優しさ、思慮深さ、繊細さを表現し続
けた早逝の作曲家=キム・ジョンヒョ
ンを振り返る

SHINeeのキム・ジョンヒョンが死亡したらしい」。2017年12月18日の夕方ごろに、韓国の友人から突然LINEでメッセージが届いた。あまりにも突拍子もない話だったから、心の底から驚いた。すぐにネットで調べてみると、それが悪い冗談ではないことがわかった。
ジョンヒョンは、一般的にパワフルでセクシーなSHINeeのメインボーカルとして紹介されることが多い。だがファンは彼が非常に優しくて、繊細で、色鮮やかな感性を持つ表現者であることをよく知っていた。
もちろんボーカリストとしてのジョンヒョンは超一流だ。彼はK-POPで一番上手い男性歌手と言われていた。しかも激しく複雑な振り付けが特徴の1つでもあるSHINeeは、グループ内でメンバーを歌担当とダンス担当に分けていない。激しくダンスしながら、時に熱く、時に優しげにさまざまな歌声を使い分けた。
そんなジョンヒョンの印象を大きく変えたのは、2015年1月に発表された初のソロアルバム『BASE』だ。いわゆる紋切り型の「アイドルのソロアルバム」ではなく、当時注目を集め始めていたフランク・オーシャンらとシンクロしたオルタナティブなR&Bアルバムを自身の作詞作曲で作り上げた。これを機に多くの人が「アーティストとしてのジョンヒョン」を認識するようになった。
さらに人々を驚かせたのは、ジョンヒョンの繊細さだった。彼は『BASE』をリリースしたタイミングで、韓国のテレビ番組「4つのショー」に出演した。番組ではテミン(SHINee)、Zion-T、カン・ミンギョン(Davichi)という彼と親しい3人が、「パワフルでセクシーなSHINeeのメインボーカル」ではないジョンヒョンについて話した。「あの子はちょっと極端です。強迫的というか」「特別な感性だと言いたい」。彼は危険なほど豊かな感受性の持ち主だった。
この番組でジョンヒョンは「本当の僕を知りたがる人はあまりいないと思う」と語っている。さらに「僕がどう話したって、(ジョンヒョン本人の真意よりも)みんな自分勝手に解釈する」と話した。大人気アイドルとして活動していくうち、彼はキム・ジョンヒョンという個人と、「SHINeeのジョンヒョン」とのズレを感じるようになっていた。「昔は、僕の本当の姿を見せたいという欲がありました。だけど『あぁ、それは不可能なんだな』って。だったら『本当の自分を見せたい』なんて考えるより、そういう人(アイドルとしてジョンヒョンにしか興味のない人)を理解しようと思うようになりました」という苦悩も明かした。
だが念願のソロアルバムが発表されると、さまざま音楽チャートで1位を獲得。自分が本当に作りたいものが評価されたことでジョンヒョンは「今まで、世の中の人は僕個人がどんな人間かなんて気にしてないと思ってました。今もその考えが大きく変わったわけじゃないけど、僕が先に表現してみたら変わるんじゃないかって」と自分の居場所を見つけたようだった。彼はそれからより意欲的に作詞作曲、プロデュースなども頻繁に行うようになった。EXO「Playboy」、IU「우울시계(憂鬱時計) feat. ジョンヒョン」など素晴らしい楽曲は多い。またジョンヒョンが制作するオリジナリティの高い楽曲は、K-POPファン以外からも広く愛された。
中でも注目されたのが、YGエンターテインメント所属のシンガー、イ・ハイに提供した「BREATHE」だった。しかもこのコラボは、事務所の話題作りではなく、ミュージシャン同士のやりとりから生まれたという。YGのプロデューサーであるTABLO(EPIK HIGH)は「慰めることができる曲が歌いたい」というイ・ハイの要望を受けて、こっそりとジョンヒョンの曲を用意した。しかし「ジョンヒョンの曲」であることは、イ・ハイにもYGの代表にも隠した。「ジョンヒョンが作った」という先入観ではなく、曲の素晴らしさのみを感じてほしかったからだ。だがTABLOの心配は杞憂に終わり、「BREATHE」は自然とアルバム『SEOULITE』のリード曲になる。ジョンヒョンとイ・ハイの感性が一体になったこの曲は、ヒットチャートを席巻した。
ジョンヒョンは前述の「4つのショー」に出演した時、「座右の銘は『理解より認定』」と話していた。自分という範疇の中でわかった気になるのではなく、他人との違いをありのまま受け入れること。それがジョンヒョンの信条だった。イ・ハイに提供した「BREATHE」にこんな部分がある。「누군가의 한숨(誰かのため息) 그 무거운 숨을 내가 어떻게 헤아릴 수가 있을까요(その重さをどうしたらわかってあげられるでしょうか) / 당신의 한숨(あなたのため息) 그 깊일 이해할 순 없겠지만(その深さを理解することはできないけど) 괜찮아요(大丈夫) 내가 안아줄게요(私が抱きしめてあげるよ)」。ジョンヒョンは日常の本当に何気ない一コマを見つけて、そこに優しいメッセージを込めることができる、類い稀な能力を持った作曲家だった。
キム・ジョンヒョンが急逝した事実は、ファンが受け止めるのにはあまりにも大きく重い。私も多くのファンの方たちと一緒で、ただ悲しい。簡単には受け入れられないし、同時に優しさが鈍感さに押しつぶされる様子を目の当たりにするのは、怒りすら覚える。私は彼を直接知らないが、これまで書いた歌詞、楽曲を聴くことで、その人となりを少しだけ知ることができる。そして彼の優しさ、繊細さ、思慮深さが刻み込まれた音楽たちは永遠に消えない。
以前、ジョンヒョンが韓国の小さな会場でライブをしたことがあった。SHINeeでライブをすると、どうしても巨大な会場になってしまうので、観客の顔が見えるアットホームな雰囲気でコンサートがしてみたかったと話していた。私は渡韓してそのライブを観た。歌半分、トーク半分という内容で、ジョンヒョンはトークの最中に何度も「退屈じゃないですか?」と観客を気にかけていた。そして観客に直接話しかけたりして、楽しそうにしていた。
またSHINeeのライブでもジョンヒョンはよく感極まって泣いていた。彼が書いた曲を聴く限り、あの涙は彼の本心だったように感じる。またジョンヒョンはライブでよく笑っていた。メンバーとふざけあっていた。私はその笑顔は今もよく覚えている。そしてこれからも忘れないだろう。
文◎宮崎敬太
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