ザ50回転ズ 人間だからこそ弾き出せ
るロックンロールが詰め込まれたアル
バムについて語る

ザ50回転ズの9年ぶりとなるフルアルバム、その名もズバリ「ザ50回転ズ」はまるで記憶をたどる物語のようだ。自分たちの運命を変えたロックンロールとの衝撃的な出合いを綴る「Vinyl Change The World」にはじまり、男女が故郷の古い歌を口ずさむ「マチルダと旅を」まで、全12曲。時には思春期の少年時代のように、時には等身大で、しゃがみこんだり、背伸びをしたり、いろんな目線で自分たち、もしくは他者の過去を引き出して、見果てぬ未来へと繋げている。サウンドの基軸となるのはもちろん、3人がこよなく愛している創成期から現代にわたるまでのロックンロールだ。誰もが一度は耳にしたことがあるようなクラシカルなコード進行を存分にまじえた楽曲展開は、ザ50回転ズにとっておなじみのもの。だけど彼らが鳴らすと、温かみがまた違う。それはやはり先人が築き上げた音楽をリスペクトし、大切になぞっているからこそ(もはや今言うまでもないことだが)。

昔からずっとずっと生き続けているロックンロールミュージックは、この3人がちゃんと引き継いでいる。それを魅力的にアップデートできるかぎり、過去を振り返ったり、引きずったりすることは決して悪いことではない。ノスタルジーに浸る快感と、新しい発見を掘り起こす楽しみを与える4thアルバムについて話を訊いた。​
──4作目のフルアルバムとなりましたが、今作はかつてのように「一発録り」で制作していったんですよね。
ダニー:そうですね。変わっていないながらも、これまで以上に自分たちなりの(制作の)方法論を築くことができて、曲作りの円熟期を迎えている印象があります。
ボギー:1stと同じような録り方だったので、あの頃に帰結しましたね。「一発でよく録れますね」と言われるのですが、自分たちにとってはこれが一番やりやすいんです。
ドリー:ライブを中心に今までやって来たので、それに近い録音方法が一発録りなんですよね。だから、必然的にこうなった。そんな中で、今回はもっともすごいものができたと思います。
ダニー:今は多くのミュージシャンが、メトロノームのリズムを聴きながら録音するクリックというやり方をやっているけど、僕らは今回、ヘッドホンすらしていなくて。自分たちの感覚を頼りに、「ワン、ツー、スリー」でジャーンと音を出して、途中でミスったらやり直しをする。
──わっ! 今どき、その方法なんですか!? と言っちゃうと失礼なんですけど(笑)。それでも、その録音は驚きですよ。
ボギー:それが染み付いているんですよね。何より、いい感じの緊張感が走る。クリックを聴きながら録ったこともあるんですけど、何だか嫌な緊張感があったんです。
ダニー:うん、それはあるよな。クリックの緊張感って、ロックバンドが感じなくていい緊張感やねん。演奏と演奏の間にある緊張感じゃなくて、メトロノームと演奏の間に緊張が走る。妙に、(クリックに)合わせなあかん緊張感。演奏というより、デスクワークに近いかも。
ザ50回転ズ 撮影=日吉“JP”純平
●今のように整頓された音楽の作り方を、僕らも試みたことはある。でも、コンピュータを使えば使うほど、自分たちの持ち味が薄れていく気がして。
──ただ、昔の音楽とか聴いていると演奏をミスってるものって少なくなかったですよね。
ダニー:僕らが好きな1950年から1970年代くらいの音源って結構ミスってますよね。ベースだけ違うコードを弾いていたり。「これでOKテイクなん?」という。そういうヨレ感も、そのミュージシャン特有のフックやったりする。今のように整頓された音楽の作り方を、僕らも試みたことはある。でも、コンピュータを使えば使うほど、自分たちの持ち味が薄れていく気がして。「自分たちじゃなくても良いんじゃないか……」と疑問を持ったんです。50回転ズとして音を出す必要がない。あと、音を出した時に自分たちの予想を超えてこない。
──確かに、コンピュータで制作する音楽が大半の中、今作は人間だからこそ弾き出せるロックンロールでした。
