髭 “20代の頃は40代になっても髭を
やっているなんて思わなかった” 須
藤寿が語る ーー今、そしてこの先へ
のゆるやかな展望

髭が今年、デビュー15周年を迎えた。そのアニバーサリーに届いたニューアルバム『STRAWBERRY ANNIVERSARY』はまさにあっぱれ。良質のロックンロールと断言できるクオリティは、初心者でも上級者でも食いついた者を瞬時に魅了するし、いくつもの想いを託した曲も言葉遊びに終始する曲も、どちらも諸手を挙げて飛び跳ねたくなる高揚感をもたらしてくれる。15年目にしてこのフットワークの軽さ、風通しの良さ。“これぞ髭!”と快哉を叫んだリスナーも多いに違いない。現在髭は、10月20日(土)横浜BAYSISを皮切りにスタートした『STRAWBERRY ANNIVERSARY TOUR』の真っ最中。5人組として音楽シーンに現れ、最大7人編成の時期を経て、現在は4人(+サポートメンバー)体制。15年間の最初の10年を凝縮した同時発売のベスト盤『STRAWBERRY TIMES(Berry Best of HiGE)』を聴くと、改めて髭の持つ刺激的な毒気とジョーク、ちょっぴりの哀愁によって生み出されたグッドミュージックの数々に身も心も揺さぶられる。若手バンドからベテラン勢まで、幅広く根強く支持されながらますますみずみずしく在り続けるバンドのフロントマン、須藤寿(Vo/Gt)に話を聞いた。新作のことや、「15年間で初めて出すキーワードだけど」と前置きして語ってくれた自身の作詞観、大充実の現状、そしてこの先へのゆるやかな展望など。傍らで髭のアルバムを鳴らしながら読んでみて欲しい話ばかりだ。
髭 撮影=森好弘
――『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を最初に聴いた時、『Thank you, Beatles』、『I Love Rock n’ Roll』(ともに2005年発売)にあった空気を思い出しました。あの時期の無軌道さみたいなものが感じられて痛快だなと。
それは当たっているかもしれない。去年『すげーすげー』のツアーが終わった後、年末に「来年はデビュー15周年だね」という話から15周年ツアーをやろうということになって。ただ、新しい音源を持ってツアーを回るのか、単に15周年のツアーとしてやるのかではかなり意味が違ってくるから、だったら『すげーすげー』を出したばかりだけどもう1枚勢いに乗って作っちゃおうよって。だから『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を制作するにあたっては、『すげーすげー』から間髪入れずのレコーディングだったからバンドとしてはまったくインプットする時間がなくて。インプットがない分、髭がもともと持っているものしか出ていなくて、それが髭本来のスピード感とか『Thank you, Beatles』、『I Love Rock n’ Roll』を作った頃に顕著だった本質の部分が出たともいえると思うんですね。初期の無軌道感に近いものはかなりあるんじゃないかな。
――当サイトにライブレポートがありますが、発売日の9月26日に東京で行われたライブでは、アルバムの曲順通りに演奏されたそうですね。
そう。今回ベスト盤『STRAWBERRY TIMES(Berry Best of HiGE)』も同時に出ていて、ツアーのコンセプトとしては15周年のアニバーサリーとオールタイムベストを組み込んでやるんだけど、それとは違うセットリストにしたくて。ワンマンだからともすると似たようなコンセプトになりがちだけど、9月26日に何ができるのかと考えた時にその日一夜だけの完全再現しかないだろうって。だからもう、すっげーイヤな汗をいっぱいかきましたよ(笑)。
――いつものライブとは違う緊張感がありましたか?
