大橋トリオ 胸ときめくオープニング
からめくるめく2時間40分で魅せた無
二の価値

ohashi Trio 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT“TRIO ERA”

2017.12.8(FRI) 東京国際フォーラム ホールA
がらんとしたステージ中央には、グランドピアノが1台置かれているだけ。クラシックのコンサートを思わせる静かな緊張感の中、午後7時過ぎ、青いハットに白いコート姿の大橋が登場し、牧歌的なメロディが美しい「はじまりの唄」をしとやかに歌い上げる。このまま行くのか……と思いきや、一転してステージ左右からバンドスタンドが現れ、総勢6名のメンバーと共に溌剌としたポップチューン「SHE」が始まった。ステージ後方には、“TRIO ERA”と刻まれた巨大な電飾がきらめく。意表を突く演出から始まった、大橋トリオの10周年記念コンサート『TRIO ERA』。胸ときめくオープニングだ。
「おかげさまで10周年です。今日は最後まで楽しんでくださいね」
序盤は「Baumkuchen」「マチルダ」と、徐々にテンポを上げながら快調に飛ばす。バンドのアンサンブルは文句なしに最高で、ウッドベース、マンドリン、スティールギター、パーカッションなどを加えたサウンドは、精密かつオーガニックな一級品だ。その名も“大橋トリオ・ダンスチューン・メドレー”では、「摩天楼バタフライ」から「僕らのこの声が君に届くかい」まで5曲をミドルテンポのファンク/ロックに落とし込み、心の凝りをほぐす音楽マッサージの如く、心地よいグルーヴが途切れることなく続く。大橋もエレクトリックギターで華麗なソロを披露するなど、見た目のクールさとは裏腹に、アクティブなパフォーマンスでしっかり盛り上げる。「ヒートアップしすぎましたね。アンコールでやるべきだったかな(笑)」と、口も滑らかだ。
大橋トリオ
ここでバンドスタンドの後方にさらにもう一段、弦カルテットと3人のホーンセクションが加わり、総勢13名のフルメンバーが勢ぞろいした。ゴージャスな大編成をバックに、「トリドリ」ではピアノ、「A BIRD」ではアコースティックギターと、楽器を持ち替えながらバンドサウンドをリードしてゆく大橋。「A BIRD」のように可愛らしくポップな曲にも、独特の気品と格調高さが香る。大橋トリオ作品の特徴は、ライブでこそより深く体感することができる。
大橋トリオ×持田香織
大橋トリオ×持田香織
「素敵なゲストが来てくれています。持田香織!」
予期せぬ驚きで場内がざわつく中、はにかみながら登場した持田香織と共に、まずはEvery Little Thingの代表曲「キオク」をメロウなミディアム・バラードのスタイルで。ソプラノサックスの物悲しい響きが絶品だ。続けて大橋が持田に提供した楽曲「静かな夜」は、持田のふんわりとした声を生かした優しいメロディのスローバラード。華のあるボーカリストのバックに回った時の、控えめでありながらなぜか目を惹きつける、大橋の堅実な存在感の大きさは一見に値する。夏の恒例行事“J-WAVE LIVE SUMMER JAM”での熟練のアレンジャー/バンマス振りを思い起こさせる、見事なリーダーシップだ。
大橋トリオ
しばしの転換時間を利用し、ピアノの小林創(はじめ)が「サンタが街にやってきた」をブギウギ調で披露して喝采を浴びたあと、えんじ色の上下にシックなベージュのハットに着替えた大橋が再登場。始まったのはツアー恒例の“マイク1本コーナー”で、バンドメンバー+弦カルテットが1本のマイクを囲み、路上バスキングの如く奏でるのは、陽気なファンタジー度満点の「宇宙からやってきたにゃんぼー」。ギロやフルートの賑やかな響きと、マイクなしでもきれいに響く弦楽器の豊かな音が素晴らしい。生々しい音の呼吸と息の合ったコーラスのおかげで、「Fairy」はまるで賛美歌のように荘厳に響く。
再びバンドスタンドに戻り、ロマンチックなワルツの「月の裏の鏡」は、ジャズのビッグバンドを思わせるスタイルで華やかに。そしてTBSテレビ系『世界遺産』の新テーマソング「鳥のように」は、フォーキーなギターの爪弾きとハッピーなラテン風のダンスステップで大らかに。大橋の声は決してパワフルでも格別技巧的でもないが、独特のあたたかみを帯びたソフトなボーカルは、どんな曲にもしっくり溶け込む不思議な浸透力を持っている。実に不思議な、耳を惹きつける声だ。
大橋トリオ×布袋寅泰
大橋トリオ×布袋寅泰
ここで突如鳴り響く、バンドが一丸となってのへヴィなロックサウンド。おや、これまでの音色とは違う……と思った瞬間に、二つに割れたバンドスタンドの間からモーゼの如く登場したのは、長身の8 BEATのシルエット。まさかの布袋寅泰の登場に、リラックスして音楽を楽しんでいたオーディエンスが一斉に立ち上がる。曲は「BATTLE WITHOUT HONOR OF HUMANITY」から、ヒットチューン「バンビーナ」へ。大橋と布袋が交互にボーカルを取り、向かい合ってツインギターを奏でる。布袋はまるで自分のコンサートの如く、ステージ前を激しく動いて煽り立て、ダックウォークまで飛び出した。主役の大橋が思わず「……かっこいいですね。感動してます」とつぶやくと、「僕もみなさんと同じく、大橋トリオの大ファンです」と、布袋が大橋の10周年を讃える。さらにもう1曲、制作中のアルバムからできたてほやほやの新曲「Embark」に、布袋の流麗なソロを添えて、最後は熱いハグとシェイクハンド。年齢やスタイルの差を超え、リスペクトしあう両者の美しい交流を目撃した、今日のオーディエンスは本当にラッキーだ。
大橋トリオ
コンサートはいよいよフィナーレに近づいた。「クリスマスも近いので、そういう曲を」と前置きして歌った「MAGIC」の、心地よくスウィングする4ビートのあとを受け、本編ラストを飾ったのは「アネモネが鳴いた」だった。まるでクラシックの歌曲のような格調高いメロディと、生命の美しさをシンプルに描く歌詞。<ありがとうさようなら/今日という日よ/すべてが愛しくてたまらない>。一つひとつの言葉が、あたたかく柔らかい歌声に運ばれて、じんわりと心の奥底へと沁みとおってゆく。
「音楽って楽しいですね。本当に」
アンコールの拍手に呼び戻された大橋が、マイクに向かって独り言のようにつぶやく。さらに「もう一歩上の楽しみ方をしたければ、(音楽を)やったほうがいですよ。絶対こっちのほうが楽しいから(笑)」と付け加えるのが、いかにも大橋らしい。曲は大らかでソウルフルなグルーヴが心地よい「HONEY」、そしてジャズのスタンダードのような小粋なポップチューン「Bing Bang」。バンドメンバーが一体となった素晴らしい音とコーラスのハーモニーの中での、誰もが笑顔になれるハッピーエンディング。メンバーが手を振ってステージを去り、大橋が一人残る。これが本当にラストチューン、思いを込めたピアノ弾き語りで披露したのは「生まれた日」だった。「アネモネが鳴いた」に通ずる、生きていることの素晴らしさを讃える美しいスローバラード。美しく豊かな音楽の夕べの最後に、これ以上にふさわしい曲はないだろう。
大橋トリオ
終わってみれば、2時間40分。四幕に分かれた構成も、二組のスペシャルゲストも、13名に及ぶバンドメンバーの奏でるサウンドも、現代のポップスコンサートの常識で言えばゴージャス極まりないが、あくまで上質で小粋な後味が残るのが大橋トリオらしさ。いつでもここに来れば、幅広く豊かな音楽の実りを堪能できる。大橋トリオのコンサートはずっとそうした場所であり続けてほしいし、きっとあるだろうと、満ち足りた表情で出口へ向かう人波の中で思う。2018年のホールツアーは、3月から6月にかけて。来年を待つ楽しみが、また一つ増えた。
取材・文=宮本英夫
撮影=Tsukasa Miyoshi (Showcase) ※大橋トリオ
Yuusuke Katsunaga ※大橋トリオ・布袋寅泰/持田香織

