To the Paraiso. 〜Yogee New Waves
角舘健悟が描く楽園はどこにある〜【
Archive】|the future magazine

昨年「Paraiso」という1枚のアルバムをリリースするや否や、瞬く間にインディーキッズの心を掴んだYogee New Waves

その首謀者であり、美しい日本語の言葉を紡ぐのがボーカルとギターを担当する角舘健悟だ。

東京生まれ、東京育ちのインディーミュージシャンが台頭するなかで、シティーポップというジャンルや文脈で語ろうとするるメディアが多い。しかしながら、彼らの音楽はそんなくくりやイメージにとらわれることなく、自身の詩情をどこまでも自由に伝えているように感じました。

アルバム冒頭の1曲『Megumi No Amen』で、「やりたいことやろう 楽しいことないかな なぁ兄弟」と今を生きる若者をアジテートする言葉は、時代のリーダーを彷彿し、「目が見えなくとも 姿形色が分かる ような気がしている僕らじゃ 何も得る事はできないのだろう」と歌い掛ける『Climax Night』も今の20代が抱える思想や満たされることのない心象風景を表していると感じました。

アルバムタイトルの『Paraiso』とは、スペイン語で楽園を意味します。「ここではないどこか素晴らしいところ」を示す、魔法の代名詞でもあるParaiso。

角舘健悟にとって「Paraiso」とは、どんなものなのだろう。そしてそれはどこにあるのだろうか。

6月某日。

この2つの思いを発端に、僕と写真家の小林光大は、健悟くんを連れて山と海と灯台の見える三浦半島の岬に向かいました。インタビューは撮影の合間に、車中で取り留めもなく話をした言葉の断片をまとめたものです。

「結局どこにも行けないのかもしれない
」と感じること

ー健悟くんが楽曲を作る上で、影響を受けていたり、インスピレーションを感じる物事ってどんなことなの?

健悟:
「うーん、そうだなぁ。どこか遠くで見た自然の景色とかに影響を受けているかもしれない」
ーかといって地方に住んで、音楽をやりたいみたいなことはないんだよね。

健悟:
「うん、ないね。地方はあくまで訪れる場所というか。生まれてからずっと東京に住んでいるから、結局は東京の生活に戻っていかなくてはいけない。 旅が終わって、東京に着いたときに『あー、楽しい時間が終わってしまったなぁ』とか。夢から覚めてしまうような瞬間って色々なことを感じることができるから、それは創作の一つの原動力になっているかもしれないな」
ー健悟くんが抱える「どこにいても変わらない」とか「結局は自分の生活圏で生きるしかないんだな」みたいなフィーリングが、多くの人の共感を呼ぶんだと思うんだけど、そのあたりについては自分でどう分析している?

健悟:
「そうだね。結局は旅行に行って遠く景色を見ることって現実逃避かもしれないし、日常にあるものを俯瞰で見るためなのかもしれない。

ずっと都会に住んでいるから、海とか山ってすごく珍しい非日常のものなんだよね。幼少期に夏休みになると、岡山にあるおばあちゃんの家によく遊びに行っていたんだ。海沿いの丘の上にあるんだけど、海の見える丘の上に公園があって、そこから街を見下ろしながら『最高だなぁ』みたいなことを感じていて。

岡山に行ったところでねぇ、特にやることはそんなにないわけだから、近くをウロウロするんだけど。そういう場所に行ったときにしか感じられないことってたくさんあると思う」


ーHello Ethiopiaは「Paraiso」のなかでもひときわ遠くにある景色とか楽園のような世界を描いているよね。

健悟:
「そうだね。ただ『Hello Ethiopia』の歌詞も結局家で書いたんだ。これは近しい人の死に影響されている曲で、冒頭の波の音は、その人にゆかりのある海辺の音をiPhone のボイスメモに取り込んで、それを使った。涙流しながらぐちゃぐちゃになりながら家で書いたよ」
ー遠くで見聞きしたものを自分のなかに取り込んで、家に帰ってから曲を書くんだ。

健悟:
「そうかもしれない。遠くで感じたことではなくて、東京で過ごしていて感じることももちろん曲になるし。僕は自問自答がすごく好きなんです。

例えば誰か近くにいる人と遊んだ帰り道に『なんであの人はこう考えるだろう』とか、『なんでこの人怒っているんだろう』とか音楽を聴きながら歩いていると、急に歌を口ずさみたくなったりして。

それこそ、『Megumi No Amen』はそういう感じでワンフレーズができた曲。『おお、降りてきたぞ』って興奮して、そのまま走って帰ったんだ(笑)。早く楽器に触りたくて。

だから、皆と過ごしたあとに家まで帰るまでの隙間の時間とか、退屈な時間に何かを思い出すことっていうのは、曲を作る上で大切かもしれない」
ーYogeeの歌を聞いていると、メロディーとか歌の明るさの陰にものすごい寂しさが感じられて。それこそ歌詞に浮かび上がっている具体的な言葉はあくまで氷山の一角で、その裏に隠れている感情とか想いみたいな情報量がものすごいなぁと感じさせられています。そしてそれは他の若手のミュージシャンの言葉の深みとは一線を画しているように感じているんだけど、これはどうしてなんだろう? 

健悟:
「それは嬉しいなぁ。多分・・・僕自身が寂しいと感じて書いたからじゃないかぁ。詩になった言葉の裏には、僕の色々な想いが込められているからそこに反応してくれたということじゃないのかな。

同時に多くのミュージシャンが歌おうとしていることって、本質的にそんなに変わらないような気もしていて。例えば、『今夜楽しもうよ』とか。『君と僕』の関係性とか。そういうテーマに対して僕は、今日本に生きる若者として、英語ではなくて、自分が使ってきた言葉で、素直に表現したいという気持ちがすごくある。だからそういう風に言ってくれるのはすごく嬉しい」
ー健悟くんは音に乗せて自分の感情を吐き出すことで、救われている部分があるのかな?

健悟:
「大いにあると思う。音楽にして出すことで楽になれるというか。いろんなメディアで語ってしまっていることではあるんだけど、曲が生まれるためのエネルギーゲージみたいなものがあって、それが溜まっていくのが本能的・動物的に『生きている』ということを実感するときなんだよね。例えば、旨い飯を食べているときとか、誰かに腹がたったときとか、緊張して否応なしに体から冷や汗がでたときとか。そういう本能的に感じたドキドキとか、怖いという感情のゲージが溜まって分水嶺を越えてこぼれ落ちたときに曲ができる、という言い方が一番しっくりくるんだよね。

甲本ヒロトの言葉に『腹が減ったら飯を食う。クソしたくなったら、クソして、曲が書きたくなったら、曲を書く』みたいものがあって。それは『生きる』ということに直結した理想的な音楽家のあり方だと思うんだよね。だから、できるだけそうでありたいと思っている。

他のメンバーが仕事しているのもあって、僕らのバンドの活動速度は決して早いほうではないから、焦りを感じたりするときは正直あるけれど。でも、できるだけ肩の力を抜いて、自分の内側にあるものをきちんと吐き出せるようでなくてはならないなといけないなって思っている」
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