ダニー:目指すところがそこなんです。あと、コンピュータを使って綺麗な音源を作ったとき、「僕ら、こんなにうまくない」って感じたんですよ。近年の音楽は、うまくいったところを継ぎはぎして作っていきますよね。僕らも、同じようにそれをやってみたんです。で、「こんなにミスなく、弾けるわけがない」って違和感を持ちました。「ドラムがヨレたからこの5小節だけ録り直そう」となると、ベース、ギターも直すことになって、そうするとカドがとれて、球体の様に丸くなる。完成度は一見高く見えるけど、僕らのロックンロールとしては核心から遠ざかっていく。
──アルバム制作時にヴィンテージ機材を使ったそうですけど、その辺りも関連性はありますか。
ドリー:それもあるかもしれません。スタジオとの相性をちゃんと感じることができたし、この機材はここで鳴るべきだと思った。普段、僕らはライブでヴィンテージ機材を使っていないですし、憧れやこだわりもあまりないですけど、あのスタジオでの(音の)鳴り方が一番合っている機材だったんです。
ザ50回転ズ 撮影=日吉“JP”純平
──収録されている12曲についても、どれも「人間性」がありました。共通して言えることとして、すべての曲に何らかの人生観が織り交ぜられているんですよね。
ダニー:そうそう、物語性があるんです。今回は特に、歌詞を伝えることを意識した作品。どれもちゃんとテーマを設けています。
──自分にとっての憧れは何なのか。どういう結末を迎えるか。自分の住んでいる町について。老人の生き方など。どの曲にも何かしら、誰かの人生観が投影されている。1曲目「Vinyl Change The World」は3人がロックンロールに影響を受けたことを歌っていますよね。
ダニー:ロックンロールが世界を変えると言ったって、現在議題になっているような核兵器を、音楽でどうにかできるわけでもない。ただ、自分の中にある「この世界はつまらない、くだらない」という考え方は、何かのきっかけで変えることができるはず。僕らはロックンロールを聴いて、ある日、自分たちの世界ががらっと変わったから。
──今って、「世界をロックで変えてやる」と真顔で言いづらかったりする雰囲気ですよね。
ダニー:かつてのように「We Are The World」なんて今は言えないかもしれない。それでも僕らは、ロックンロールによって変えられた当事者。変わらない人は変わらないけど、俺たちは、そういうパワーがロックンロールにはあると信じています。
ボギー:だから、大人になってもこんなに髪を伸ばしているんだよね(笑)。
ドリー:中学生だって、高校生だって、酸いも甘いも経験した大人になっても、ふとした瞬間に聴いた音楽によって、ガラッと変わることはあるはず。僕らはまさにそうだったから。
──そう言いながらも、「チンピラ街道」なんて曲があるのが面白いんですよ! 「レコードが売れない」「ロックとは夢の夢だよ」とか。「Vinyl Change The World」とは対岸にあるような。
ダニー:そうそうそう! 50回転ズらしいおふざけ感も大事にしました。12曲全部が「お前、マジやんけ……」みたいな曲が並ぶと、重量感がすごいですし。
──バンドはチンピラみたいなものですか。
ダニー:今まではそういう風に思っていなかったんです。でも僕らって、ツアーがない日は大体、家にいますよね。で、平日に買ったレコードや機材が届くんです。そんなとき、宅配の方が「いつも家におるな、このおっさん。何してるんやろ?」って顔で見てくるんですよ。マンションの清掃のオバちゃんにも、「兄ちゃんいっつも何してんの」と尋ねられたりして。ああ、俺らってチンピラみたいなもんなんかなって、身に染みて感じたことがあって。
ボギー:しかもおかっぱだから、余計に気味悪がられるよね。
ザ50回転ズ 撮影=日吉“JP”純平
──でも、人はそういう経験もしながら歳を取っていくんですよね。これは「クレイジージジイ」という曲にも繋がってくるものがあって。この曲に出てくるジイさんって経済的には完全に成功者ですよね。
ダニー:タワーに住んでいる某大統領をモチーフにしている曲でもあります。
──何でも手に入る、金さえあれば……と。感情すらも金で手に入ると言う考え方。我々の世代観的にはまったく縁遠いお話。いかにも上の世代というか。税金対策で映画制作とかに投資している人も結構いますしね。
