「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
実はスゴい存在の
AKB48のヒットを探る

最も長くチャートインしている
「ヘビーローテーション」が総合4位

総合ランキングのほうに戻ると、4位は2010年の「ヘビーローテーション」。ちなみに、CDランキングTOP200内は123週の登場で、彼女たちで最も長くチャートインしているのだが、まだ大ブレイク前でCDは累計88万枚、それゆえCDセールスでは33番手となっている(しかも、この頃は5~6種類のシングルが当たり前の近年とは異なり、AタイプとBタイプのCDしかなかった)。

しかし、ダウンロードではミリオンヒットの2位、カラオケも2017年現在で3位という安定した人気から総合でも4位に。CDのロングヒットには全員がキュートあるいはセクシーな下着姿で登場するミュージックビデオの存在も大きいだろうが、それ以上に映像のない楽曲自体が支持されているのだ。本作は、2010年の総選挙1位の大島優子がセンターとなり、サビ頭での「I want you! I need you! I love you!」という元気な歌詞とそれに合わせたロックテイストの楽曲と振り付けも大きな話題となった。

総合6位はカップリング曲の
「365日の紙飛行機」

総合6位の「365日の紙飛行機」も是非とも言及すべきだろう。本作は2015年のシングル「唇にBe My Baby」のカップリング扱いのため、ここではCDのポイント自体が対象外となっているが、ダウンロードが2015年以降の彼女たちの楽曲で突出した50万件以上、カラオケはダントツの1位となっている。ちなみに、CDセールスも累計109万枚ながらTOP200に72週ランクインと「恋チュン」の75週に迫るロングヒットとなったのは、間違いなく「365日の紙飛行機」効果だろう。

本作はNHK朝の連続テレビ小説『あさが来た』の主題歌に起用され、70年代フォークを彷彿させるアコースティックな演奏で、毎朝聴いても耳によく馴染む爽やかな曲調。なおかつ、歌唱力に定評のあるNMB48所属の山本彩をセンターとし、TVでも生歌唱パートを大幅に増やすことで、口パクに厳しい一般リスナーにも大きく浸透。「唇に~」にて卒業した高橋みなみから総監督を引き継いだ横山由依によると、店頭で本作を探しているおじいちゃんに出会ったとのこと(しかし、自分達のシングルだと教えてあげたのに「AKBが歌えるとは思えない」と拒絶されたらしい…)。本作の配信とカラオケの支持はまだまだ伸びており、シングルのカップリング曲としても、日本屈指のヒット曲と言えるだろう。

総合TOP10中7作が
前田敦子のセンター楽曲

そして、総合7位には2006年のメジャーデビュー作「会いたかった」がランクイン。CDセールスはわずか5.5万枚と今の彼女たちからすると信じられないくらい低いものの、ダウンロードではCDの10倍以上となる75万件以上で7位、カラオケも10年以上前の楽曲ながら5位と、楽曲自体がしっかり浸透していることが分かる。

それにしても総合TOP10中、2位、3位、5位、7位から10位と7作も前田敦子がセンターだった曲が並ぶ。勿論、AKB48の顔として長い間、彼女を全面的に押し出した結果かもしれないが、2012年の彼女の卒業後、「恋チュン」や「365日~」以外に総合的なヒットが出ていないのは、この絶対的なエースの育成が進んでいないことも影響していないだろうか。前田自身もセンター担当の当初は不安げな表情が目立ったが、09年のシリアスな曲調にキレのあるダンスを目指した「RIVER」あたりで突然スイッチが入ったように、シャープな表情を見せるようになり、初のオリコン1位、その後、セールスも急上昇してきた。

CDセールスが突出する中での
公式ライバルの台頭

最近はAKB48ではCDセールスが突出する代わりに、公式ライバルの乃木坂46や欅坂46の方で、CDや配信でのロングヒットが続いている。つまり、AKB48の場合は当たり前のようにCDが売れる(そりゃあ、AKB48本体以外の48グループのファンも握手目当てで、AKBのCDを購入しているのだから)中で、必ずしも楽曲そのものの人気ではないという人気の空洞化が起こっているようだ。そんな今だからこそ、AKB48からもハングリーな精神を前面に出した次世代のエースが必要なのかもしれない。

そう考えると、今後、敢えて握手券を少なめにするなどで、“32作連続ミリオンヒット”、“8年連続年間CDセールス1位”といったCDセールス記録からいったん解き放たれることも有効な気がする。そして、そこから這い上がろうとした時、彼女たちの本当の復活が起こるのではないだろうか。

プロフィール
臼井 孝(うすい・たかし)
1968年京都府出身。地元大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析やau MUSIC Storeでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。Twitterは @t2umusic、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ、ビルボード、各番組で紹介された独自ランキングなどなど、様々なヒット情報を分析してお伝えしています。気軽にフォローしてください♪

OKMusic編集部

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