【インタビュー後編】DAISHI [Psych
o le Cému]、「“僕が終わらせた”
──事件があっての歌詞も」

Psycho le Cémuが12月8日の名古屋ボトムライン公演を皮切りに、ロールプレイングな世界観による東名阪ツアー<FANTASIA>を開催する。同ツアーではひとつのメロディと歌詞に対して3つのアレンジで異なるサウンドを構築した会場限定シングルCD「FANTASIA〜恋の幻想曲〜」「FANTASIA〜怒りの幻想曲〜」「FANTASIA〜勇気の幻想曲〜」のリリースも決定。自身初の三部作として届けられる。BARKSでは“FANTASIA”をキーワードに、Psycho le Cémuというバンドが生まれた必然性や、彼らの光と影に迫る。その第一弾インタビューはボーカルのDAISHI。
先ごろ公開したDAISHIインタビュー前編では、“前代未聞の音楽エンタテイメント” “ジャンル無用のサウンド感” “コスプレバンド/ダンスバンド” “ポップとコミカルと刺激”などなど、Psycho le Cémuを構成する要素からバンドの核を紐解きつつ、復活から現在に至る不可避性に迫った。そして後編ではメッセージ色の濃い「FANTASIA」の核心を明かす。以下、インタビューは前編に引き続き、ジョー横溝氏が務めた。

   ◆   ◆   ◆

米国誌『NEWS WEEK』の“世界が尊敬する日本人100人”にランクインするほどの勢いがあった2004年当時のPsycho le Cémuだが、2005年にDAISHIが薬物使用で逮捕され、バンドは最大の危機を迎えた。そして解散と復活。事件から13年が経ち、リリースされる新曲『FANTASIA』はDASISHIが事件後、初めて作詞を担当したナンバーだ。インタビュー後編は、その「FANTASIA」への想いなどを聞いた。

■メンバーには相談しましたけどね
■“3パターンを演奏するスキルある?”と(笑)

──今年、結成19年ですよね?

DAISH:はい。なので来年、結成20周年ですね。

──デビュー当時はSNSもなかったので、初めて観る方々には衝撃だったという話をインタビュー前編でしていただきましたが、今はSNSで画像などが拡散されるので既視感があります。ライヴパフォーマンスは今後、どういう風にしていこうと思っていますか?

DAISH:アメとムチのふり幅だと思いますね。それは復活してから結構使っている技っすね。時にはすげーカッコいいバンドになって、そのギャップで見せて行くっていう。あと……。

──あと?

DAISH:僕らの場合、王道のカッコいいライヴの時でも三面性ぐらいあるんです。ダンスがあるし、お芝居もあるんで。どれでいくかは会場の大きさによって分けたりします。たとえば、ホールだとがっちりエンターテイメントもするけど、ライヴハウスだと“ロックだぜ!”っていう部分だけで押し切るとか。なので、“会場に行ってみてのお楽しみ”的なライヴになっている自信はありますね。
▲2015年<TOKYO MYSTERY WORLD 〜名探偵Dと4人の怪盗たち〜>

──ここ数年、日本でもハロウィンがすごいことになってるじゃないですか。要は、ネットで観ても満足できないエンタメライヴがあれだと思うんです。会場で一緒に歌うだけではなくて、仮装やコスプレまでして参加する。Psycho le Cémuはその先駆者のひとつとも言えますよね。

DAISH:恐縮です。それはともかく、僕も今おっしゃっていたライヴの在り方が面白いと思っていたんです。要は、観客も演者になるみたいなことですよね?

──はい。

DAISH:実は、僕らのライヴの途中で披露するお芝居は、そういう作り方をしてる時があるんです。例えば、お客さんをキャストにしたお芝居も作りましたし。それと、新曲「FANTASIA」(会場限定シングル)で展開するお芝居も、お客さん全員を何かの役にはめ込んだりするつもりです。お客さんという役じゃなくね。もう少し具体的に言うと、お客さんの何かがないとお芝居が進まない。しかも、家に帰った後に、会場で買ったグッズがあればSNS上でアイテムが揃えられる……みたいに、“RPG(ロールプレイングゲーム)の世界観をSNSとライヴ会場でくっつけられたら”ってことを今、試行錯誤しているんです。スマートフォン上でアイテムゲットが出来て、ライヴで“実はあそこに何かがあって、気づいた人はさらに……”みたいな謎解きを入れられたら面白いなって思ってますね。Psycho le Cémuならでは、というか。

──それは完全に新しい形態のライヴです。実現の見込みは?

