臼井孝のヒット曲探検隊
~アーティスト別 ベストヒット20
Vol.1 西野カナ
総合1位は「会いたくて 会いたくて」
(2010年発売 10thシングル)
また、ダウンロードではミリオンヒットとなって堂々の1位。ちなみに、シングルの10万枚突破は1作もないが、ダウンロードでは6作ものミリオンヒットを出している。「会いたくて 会いたくて 震える」というインパクト抜群のフレーズで始まるマイナー調の楽曲で、終始、別れた“君”を想い続けるという、まさにケータイ世代のお手本のようなヒット曲。それゆえ、女性アーティストでは最短となる発売3か月にて配信シングル(当時は“着うたフル”と呼ばれた)でのミリオンを達成し、その年のレコチョクランキングでも年間1位となった。100万件の次の認定数が「200万件」の為、レコード協会発表の数字は、ケータイ向けが100万件以上、PC向けが10万件以上となっているが、このハイスピードでのミリオン達成は、2位以下の5作では見られないことから、その差は圧倒的だろう。
とはいえ、大ヒットシングル「会いたくて 会いたくて」に続くシングルで、前作とは対照的に穏やかな曲調のバラードゆえ、彼女の新たな魅力をアピールすることはできたようだ。こちらも配信でミリオンヒットとなっている。
本作は女子人気のコミックを原作とした映画『ヒロイン失格』の主題歌となったことがヒットの起爆剤となり、さらにその後、トリセツ=取扱説明書風に自分の特徴を恋人にアピールしていくという、ハッピーな作風でありながら、どこかコミカルタッチを残していることから結婚式ソングとしても長く支持されている。そんな背景から、“女性版・関白宣言(さだまさし)”としてメディアに紹介されることも多くなった。1992年に平松愛理の「部屋とYシャツと私」も、そのコミカルなハッピーソングとしてロングヒットしたが、本作はその21世紀版と言えるだろう。
ダウンロードもミリオンヒットが年にせいぜい2、3作しか出ない2010年代後半において75万件を突破、そして、カラオケでは堂々の1位だ。ちなみにカラオケでは、前述の“第二章”となるコミカル路線の「Darling」「トリセツ」、そして「もしも運命の人がいるのなら」の3作が、「会いたくて 会いたくて」を上回った。
カラオケでは新たなヒット曲よりも定着したスタンダードがいつまでも歌われる傾向にあるのだが、この傾向からも「トリセツ」や「Darling」は、新たなスタンダードとなりうることを示している。また、近年の作品がカラオケでヒットしているのは共感もさることながら、彼女の決して自慢げではない“自然な歌唱力”も、歌ってみたいという気分にさせる隠れた原因のような気もする。