脚本の森下佳子氏

脚本の森下佳子氏

「登場人物には、私の好きなタイプの
男性をずらりと並べました(笑)」森
下佳子(脚本)後編【「おんな城主 
直虎」インタビュー】

 間もなくフィナーレを迎えるNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」。1年間、ドラマを楽しんできた視聴者には、気になることもたくさんあったのではないだろうか。17日の最終回の放送を前に、全50回の脚本を手掛けた森下佳子氏が、視聴者の反応や直虎を巡る男たち、出演した俳優のことなど、さまざまなエピソードを語ってくれた。
-視聴者からの反響はどのように受け止めていましたか。
 女友達からの反応がビビッドでした。女の人が「面白い」と言って歴史ものに食い付いてくれたことがとてもうれしく、やりがいを感じました。
-何が女性を引きつけたのでしょうか。
 なんでしょう…? 直虎(柴咲コウ)のキャラクターでしょうか。お姫様ですが、親近感が持てる人ではあったかなと思います。また、政治的な部分になると組織全体のことを説明する必要が出てきますが、私自身もそういうことに関しては飲み込みがよくない方なので、人対人の関係で書いていったところが、見てもらいやすかったのかなと。後は、私の好きなタイプの男性をずらりと並べて「これもいいけど、あれもいい」とやっていたので、そこに素直に反応してくれたのかもしれません(笑)。
-好きなタイプの男性というのは、直親(三浦春馬)や政次(高橋一生)だけでなく?
 みんなかわいいです。之の字(中野直之/矢本悠馬)や六左(奥山六左衛門/田中美央)はいうまでもなく、ちょこっと出てきた山県(昌景/山本龍二)さんですら。近藤(康用/橋本じゅん)さんも、政次が死んだ時は「おまえをはりつけにしてやろうか」ぐらいに思っていましたが、「クララ(殿)が立った!」(第36回、戦で負った脚の傷が癒えた近藤が、再び立ち上がった場面)のあたりからすごく好きになりました(笑)。
-女性の視聴者を意識して書かれた部分はありますか。
 時代劇の良さの一つに、何事もダイナミックということがあります。「好きな相手が明日殺されるかもしれない」、「絶対に好きになってはいけない相手がいる」といった現代のドラマでは成立しにくいかせを簡単に設けることができます。だから、ダイナミックな情緒の動きを話に取り入れ、恋愛もそういうフェーズで書きたいと思っていました。ただ、それに対して反響があるかどうかは未知数でしたね。
-恋愛の話では、直虎の前に直親、政次、龍雲丸(柳楽優弥)という3人の男が登場しましたね。
 直親は、最初からそういうふうに定められていて、時が時なら結ばれたであろう自然発生的な相手です。政次の方は、女性として好きな部分と、主君として対していかなければならない部分の葛藤がありました。とはいえ、直虎にとって政次は恋愛の対象ではありません。それよりもっと深い、2人にしか分からない絆で結ばれた主従という文脈で書いていました。
-直虎と政次が、離れた場所で囲碁を打つ場面は印象的でした。
 アイテムとして囲碁を使いたいという考えは初めからありました。ただ、見えない相手と碁を打つというのは、途中で盛り上がって出てきた案かな。「これができたらすごく一体感があるよね」という(笑)。碁盤を挟んで話しながら、手の内を探り合っていた2人が、年月を重ねて相手の出方を読めるまでになった。その一体感を出すためには、こういう表現もあるかなと思って。
-実際に恋愛関係になったのは、盗賊の龍雲丸でしたね。
 恋愛の相手には、今まで彼女が生きてきた世界とは全く違うところから出てきた人であってほしかった。彼女が成長していく上で広い視野を持つためにも。弱いとはいえ当時、領主といえば支配階級です。それとは全く異なる生き方やバックボーンを持っているけれど、人としては共感できる尊敬できる相手のことを好きになってほしかったんです。
―直虎は僧侶なので、恋愛をせずに物語を進めることは考えませんでしたか。
 女性としてふたをしたまま生きていくという選択肢は、私の中にはありませんでしたねー。そのラインは私の見たい話じゃない、ただそれだけのわがままな理由ですけどね。
-親子とも違う直虎と万千代(菅田将暉)の関係は、どのように考えていましたか。
 表立ってお家を再興していくのが万千代ということは史実がある以上、動かせません。ただその際、お家を再興する意味や立ち位置といった背骨のようなものを与えていくのが直虎の役割です。当初、同じ目的を持っていた直虎と万千代は、さまざまな事情から一度立場が分かれた後、再び関係が戻って、以前よりさらに強い絆で結ばれます。川に例えるなら、同じ川から出た流れが一度別れた後、再び一つになってさらに大きな川に流れ込み、最終的には海に出ていく…そんなイメージになればいいなと思っていました。
-演じてくれた俳優の皆さんのことを伺います。映像を見て、いい意味で裏切られたという方はいますか。
 たくさんいて切りがありませんが、最近驚いたのは家康役の阿部サダヲさんです。万千代に「色小姓にならぬか」と迫るくだりは、もっとコメディー寄りになるかと思っていたら、かなり生々しい感じで…(笑)。ドキドキしました。
-他には?
 信玄(松平健)が踊り出したときもびっくりしました。打ち合わせでは冗談で言っていたんです。「サンバのリズムとともに、赤い軍団が侵攻してくる」みたいなことを。そうしたら、松平(健)さんの方から「僕、踊った方がいいよね」と言ってくださって。実際に踊っているのを見たときは、ものすごい衝撃でした(笑)。松平さんすてき過ぎる! 他には、第43回で植林をする場面、「甚兵衛の松じゃ」と言った直虎の顔を見ずに「なんですか、そりゃあ」と答える甚兵衛役の山本學さんのお芝居にも驚かされました。「見ないか!あぁ、見ないわーって」納得しました。山を背負って立つ殿の立ち姿も良かったです。大地から生えてきたような力強さと美しさ。他にもたくさんあり過ぎて、説明し切れません(笑)。
-役を役者さんに寄せて書かれたことはありますか。
 演者が決まる前は、誰かを想定して書くことはあまりしませんが、決まるとどんどん引っ張られることはあります。例えば、菅田くんといえば“キレ芸”。史実に残る直政(万千代)も“人斬り兵部”、“赤鬼”などといわれていたので、これはキレてもらわないと…と思ってやりました。また、六左は史料には名前しか残っていないので、初めてお会いした田中さんからイメージを頂きながら色付けして行きました。
-人助けをする“竜宮小僧”の伝説が随所で効果的に使われていました。どんな思いがあったのでしょうか。
 竜宮小僧は、そういう人がいてくれればいいという祈りであり、そういう人であれという訓戒でもあります。直虎さんが行きつく先は、結局そこなのかもしれません。彼女には井伊谷という場所でそれを成した後、もっと大きな範疇(はんちゅう)でそういう人になってほしいという思いが私の中にありました。
(取材・文/井上健一)

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