大橋トリオ

セットリスト

ohashiTrio 10th ANNIVERSARY SPECIAL CONCERT "TRIO ERA"
2017年12月8日 東京国際フォーラム ホールA

<第1幕>
01. はじまりの唄(弾き語り)

<第2幕>
02. SHE
03. Baumkuchen
04. マチルダ
05. バンドメドレー(摩天楼バタフライ ~ GOLD FUNK ~ CLAMCHOWDER ~ Happy Trail ~ 僕らのこの声が君に届くかい)

<第3幕>
06. トリドリ
07. A BIRD
08. キヲク(with 持田香織)
09. 静かな夜(with 持田香織)
10. 宇宙からやってきたにゃんぼー
11. Fairy
12. 月の裏の鏡
13. 鳥のように

<第4幕>
14. BATTLE WITHOUT HONOR OF HUMANITY(with 布袋寅泰)
15. バンビーナ(with 布袋寅泰)
16. Embark(with 布袋寅泰)
17. MAGIC
18. アネモネが鳴いた

<アンコール>
19. HONEY
20. Bing Bang
21. 生まれた日(弾き語り)

リリース情報

ニューアルバム(タイトル未定)
2018年2月14日発売
CD+DVD:RZCD-86479/B ¥4,700 (tax out)
CD+Blu-ray RZCD-86480/B ¥5,000 (tax out)
CD only RZCD-86481 ¥3,000 (tax out)

ライブ情報

ohashiTrio HALL TOUR 2018
2018年3月30日(金)千葉・千葉市民会館大ホール 開場18:00/開演19:00
2018年4月6日(金)鹿児島・かごしま県民交流センター 県民ホール 開場17:30/開演18:30
2018年4月8日(日)福岡・福岡市民会館 開場17:00/開演18:00
2018年4月12日(木)兵庫・神戸文化ホール中ホール 開場18:00/開演19:00
2018年4月14日(土)広島・JMSアステールプラザ大ホール 開場17:00/開演18:00
2018年4月19日(木)長野・キッセイ文化ホール(松本文化会館)中ホール 開場18:00/開演19:00
2018年4月21日(土)新潟・新潟市音楽文化会館 開場17:00/開演18:00
2018年4月27日(金)京都・ロームシアター京都サウスホール 開場18:00/開演19:00
2018年5月6日(日)宮城・若林区文化センター 開場17:00/開演18:00
2018年5月11日(金)北海道・道新ホール 開場18:00/開演19:00
2018年5月25日(金)東京・NHKホール 開場18:00/開演19:00
2018年6月2日(土)愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール 開場17:00/開演18:00
2018年6月10日(日)長崎・とぎつカナリーホール 開場17:00/開演18:00
2018年6月14日(木)石川・石川県立音楽堂邦楽ホール 開場17:30/開演18:30
2018年6月16日(土)大阪・NHK大阪ホール 開場17:00/開演18:00

<チケット料金>
席種:全席指定 ¥6,800(税込)
※開場/開演時間に関しましては、諸事情により変更になる可能性もございます。ご了承下さい。
※年齢制限:3歳以上よりチケット必要 3歳未満は入場不可
チケットに関してはオフィシャルサイトをご確認ください。
http://ohashi-trio.com/

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