andropが10周年の序章と位置づけたツ
アーのセミファイナル、“始まりの地
”でみせた姿は

one-man live tour 2018 "angstrom 0.9 pm” 2018.11.15 代官山UNIT
9月4日(火)、千葉LOOK公演を皮切りに、全18本のワンマンツアー『one-man live tour 2018 "angstrom 0.9 pm”』をスタートさせたandrop。今年の12月16日から10周年イヤーに突入する彼らだが、「Hikari」のリリースインタビューで話していた内澤の言葉を借りると、今回のツアーは「10周年への序章みたいな感じ」。というのも、このツアーは、バンドが初めて訪れた思い入れのある会場を行程に含める――というコンセプトが設けられていて、彼らにとっては小規模な会場をサーキットするというものになった。ゆえに、オーディエンスと至近距離で熱演を繰り広げ、おおいに熱狂させてきたわけだが、そんなツアーの最終公演に4人が選んだ会場は、代官山UNIT。andropが初のワンマンライブ『one-man live "angstrom 0.1 pm”』を行なった場所である。
そんな思い出の地で開催された2デイズ公演の初日、彼らが1曲目に選んだのは「Voice」だった。イントロが流れた瞬間に、オーディエンスのクラップと大合唱が巻き起こる。ちなみに、この曲のミュージックビデオが撮影された場所も、ここ、代官山UNITだ。そのミュージックビデオも、彼らが初めてワンマンライブをした代官山UNITから、彼らを支える者たちの手によってフェスの会場へ運ばれていくというストーリーになっていることもあり、こんなにふさわしいオープニングナンバーもないだろう。照明が場内を明るく照らし出すと、ソールドアウトで超満員になっているフロアを見渡した4人は笑みを浮かべていた。
androp 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
この日のセットリストは、彼らが過去に発表した作品から満遍なく楽曲がセレクトされていた。軽やかでありながらも力強さに満ちた伊藤のドラムが響く「Te To Te」や、豪快なアンサンブルから駆け出していく「Glider」といった活動初期に発表された楽曲をはじめ、前田の躍動感たっぷりなスラップベースに大きな歓声があがった「Boohoo」や、内澤がオーディエンスのシンガロングを誘うように歌声を放った「One」、エッジの効いたサウンドで切り込んでいく「Joker」など、ライブハウスツアーということもあり、身体に訴えかけてくる楽曲を立て続けに披露していく4人。ミラーボールが回る中、オーディエンスのクラップが曲をより煌びやかに輝かせた「MirrorDance」や、本編のフィニッシュを飾った「Yeah! Yeah! Yeah!」など、終盤戦はシンガロングが止まない熱狂的な空間になっていた。
それでいて、音楽的な振り幅の広さでも楽しませてくれるのがandropである。強烈なグルーヴでフロアを揺らした「Corna」でハードなギターを轟かせたかと思えば、佐藤がキーボードを操り、内澤はマイクを両手で握りしめて歌うというギターレス状態で繰り広げられた「Q.E.D」は、人力エレクトロといったところ。また、アンコールでは内澤がひとりステージに姿を現わし、弾き語りで「Tokei」を披露した。ギターを柔らかく爪弾きながらじっくりと歌声を届ける。曲を終えると、オーディエンスはもちろんのこと、再びステージに戻ってきた佐藤、前田、伊藤の3人も内澤に拍手を送るという光景がなんとも微笑ましく、会場は温かな空気でいっぱいになっていた。
androp 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
そんなバラエティに富んだ楽曲の中でも一際強烈だったのが、「SOS!」だった。Creepy Nutsとコラボレーションし、バンドに新しい風を吹かせたこの曲は、ライブでも実際に2人を迎えて度々披露されていたのだが、この日はバンドのみでのアレンジバージョン。4人が音を出し始めたときは、何を演奏し出したのかわからないぐらい編曲されていたのだが、これがまあとにかくかっこよかった! 原曲は派手に騒げるアレンジだったが、「自由に身体を揺らして楽しんでください」と内澤がフロアに声をかけていた通り、少し落ち着いた雰囲気で横ノリ全開なグルーヴが心地よく、高揚感をじわじわ高めていく。途中では内澤のラップや、前田から佐藤にバトンを繋ぐソロパートを交えつつ、伊藤のドラムも曲が進むごとにダイナミックになっていき、最後は凄まじい熱量を生み出していく圧巻のプレイで、オーディエンスを魅了していた。