全っ然違いますね。アルバムの曲順と、ライブでお客さんを前にする曲順ってやっぱり全然違うんですよね。ただレポートにもありましたけど、前半はいつものライブのような選曲で、後半に新作を入れていたんです。だから最初のうちはみんな「あれ? 盛り上がれるけど、今日何のライブだったっけ?」みたいな空気もあって(笑)。で、後半からもみんなばっちりポケーッとしていましたよ。「これが新作の曲かぁ」って感じで(笑)。
髭 撮影=森好弘
――7曲目の「得意な顔」は延々続くエンディングが気持ちよくて、ライブで聴きながら踊れたら相当気持ちいいだろうなと思ったら、そこはエンディングじゃなく間奏でした(笑)。
そこ、ライブではどんどん長くなってて(笑)。レコーディングの時は3テイクか4テイク録ったんだけど、間奏の小節数を決めてなかったからトラックごとに長さが違って。全部一発録りだったからその時その時の「得意な顔」なんだけど、採用になったのは1テイク目じゃないかな。1stテイクはやっぱりいいですよね。いろいろノッてるんだと思う。
――前半の「アップデートの嵐だよ!」「スライムクエスト」と続く流れは最高に面白いんですが、それ以上に5曲目の「エビバデハピ エビバデハピ」以降は特に1曲1曲が濃いような気がします。
今回のアルバムは1stセッションと2ndセッションの大きく2回に分かれていて、昨年末に動き始めてすぐに録ったのがアルバムの後半曲で、それは僕が作詞作曲したものが多いんですね。その時に4、5曲録って、それからしばらく空いた今年の春ぐらいに2ndセッションがあって、そこでは「Play Limbo」とか「アップデートの嵐だよ!」、「スライムクエスト」、「きみの世界に花束を」とか、わりと前半の曲を録って。1stセッションは時間的に余裕があったんで、とにかく僕がただ書きたい曲を書いたっていう(笑)。BPMとかもめちゃくちゃでしょ? でも前半はまとまってますよね。それは、「このまま須藤が書きたいだけ書いたら、わけわかんないアルバムになるぞ」ってことになってきて、髭の何たるかみたいなのをたぶん斉藤(祐樹)とか宮川(トモユキ)とかコテが話し合って、肉付けしていったんじゃないかな。
――では後半の濃い1曲1曲は須藤さんが好き勝手に書かれた曲たちなんですね。
笑えますよね、後半。時間だけはあったんで。なんか、アルバムの中心になる曲はいつか書けるだろうと思って、自分の好きな感じでどんどん書いていっちゃって。だから「得意な顔」とか「a fact of life」とかやりたいだけやってるって感じですね。
――その後半に入っている「ヘイトスピーチ」は、いわゆる「せってん」や「ミスター・タンブリンマン」のような髭スタンダードに連なる曲ですね。ただヘイトスピーチという言葉自体が世の中的に蔓延していて、曲自体は世に言うヘイトスピーチのイメージとは真逆の純粋にグッドメロディーな曲で、そのあたりの面白さは承知の上で教えてほしいんですが、その言葉を使うことに躊躇はありませんでしたか?
ヘイトスピーチってNGワードだしね。ただ、僕の歌詞の書き方なんですけど、「きみの世界に花束を」みたいにAメロから始まってサビがあって、という流れのようにするっと歌詞が書けてしまう曲もあれば、「ヘイトスピーチ」のように曲を書いた時に他は何もないけどサビだけはっきり言葉がある曲もあって。そういう時は、よほどのことがない限りその言葉を信じているんですね。それは降りてきた言葉だから。その曲も、仮歌の時点で「ヘイトスピーチ」と歌っていて、そのサビの世界観のもとに歌詞を広げていくことをしているんですね。
――なるほど。
そこで、「ヘイトスピーチって世の中的にきつい言葉だから変えよう」となっちゃうと、軸がなくなっちゃうんですよね。さっきも言ったけどそれは自然に降りてきた言葉だし、その語感も気に入ってナチュラルに出た言葉だから。なので「ヘイトスピーチ」って言葉自体を変えたくはなかったし、その曲の歌詞を聴いて嫌な気分になる人は特にいないと思うんですね。この曲も1stセッションで、これを書いた時にみんなが「こっち系だよ」って(笑)。それで15周年を髭らしく行こうよって、2ndセッションの入り口になっていったんじゃないかな。
髭 撮影=森好弘
――降りてきたものを信じるというのは、クリエイターの姿勢として納得します。1stテイクが1番良いということに近いのかもしれないですね。
そう。これまで15年の間に何回かそういう場面で変えたこともあるんですけど、そうすると大事な部分の言葉をすげ替えることになるから、「これ何の曲だっけ?」ってことがあるんですよね。だから自分は1stインプレッションみたいなものは大事にしてますね。
――それが髭の髭たる所以なのかなと思います。「アップデートの嵐だよ!」にしても、特に意味を持たせていない言葉の羅列が続く中で、《そろそろ 目を覚ませ》という一節がやけに強い印象を残したりする。この曲はきっとライブで聴いたら盛り上がるでしょうし、歌詞の言葉に意味があるとかないということとはまったく別次元の高揚感がある。髭に影響を受けた若手バンドも本当にたくさんいますが、須藤さんの歌詞のセンスは本当に唯一無二であると実感します。
最近、自分の歌詞のことで思うのは、15年目にして出す初めてのキーワードなんですけど、僕ってわりとニヒリストなのかなって。例えばですけど、アニメの『ムーミン』を見ていてスナフキンが出てきてぽつりと言う一言がグサッとくるみたいな。この前テレビを見てピンときたんだけど、30分間のムーミンのアニメを曲に置き換えて、Aメロ、Bメロ、1サビ、2サビ、間奏……という流れだとしたら、スナフキンの言葉は2サビの3行目あたりにある。後は全部ムーミンたちのシュールでナンセンスな会話。で、30分のアニメが終わってみると、ムーミンたちの会話はよく覚えてないけど、スナフキンの言っていた言葉だけが残ってるみたいな。そんなことなのかなって。スナフキンってすごいニヒリストじゃないですか?
