hideが邦楽と洋楽との壁を超越して
世界進出を企図したzilchの
『3・2・1』
ソロとバンド、複数のバンドを両立
バンドを行ないながらのソロ活動、あるいはひとつのバンドをやりながら、また別のバンドで活動をすることは、今となってはことさら珍しいものではないが、以前はソロ活動にしても別のバンドをやるにしても、本隊のバンドが解散するか、解散しないまでもその活動が所謂煮詰まった状態から活路を見出すものとして行なわれることが通例であった。hideのソロ活動にしても、前メンバーのTAIJI(Ba)が脱退してX(現:X JAPAN)が一時活動休止していた1992年に計画されたものではないかと推測されるものの、初のソロシングル「EYES LOVE YOU」「50%&50%」を発表した1993年はHEATH(Ba)が加入してX JAPANに改名したあとであるし、X JAPANは同年11月にシングル「Tears」を発表し、年末には東京ドーム2デイズ公演を行なっている。ソロアルバム『HIDE YOUR FACE』のリリースは1994年2月であるから、本隊の活動とソロの活動とはほぼ並行していた。しかも、hideは新メンバー、HEATHの加入にかなり尽力したとも言われており、本隊をおざなりにしていた様子もない。
hide with Spread Beaver名義になった1998年はX JAPANが解散したあとだが、これはTOSHI(Vo)の脱退が発表されて自らが籍を置くバンドがなくなることを懸念して名義を換えたと言われており、解散発表の時点でソロツアーはすでに決まっていて、1997年のX JAPANはほとんど動いていなかったとはいえ、両バンドは同時進行であったとは言える。hide以前では、忌野清志郎がRCサクセションの他にHISやTHE TIMERSを行なっていたり(厳密に言えばTHE TIMERSに清志郎は参加していないが)、桑田佳祐がKUWATA BANDをやったりしているが、いずれも本隊が動けない時期での別動隊であり、それまで少なくともメジャーどころでバンドを掛け持ちするケースはほぼなかった(KUWATA BANDは原由子の産休でサザンオールスターズが活動休止中の限定バンドである)。
その審美眼で様々なバンドをスカウト
ソロ活動後の1996年には自らもレーベル、LEMONedを立ち上げるわけだが、そこではさらに彼の趣味性が爆発する。1994年に発売されたものの、1000枚しかプレスされず、挙句の果てには廃盤となっていたZEPPET STORE(以下ZEPPET)のアルバム『Swing、Slide、Sandpit』を聴き、とにかくhideはその音楽性に惚れ込んだという。どのくらい惚れ込んでいたかと言うと、当時とあるインタビューで「ZEPPETの良さが分からない人とは口を利きたくない」と言っていたほどである。LEMONedはそのZEPPETを世に出したい一心で作ったレーベルだったと言ってもいい。
ZEPPETの音はオルタナやシューゲイザー、UKギターロックに分けられるもので、これまた今となってはそれこそhide with Spread Beaverやzilchに通じることも分かるのだが、X JAPANのイメージが強かった当時はhideとZEPPETとの接点があるとは思えなかった。ZEPPETのメンバーもhideと顔を合わせるまでは、「X JAPANのことがよく分からなくて、関係のない雲の上のような存在だった」と述懐しているほどだ。セールス規模もビジュアル要素もまったく違うのだから無理もなかろう。
でも、hideにとってそんなことは関係なかった。hideは初めて会ったZEPPETのメンバーに「君らは世界を変えられる」「世の中に出なきゃおかしい」と熱く語りかけたという。ZEPPETはその後、LEMONedから2ndアルバム『716』をリリース。1996年にはメジャーデビューを果たし、1999年の発表した4thアルバム『CLUTCH』ではチャートベスト10入りを果たした。hideが所謂ビジュアル系やヘヴィメタルといったカテゴリーにとらわれることなく、自らその垣根を取り払い、それを見事に結実させた証しである。その他、CORNELIUSや少年ナイフのリミックスを行なったことからも、彼がノンジャンルの人だったことがよく分かる。また、2008年5月3日&4日、十周忌追悼ライヴ『hide memorial summit』では、エクスタシーレコード勢、所謂ビジュアル系のフォロワー以外に、RIZEやマキシマム ザ ホルモンが参加したことでも、hideの指向がいかにさまざまなアーティストに影響を与えていたのかも偲ばれるところだ。
海外ミュージシャンと組んだ新バンド
収録曲はキャッチーなものばかりではあるものの、所謂J-POP的な構成ではないと言おうか、A~B~サビ~C~サビといったような展開ではなく、BメロがなくてA~サビであったり、Bメロがあってもそれはブリッジ的だったりするものがほとんどである。X JAPANの「DRAIN」のカバーであるM6「WHAT'S UP MR.JONES?」や、セルフカバーであるM10「DOUBT」とM11「POSE」にはBメロがあるにはあるが、元曲からしてブリッジ的な役割だし、「ROCKET DIVE」や「ピンク スパイダー」などとは明らかに構成が異なる。しかしながら、展開の抑揚が薄い分(と言うほど、薄くはないが、J-POPに比べて…ということでご理解願いたい)、それを補って余りある印象的なギターリフであったり、厚めのデジタルサウンドであったりが楽曲を彩ることで、全体のポップさを損ねていない。アルバム『3.2.1』から垣間見れるzilchの特徴はまずそこだろう。この辺からはzilchにおいては hideがことさらに邦楽を意識していなかったことも分かる。
