女々しくて’17 失恋中に聴いたらヤ
バいreGretGirl

次世代センチメンタルギターロックバン
ド・reGretGirl

reGretGirl(リグレットガール)というバンドをご存知だろうか?
平部雅洋(Vo. & Gt.)、十九川宗裕(Ba.)、前田将司(Dr.)からなる3ピースロックバンド。大阪を拠点に活動し、切なくて女々しい歌詞とキャッチーなメロディが特徴のギターロックバンドだ。

2017年4月に公開された『ホワイトアウト』もMVが三ヶ月で30万回再生を突破して話題になったので、YouTubeで見たことがある人も多いかもしれない(2017年12月12日現在の再生数は約67万回)。筆者もYouTubeを見ていて「あなたへのおすすめ」に出てきたことがきっかけで知った。

このバンドがちょっと面白いようなので、紹介したい。まずは『ホワイトアウト』のMVをどうぞ。
(reGretGirl『ホワイトアウト』MV)

どんなバンド? どんな曲?

まずこのバンドの根底には、執念というか、怨念のようなものがある。上に貼り付けたツイートは、彼らの静かな怨念を象徴する一言だ。

バンド名のreGretGirlとは、「後悔」の“regret”と「女の子」の“girl”を合わせて、“後悔する女の子”という意味。平部雅洋が昔の彼女にフラれたとき、「いつか有名になってフったことを後悔させてやる」との思いから来ている。

『ホワイトアウト』は、フラれた日を描いた曲。

バンド名も楽曲のコンセプトも非常に女々しくて、聞くだけで憂鬱になるほど重たい。

しかし、メロディはキャッチー。演奏には疾走感と心地よいグルーヴがあり、ヴォーカルはファルセットを使った爽やかさがある。コンセプトと実際の演奏にギャップがあって、ポップミュージックのセンスを感じさせる。

もう1曲、彼らの代表曲であり、11月10日にMVが公開された『デイドリーム』を。
この曲は、恋人に捨てられた男がどんどん自分の内側に閉じこもっていく陰鬱な様が歌われている。失恋直後に聴くとかなり落ち込む(現在失恋中ではなくとも、過去の失恋を思い出して、落ち込む)。

しかし、日本語の意味を知らない人にとっては、美しいロックバラードに聴こえるかもしれない。
(reGretGirl『デイドリーム』MV)

「女々しさ」は「男らしさ」の同義語?

(reGretGirl 1stミニアルバム『my』)

どちらの曲も、楽曲のポップさと歌詞の女々しさとのギャップが目立つ。それがreGretGirlというバンドの魅力のひとつなのだと思う。オフィシャルサイトにも「切なく、女々しい歌詞と、キャッチーなメロディが特徴」と書いてある。

そこで、本記事では彼らの歌詞に少しだけ注目してみる。

まず、「女々しい」とは何だろうか?

「女々しい」の「め」という言葉は、古くは女性への蔑称として使われていたそうだ。それが転じて、「ふるまいが女性のようであること」という意味へ発展し、現在では「柔弱な」「未練がましい」という意味になった。

reGretGirlのすべての楽曲がかつての彼女に向けられていると想定すると、これは非常に未練がましく、柔弱であり、女々しいという言葉はぴったり合う。

しかしここで言いたいのは、「女々しい」という言葉が使われるとき、そこで強調されるのは女ではなく男の要素なのではないか、ということ。

「女々しい」とは、女らしいということではない。これは男独自の視点なのだ。そしてこの視点の違いは音楽にもはっきり現れるらしい。

たとえば、reGretGirl『デイドリーム』には、こんな歌詞がある。

受け止めきれない現実と昼ごはんの 味はしない 喉を通らない (reGretGirl『デイドリーム』)

この感じ、わかる。失恋中にメシの味なんて全然しないし、何も食べたくない。
しかしどうやら、この感覚はある意味で“男らしい”感覚のようだ。

今年7月にメジャーデビューした坂口有望(さかぐちあみ)という女性ミュージシャンの『好-じょし-』という曲。これも失恋を歌った曲なのだが、reGretGirl『デイドリーム』ときれいに真逆の歌詞だったので、抜き出してみる。

君がいなくなったって ご飯はおいしい ちゃんと味もする (坂口有望『好-じょし-』)

「味はしない 喉を通らない」と歌う平部雅洋と、「ご飯はおいしい ちゃんと味もする」と歌う坂口有望。気持ちいいくらいに男女の違いが現れているわけだが、このようなコントラストを見ると、やはり「女々しい」とは「男らしさ」の同義語なのだと言いたくなる。