androp 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
MCでは、自分たちの音楽に触れてくれていることに改めて感謝を告げながら、日頃どんな気持ちを持って曲作りをしているかを、内澤が真摯に話していた。人間が日々暮らしていくうえで、音楽は必要ないものかもしれない。もしかしたら自分たちの音楽は何の役にも立たないのかもしれない。それでも自分たちは聴いてくれる人の心に届く音楽を作りたい。それは、自分たちが音楽に助けられて、その力を信じているから──。そんな葛藤や想いを言葉にして、オーディエンスの一人ひとりにまっすぐ語りかけていく。おそらくそこにいる全員がその想いをしっかりと受け取っていたと思うのだが、「話せば話すほど、伝わっているのかなと思うんですが」と少し照れ気味な内澤。もしかしたら、4人が胸に抱いている気持ちは、僕やオーディエンスが想像しているよりも、もっと深くて強いものなのかもしれない。
現に「心の中に闇があったとしたら、それを照らすような光を見出せますように」という願いを込めて届けられた「Hikari」からは、そんな彼らの想いが溢れんばかりに伝わってきた。佐藤が奏でる鍵盤の優しい音色から始まり、柔らかな声で歌い出す内澤。前田のベースも伊藤のドラムもそこに寄り添うように音を出していくと、深い暗闇の中で朧げながらもそこに確実にある一縷の光が、次第にその明るさを増していく──そんな絵を思い浮かべた「Hikari」から繋げられた「Prism」は、今まで以上にまばゆいほどの光に満ち満ちていて、フロアを優しく包み込むように高鳴らされていた。
androp 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
やはり彼らの音楽は「光」であり「希望」そのものだ。感傷に身体を押し潰されるような感覚をおぼえる「Irony」や、矢継ぎ早に畳み掛ける内澤の歌と、ダーティーな響きのバンドサウンドで攻め立てる「Sunny day」といった、強烈な闇を描いた作品『blue』の楽曲群も、制作時の目的通り、その光をより強いものとするために欠かせないものとして、セットリストの中で存在感を放っていた。そんな様々なアプローチでフロアを沸かせていた4人だったが、この日演奏された「Hikari」と「Prism」は、改めて自分たちがどんなバンドであるかを雄弁に語り、オーディエンスの心だけでなく、彼らがここまで歩んできた道のりであり、まもなく突入する10周年、そしてその先に続く未来まで、明るく照らし出しているようだった。
androp 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
前述の通り、andropは2018年12月16日から10周年イヤーをスタートさせる。その幕開けを飾る作品とも言えるのが、12月19日(水)にリリースされるニューアルバム『daily』だ。この日、彼らがアルバムについて話していた言葉を拾うと、「捨て曲がない」「どの曲もリードトラックみたいな曲ができている」とのこと。また、今回ミュージックビデオを撮影した曲には「いろんな想いを込めた」そうで、完成した映像をライブ前に観たところ、「じーんときた」とも話していた。当初の予定日よりも少し延期はしてしまったのだが(「申し訳ない気持ちでいっぱい」と、延期について再三MCで謝る場面も)、そのぶん素晴らしい作品を届けてくれるだろう。かなり期待して待ちたい。
また、ライブとしては『HMV GET BACK SESSION』を開催することが発表された。これは過去に発表したアルバム作品を曲順通りに演奏するというもので、1月26日(土)、下北沢GARAGEでは彼らの記念すべき初作品である『anew』が、2月19日(火)、恵比寿リキッドルームでは初のフルアルバム『relight』が再現される。かなりスペシャルな夜になりそうだが、この日のMCの雰囲気からして、他にもまだまだいろんな発表事が控えている模様。果たして4人はどんなアニバーサリーイヤーを繰り広げるのか。とにかく楽しみにしていたい。

取材・文=山口哲生 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)
androp 撮影=Rui Hashimoto (SOUND SHOOTER)

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