今川氏真を演じた尾上松也

今川氏真を演じた尾上松也

【芸能コラム】直虎と氏真 今を生き
る人々の胸に響く敗者たちの生きざま
 「おんな城主 直虎」

 12月に入り、いよいよ最終回が近づいてきたNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」。いよいよ次回、明智光秀(光石研)が本能寺の変を起こすなど、ここにきて風雲急を告げる事態となっている。万千代(菅田将暉)と共に徳川家の繁栄を目指して動き始めた直虎(柴咲コウ)の物語はどこへ向かうのか。一瞬たりとも目が離せない。
 放送開始から1年。振り返ってみれば、少女だったおとわは出家して次郎法師を名乗り、直虎の名で城主を務め、井伊家がつぶれた後は徳川家康(阿部サダヲ)に仕える万千代を支えるなど、人間的な成長を見せてきた。
 ただし、直虎の成長が社会的な成功と一致していないことは、このドラマを見続けてきた視聴者であれば、よく分かっていることだろう。もともと、小さな井伊谷の領主に過ぎなかった直虎だが、武田と徳川の戦に巻き込まれて井伊家がつぶれた時点で、歴史からは完全に姿を消した。だが、その後も直虎は生き続けた。万千代の徳川家への仕官と井伊家の再興が成ったのは、直虎がいたからこそだ。
 そしてもう1人、戦国の敗者でありながら乱世を生き抜き、家名を保った人物がいる。それが今川氏真(尾上松也)だ。
 一大勢力を築いた戦国大名・今川義元(春風亭昇太)の嫡男として生まれ、家督を継ぎながらも父の死後、戦に敗れて今川家を滅亡に導いた。その後、紆余(うよ)曲折を経て徳川に下ったものの、かつての家臣・家康の庇護を受けて生きることは、普通なら相当な屈辱に違いない。同じような状況に置かれ、潔く死を選んだ武将もいたはずだ。だが氏真はこれを受け入れ、生き抜くことで家名を明治までつないだ。物語終盤にきて本能寺の変に関わるなど、思わぬ活躍に喝采を送っている視聴者も多いのではないだろうか。
 同じ戦国時代を舞台にした昨年の「真田丸」では、“ナレ死”が話題になった。次々と物語から姿を消していく武将たちのその後を、ナレーションで締めくくるやり方だ。今川家滅亡後の氏真の生きざまなどは、まさにこの“ナレ死”に相当する部分だ。
 だがこの作品では、北条、徳川と渡り歩き、信長の前で蹴鞠(けまり)を披露する氏真の姿を丁寧に描いて見せる。そして話を戻せば、直虎も氏真と同じく戦国の敗者である。つまり本作は、“ナレ死”の“ナレ”の部分にスポットを当てたドラマと見ることもできる。
 戦いに敗れた者が死を選ばず、いかにその後を生き抜くことで、志を後世につないでいったか。
 これこそが、本作の描こうとしたものではないか。そしてそれは、決して400年以上前の出来事ではなく、今を生きる私たちにも通じる物語だ。命を落とすかどうかの違いはあっても、生きる上でさまざまな困難に直面し、時に勝負に敗れるのは現代も変わりない。だがそんな時、敗者でありながら過酷な時代を生き抜いた直虎や氏真の姿を思い出すことで、勇気づけられる人もいるはずだ。
 残り2回、戦国の敗者たちのたくましい生きざまを描いた物語が、どのような結末を迎えるのか。それを見届けた私たちこそが、彼らの思いを受け継ぐことになるに違いない。(井上健一)

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