自分ならこうする!をそのまま表現。
山本耕史が『メンフィス』を語る

ミュージカル『メンフィス』が新演出で2年ぶりに上演されている(12月17日まで新国立劇場 中劇場にて)。1950年代、テネシー州メンフィスでブラックミュージックに夢中になり、当時の音楽シーンに革命を起こした白人DJヒューイ・カルフーンの物語だ。山本耕史は初演に引き続きヒューイを演じる他、今回はジェフリー・ページとともに演出も担当する。山本に作品について、またミュージカルに対する考えを聞いた。
--再び、ヒューイをやろうと思われた理由は?
お客さんがとても喜んでくださったし、『メンフィス』はやる価値のある作品だと思っていました。
--今まで、『RENT』のマーク役、『tick,tick…boom!』のジョナサン役、『ラスト・ファイブ・イヤーズ』のジェイミー役、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のヘドウィグ役など、山本さんにとってそれぞれの時代の役があるように思えます。それが今はヒューイ・カルフーンなのかなと感じますが。
長年僕のことを見てくれている人が「久しぶりに山本くんにぴったりな役を見た」とおっしゃってくださいました。
--ご自身ではそう思っていましたか?
全ての作品、どの役も自分にぴったりだと思って演じていますからね。だから、へえ、そうなんだ!と思いました。芝居も歌も動きも多い役だから、合っているのかもしれない。
--初演から3年経ち、再びヒューイ役に取り組んでみての感想は?
3年前にこんな大変なことをやっていたんだなぁと実感しています。いつもどの役でも大変だと思いますが。でも、ヒューイ役は常にやることがあるから、充実感はあります。待ち時間が長いとか何かを足し算引き算することなく、無心にやっていれば、あっという間に終わっちゃう感じですね。
--改めて、ヒューイをどんな人物だと捉えていますか。
1950年代、白人でありながらブラックミュージックの虜になり、DJになってかけまくる破天荒な男です。当時は白人が黒人を推すなんてあるまじき行為。襲われたり、命の危険すらある。それでも、誰もやらなかったことをやってのけるパワーと言ったら! ヒューイが音楽において、黒人と白人の壁を壊すきっかけを作ったんじゃないかと思います。勇気があったわけでも特に何かできるわけでもなくて、どちらかというとおバカさんなんですが、だけどヒーローなんです。
--確かに、不器用で人間臭いヒーローですね。
メインのテーマは彼がR&Bに惚れ込んでいるところですね。背景としては、白人の黒人に対する人種差別問題がありますが、話自体は本当にシンプルで誰が見ても楽しめる作品です。人種差別が当たり前だった時代に、黒人のコミュニティに乗り込み、一時は人気者になった青年。決して小難しくないところが僕はこの作品の良さだと思います。活劇としてシンプル。
--エンタメ感満載で、ノリの良いダンスや曲の楽しさが前面に出た作品ですね。社会問題や難しいことをアカデミックに問いかける作品ではなくて。
よくも悪くも、高い芸術性を追求した作品ではないということです。何を伝えたかったんだろう?という、芸術性が高いのか低いのかもよくわからないアートな作品とは全然違う。シンプルでありながら、キャスト一人ひとりの力量や技術が浮き彫りになる作品でもあります。
--カンパニーはいかがですか。
すごくいい感じですね。まず皆さん歌が上手いので、音楽を聴くだけでも満足していただけるはず。そこに凄腕のダンサーも加わりますから、贅沢です。
--今回は演出もなさっていますが、初演と変わったところは?
まず装置を最大限利用して、面白い試みをしています。それこそ、今までなぜやらなかったのだろう?というような。また初演時は抽象的なセットだったので、今回は具体的にして、家は家、外は外と一目でわかるようにしました。
--稽古場で見学していて驚くのは、山本さんは歌も台詞もきちんと伝わるところですね。マイクなくても声が通るし、言葉がはっきりと伝わってくる。そのあたりは意識しているのですか。
