不朽の名作『マイ・フェア・レディ』
に挑む神田沙也加 「日本の“レディ
”を提示したい」と意気込みを語る

1956年に米国・ニューヨークのブロードウェイで初演を飾って以降、普及の名作として世界中で愛されている舞台『マイ・フェア・レディ』。レックス・ハリスン、ジュリー・アンドリュースが主演し、トニー賞ミュージカル部門で最優秀作品賞など6部門を受賞。1964年には、オードリー・ヘプバーンを主演に映画化され、こちらも大ヒットを記録した。1963年日本初演のイライザ役には当時のトップ女優・江利チエミが抜擢され、以降も錚々たる名女優たちが同作を彩った。そんな伝統あるイライザ役を今回演じることになったのが、神田沙也加だ。『屋根の上のヴァイオリン弾き』『1789』など大作への出演が続き、2017年『キューティ・ブロンド』では、ヒロインの明るい内面をパワフルかつ丁寧に演じきって高く評価され菊田一夫演劇賞を受賞。舞台女優として現在もっとも成長著しい彼女が、イライザをどのように演じるのか。『マイ・フェア・レディ』にかける意気込みを、大阪での取材会で語ってくれた。
『マイ・フェア・レディ』は、ロンドンの下町の花売り娘・イライザが、言語学者・ヒギンズ教授のレッスンによって美しい貴婦人へと変貌を遂げていく物語。当初は言葉遣いもままならないイライザの成長過程が見どころであり、そのステップアップを瑞々しく体現できる、ポテンシャルの高い女優をこの役は要してきた。日本では、前述の江利チエミをはじめ、雪村いづみ、栗原小巻などがイライザに扮しきてきたが、その中でも神田の心に残っているのが、1990年から2010年まで同役を演じ続けた大地真央だという。
神田沙也加
「敬愛する真央さんのイライザは、私にとって格別でした。今回のお話をいただいたのが、『キューティ・ブロンド』に取り組んでいる時期だったので、稽古の帰り道に真央さんにご連絡をしたら、一緒に泣いて喜んでくださって。「沙也加が思うイライザを演じてほしい。でも、もし何か疑問があれば、私に何でも聞いてね」と言っていただけました」
イライザというキャラクターがいつの時代でも支持されてきたのは、ポジティブさナイーヴさの両面に、親近感を抱かせる点だ。決してファンタジックなヒロインではない。神田も、イライザについてこのように分析する。
「上昇志向はマグマのようにあるけど、そういうものを持ちながらも何か足りないなと考え、後ろ向きに過ごしている。楽しくは暮らしているし、男勝りなところがあるけど、しかし自分のコンプレックスやウィークポイントを突かれたとき、(気持ちが)爆発してしまう。感情が何層にもなっている女性だと思います」
そんなイライザに様々な経験を与えていくのが、ヒギンズ教授。彼は、自分がレッスンすることよって、「イライザが一人前のレディになれるかどうか」を友人と賭けをする。そんなこととはつゆ知らず、淑女としての手ほどきを受ける中で、イライザはヒギンズ教授に心が傾いていく。
「ヒギンズ教授との関係性は確かに特殊です。ただ私も、10年前に観たときと今とでは捉え方が違っています。恋愛に寄りすぎるわけでもなく、特に後半は淑女になったイライザがヒギンズに教えるものが出てくることに気づきます。(ヒギンズの方が上手のように思われるが)パワーバランス的には実は早い段階からイーブンになっていくんです」
下町から社交界へステージをあげていくヒロインのシンデレラストーリー。それだけに、女性としての変化を、どのように芝居として見せていくのか。そこがかなり気になるところ。
「ビジュアル面では、素敵なドレスが衣装として用意されていて、「これで淑女を演じてください」と設定もされています。しかし、その状態に照準を合わせるのではなく、まずは下町のおてんば娘であり、上昇志向を秘めていて、決して良い環境とは言えないところで生きるイライザ像を徹底的に作り込みたい。その状態で生きているからこそ、一つ一つの教育に対しての驚きがある。それをビビッドに表現する方が、レディになったときの姿が映えるのではないでしょうか。だから、下町時代に重点を置いていきたいですね」
神田沙也加
神田は、2001年のデビュー以降、映画、音楽など数々のフィールドで活動をし、2004年に舞台へたどりついた。以降、一つずつ階段をあがって、歳を重ねるごとに役者として力を認められるようになってきた彼女だけに、イライザの成長と自分を重ねる部分もあったのではないだろうか。
「長い間、「女優をずっとやっていきたい」という気持ちの中で活動をしてきました。そんな中、『キューティ・ブロンド』が特に大切なきっかけを与えてくれました。主演を務め、賞もいただき、そこで「ここまでは、よく出来ました」というハンコをようやくもらえた気がしたんです。そういう部分では、あの経験が本当に大きかったです」
そんな思い入れの深い「キューティ・ブロンド」を経て、今回の「マイ・フェア・レディ」ではさらなる進歩を印象付けたいところ。初演から60年以上も語り継がれている名作とあって、プレッシャーも当然あるだろうが、それ以上に神田は、「今作もずっと語り継がれるような作品にしたい」と力強く語る。
「この2018年版『マイ・フェア・レディ』を観て、もしかしたらかつての私のように「ミュージカルのステージに立ってみたい、この役をやってみたい」という女の子が出てくるかもしれない。私はこの作品で、そういう責任を請け負いたいです。毎回の公演で、誇りを持って日本の『マイ・フェア・レディ』を提示したい。これから稽古も始まりますが、自分を何度も奮い立たせてやっていきます」
神田沙也加
取材・文・撮影=田辺ユウキ

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