コブクロが創る秀でた旋律と歌詞を、
路上の空気を損なうことなく構成した
『NAMELESS WORLD』

歌詞のテクニカルさも見逃せない

さて、歌詞。今やJ-POPになくてはならない“桜ソング”の代表格、M2「桜」があるからか、ややもするとコブクロは類型的な応援ソングを歌っていると思っている人もいるのかもしれないが、決してそうではない。

《桜の花びら散るたびに 届かぬ思いがまた一つ/涙と笑顔に消されてく そしてまた大人になった/追いかけるだけの悲しみは 強く清らかな悲しみは/いつまでも変わることの無い 無くさないで 君の中に 咲く Love…》(M2「桜」)。

決して後ろ向きではないが、そこに無謀な前向きさはない。それどころか、現実はそう甘くないと歌っているようでもある。また、その観点で言えば、M10「Starting Line」も興味深い。

《探して見つかるくらいの そんな確かなものじゃないから/あやふやな今にしがみついて 手探りの日々を繰り返して/手探りの日々を繰り返して・・》《ゆっくりと ゆっくりと走り出す スタートラインまであと少し/弛まずに 無くさずに 目をそらさずに/揺ぎ無い想いだけを 今 胸の真ん中に》(M10「Starting Line」)。

「Starting Line」なんてタイトルを付けると、下手なアーティストなら《今、スタートラインに立っている君は…》などと言いそうなものだが、ここでは未踏の状態。しかも、それは“探しても見つからない、不確かなもの”としている。これが2005年の『全国高等学校サッカー選手権大会』応援歌だったというのは少し驚きでもあるが、これもまたストリート出身ミュージシャンゆえのリアリティーなのだろう。

そうした歌詞に込められたメッセージ性もさることながら、そのテクニックもさすがに優れていることも記しておきたい。M1「Flag」での韻の踏み方は、聴いてて楽しくなるほどだ。

《ボロボロのスニーカー》→《人が行き交う》/《壊れた Blues Harp》→《動かない雲 浮かぶ》/《鉢植えの花》→《咲いて散るのかな?》/《一人の少年》→《歩むのでしょうね?》/《愛を込め歌う》→《その頬つたう》/《凹んだ Guitar Case》→《歩いてきたっけ》(M1「Flag」)。

内容は路上で演奏をしていた頃の出来事や想いを綴ったものだが、こうした手法を入れ込むのは、高度な作詞スキルがあってこそと言わざるを得ない。また、M4「ここにしか咲かない花」でも言葉のチョイスにも注目した。

《今はこみ上げる 寂寞の思いに》《燦然と輝く あけもどろの中に》(M4「ここにしか咲かない花」)。

“寂寞(せきばく)”とは“ものさびしく静まっていること”の意味。“あけもどろ”とは沖縄・奄美諸島に伝わる古代歌謡「おもろさうし」の中に出てくる言葉で、“東の海に赤々と昇る太陽の光が空を染める事”だという。パッと聴いて誰もが分かることだけでなく、語感を駆使して、リスナーの思考を促すような作風も素晴らしい。この辺りからも、今さらながら、“コブクロって秀逸なアーティストだなぁ”と思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『NAMELESS WORLD』2005年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.Flag
    • 2.桜
    • 3.六等星 -NAMELESS STAR TRACK-
    • 4.ここにしか咲かない花
    • 5.待夢磨心-タイムマシン-
    • 6.Pierrot
    • 7.Saturday
    • 8.大樹の影
    • 9.NOTE
    • 10.Starting Line
    • 11.LOVER'S SURF
    • 12.同じ窓から見てた空
『NAMELESS WORLD』(’05)/コブクロ

OKMusic編集部

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