ダニー:ハハハ(笑)。単なるハードロックとして聴いてくれてもいいし、そういう風な捉え方をしてもらえると本当に嬉しいです。
──でもこのジイさん、歌詞を読む限り絶対にもの作りには向いていませんよね。不自由さであったり、何かに飢えていたりするからこそ、できるものの方が多い気がするので。
ダニー:何かを作る、自己表現する、自己投影する。それってよほど何か思うところがないとできない。お金を増やすことを優先的に考えている人には、なかなか思考がそちらに向かない気がします。ほんまに満足する環境にいたら、音楽はやらなくていいかもしれない。
ボギー:もちろん人それぞれだけど、でも俺もそう思うね。決して何かが足りていないわけではないけど。でも、今ふと思い浮かんだのが、アルバムの曲を録音させてもらったスタジオの、THE NEATBEATSのPANさんなんですけど、機材をたくさん買っているんですよ。古い機材とか。でも、満足している気配が全然ないんですよ。どんどん(機材が)増えていて。純粋に音楽の機材が好きなのもあるし、でもきっと音楽にまだまだ飢えているんでしょうね。
ドリー:俺たちがロックンロールを聴きはじめた頃なんて、漠然と苛立っていたし、毎日満足していない感じが、今思うとすごくあった。それを変えてくれたのがロックンロール。今でも曲を作ったりする上で重要な要素は、結局はそういう部分かもしれない。
ザ50回転ズ 撮影=日吉“JP”純平
──このアルバムのおもしろさって、そういった糸口からいくらでも話題を膨らませ、着地させられる部分。不満があるから、「デヴィッド・ボウイをきどって」のように憧れを作って上を目指していったり。「星になったふたり」であれば、もの作りをする中でのハッピーエンドってどこにあるんだろうとか。答えの選択肢が多い。「星になったふたり」に関しては、幸せな結末のあり方について考えました。歌詞にもありますけど、多くの人がハッピーエンドだと思えることでも、人によってはそう見えなかったりする。
ダニー:「銀河鉄道の夜」(宮沢賢治)など様々な児童小説の結末にインスパイアされた曲なんです。その人にとっての答えが、他人にはどう見えるか分からない。それでも、自分たちなりの答えを選ぶふたりの物語なんです。
──本当に良い歌詞。それは12曲全部に言えるけど。それにしても、次の作品は当然今回を超えなきゃいけないでしょうし。自分たちで高いハードルを作っちゃいましたね!
ダニー:僕たちは自主レーベルでやっていますし、自分たちのやりたいことを、何ら遠慮することなくやっていきたいです。
ボギー:「やりたいことを、やりたいときに、すぐやっていく」これがテーマ。
ドリー:そうしないと、フレッシュじゃなくなる。どんなに良い曲を作っても、時間をかければかけるほど、自分たちが今やりたいこととズレてきちゃう。
ダニー:単純に、曲作って、録音をせずに置いたままにしておくと鮮度が落ちていく。僕らのテンションが、曲に対して高い時に録っておくと、演奏も良い。妙に練られていないから。何度も(演奏を)やっていくとうまくなっていくし、曲が整然としちゃう。そうするとおもしろくない。慣れてないからこそ、あふれる緊張感がその曲をおもしろくする。だからこそ、次は9年も空くことなく、すぐに(曲を)パッケージしたい。
ドリー:演奏も、自分たちの耳もまだ慣れてないのがいいんだよな。
ダニー: 50回転ズのやるべきことは、真ん中からちょっと離れた、おもしろロックンロールフレーバー。あくまで俺たちのロックンロールをやっていきたい。
ザ50回転ズ 撮影=日吉“JP”純平
取材・文=田辺ユウキ 撮影=日吉“JP”純平
リリース情報

ザ50回転ズ『ザ50回転ズ』
MGB-0007 ¥2,800(+tax)
01. Vinyl Change The World
02. ハンバーガーヒル
03. 星になったふたり
04. 新世界ブルース
05. クレイジージジイ
06. ちんぴら街道
07. ホテルカスバ
08. デヴィッド・ボウイをきどって
09. 11時55分
10. 純情学園一年生
11. あの日の空から
12. マチルダと旅を

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