DAISH:いくつかのアイデアは試してみましたが、まだ上手くできてないんです。でも、その試みは次のツアーでも行いますので、注目していてください。

──大注目します! 体感できる人数が有限なライヴと、いつでも不特定多数の人が体感できるSNSが融合したら、発明に近いエンタメが生まれると思います。そして、枠にとらわれないPsycho le Cémuならやってくれそうですね。

DAISH:やっぱり、面白いことしたいですよね。とは言っても、僕らはディズニーのエンターテインメントには絶対勝てないんで、ディズニーランドにはない良さみたいなところを上手く突いていきたいんです。それとネットとかSNSを上手く組み合わせることも大事。例えば、ライヴに行って、その後でネットやSNS上のイベントに参加してもらって、謎解きをコンプリートした人だけが新曲を手に入れられる、とか。新曲をお金で買うとかじゃなくて。
▲2016年<Legend of sword 2016 -伝説は再び->

──そういえば、今回の新曲「FANTASIA」も東名阪のライヴ会場限定リリースで、しかも会場毎で楽曲アレンジが違いますね。アレンジを3パターンにするアイデアはどこから?

DAISH:コンセプトとお芝居はいつも僕が考えるんですね。いつもだったら、ベタにお姫さまを助けるとか、ドラゴンを倒すとかだったんですけど、今回はRPGの世界観をベースに物語を考えていこうと決めて。でも、新曲はバンドが復活してから、初めて僕が詞を書く楽曲になるので、今までやってないこと……例えば、“何を探すんがいいかな?”って思った時に、“自分らの理想の幻の曲を探すのはどうやろう?”って思って。“幻を探す”ってネット検索していたら“ファンタジア”って言葉が出てきて、“あ、じゃあ幻の曲を探す物語にしよう”って決めて、楽曲タイトルも「FANTASIA」にしました。

──なるほど。

DAISH:しかも、例えば“ドラゴンと出会う”とかお芝居の中で何かを手にして、僕らがレベルアップすると、幻想曲が見つかるっていう設定なんです。つまり、普通にCDを売るより、お芝居の中で『レベルアップさせるためのアイテム“幻の曲”をみんなもゲットできたよ!』っていう感じにしたかった。それが3つあったらより面白いけど、同じCDは3つも要らんでしょ。だけど、3パターンあると本当にアイテムっぽくなるし、全会場に行った人ならではのものにもなる。ライヴは3公演あるので、同じ歌詞とメロディーなんだけど“恋、怒り、勇気”で曲アレンジを変えられたら、かなり重要なアイテムにもなるなと思ったんです。ただし、メンバーには相談しましたけどね、「3パターンをライヴでも演奏するスキルがあるか?」と(笑)。

──ははは(笑)。

DAISH:僕も然りです。3パターンの歌い方が出来るかと。メンバーは「頑張ってみる」とは言ってみたものの、実際は結構悩んでましたね。なんといってもメロディーと歌詞がずっと一緒ですから。それと、僕で言えば歌詞も本当に悩みました。
■恥ずいっすよね。だって
■事件のことだと分かると思うんです

──「FANTASIA」の歌詞のどの辺を悩みましたか?

DAISH:第一弾が“恋”バージョン。これはバラードかなと。第二弾が“怒り”バージョン。これは僕ららしいロックな激しいナンバー。第三弾の“勇気”バージョンは僕らが思うポップさみたいなのを出したいなって。でも、どのバージョンの演奏にも合う歌詞にしないといけないわけですから。

──相当、難易度が高い作詞ですよね。

DAISH:ええ。“愛してる”とか“恋をしてる”とか入れちゃうと、そこに引っ張られちゃうんですよ。一応、“恋”と“怒り”と“勇気”という言葉は全部入れたんですけど、サビにそれを入れるとその世界観に引っ張られるんで、入っても気にならないAメロとかBメロに入れてますね。
▲2016年<大江戸カラクリWORLD 〜新衣装お披露目公演〜>

