三者三様のストーリーが交差した一夜
──ORESAMA主催『TOKYO FLAT NIGHT
CARNIVAL THE FINAL』ライブレポ

TOKYO FLAT NIGHT CARNIVAL』という名の異種格闘技戦
2018年11月9日に開催された『TOKYO FLAT NIGHT CARNIVAL THE FINAL』と銘打たれたこの日のライブは、2016年4月よりORESAMAが主導してきた自主企画『FLAT NIGHT CARNIVAL』の最終公演。『平日の夜をもっと楽しもう』というマインドで進められてきた同企画は、ORESAMAのメッセージ性とも協調していたイベントでもあった。
今回はそのイベントを終結するため、ORESAMAが選んだ相手は、fhánaとPENGUIN RESEARCHの2組。ORESAMAを含むこの3組は、アニソンタイアップを中心にプロップスを集めてきた面々でありながらも、その音楽性は全くといっていいほど異なる3組でもある。ORESAMAは最後まで異種格闘技戦を仕掛けていったのだ。

エヴァーグリーンなfhánaと「妖精」towana

あいにくの雨模様となったTSUTAYA O-EAST。チケットはソールドアウトしており、開場直後から場内は人にあふれている。ORESAMAのぽんの開演前のアナウンスで大きな歓声が湧く。
開演前からアンプや機材がステージにならべられていたため、暗転し、1組目のユニットが出てきた時は意外と和やかな歓声があがっていたわけだが、まさか1組目にfhánaが来るとは予想していなかったろう。
1曲目に披露されたのは、「Hello! My World!!」。towanaのボーカルから始まるイントロ部分から、ドラムス・ベース・ギター・キーボードが一斉に重なっていくサウンドスケープで、一気にfhánaの世界へと誘われていく。観客から驚きの声が上がったのは、2曲目に「little secret magic」が披露されたから。セカンドアルバム『What a Wonderful World Line』に収録されていたこの曲は、ギターサウンドがガッチリと引っ張っていく、いわばfhánaのロックな顔が露わになっている曲だ。
続けて披露されたのが、最新作『World Atlas』でひときわにラウドなサウンドを持つ「Do you realize?」だ。サポートメンバー2人を含めた6人体制でのライブアクトは、ベーシストとドラマーが加わったことで、音源よりも大分パワフルに響いていく。3曲目の「Relief」もそう。本来は打ち込みのドラムサウンドと柔らかなシンセサウンドが耳を引っ張っていくクールな楽曲なのだが、生バンドの強い出音が前に出ることで、非常にバンドミュージックらしく変幻している。
この日の彼らはエッジなバンドサウンドを奏でつつも、towanaの歌声、佐藤による鍵盤、kevinのサンプラーやyuxukiがギターで奏でるアクセントなどなどが複雑に織り込まれて表れる、クールでエヴァーグリーンなfhána本来の顔を見せてくれていた。
towanaは、曲中に唄いながら、お客さんと同じ目線になるように跪く。その姿を見てリーダーの佐藤は『今日のtowanaさんは、まるで妖精のようだね』とMCしていたが、まさにお客さんを非日常へと導いていくガイド役のよう。そのサウンドと歌を届けてくれるライブアクトに、うっとりと聞き惚れる観客が続出したのはいうまでもない。
もちろん彼らにも、観客を一気に飛び跳ねさせる、とっておきの楽曲がある。「そろそろkevinくんをほぐす曲をやろうか?」というMCから始まったのは「青空のラプソディ」。ここまでfhánaの音楽に聞き惚れていた観客も、大歓声で迎えていく。
ひとしきり踊ったあと、最後に披露されたのは「Outside of Melancholy ~憂鬱の向こう側~」。日常を生きる人たちに向けた、非日常へと続いていく可能性を指し示したこの曲で、このあとに続く2組へとうまく繋いでみせた。
PENGUIN RESEARCH 今宵も轟音の斧を振りあげる

