「臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20」
国民的アーティスト、
宇多田ヒカルのヒットを探る

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、第5回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。

全世代が新曲を期待している
数少ないアーティスト

ここ数年、各リスナーが好んで聴く音楽の範囲がますます限られたものになっている気がする。若年層は若年層だけで、高年層は高年層だけで好きな音楽を楽しみ、さらにSNSを活用することにより、アイドル、アニメ、K-POP、ビジュアル系など特定のジャンルのみを深く楽しむ傾向も強くなっているようだ。もちろん、どんな形であれアーティストや音楽を応援するのはとても素晴らしいことで、それはさまざまな文化の発展にも繋がることだろう。しかし、誰もが知る“ヒット曲”が生まれるかどうか、というのはまた別の問題だ。

その中で、宇多田ヒカルは、全世代が今でも新曲を期待している数少ないアーティストの一人ではないだろうか。彼女の音楽性については何冊もの評論本にされるほど興味深く、短いコラムでは語り切れないだろうから、ここではざっくりとヒット曲の変遷を中心に見ていきたい。

ノンタイアップの無名な新人ながら
デビューシングルが約4万枚をセールス

宇多田ヒカルは1983年アメリカに生まれ、1998年12月9日に両A面シングル「Automatic/time will tell」でデビューを果たす。母は1969年~1970年に一世を風靡した歌手の藤圭子(2013年に他界)。一部のメディアからは宇多田のヒット要因として“親の七光り”と評されることはあるが、そもそも芸能界の第一線から遠ざかっていた藤圭子の影響力は当時強いものではなかった。

それよりもむしろ、業界関係者向けに行われたレコード会社(当時:東芝EMI)によるコンベンションの影響が大きいだろう。それは、1998年の秋に初めて行なわれ、まだデビュー前だった宇多田ヒカルの存在感に、多くの音楽系メディア(ラジオ局や衛星波チャンネル、音楽雑誌の出版社など)やCDショップなどがいち早く目をつけ、大々的に展開していった(同コンベンション後、椎名林檎の店頭や各メディアの扱いが格段に上がったことも、彼女の翌年の大ブレイクにつながっているだろう)。

それゆえ、タレント活動などでコアファンをつけていない新人だったにもかかわらず、初登場週でCDは12cm CDが12位、8cm CDが20位、合算し4位相当となる約4.1万枚を売り上げた。ノンタイアップでありながら、まるで当時大ヒットが確約されていたドラマ主題歌や清涼飲料水のCM曲のようなチャートアクションとなった(それゆえ、彼女にならって、デビュー前からラジオのレギュラーDJを始めたり、大量のFM局や衛星波チャンネルでパワープレイを獲得したりするアーティストが急増した)。

J-POPファンや煩型の洋楽ファン
さらには年配層をも巻き込んでいく

当初は、MISIAのデビューをきっかけに1998年前半に新たなヒットの潮流となった女性R&Bの流れがあったこともヒットを後押ししたが、そのR&B路線の作品とは一線を画する日本語および英語のボキャブラリー(そもそも“Automatic”という単語は当時、クルマ用語というイメージだった(笑))や、それでいて全体のストーリーを感じさせる歌詞、さらに当時15歳とは思えない大人の憂いを帯びた切ない歌声などもあり、J-POPファンのみならず煩型の洋楽ファン、さらには若者の流行を冷めた目で見ていた年配層まで徐々に巻き込んでいったことで、翌年春の1stアルバム『First Love』の日本新記録となる750万枚超の大ヒットにつながっていたのだろう。

その後も2004年まではCDシングル、またはアルバムが常に年間TOP10に入るほどの高セールスをキープ。2004年に全米デビューを果たし、その一方で日本での作品はより内省的なものが目立つようになり、2006年頃にはCDセールスはやや落ち着いてきていた。

しかし、2007年のシングル「Flavor Of Life」でCDセールスが50万枚を突破、さらに2000年代半ばより活発になってきた音楽配信でも、着うた+着うたフルなどの総計700万ダウンロードという当時の日本記録を打ち立てて、新たに音楽配信世代にもファンを広げた。

2010年にアーティスト活動を休止するが
2016年には音楽活動を再開

その後、2010年にアーティスト活動を休止し“人間活動”に入ることを宣言し、その間はDVDシングルの発売やラジオのレギュラーDJを担当するも表立った活動はなく、その一方で、イタリア人男性との結婚、さらに出産という人生の大きな転換点を迎えた。

その中で、2016年に音楽活動を再開。8年ぶりのオリジナルとなるアルバム『Fantome』はCD出荷+ダウンロードにてミリオンセラーとなり、その存在感をさらに知らしめることとなる。

2017年には20年近く所属していたレコード会社、ユニバーサルミュージック(デビュー当時は東芝EMI)からソニー・ミュージックに移籍し、「大空で抱きしめて」「Forevermore」「あなた」と立て続けに3作もの配信シングルを発表。中でも温かなバラードの「あなた」は発売2か月足らずで25万ダウンロードを超えるヒットとなっている。

いくつかの試練を乗り越えつつも、20年間ヒットを出し続けている宇多田ヒカルの総合的なヒットは何になるだろうか。

OKMusic編集部

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