──確かにそうですね。

DAISH:そういう工夫はしていますけど、歌詞の内容は、基本は僕らが復活した想いというか、僕しか書けないものになっています。やっぱり、僕が一回、このバンドを終らせたみたいなところがあるんで……。この曲が復活後、シングルとして初めて書くちゃんとした歌詞なんです。だから、“僕たちのメロディーが、もう一回、みんなとメンバーを繋げたよ”っていうところを歌いたくて。みんな、僕らのデビュー曲「愛の唄」を長い期間聴いてなかったんじゃないかな?と思って、“愛の唄”っていう言葉も歌詞に入れさせていただきました。だから、この歌は完全にファンの人のために歌ってます。“世界中の人へ”とか“好きな女の子に”とかじゃなく、もうファンの方のためだけ。

──ファンのために詞を書くというのは、書き易かったですか?

DAISH:はい。世の中で、一番僕らの歌を聴いてくれる人へ向けて書くわけですから。たまにしか聴かない人へ向けて書くということは、僕はあまりないんですね。それと、こういうヴィジュアル系なんで、完全にキャラクターになりきって書く場合もあるんですよ。でも、そういう時は言葉遊びみたいな感じで、気持ちはあんまり入ってない。今回は自分の気持ちを入れましたね。メンバーも読んで分かっていると思いますけど、事件があって、一回終わらせたみたいな歌詞も入ってますし。

──“破壊へと向かうの? あの世界 僕が終わらせた”という部分ですよね。そこを書く時の気持ちは?

DAISH:恥ずかしかったです(笑)。
──でも、書こうと思った?

DAISH:こういうコスプレというかバーチャルなバンドがやるからこそ、赤裸々と言うか。僕的には歌詞を書く時、バーチャルとリアリティの融合的な感じが多いです。バーチャルなバンドだからこそリアリティを大切にしたいんです。

──でも、今回は事件のことだったので、リアリティを書くのは結構大変だろうなと。

DAISH:恥ずいっすよね。だって、これは事件のことだと分かると思うんですよ、よっぽど勘が悪くなければ(笑)。

──そうですよね。メンバーは歌詞を見て何か言ってきましたか?

DAISH:メンバーも恥ずいから言ってこないですよね(笑)。

──分かってはいるけど?

DAISH:ええ。僕が本当にひどい時なんかは、僕に対してリーダーのLida君が“ちゃんとせえよ”みたいな歌詞を書いてくれる時もありましたし。気が付けば、“お前しっかりせえよ”みたいな歌詞がうちのバンドにはいっぱいあります。
▲2017年<Doppelganger ~Next Generations~>

──でも、人は過ちを犯すものじゃないですか?

DAISH:うわ! その話掘り下げますか(笑)!

──人間は誰でも過ちを犯すものだから、許すことは大事だと思うんです。ところがこの国って、一度過ちを犯した人にとても不寛容だと思うんです。

DAISH:でも、僕自身、みんなに迷惑かけたってことは本当に本当に反省しています。とにかく、メンバー、ファンの方々、スタッフさん……みんなに迷惑かけたっていうのが本当に辛かったです。だって、これで生活してはる人もいるわけですから。そして、その辛い時間も含めて、人間的には貴重な経験をさせてもらったと思っています。あの時、もし友達もいなくなったら、同じ過ちを犯してたかもしれないと思いますし。性格、変わりましたもん。人に対して、物事に対しても。

──その変化は表現にも出てきてますか?

DAISH:出ていると思います。その影響でしょうもないボーカルになってると思います。正直、前の方が尖ってましたからね。(笑)。

──ははは(笑)。

DAISH:事件を起こしたのが27歳の時なので、それから13年が経って、そんなに厳しい感じではないですけど、それでもなかなか消えないんです。でもメンバーは早い時期から、僕がまたバンドに戻ることを許してくれて。本当に家族みたいな良いメンバーに恵まれたなって思っています。唯一、Psycho le Cémuが他のバンドさんに勝てることって、メンバーの仲がいいことだと思うんですよ。うちらみたいに仲のいいバンド、他に見たことないですもん。“GLAYさんは仲がいい”ってよく聞くんで、負けたくないなって(笑)。
■NEWS WEEKのランキングでは
夏目漱石の真下でしたからね(笑)

──プライベートでもメンバーとご飯に行ったり?

