米津真浩&小瀧俊治の快活に響く連弾
4手の競演 『サンデー・ブランチ・
クラシック』ライブレポート

“サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.12.3ライブレポート
日曜の午後を渋谷のカフェで、クラシックを聴きながら過ごすひと時を。
12月3日のサンデー・ブランチ・クラシックは2人のピアニスト、米津真浩と小瀧俊治による1台4手の連弾だ。今回2度目の共演となる2人は、息の合った連弾のナンバーやそれぞれのソロも交えつつ、それぞれのピアニストとしての幅を披露。まるでキラキラの宝物が詰まったおもちゃ箱を覗いたような、楽しい30分であった。
オープニングは「カルメン・ファンタジー」
登場した米津&小瀧は1台のピアノに並んで腰かけ、一呼吸。
低音のトレモロが響き、始まった曲は「カルメン・ファンタジー」だ。ビゼーのオペラ『カルメン』の有名なフレーズをちりばめて編曲されたもので、オーケストラや吹奏楽をはじめ、様々な楽器のアレンジで演奏されている。今回は森亮平の編曲による連弾バージョン。
曲は「ハバネラ」や「闘牛士の行進」など、どこかで聴いたことがあるフレーズが次々と現れる。どことなくスイング感のあるジャジーなムード実にゴキゲンなテイストを醸し、客席も一気に引き込まれる。
まずは1曲弾き終えて、それぞれが「趣味はラーメンの食べ歩きで、1日2食食べたら1年で17キロ太りました」(米津)、「動物が好きです。犬とか猫のとかの画像を見て癒されています」(小瀧)と自己紹介。およそ“ピアニスト”というキリっとしたイメージとはちょっと違う、フレンドリーな雰囲気に客席も和む。
2人のソロと情景たっぷりのスリリングなメドレー
2曲目は小瀧のソロでドビュッシーの「月の光」。しっとりとしたなかにリリカルな響きが感じられる。
小瀧俊治
3曲目は再び連弾で、「クシコスポスト」と「熊蜂の飛行」のメドレーだ。「クシコスポスト」は運動会などでお馴染みの曲。連弾らしいパワフルな入り方で、この瞬間また会場の体温が1度くらい上がる。徒競走や二人三脚など、聴く人によってさまざまな思い出が浮かんできそうな運動会のあと、立て続けに今度は熊蜂が飛びはじめる。その息をつかせぬ曲と曲の繋ぎが実に面白く鮮やかだ。
「熊蜂の飛行」はピアノやヴァイオリンなど、様々な楽器で弾かれる超絶技巧の曲だが、これが連弾となると音色に一層厚みが出て、蜂の群れも数を増しているのかのようだ。郵便馬車が蜂の群れに突っ込んだようなスリリングさも感じさせ、聴いていて実に楽しい。
ドキドキするようなメドレーの後は、米津のソロでプレトニョフ編曲によるバレエ曲『くるみ割り人形』より「パ・ド・ドゥ」が。熊蜂が飛び回った会場が一転、夢の世界に変わる。
米津真浩
パフォーマンスとしても楽しい、連弾の魅力
5曲目に入る前に12月2日に誕生日を迎えたばかりの小瀧に、米津から「本日の主役」のタスキが贈呈される。会場からは拍手が沸き起こった。
そして5曲目はローゼンプラット作曲「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」だ。「モスクワの夜」やロシア民謡「カリンカ」など耳馴染のあるフレーズがちりばめられたアップテンポな曲であるうえ、演奏中に低音側の奏者がもう一人の奏者に覆いかぶさるように高音・低音を演奏、そして最後は2人の奏者の位置が入れ替わる。初めて観ると「えっ?」と思うようなパフォーマンスも楽しめる、実に盛り上がる、ピアノ連弾ならではの曲だ。
鳴りやまない拍手の中でのアンコールはローゼンプラット作曲「不思議の国のアリス」。「猫踏んじゃった」やショパンの「華麗なる大円舞曲」など、どこかで聴いたことのある曲が次から次へと顔をのぞかせる、パロディ要素がいっぱいの愉快な曲だ。最後にこれを持ってくるセンスがいい。弾くこと、聴くことなど、会場にあらゆる楽しさが満ち溢れたひと時だった。
終演後の様子
連弾ならではの曲と、ソロならではの曲をチョイス
終演後、米津・小瀧両氏に話を聞いた。
――楽しい演奏をありがとうございます。2回目となる今回は、どのようなテーマ、コンセプトで曲を選ばれたのでしょう。
