いつまで“子役”でいられるのだろう
?~ミュージカル座『ジュニア』12月
19日より異例のスピード再演

2018年2月に中目黒キンケロ・シアターで初演が行われたミュージカル座の『ジュニア』が、2018年12月19日 (水) ~12月24日 (月・祝)に同劇場で上演される。初演から10ヶ月という異例のスピード再演だ。初演時と同様に、月組・星組のWキャストでの上演となる。
演劇の世界で“子役”を演じるジュニアたちの奮闘を描いたこの作品は、竹本敏彰が脚本・作詞・演出を手掛ける。竹本といえば、2013年、日本において子供がメインで出演するレギュラー舞台の少なさから、完全オリジナルミュージカル『ニッキー』を世に送り出した人物だ。
ミュージカル座『ジュニア』初演舞台より
ミュージカル『ジュニア』製作の発端は、竹本と、ジュニア(子役キャスト)の母親たちとの会話からだった。「もう中学生になっちゃったので」「もう声変わりが始まっちゃったので」「もう来年受験なので」「もう身長が135cmを越えちゃったので」……子役として活動できる期間は短い。ならば、その限られた時間の中で必死に役を勝ち取ろうとするジュニアの奮闘記を描こうと考え、『ニッキー』同様、玉麻尚一(作曲・編曲・音楽監督)とタッグを組んで、この作品を生み出した。
キャストは、ファイナリストS7・水谷亜斗夢役に、2017年『ビリー・エリオット』マイケル役でおなじみの山口れん(星組)。ファイナリストB230・瀬戸きらら役に、髙橋美波(月組)・池田里菜(星組)。ファイナリストB291・二ノ宮小春役に、中村茉稟(月組)・香西愛美(星組)。ファイナリストC321・森 和奏役に森村珠子(星組)が初演と同じ役で続投。
稽古風景
大人キャストは、伊藤俊彦(2018年『アニー』ローズベルト大統領※役でおなじみ)、藤澤知佳、五大輝一、川田真由美、野沢美喜が初演と同じ役で続投する。2018年ミュージカル座『ニッキー』でタイトルロールをつとめた阿萬はなねは、初演では「演技が下手」なファイナリストA89・山本咲良役だったが、今回はファイナリストA111・高梨 杏役で出演する。
今回のオーディションで選ばれた新キャストは、ファイナリストA89・山本咲良役に香好(星組)、ファイナリストB278・南 亜依里役に佐々木琴花(月組)と、2017年『ビリー・エリオット』デビー役だった2人の名前がある。
稽古風景
そんな中、目に留まったのがファイナリストD565・生駒 笑役を演じる鈴木蘭清(月組)だ。ミュージカル『アニー』のファンには記憶に新しいのではないだろうか。2015年『アニー』公演前特番『スッキリ!!特別版 アニーをピンナップ! 父と娘のオーディション密着SP』で、当時11歳だった彼女が大きくフィーチャーされていたことを。2歳で『アニー』に出会い、当時6度目の挑戦をした彼女は、「アニーになりたい」という熱い気持ちを文字にして窓に貼っていた。「富士山に見えるように願をかけている」という彼女の週5回のレッスン送迎は、父親が往復2時間かけて担当していた。当時、まだ幼い弟(2018年ミュージカル『シークレット・ガーデン』コリン役を射止めた鈴木葵椎)がいたこともあり、父親が家族のために自営業へと転身したのだ。
鈴木蘭清
この『ジュニア』劇中でも、オーディションの質疑応答場面で、こうした家族の事情を打ち明けるシーンがある。レッスンのこと、学校のこと、将来のことを話し、ライバルたちの人となりを知ってゆく。不安や葛藤を抱いているのは自分だけではないと知り、彼らは仲間になってゆく。そのドラマチックな展開は、さながらあの名作ミュージカル『コーラス・ライン』のように、とてもリアルだ。きっとそれぞれが、劇中と似たような経験をしているのだろう。
ミュージカル座『ジュニア』初演舞台より
不安や葛藤が描かれるのは、子供の側だけではない。一所懸命頑張っている小さな子たちを落とす大人の苦悩、受かった子や落ちた子のケアをするスタッフ、時間やお金を工面して子どもたちをレッスンに送り出す親たち。芸能活動をしているからといって、その子は家族の中で特別であるはずがない。けれどもその子を中心に家族が動けば、ほころびは当然出てくる。さらには、長年レッスンしているからといって受かる保証もない。年齢も個性も、作品に合わなければ実力があったとしても受からない。
思えばジュニアたちは、たとえ幼稚園児だろうが、初舞台だろうが、プロの世界で大人の俳優さんと同等に立ち、プレッシャーを顔に出さず、大人のスタッフさんとコミュニケーションを取らなくてはいけない。また、親が自分にお金と時間をかけてくれればくれるほど、プレッシャーも大きくなるだろう。
それでも演劇が好きでやめられない。舞台に立ちたくて、自分を選んでほしくて、一心不乱に歌って踊る子どもたちのパワーは、席数130席の小劇場に、ずんずん響き渡る。ステージでの一筋の光明を目指して。
ミュージカル座『ジュニア』初演舞台より
悩みや自信をコミカルに見せるファイナリストA111・高梨 杏や、ファイナリストB230・瀬戸きららのキャラクター、ファイナリストS7・水谷亜斗夢のエンターテイナーぶりなど、楽しいシーンも満載だ。
さあ、オーディションに受かるのは、運?実力?それとも……。「どうしたらアニーになれるのか」を考えるだけで一日が終わる筆者・44歳(アニーになりたい歴31年)は、初演を観た時に心の中で叫んだ。「こういうのが観たかったんだ!!」と。演劇の世界が好きで、そこに精いっぱい立ち向かうジュニアを、気がつけば客席から思いっきり応援していた。
ミュージカル座『ジュニア』は、2018年12月19日 (水) ~12月24日 (月・祝)、中目黒キンケロ・シアター(東急東横線・地下鉄日比谷線「中目黒」駅下車)にて上演。上演時間は1時間45分(休憩なし)。オーディションのみならず劇づくりの過程にも巧みに組み込まれており、演劇ファンにはそこも見どころだ。
稽古風景
文:ヨコウチ会長
写真提供:ミュージカル座
(※筆者執筆の記事では、President Rooseveltを「ルーズベルト大統領」ではなく「ローズベルト大統領」と表記しています。詳細はこちら)

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