピアノを弾いて「Everytime」を歌ってましたけど、あのシーンも大好きです。そういえば、今話題の『ボヘミアン・ラプソディ』ってもう観ましたか? わたしはまだ観られていなくて……。
mai : わたしもまだ観てないです。『シング・ストリート 未来へのうた』のルーシー・ボイントンが出てるらしくて、すごく観たいんですよね。
――あの、主人公が恋した相手の子ですか? それは知らなかったなぁ。『シング・ストリート 未来へのうた』も素晴らしい音楽映画ですよね。またちょっと違うテイストの「青春」と「音楽」をテーマにした映画だけど、最近Netflixで観た『DOPE ドープ!!』という作品も良かったです。
mai : わたしも『DOPE ドープ!!』好きです! 音楽が楽しいし、ファッションも可愛くて。
小田部 : 90年代のヒップホップに憧れるオタク3人組が、なぜかパンクバンドをやってるんですよね。
小田部 : ところで、“『(500)日のサマー』問題”は話さなくていいんですか?
――え、何ですかそれ?!
小田部 : 『(500)日のサマー』は、サントラがめちゃくちゃ売れたらしいんですよ。
――そうそう! 「Psycho Killer」っていうまさにぴったりの曲が。
小田部 : いきなりだけど、みなさんは自分的にベストな映画の音楽っていったいどれですか?
サヌキ : 僕のオールタイムベストは、『パンチドランク・ラブ』です。アニメ『ポパイ』の主題歌が流れるんですけど、そのシーンが好きで。音楽抜きにしても、ポール・トーマス・アンダーソンの作品はどれも同じくらい大好きです。
mai : わたしは、『パリ、夜は眠らない』っていうドキュメンタリー映画が好きです。80年代、ニューヨーク・ハーレムの黒人のゲイたちの生活を描いているんですけど、作中で流れているディスコ・ミュージックが素晴らしいんですよ。
小田部 : あれはいい映画ですよね。一つの音楽ドキュメンタリーとしても楽しめるような。
mai : 新たなカルチャーの誕生を目の当たりにできますよね。あとは、香港映画が好きなので『恋する惑星』かなぁ。劇中で2曲くらいしか音楽が使われていないんですけど、その2曲がすごく良いんです。ウォン・カーアイ独特の色味や、可愛らしい映像も好き。
――小田部さんは?
小田部 : 僕は……アホみたいな答えですけど、やっぱり『スタンド・バイ・ミー』かなぁ。あのラスト・シーンの音楽の流し方は反則だと思う。
――うーん、わたしは決められないなあ。今年のベストは『レディ・バード』。ティーンが主人公の映画だったら、だいたいどれも大好きなので(笑)。
小田部 : そういえば、今年公開された『Love, サイモン 17歳の告白』も良かったですよ。
サヌキ : みなさんは『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』って観ましたか? 劇伴がランディ・ニューマンなんですけど、全編ピアノで演奏していて、いい曲揃いなんですよね。
――わたしはピクサー育ちなので、ランディ・ニューマンの音楽は大好きです。ランディとレックス・オレンジ・カウンティが『トイ・ストーリー』の「You’ve Got a Friend in Me」を一緒に歌ってる曲がSpotifyにあるんですけど、それもめっちゃ良かった。
小田部 : これもアホみたいな発言だけど、やっぱり僕はジョン・ウィリアムズも好き(笑)。『E.T.』のテーマソングとか、いつ聴いてもグッとくる。僕たちの世代は久石譲と、ジョン・ウィリアムズには抗えない。幼少期の教育だから(笑)。
――あのレベルまで達しちゃうと、かっこいいとかかっこ悪いとかを超越した魅力がありますよね。最後に、みなさんがいま気になっている映画を教えてください。
mai : やっぱり『ボヘミアン・ラプソディ』かなぁ。
小田部 : 『サスペリア』が気になる。『君の名前で僕を呼んで』の監督の最新作なんですけど、音楽がレディオヘッドのトム・ヨークなんですよ。
小田部 : サントラだけ先に聴いたんですけど。意外と普通に歌ものとかも入ってて、レディオヘッドっぽくって(笑)。もちろん、怖い曲も入ってるんだけど、静謐で穏やかな緊張感に満ちている感じ。「あぁ、これ、俺、死ぬんだわ……」ってもう諦めてる感じっていうか。
mai : わたしは『キックス』が観たいです。NasやJay-Zの曲が使われているらしくて、ヒップホップ好きとしては見逃せないなと。スニーカー狩りの話っていうのも気になる。
サヌキ : 僕は、Yo La Tengoが音楽を担当している『色とりどりの親子』という映画が楽しみです。
mai : 初めて知ったけど面白そうですね。ドキュメンタリーなのかぁ。
――どんな内容なのか気になります。いやぁ、今日はみなさんにたくさん映画を教えてもらえてすごく楽しかったです! 来年もぜひ、違うテーマでまた語り合いましょう!
■ 今回の座談会で会話に登場した、
Netflix、Hulu、Amazonプライム・ビデ
オで観られる作品リスト
『リトル・ダンサー』⇨ Netflix
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』⇨ プライムビデオ
『ブレックファスト・クラブ』⇨ Netflix
『ピッチ・パーフェクト』⇨ プライムビデオ
『ゲット・アウト』⇨ プライムビデオ
『TAXI』⇨ Netflix
『アトランタ』⇨ Netflix、Hulu
『時計じかけのオレンジ』 ⇨ Hulu、プライムビデオ
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』⇨ Netflix
『かいじゅうたちのいるところ』⇨ Netflix、Hulu
『好きだった君へのラブレター』⇨ Netflix
『パッケージ: オレたちの”珍”騒動』⇨ Netflix
『スプリング・ブレイカーズ』⇨ Netflix
『シング・ストリート 未来へのうた』⇨ Netflix、プライムビデオ
『DOPE ドープ!!』⇨ Netflix
『(500)日のサマー』⇨ Hulu
『マインドハンター』⇨ Netflix
『パリ、夜は眠らない。』⇨ Netflix
『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』⇨ Netflix
『E.T.』⇨ Netflix
(※ 2018年12月時点での情報です)
映画を観て、映画を語ろう。僕たちの好きな「映画の音楽」。はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。
アーティスト
関連ニュース
ミーティア
「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。