20代、30代女子を中心に全国で動員を
伸ばす映画『南瓜とマヨネーズ』、若
者が感情移入をする理由とは

1998年から翌年にかけて雑誌に連載され、「恋愛漫画の金字塔」と言われた魚喃キリコの原作を映画化した『南瓜とマヨネーズ』が、公開から1か月以上経った現在も全国の映画館で若い女性を中心に動員を増やし続けている。
同作は、ミュージシャンを目指す恋人・せいいち(太賀)との同棲生活を支えるため、密かにキャバクラで働き、そこで出会った中年男性と愛人契約を結んでしまう女性・ツチダ(臼田あさ美)の姿を描いている。陰でコソコソとしていることが、せいいちにバレてからも、彼女は昔の恋人・ハギオ(オダギリジョー)と密会し、男女関係を結んでしまう。「ハギオと一緒にいるのは楽しいけど、せいいちと別れることは無理。自分がどうなりたいのか分からない」という、ツチダの感情の行方が見どころだ。
(c)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
東京の上映劇場である新宿武蔵野館では2017年に同所で公開された日本映画でナンバーワンヒットを記録し、大阪・テアトル梅田でも公開1週目より2週目以降の方が週間観客数が伸びるという異例の賑わいとなっている。同作の配給会社、S・D・Pはこれまで『闇金ウシジマくん』シリーズなど手がけてきたが、関係者に尋ねると「『南瓜とマヨネーズ』は、『ウシジマくん』に並ぶ、S・D・Pの代表作の一つになりました」と語ってくれた。
●『南瓜とマヨネーズ』は自分たちの日常の地続きのように思えるのかも知れない
原作発表から約20年を経て、映画『南瓜とマヨネーズ』はなぜここまで熱い支持を集めているのか。12月7日、テアトル梅田で大ヒットを記念しての舞台挨拶をおこなった主演・臼田あさ美は、壇上で「私のインスタグラムに、(映画を)観た人たちから「(ツチダに)共感しました」と感想が寄せられるんです。「こんなにダメな人たちに共感しないで」って思うけど、でもみなさんにとってこの物語は、自分たちの日常の地続きのように思えるのかも知れません。ツチダも、せいちゃん(せいいち)も、東京のどこかに生きている。自分自身が、ツチダかもしれない。そう受け取ってくれるのが、この(大ヒットの)結果に繋がっているのかも知れません」と分析した。
臼田あさ美
●普遍的な要素が今の若者に受け入れられている
テアトル梅田のそばにあるMARUZEN&ジュンク堂書店梅田店には、映画鑑賞後と思しき人たちがコミック売り場に立寄り、原作を購入する姿が目立つという。同店コミック担当・八木泉さんに聞くと、映画公開以降、原作が一時売り切れ状態となり、急いで追加入荷したそうだ。初版発売時に原作を購入したという八木さんも映画をすでに鑑賞しており、「20代の女性が必ず通るような恋愛感情が描かれていました。そのときにしか体験できない、若さゆえのはがゆさがある。原作は1990年代のものですが、しかし恋愛のはがゆさは、時代に関係なく存在するものなのかも知れません。自分も恋人に対して同じことをやっているかも知れない、とツチダの目線で物語を感じることができました。映画に共感した人たちが、原作の新しい読者になっている印象です」と、普遍的な要素が今の若者に受け入れられていると話す。
(c)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
同作を鑑賞した20代女性にインタビューをすると、「ツチダがせいいちに「俺と別れて他の人と結婚して、普通の女の人として幸せになれば?」と言われるシーンが苦しかった。冒頭から、それはツチダがせいいちに絶対言われたくないことだろうなって、ずっと思っていたので。ただこの映画は、別れるか別れないかの問題ではなく、自分にとっての幸せを好きな人が理解してくれていないこと、その辛さの物語ではないでしょうか。結局、ツチダもせいいちも、お互いに言われたくなかったことを言われてしまって、気付くことがある。観終わったあと、ツチダもせいいちも幸せになってくれていたらいいなって思いました」と感じ取ったそうだ。
●その状況が面白いわけじゃない。もちろん、望んでもいない。ただただ、「こんなことってあるんだ」と思ってしまう
映画の印象的な場面の一つに、同棲中の部屋で、せいいちとハギオがバッティングするところがある。居合わせたツチダの女友だちは大慌てになるが、当のツチダは笑いが止まらない。「もしこの凄惨な現場の当事者だったら、どういう反応をしているだろうか」ともっとも緊張させられる、原作にはない映画のオリジナルシーン。
臼田あさ美
臼田は舞台挨拶上で、その場面について「最初、脚本を読んだときは「ツチダは、せいちゃんと同棲している部屋に他の男を入れてしまうような、ガサツな女性ではない」と違和感があったんです。でも、ハギオは強引に部屋に行っちゃうタイプだし、ツチダはその強引さを拒めない女性だと思った。(鉢合わせして笑いが止まらないのは)決してその状況が面白いわけじゃない。もちろん、望んでもいない。ただただ、「こんなことってあるんだ」と思ってしまう。私も、ドライ(リハーサル)で、自然と笑えてきちゃったんです。そうすると冨永昌敬監督から、「もっと笑ってみてください」と言われました。そして監督から、「臼田さんがもしこの状況に出くわしたら、きっと笑ってしまうということなんですよ」と言われて、腑に落ちたんです」と臼田自身の感覚が、飾り気なくそのまま表れた芝居になった。
『南瓜とマヨネーズ』予告編
本作には、「もしかすると自分にも有り得るかもしれない」と我が身についつい置き換えて観てしまうところが多い。誰にだって、大切な人に対して一つや二つくらいは後ろめたいことがあるだろう。そんな時にとってしまう反応。そして相手のリアクション。それが、繊細かつリアルに映しだされている。
「こういうこと、あるある」と出来事に同調するのではなく、ツチダ、せいいちの中に沸き上がってくる痛み、苦み、曖昧さ、どうしようもなさ、関係性、空気感、そういった感情面に通底できるところが『南瓜とマヨネーズ』が受け入れられている理由なのかも知れない。
映画『南瓜とマヨネーズ』は全国公開中。
取材・文・撮影=田辺ユウキ

映画情報
映画『南瓜とマヨネーズ』
監督:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ
出演:臼田あさ美、太賀、浅香航大、若葉竜也、光石研、オダギリジョー
公式サイト:http://kabomayo.com
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ライブハウスで働くツチダは同棲中の恋人せいいちがミュージシャンになる夢を叶えるため、内緒でキャバクラで働きながら生活を支えていた。一方で、自分が抜けたバンドがレコード会社と契約し、代わりにグラビアアイドルをボーカルに迎えたことに複雑な思いを抱え、スランプに陥っていたせいいちは、仕事もせず毎日ダラダラとした日々を過ごす。そんなとき、ツチダはお店に来た客、安原からもっと稼げる仕事があると愛人契約をもちかけられる。

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