――そうですね。
僕がやりたいのは、いろんな感情が詰め込まれていてもいいから、受け取る人によってどんなふうにでも取れるようにフワッとさせておきたいんですね。たとえば「Play Limbo」だったら、《今夜 ぼくのことを見つけてほしい》という一節は大事にしつつ、他のところは、《今夜ヘビーシック 外出たいのに》みたいな歌詞でコーティングしておくみたいな。その方がいろんな人の気持ちにフィットするんじゃないかなって。あまりに自分の感情が強すぎると、「それは歌っているお前だけの気持ちだね?」となっちゃうから、そういうエゴイスティックなものじゃなくて誰の何にでもハマるようにしておきたい。ある日フッと聴いた時に、「髭の曲ってこれまでずっと何を言ってるわからなかったけど、なんか今日はわかる気がする!」みたいな、そんな感じにしたいというか。僕が好きな音楽ってそうだった気がする。ある日急にわかる時が来るというか、そんなフィーリングにしておきたいんですね。
――須藤さんの言いたいことだけを詰め込むのではなく、髭の他のメンバーにも当てはまるものでもありたい?
ありたいですね。今回のアルバムで言えば、頭の先から最後まで僕のエゴイスティックな歌詞になったのは「きみの世界に花束を」だけじゃないかな。後は、15周年らしい歌詞の集大成だなと思いますね。これはもう本当に、言葉遊びもなく書いていきました。15周年ということもあるし、いろんなものが関係している曲だから、僕にとっては今の曲だったんだなと思います。もっと言えば前作を作っている頃に曲のひな形みたいなものはあったんだけど、その時はうまくいかなくて、だったら今じゃないんだなって。
髭 撮影=森好弘
――1stセッションで好き放題やっていた時に、いつか出てくるだろうと思っていた中心となる曲がここで誕生したんですね。さっきも言いましたが、髭というバンドの異質さと共に須藤さん自身の特異さ、いびつさ、底知れなさを改めて面白く感じます。
いびつですよね。昔からそうなんですけど、僕は決してふざけているわけじゃなくて、いつもド真ん中を書いているんですよ。何を書いても、「須藤、やっぱりちゃんと斜めに書いてくるよね」と言われたりするけど、全然そのつもりはないんですよ。
――あははは!笑ってすみません。
いや、だいたいいつもそういうリアクションをされるんで慣れてます (笑)。なんかね、「須藤はメインストリームに対するアンチテーゼがあって、何か一家言あるんでしょ?」みたいなことを言われるけど、僕はメインストリームになりたいのよ(笑)。ふざけているんじゃなく僕が書いたらこうなっちゃうだけで、自分としては真面目にやってるよっていう。狙ってふざけているわけでもないし、いつでも自分のど真ん中を書いているし、「アップデートの嵐だよ!」だって「スライムクエスト」だってふざけようとは思ってない。でもこういうふうにしかできないんですよね(笑)。
――そういえば「スライムクエスト」の途中にある《~グミ噛みたいのによ》の一節を何度か「海が見たいのに」と聴き間違えて。
空耳ですか? グミ噛みたいのに……、海が見たいのに……、あぁ確かに似てる。「須藤さんがこんなこと歌うんだ!」ってなりました?(笑)。
――そうです。「まさか髭が《海が見たいのに》なんて歌う?」とギョッとして歌詞を見たら《グミ噛みたいのに》だった。……ということが3回ほどあって(笑)。改めてこの歌詞の世界観は髭でしかありえないなと思いました。
そう書けばよかったですね。でもね、《グミ》と歌いたかったんですよ、残念ながら(笑)。
髭 撮影=森好弘
――10周年記念の書籍『素敵な闇 髭10th Anniversary Book』を一緒に作らせてもらったのは5年前ですが、あの時期や『ねむらない』(2015年)の頃は凪いでいた時期でしょうか。メロウとかセンチメンタルとは言い切れませんが、このアルバムとはまた違った空気がありました。