そういう意味で、reGretGirlはじつに「男らしいバンド」なのかもしれない。

My Hair is Badとの類似点、相違点

歌詞をもう少しだけ見ていこう。

上に貼り付けたYouTubeのコメント欄を見ればわかるが、reGretGirlというバンドに、My Hair is Badの音楽と近しさを感じているファンが多いようだ。

なるほど、この曲調にこの「女々しさ」、愚直なまでにストレートに感情をぶつけてくるスタイル、確かにMy Hair is Badに通じるものがある。最近のMy Hair is Badの活躍ぶりを指摘するまでもなく、reGretGirlのメンバーがMy Hair is Badを聴いていないはずはないだろうし、平部雅洋のTwitrerを遡ると、My Hair is Badに対する敬意を表すような発言も見かけられる。

しかし、両者の歌詞には決定的な違いがある。

reGretGirl『ホワイトアウト』の歌い出しの歌詞はこうだ。

いつだって なかなか既読にならない 未読のままのラインが不安で (reGretGirl『ホワイトアウト』)

一方、My Hair is Bad『真赤』の歌い出し。

ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかった気がした (My Hair is Bad『真赤』)

何が違うか?

あまり文学的な分析には踏み込みたくないのだが、ざっくり言えば『ホワイトアウト』は自分の気持ちを「そのまま」書いているのに対し、『真赤』には「その気持ちをどのような言葉に置き換えれば伝わるのか?」と工夫した跡が見えるのだ。

「ブラジャーのホックを外す時“だけ”心の中までわかった“気がした”」とはつまり、相手のことは何もわからなかった、ということだ。このように言い換えることで、言葉に陰影が生まれる。たった二行だけを見ても『真赤』には相当なレトリックが使われていることがわかるわけだが、『ホワイトアウト』にはそのようなレトリックはない。むしろそうしたレトリックを排除して、心の声をそのまま書き写したような歌詞になっている。それがどのような意図によるのかは筆者にはまだわからないが、平部雅洋と(My Hair is Bad)椎木知仁の歌詞は、同じ方向を向きつつも対極にある。

平部雅洋は太宰治になりうるか?

一見そのまま心の声を書いているような作風の作家といえば、日本文学においては、太宰治という天才がいた。そしてその対極には三島由紀夫がいた。平部雅洋を太宰治、椎木知仁を三島由紀夫になぞらえるのはかなり強引な気がしないでもないが、似ている点もたくさんある。

太宰は「女々しさ」を強調しつつ、一方では『走れメロス』や『御伽草子』のような明るい作品をたくさん書いた。太宰が持つ「女々しさ」と「ポップさ」のバランスは、reGretGirlの持ち味と重なるかもしれない。一方、三島は超絶技巧を駆使した硬派で華麗な文体でマッチョな作品を書いた。椎木知仁率いるMy Hair is Badのライブ数は年間で200を超え、三島のマッチョイズムとの近さを指摘できるかもしれない。

そして太宰&三島と平部&椎木、この4者に共通しているのは、その創作の根源が「個人的な理由」であるということだ。様々なフィクションやエンタメの形があるだろうが、結局のところ、もっとも個人的で切実な言葉がもっとも深く人の心を打つ。

自分を捨てた恋人を後悔させるためにはじめたreGretGirlというバンド、歌う内容はかつての恋人との別れ。そんな彼らによるアルバムのタイトルは『my』。
自分を救うために作った“わたしの”曲たちは、同じように苦しむ人々の心に届き、たくさんの“わたしの”曲になる。そんな意味が込められているようだが、最後に、ナイーヴで下世話な仮説を提示してこの記事を締めることにする。

『my(マイ)』とは、reGretGirlを生み出すきっかけとなったGirlの名前なのではないか――。

1st Mini Album『my』

1. ホワイトアウト
2. デイドリーム
3. 二色浜
4. after
5. クラムジーミーツ
6. room

No Big Deal Records | NBPC-0047 | ¥1,944(tax in)

Amazonページはこちら。
Apple Music等、各サブスクリプションサービスでも配信中。


reGretGirl オフィシャルサイト
reGretGirl オフィシャルTwitter
平部雅洋 Twitter


Text_Sotaro Yamada

女々しくて’17 失恋中に聴いたらヤバいreGretGirlはミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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