世界的潮流に独自のエッセンスを加味
確かにアルバム『3.2.1』はオルタナ、ラウド、インダストリアルに分類される音ではあるが、ちょい足し…ではないが、hide独自の味付けが感じられるのだ。例えば、M2「INSIDE THE PERVERT MOUND」のデジタル音は若干ニューロマなエキスが匂うし、M3「SOLD SOME ATTITUDE」での女性コーラスはソウルミュージック的で、しかもThe Rolling Stones的なトラディショナル感というかR&Rマナーに忠実な気がする。M4「SPACE MONKEY PUNKS FROM JAPAN」はデジタルパンクといった印象だが、メンバーにRay McVeighがいることが関係したのか分からないが、歌い方がいかにも初期パンク。Johnny Rotten的だ。M5「SWAMPSNAKE」は歌メロとコーラスに70年代ロックの手触りがある。どこが何と似ているという感じではないが、やはりDavid Bowieっぽい。hide自身の身体に染みついたさまざまなロックの基本項目を「俺ならこうするね」とばかりに当時の標準のロックに注入したような恰好だったのではなかろうか。
言語を超えたコミュニケーション
歌詞に出てくるのは《Ichi ni san ju... all the way from harajuku,/I'm a Space-Age Playboy》(M4「SPACE MONKEY PUNKS FROM JAPAN」)や《so long, so long... sayonara.》(M7「HEY MAN SO LONG」)くらいだが、SE的な台詞で日本語は派手に使われている。M1「ELECTRIC CUCUMBER」の《日本の神奈川県横須賀市からいらっしゃいました松本秀人さんです。はりきってどうぞ!》は洒落っ気であり、同時に世界進出に対する矜持と高揚感であったと想像することができるが、興味深いのはM4「SPACE MONKEY PUNKS FROM JAPAN」のアウトロである。ラジオエフェクトがかかったブルージーなギターをバックにした英語の語りに続いて、《足上げたら痺れるなんて何考えてんだか全然分かんないよ。なんでいつもそういうこと言うの?》と謎の台詞が入り、そのあとでその台詞を理解したかのようにまた英語が続いていく。《足上げたら~》は語感やリズムでそう言ってるで、前後の英語を含めておそらく大して意味はないのだろうが、それでも英語と日本語とでの会話しているというところが需要だと思う。
映画『STARWARS』シリーズで、ハン・ソロとチューバッカとが、あるいはルーク・スカイウォーカーやC-3POとR2-D2とが、通訳を介さずにそれぞれの言葉で話す様子に近いものではなかろうか。言語を超えたコミュニケーション。大袈裟に言うのならばきっとそういうことだろう。英語だろうが日本語だろうが関係ない。まさしくそれを体現していたと思われる。
hideの精神を受け継ぐ者たち
結果的に邦楽と洋楽との壁は壊せなかったと言えるのかもしれない。しかし、hideがやったこと、企図したであろうことは、のちのアーティストたちによって実現されている。バンドとソロ、あるいは複数バンドの掛け持ちは、代表的なところ言えば、the HIATUSの細美武士(Vo&Gu)がMONOEYESを結成し、ELLEGARDEの再始動したことがそうだろうし、そのELLEGARDEの高橋宏貴(Dr)がthe pillowsの山中さわお(Vo&Gu)とGLAYのJIROとでやっているTHE PREDATORSもそうだろう。ストレイテナーの各メンバーも本隊以外にいろいろと活動している。
また、ジャンル的なもの超越は、直系の後輩と言っていいLUNA SEAが引き継いでいるように思える。今年6月に開催した『LUNATIC FEST. 2018』がまさにそれで、LOUDNESS、BRAHMAN、GLIM SPANKY、back number、大黒摩季ら、世代もジャンルも異なる出演者を集結させた行為は、20数年前のhideの考えに近いものであったのではなかろうか。そして、zilchが成し遂げようとした邦楽と洋楽の垣根は、BABYMETAL、Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅ、ONE OK ROCK、coldrain、MIYAVIらの活躍によってすでに取り払われていると言っていいし、何よりもX JAPANの世界進出、北米で人気を獲得していることはhideの思いを具現化したものであろう。どれもhideの意思が直接関係したわけではなかろうが、彼がやったことが有形無形に影響を与えたことは間違いない。hideのスピリッツは現代に受け継がれている。
TEXT:帆苅智之
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