特に意識はしていませんけど。とにかく芝居しようとして、ハスに構えたりすると、意外と言っていることが伝わらなくなるんです。それより言葉を前に押し出して、とにかくでっかい声で喋るのが基本。特にヒューイ役では。構えて、こういう風に聴かせたい、こういう気持ちで歌いたいと思ってパフォーマンスすると、逆に伝わらないです。その時の気持ちに乗せて、スコーンとまっすぐに伝える感じかな。
--ヒューイはこの話ののち、どういう生活をすると思いますか。
メンフィスで楽しく平和に暮らしたんじゃないでしょうか。DJも細々と続けるのでは?いや、もしかしたらやめるかも。そこまで想像しないです。ただモデルとなった実在のデューイ・フィリップスはちゃんと成功した人なんですよね。
--山本さんにとって、ミュージカルはどんな存在ですか。
様々なスタイルがあるから、一概には言えないけど……。なぜこんななんだろう? 僕なら絶対に違う形にするんだけどなぁと思うから、ミュージカルをやっているところもあります。「楽しくて、僕にとってかけがえのないものです!」とは1ミリも思わないし、逆になぜ普通に演じないのかなぁって疑問を感じたり。手を広げて、朗々と歌っているのを見ると、誰に向かって歌っているんだろう?って考えちゃう。僕の場合、極力、歌も台詞と同じく話しているように伝えられればいいなと思っていて。台詞から歌に切り替わる時ってものすごく違和感があったりするじゃないですか。あれは台詞から歌に変えるからで、演者の意識の問題だと思う。もっともっといろんな形の表現が増えるといい、そのひとつがミュージカルです。僕自身はミュージカル俳優という括りも、テレビの人という括りも、どちらも中途半端ですけど。
--片方の山本さんしか知らない方も多いかもしれませんね。ミュージカルの中で、ロックっぽい作品にこだわっている理由は?
まず、音楽的に自分にフィットする、いい音楽の作品を選んでいます。『レ・ミゼラブル』もやり方次第で、もっとロックでかっこいいものにもなると思う。僕の感覚では、クラシックに寄りすぎてると感じるから。もちろん、そういうものとして成立しているんでしょうけど。『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルみたいな人が日本にもっといたら……と思います。ニューヨークで、いわゆるグランドミュージカル、オペラ的なお芝居と、そうではない作品を見比べたら、きっちり俳優が分かれていました。グランドミュージカルでは歌い上げがあるけれど、全員歌のレべルが高くてとても上手い。そうでない作品は、そのタイプのキャストが一人も出ていない。そういった住み分けがあるんです。日本だと、どんな作品も同じようなキャストだから、何もかも一緒くたになってしまう。まだまだミュージカルの演者の人口が少ないということかと。
--最後に、読者へメッセージをどうぞ!
良い作品になるように、頑張って作りました。まず初演で観損ねたという人は是非来ていただきいですし、初めて『メンフィス』を知った方も、足を運んで欲しい。この記事を読んでくださったことも一つの出会い、きっかけだと思うので、その勢いでぜひ! カーテンコールでは激しく盛り上がりますし、ちょっとキュンとするラブロマンスもあれば、笑える、泣けるところもあります。その上、パンチ力のある曲ばかりです。爽快感が味わえる、かっこいい作品です。僕らと一緒にお楽しみください! ハッカドゥ!
取材・文=三浦真紀  写真撮影=中田智章
公演情報

ミュージカル『メンフィス』

■日時:2017年12月2日(土)〜17日(日)
■会場:新国立劇場 中劇場
■出演:
山本耕史/濱田めぐみ/ジェロ米倉利紀伊礼彼方/栗原英雄/根岸季衣
ICHI/風間由次郎/上條駿/当銀大輔/遠山裕介/富永雄翔/水野栄治/渡辺崇人
飯野めぐみ/岩崎ルリ子/ダンドイ舞莉花/増田朱紀/森加織/吉田理恵
■演出・振付:ジェフリー・ページ/演出・主演:山本耕史
■脚本・作詞:ジョー・ディピエトロ
■音楽・作詞:デヴィッド・ブライアン
■翻訳・訳詞:吉川徹
■公式サイト:http://hpot.jp/stage/memphis2017

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