DAISH:全然行きますよ(笑)。誕生日会もしますもん。あとは年に一回はみんなで集まってバーベキューするし。でも、事件があってからですね、あれ以降です。

──やはり大変なところをみんなで乗り越えたっていう。

DAISH:そうですね。僕自身としては、“乗り越えていただいた”っていう感じですけどね。長年一緒にいるので、みんなの性格もよく知ってますし。なにせ、Lida君は保育園から一緒ですからね。逆にLida君と二人っきりでは飲みには行けない、メンバーを介さないとなかなか話せない(笑)。もう付き合いが長すぎて、恥ずかしいんですよね、二人っきりになると。
▲2018年<TOUR 2018 Doppelgänger ~ゲルニカ団 漆黒の48時間~>

──さて、来年の20周年ですが、何か大きな企画などもあるのですか?

DAISH:今のPsycho le Cémuをさらに大きくできたらなと、いろいろ計画を立てています。“僕が事件を起こさず、あのままPsycho le Cémuを続けられていたら、どうなっていたのか”への挑戦っていう感じですね。

──具体的には、ファンの数を増やすことですか?

DAISH:観てもらう場を増やすっていうほうが近いかもしれないですね。それはライヴの本数を増やすだけではなく。最近、ファン以外の人に観てもらう機会も増え始めたので、そこも頑張りたいと思っています。この間、WaiveとMUCCとスリーマンツアー<MUD FRIENDS 2000〜2018>をやったんですけど、僕らのファンじゃない人の前でやるのもいいなと思ったんでよ。

──なるほど。でも、Psycho le Cémuは米国誌『NEWS WEEK』の“世界が尊敬する日本人100人”にも選ばれたことがあるのだから、国内ヴィジュアル系の枠を超えて、世界に向けて活動するという考え方もあると思うんですが。

DAISH:僕は、Psycho le Cémuがアメリカでウケて、たくさんのお客さんが入っていた時から、“日本のファン、目の前のファンを楽しくできないのに、海外の人を楽しませることは難しい”と思いながらやってたんです。いつもライヴハウスに足を運んでいるような方が僕らのライヴを観て、“また行きたい”と感じてくれる、そういうところが一番大事だと思ってます。もちろんその先も大事なんですけど、もし海外からお声が掛かったら……実は今も結構声が掛かるんですけど、日本でちゃんと形にしてから海外に行きたいですね。

──でも、世界の誰かにアイデアをパクられる前に、アメリカやヨーロッパ、アジアに出て行くのも手だとは思いますが。

DAISH:フランスの<ジャパンエキスポ>に行った時も、“あー、日本でやるより早いかな”って思ったことは正直あります(笑)。特にアメリカとかフランスは面白がってくれますね。KISSのジーン・シモンズから「一緒に写真を撮ってくれ」って言われたぐらいですから。しかも、ジーン・シモンズのFacebookかTwitterにその写真を載せていただいたり、“好きなバンド”として名前を挙げていただいたこともありましたし。

──“世界が尊敬する日本人”ですからね。

DAISH:NEWS WEEKのランキングでは、夏目漱石の真下でしたからね(笑)。それより僕らは今、DA PUMPさんみたいになりたいですね(笑)。

取材・文◎ジョー横溝
■東名阪ツアー<FANTASIA>
▼<FANTASIA~恋の幻想曲を探す物語~>
2018年12月8日(土) 名古屋ボトムライン
Open 17:30 / Start 18:00
▼<FANTASIA~怒りの幻想曲を探す物語~>
2018年12月9日(日) 大阪パルティッタ
Open 17:30 / Start 18:00
▼<FANTASIA~勇気の幻想曲を探す物語~>
2018年12月14日(金) Zepp DiverCity Tokyo
Open 17:00 / Start 18:00
▼チケット
楽天チケット https://ticket.rakuten.co.jp/music/jpop/visual/RTCYPLH
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