米津:ちょっとずつ新しい曲をお披露目したいなと。また選曲は普通ではない、なかなか聞く機会のない曲をやりたいとい思いました。アンコールはもともと2台のピアノで演奏する曲を無理やり連弾にするという荒業をやりました。
――荒業というと?
米津:元が2台のピアノ用の曲なので、1台にするとどうしても音が重なったり手がぶつかったりというところがあるんです。それをなんとか上手く振り分けられるようにしました。
インタビュー中のおふたり
――なるほど、1台で連弾する場合、そういう工夫も必要なんですね。それぞれのソロの曲はどのように選ばれたのですか?
小瀧:「月の光」は場の雰囲気。連弾の曲とのバランスを考え、全く違う世界観の曲を選びました。
米津:バレエ曲「くるみ割り人形」はシーズナリティで(笑)。個人的にソロのプロジェクトで編曲ものを取り上げているので、その一環でもあります。
――奏者が移動して弾く「2つのロシアの主題によるコンチェルティーノ」ですが、あれはパフォーマンスとしても面白い曲ですが、もともとそういう曲だったんですか?
米津・小瀧:そうです。
米津:2台ピアノでは、全く同じフレーズをそれぞれが弾くということがあるのですが、連弾の場合も同じフレーズをそれぞれが繰り返しているんです。でも各奏者が同じ配置で弾いているだけでは面白くない。また、もともと2台ピアノで弾く曲は、それぞれの奏者へとフレーズがスイッチしたことが聴き手にわかるようなつくりになっているんです。それを1台ピアノでの連弾でやる場合、その面白さを損ねないため、ちょっと無理をしてでも移動して逆転して弾く。その結果が、あの面白いパフォーマンスになるわけです。
米津真浩
――実はずっと気になっていたんですが1台ピアノを2人で弾く連弾、狭さなどは感じないのでしょうか?
米津:うーん、でも僕がちっちゃいから良かったのかな。小瀧はスリムで腕も長いし結構届くから。
小瀧:それぞれの身体・体格の長所短所が合うのかもしれない(笑)。それぞれ腕が長いと肘の角度でぶつかっちゃったりする。譲りあっちゃったりすることもあるし。
米津:特殊って言えば特殊ですよね。身体の重心の位置もソロでやる時に比べると変わったりするので。
――1台ピアノの連弾や、2台ピアノなど、それぞれ表現や見せ方の違いなどはあるのでしょうか? 今回は連弾の方がいい、2台の方がいいなど……?
米津:というよりももっと現実的な問題で、ピアノを2台置けるかどうか、ですね。また2台でやるとどうしても互いの距離があるので、1台を隣り合わせで弾いた方がいいこともある。
小瀧:連弾はよりアンサンブル感が強いかな。パフォーマンス的なところでは腕が交差したりという、「狭さ」もプラスに作用することがある。2台あると音としてはすごいけれど、パフォーマンス的なところも含めると、連弾の方がお客様には伝わるものが多いかもしれません。
小瀧俊治
――なるほど。お2人の今後の活動は?
米津:今後も2人で組んで演奏することは続けたいです。元々僕たちはそれぞれがソロで活動しているんですが、連弾もやっていきたい。僕たちの強みは、元々ソリストだからソロでもちゃんと聴かせられるし、連弾もできるという点。その両方の持ち味をミックスした、面白い演奏会をやっていければと思います。
小瀧:広い意味でのクラシックの普及、クラシックに興味がない人にも興味を持ってもらうような活動をしていければと思います。今回のような連弾とか、工夫しながら活動を続けていきたい。連弾は連弾の魅力があると思うので、選曲も含め、そういうものをよりわかりやすく伝えていければと思います。
――ありがとうございました。また次回の登場を楽しみにしています。
米津真浩、小瀧俊治
インタビュー・文=西原朋未 撮影=荒川潤
サンデー・ブランチ・クラシック

1月21日(日)
鈴木愛理/ヴァイオリン
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500

1月27日(日)
實川風/ピアノ
13:00~13:30
MUSIC CHARGE: \500
■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
■お問い合わせ:03-6452-5424
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