スキマスイッチ ヒットソングの像に
囚われることなくスクラップ&ビルド
を繰り返してきた歩み、横浜アリーナ
公演を振り返って見えたもの

SUKIMASWITCH 15th Anniversary Special at YOKOHAMA ARENA ~Reversible~ Presented by The PREMIUM MALT'S

2018.11.11 横浜アリーナ

スキマスイッチが横浜アリーナで初の単独ライブをする。
そう聞いた時、正直ドキッとした。彼らがアリーナでライブを行うのは、デビュー10周年の時以来で5年ぶり。しかし個人的には2007年に行われた初のアリーナツアーの方を思い出してしまう。2007年といえばベストアルバムがオリコン1位を連続で獲得するなど、セールス的な意味で勢いに乗っていた時期。その後、2人はそれぞれソロ活動を開始し、その期間中、スキマスイッチとしての新曲リリースはなかった。今振り返れば、あの期間は後の活動にしっかり還元されていて、スキマスイッチのために必要なものであったことを理解できる。ただ、当時の私は気が気じゃなかった。歯車が噛み合わなくなるくらいならば規模なんてどうでもいい、どうか無理だけはしないでほしいとさえ思っていたのだ。
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
しかし、どうだろう。時は流れて2018年。この日彼らは、何万人もの人々を前にしながらも、飾らない姿でステージに立っていた。サポートメンバーのプレイに昂ぶり、エアーギターしたり両腕を広げながらジャンプしたりしている大橋卓弥。客席をひとしきり見渡したあと、噛み締めるようにうんうん頷く常田真太郎。アリーナをぐるっと囲う花道を練り歩きながら、観客の持つグッズ、スマホケース、手書きのイラストなどを愛おしそうにいじる姿。楽屋かよとツッコミを入れたくなるほど自由なMC。近所のお兄ちゃんのような存在でいたいとは確かに当初から言っていたが、実際彼らがそんな雰囲気でライブに臨めるようになったのは、いつからだっただろうか。「やっててよかったし、やってよかったなあ」(常田)、「うん。続けてよかった」(大橋)。ポロッとこぼれた2人のやりとりに、15年のすべてが表れていたように思う。
デビュー15周年を記念したスキマスイッチの横浜アリーナ2デイズライブ『SUKIMASWITCH 15th Anniversary Special at YOKOHAMA ARENA ~Reversible~ Presented by The PREMIUM MALT'S』。タイトルにある“~Reversible~”の意味は各種サブスクリプションサービスで公開されている両日のセットリストを見比べると分かるだろう。また、ライブ中流れた映像やメンバー2人の着ていた衣装にも、リバーシブルというテーマに基づいた工夫がなされていた。
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
サポートバンドは村石雅行(Dr)、種子田健(B)、石成正人(G)、浦清英(Key)、松本智也(Per)、田中充(Tp)、村瀬和広(Sax)という馴染み深いメンバー。曲によって登場した弦一徹ストリングスも、スキマスイッチのレコーディングにずっと参加してきた人たち。アニバーサリーらしくバイオグラフィを網羅したセットリストだったからこそ、これまでの様々なことが思い出されたし、逆に、年月を経て変化した部分も浮かび上がっていった。
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
デビュー曲「view」のハーモニカソロは健在だが、ブラス2人のソロからそれに突入する構成、食ったリズムを多用したアウトロなどは新しい。曲を生み出すときの葛藤を歌った「ボクノート」は大橋・常田の二重奏から始まり、バンド、ストリングスが徐々に加わる構成。大橋が客席へ両手を差し出すようなしぐさをしながら<ありのままの僕を君に届けたいんだ>と歌ったあと、「未来花(ミライカ) for Anniversary」へと繋げる流れにはグッとくるものがあった。ライブの終盤にやることが多い「SL9」が3曲目に配置されているのはリバーシブル仕様のセットリストならでは。リリース時のツアーでは大橋が倒れ込むように歌い叫び、そこでかなりの集中力を消耗していたようだったが、あれももう8年以上前の話。今ではすっかり頼もしくなった。「ガラナ」は『DOUBLES BEST』以降、骨っぽさを際立たせるアレンジをされるようになった印象。その時のツアー、『DOUBLES ALL JAPAN』のテーマソングという位置づけだった「トラベラーズ・ハイ」は、それ以降のツアーでも盛んに演奏され、ライブを通じて育っていった曲。ドラム&パーカッションのリズミカルなアンサンブルが聴き手をうきうきさせてくれるのだ。「僕と傘と日曜日」は原曲の厳かさから一転、この日は軽やかなアコースティックアレンジに変貌。10周年の時に制作された「Hello Especially」では、<3650日分の>という歌詞が<5600飛んで4日分の>と変更された。
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
こうして書き並べてみると、スキマスイッチはこの15年の間、1曲目に披露した「全力少年」のようなヒットソングの像に囚われることなく、スクラップ&ビルドを繰り返してきたのだということが分かる。「こうやって正直に形にしていくことが自分たちが音楽家として活動していく意味だと思う。だから正直にやってきて、今これだけの人がここにいてくれるってことがとても嬉しいです」と語るのは大橋。本編終盤、激しいサウンドの渦中で<壊せ>と繰り返す「ゲノム」を経て、「ユリーカ」が空へと突き抜けていった場面は、そんな彼らの歩みを体現しているかのようで、非常にドラマティックなものだった。
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
その「ユリーカ」は、音源通りの通常バージョンと、ライブで披露される場合もあるCメロが長いバージョンが存在するのだが、大橋の歌うメロディラインの変化をいち早く察知、今回は後者だと判断し、すかさず歌声で加勢していくオーディエンスもさすがである。そういえばこの2日間では、“ライブ全編撮影OK”というスキマスイッチ史上初の試みが行われたが、それにより場の雰囲気を壊されるような場面はなく、全体的に、節度が守られていた。これは15年の間に築かれた絆の強固さによるところもあるし、単純に、生の音楽をしっかり体感して帰りたいという気持ちの人が多かったのでは、とも思う。スキマスイッチが自身の変化を通じて伝えてきた音楽の楽しさ・面白さは、確かに聴き手にも伝わっている。最初のMC前、なかなか鳴り止まない拍手に照れ笑いしてから「イェーイ!」と叫んだ大橋は、2日間立ち見まで満員なのだということに触れながら「そんなにスキマスイッチのことが好きかと!」と笑っていた。
スキマスイッチ 撮影=岩佐篤樹、古賀恒雄
この日最後に演奏されたのは、最新アルバム『新空間アルゴリズム』の最終曲「リアライズ」。<僕が手にしたい未来は 僕が作る/さぁショウタイムの始まりだ/ここからなんだ>とあるように、彼らはまだまだ遠くへ進んでいくつもりなのだろう。ムクムクとシンガロングが肥大していく様子は、まるで細胞のうごめきのようだった。
取材・文=蜂須賀ちなみ
スキマスイッチ 撮影OKチラシ

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着