シンセ番長・齋藤久師が送る愛と狂気
の大人気コラム第三十七沼(だいさん
じゅうななしょう) 『ルアービルダ
ー沼!』

「welcome to THE沼!」
沼。
皆さんはこの言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか?
私の中の沼といえば、足を取られたら、底なしの泥の深みへゆっくりとゆっくりと引きずり込まれ、抵抗すればするほど強く深くなすすべもなく、息をしたまま意識を抹消されるという恐怖のイメージだ。
一方、ある物事に心奪われ、取り憑かれたようにはまり込み、その世界にどっぷりと溺れることを
「沼」
という言葉で比喩される。
底なしの「収集」が愛と快感というある種の麻痺を伴い増幅する。
これは病か苦行か、あるいは究極の癒しなのか。
毒のスパイスをたっぷり含んだあらゆる世界の「沼」をご紹介しよう。
第三十七沼(だい37しょう)『ルアービルダー沼!』
先日、私は遂に50歳の誕生日を迎えた。
10代の頃には想像もできなかった「50歳の自分」。
率直に言って、よくぞここまで生きてこられたという感想しか思い浮かばない。というのも、やっている事が10代の頃と全く変わっていないのだ。
続けていることは2つ
思想、好み、目標、そして使っている機材まで40年前とほぼ変わらず生きてきた。
そんな50年の歴史の中でも大きな分岐点がいくつかあった。
出逢いと別れ、発見、失望など様々な出来事が自分を形成する大切な要素となった。
また、わたしは物凄く飽きっぽい。その私が飽きずに続けているいることが2つある。
そのひとつが、生業でもある音楽だ。
一時は、商業音楽のあまりのクソさに引退を考えた事もあったが、素晴らしい音楽仲間に救われヤル気を取り戻すこともできた。
譜面も読めず、毒舌にも程がある私が生きてこられたのも、応援してくれるファンの方々や音楽仲間、そして家族のおかげだ。
先日、私のプロデュースする作品が坂本龍一さんにSKMT Picsで選んでいただいたり、冨田勲先生の没後初となるオフィシャルメモリアルコンサートへソロで出演させていただくなど、電子音楽家冥利に尽きる御褒美をいただいた。
そして、もう一つ、これもやめずに続いているものがある。
それは40歳から始めた「釣り」だ。
いつも色々と調子の悪い私だが、30代最後の歳は未曽有の調子の悪さにいささか生きるのも諦めかけていた時だった。
釣具屋のショーウィンドウの中にチン列された男性噐の形をしたルアーとの出会いが、私の心の元気を取り戻してくれたのだ。
その釣りは「トップウォーターフィッシング」と言い、ルアーが常に水面に浮いた状態で行う。
そのため、魚がルアーにヒットする瞬間を目で見る事ができる最もエキサイティングな釣りで、中毒性が高く、一度連れたら普通の釣りに戻ることはなかなか難しいくらいだ。
しかしだ、私はその釣りを始めてから「8年」も・・・。
もう一度いう
「8年間」
も全く魚を釣る事が出来なかったのだ。
多くの人がこの時点で釣り自体を辞めていることだろう。
自分でもよく続いていると思っている。
それでも、私にはその釣りがとても重要な時間であったのだ。
音楽で脳を使い、疲れた脳を大自然の中の釣りで癒やす。(釣れていないのに)
「今日こそは釣れるだろう」という気持ちから、年間200日以上の釣行をするなど、仕事以上に充実したフィッシングライフを送っていた。(釣れてないのに)
バス、釣っちゃいました
しかし、そのときは突然やってきた。
いつものようにデカいルアーを水面にたたきなげたとき、
ドカン!
と良いサイズのブラックバスが飛びだした。
8年間もの釣れない間に養ったイメージトレーニングのおかげで、プロ並の手さばきで初バスを釣り上げた。
それからというもの、ほとんどの釣行で魚を手にしてきた。
コツがわかってしまったのだ。
しかしだ、これはあくまでボートでの話。
いわゆる陸っぱり(オカッパリ)で歩きながら岸から投げてバスを釣ったことがなかったのだ。
8年越しで釣れてから2年間、私はオカッパリでバスをつり上げようと必死だった。しかし、まったく釣れない。バス以外のものは良く釣れる。巨大なナマズや巨鯉などに、何度も竿をヘシ折られた。時には土手から転げ落ち、血だらけで帰宅した事も。
そして釣りを時始めてから10年目の誕生日の前日。。。
陸っぱりで48.5cmの立派なバスを釣りあげた!
時計を見るとAM3:03。
「303」だ。
ここで完全にスイッチの入った私は、その後も陸っぱりでボコボコつった。(同行者がドン引きするほどだ)
私はこのことがきっかけで、ある決意をした。
「ルアーを作りたい。自分でルアーを作ろう!」
ワイ、ルアービルダーになるで!
私は一度思ったらやることだけは速い。
ルアー作りに必要な器材を瞬く間に、ほんとうに一瞬で揃えてしまった。
先ずは、廃業した義父からボール盤を2つ。
研磨機。
板金バサミを調達。
次に塗装用エアーブラシ、
そしてエアーダクト。
最後に旋盤機を用意した。
この旋盤機は倣い旋盤といい、
出来上がった形をもとに同じ形を削れる優れた器械だ。
つまり「量産」ができるというわけだ。
幸せはみんなで分かち合うように、自分が好きなものを価値観の会う人と分け合いたい。
その気持ちは音楽であってもルアービルダーであっても全く変わりない。
私は音楽家でいながらルアービルダーになる決意をした。
しかもハンドメイドルアーのため、音楽のようにコピーが出来ない。
一つ一つが手づくりだ。
これは半端な気持ちでは成し遂げられない。
さらにルアーを作るという事は、つねに釣りに出向く亊が大切になってくるのだ。
音楽、ルアー作り、釣り、と寝ているヒマはないのだ。
わたしは自分のルアーブランド名を「Noisy Nuts」(うるさいタマキン)と命名した。
来年から少数だが全国販売する事になった。
「50の手習い」とはよく言ったものだ。
若者の読者の諸君。
夢は必ず叶う。
死にものぐるいで心の中でイメージを具体的に強く念じ続ければ。
君も仲間にならないか?

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