まさに『ねむらない』の頃が凪いでいる時期だったんでしょうね。フィリポが抜けて、サポートの謙介(佐藤謙介)はいたけど実際髭にはドラムを叩く人がいなかった。でも、ふつふつと野心もあって、そういう時期があっての『すげーすげー』、『STRAWBERRY ANNIVERSARY』だから、流れはあるんだなと思いますね。今となってはバンドで15周年を迎えるってなかなかすごいことだと思っていて。20代の頃はバンドが10周年、15周年と聞くと「よくやるなぁ」と思ってたけど、今の気持ちとしては髭はそのレールに乗ったなと思う。この先18年目に解散するなんてことはないでしょ、と思うと20周年も見えてくるし30周年も見えてくるし、ここにきて『STRAWBERRY ANNIVERSARY』は自分たちの形が1つ出来たような気さえするというか。こんなにインプットがなくスピード感を持って作ってもこのアルバムになるんだから、音楽的に髭は全然安定しているなと思いましたね。これを軸にバンドがより太くなっていくのかなという気もしています。
――“安定=落ち着き”というより、いい感じに熟してきているのを感じます。
うん。メンバーとの向き合い方も分かってきて、その距離感もいいんですよね。前だったら常にもっともっとって感じで求め過ぎていた気がして、時にはお互いの首を絞め合う側面もあったけど、今はお互いのキャラクターに過不足なく、大事に思っているけど必要以上に求めない。元気でいて欲しいし(笑)。そういうことが自分たちの作る音楽にも影響を与えているのかなと思いますね。変なところで頼り過ぎない、いい距離感になってきたのかなって。
――さっき18年目で解散はないと言われましたが、解散する理由が見当たらないですね。
そうそうそう。
――だからこそ、メンバーが50歳ぐらいになった頃の髭ってどんな感じなんだろうと想像すると楽しいです。
50歳だと10年後、だから25周年ですね。バンドを続けていたら(笑)。先のことはわからないけど、そういう未来も見えてきましたよね。20代の頃は40代になっても髭をやっているなんて思わなかったし、バンドというものは一過性のもので、その瞬間瞬間のメンバー同士のスパークみたいな刹那的なものだと思ってた。でも40になってもまだ一緒に音楽を作れていて、こうなるともしや50になっても一緒にいるのかなという流れも見えてくるとバンドに対する向き合い方も変わってきますね。アルバムの1曲目に「Play Limbo」を持ってくるような気軽さというか、こういう肩の力の抜き方もあったのかというのも感じましたね。
――不惑の40歳を過ぎてみていかがですか?
不惑ね。20代の初め頃は何も決まってない挑戦する時だった気がするし、それで30代を迎えて髭というものが実っていった。今の気持ちとしては、いろんなチャンスを楽しんで面白いものを探しながら活動していきたい。そうすることでこの先の50代をまた有意義なものにしたいなと思いますね。
髭 撮影=森好弘
――いまだに、初めて「ボニー&クライド」(2007年)を聴いた時に感じたヒリヒリするようなシニカルさと、悪意にも近い毒気に気持ちがフッと救われたのを忘れません。音楽が聴く人に対してどんな場面でどういう効能を発揮するのかは本当に人それぞれで不思議で、『STRAWBERRY ANNIVERSARY』もライブを体験するとまた違って聴こえてくるのかなと想像します。
僕らとしても違ってくるでしょうね。もっと言えば9月にやったリリースパーティーは本当に意味があって、「この曲ではみんなここで温まれるんだ」とか、「ここは必要なかったのかな」とかすごくリアルに体感できたから、今回のツアーはあの夜をフィードバックしたものになりますね。自分達も15周年というものに対して気合が入っていたんだなと思う。今回のツアーは『STRAWBERRY ANNIVERSARY』を軸にしつつ、裏コンセプトとしてはベスト盤『STRAWBERRY TIMES(Berry Best of HiGE)』を下敷きに15年間のいつの時期の髭も楽しめるようなセットリストになっているので、是非、それを楽しみに来て欲しいですね。
取材・文=梶原有紀子 撮影=森好弘

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