「いやぁ、控え室でfhánaさんの音楽を聴いていて、すごく幸せになれたし、浄化されたよね。このあと俺らのライブができるかなー? とか思ったんですけど、みんなの前に立ったら、いつもどおりにできてるよ!」そんなMCをしたのは、PENGUIN RESEARCHのボーカル生田。
彼らが1曲目に始めたのは、なんと最新シングルのB面曲である「ハードロック★パラダイス」。歌詞の内容はまさにメンバーを紹介する内容で、こういった対バン企画での1曲目にピッタリ、fhánaのフワっとした空気を、鋼鉄の金槌で打ち砕いていくような、挨拶代わりの1曲が打ち下ろされた。それまで穏やかだった観客フロアは、一気にモッシュピットへと変わっていく。
彼らの音楽とメッセージは、アンダードッグからの成り上がりを唄うものが非常に多い。fhánaが日常から非日常へと向かっていく音楽だとするなら、PENGUIN RESEARCHは日常の根底から這い上がろうとする音楽だ。彼らの鋼鉄の音楽は、その戦いのための鎧であり、その言葉は共感者を常に鼓舞するものなのだ。
信用できない社会に疑いの目を向けてリスナーとの団結を唄う「嘘まみれの街で」、今この瞬間に強く生きていくと宣言するような「雷鳴」と続く。メタルロック直系のギターサウンドとドラムスのプレイ、生田のハイトーン・ボイス、いまの邦楽ロックシーンの最前線でも遜色なく活躍できる彼らの音楽が、遺憾なく発揮される。
「ORESAMAのファン、fhánaのファン、俺達のファン、色んな人が今日ここに集まっていて、今日という日を楽しいものにしたくて来ていると思う。だから手を貸してくれないか? オレに合わせてくれ!」と腕を高く挙げ、左右に振ると、一斉に観客も左右に腕を振っていく。彼らのパフォーマンスに、会場中が一気に惹きつけられていく。
この日のライブ企画そのものへの感謝を告げ、一気に連打されたキラーチューン「敗者復活戦自由形」「近日公開第二章」で、モッシュの中からダイバーが飛び出し、観客の熱量を天井知らずにアゲたままで彼らの出番は終えた。
直後、照明をあびた観客フロアからは、白い靄が浮かんでいたのはいうまでもない。清潔感すらあった fhánaのライブから数十分後、これだけラウドロックバンド然としたアクトと風景になるとは、この日の対バンそのものの面白さを思い知った瞬間だった。

異種格闘技戦が終わり、そして次の階段を昇る
そして大トリを務めるのは、この企画を発案したORESAMAだ。彼らの音楽は、日常の悲喜交交を絡めながら、踊り明かしていこうというもの。だからこそ、ライブ会場という特別な場所に来てくれるお客さんに対し、本人らの衣装・照明などの舞台演出に一際こだわっているユニットだ。MONICOのオープニングDJ、メンバーが奏でるディスコミュージック由来のORESAMAサウンドにあわせ、極彩色のムービングライトが舞台の上から下から続々差していく。壇上に立つメンバーは白と黒を基調にした衣装。まさしく非日常の空間として広がっていた。
「流星ダンスフロア」「Waiting for...」とつないで、早くも主役への拍手が止まらない。MCタイムを一旦迎えると、お客さんから「ぽんちゃん、お誕生日おめでとう!」の声がかかり、ライブ数日前に誕生日を迎えた彼女にむけて、会場中が拍手を送る。ぽんは小声で「ありがとう...」と返事をすると、再び拍手が起こる。
この日のORESAMAと観客は、非常に近しい距離感だった。そんな観客に後押しとなって、彼らはこの日のライブを非常に楽しんでいたように見えた。肩の力も抜け、何よりステージ上の4人が常に笑顔でプレイしていたのが印象的だ。
「cute cute」「Trip Trip Trip」でのぽんの歌声とボーカリズムは、見ているこちらも引き込まれるものだった。単に歌声を響かせるのではなく、グルーヴとリズムにノッて発声の調子を変えつつも、自分の呼吸(ブレス音)をわざとマイクにのせることで、巧みにアクセントをつけていく。高圧なエレクトロサウンドのなかでも、しっかりと突き抜ける歌声と、卓越したテクニックがある。

2019年1月初旬の配信シングル、2019年2月には彼らのワンマンライブでは最大規模となる新木場STUDIO COASTでのワンマンライブを発表し、割れんばかりの拍手と「おめでとう!」の声が飛び交う。そうして奏でられたラスト3曲、「ホトハシル」「銀河」「ワンダードライブ」では、もはやメンバーが煽る前から自然と手拍子もジャンプも始まっていく、非常にハッピーな空間へと変わっていった。

異種格闘技系な対バンとなったこの日のライブ、音楽性も個性もまるで別々の3組だからこそ、それぞれが持つ個性も一層に輝いて見えた。ボブカットの黒髪を揺らし、振り絞るように歌い上げるぽん、カッティングをしながら会場を見渡し、にこやかな笑顔を見せる小島、「自分たちのやりたいことをどんどんと更新しているし、ぜひSTUDIO COASTでのライブも楽しみにしてください」とMCで話していたが、あの新木場STUDIO COASTでどんな風景を生み出していくのか。今から楽しみで仕方ない。
取材・文:草野虹

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