坂本龍一「楽しい」作曲家の藤倉大と
即興演奏で見せた前衛的な顔

 坂本龍一が6日、『WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017』に出席。30人の受賞者に選ばれるとともに、同じく受賞者の作曲家・藤倉大とピアノで即興演奏を披露した。椅子に座らず、グランドピアノの弦をはじくなどしてアバンギャルドな演奏を見せた坂本。「(演奏が)終わらないですね、楽しい」と子どもの様な笑顔を見せ、音楽に対する探究心の深さを窺わせた。

 『WIRED Audi INNOVATION AWARD』は、「未来の日本、未来の世界をつくる」をテーマに、様々な領域で独創的なアイデアとヴィジョンを持って新しい試みを続ける人々(イノヴェイター)に光を当て、その存在を広く発信するとともに、彼らのヴィジョンと共鳴し実現を目指す人々を繋げることを目的とした賞。昨年創設され、今年で2回目を迎える。

 昨年はDJでトラックメイカーのtofubeatsや、平日毎日5時間ライヴストリーミングを世界に配信する「DOMMUNE」主宰の現代美術家・宇川直宏氏など様々な分野のイノヴェイター50人を選出し表彰。

 今年は坂本を始め、藤倉や建築家の重松象平氏など30人が受賞した。坂本は今年2月に新作『async』をリリース。研ぎ澄まされた音とともに壮大で美しいイメージを喚起させる、教授独特の世界観を掲示し、その存在感の大きさを改めて音楽界に示した。

 藤倉は15歳の時に単身渡英し、現在は世界の現代音楽シーンで活躍している。今年4月には、革新的な作曲家に贈られる伊の『ヴェネツィア・ビエンナーレ』音楽部門銀獅子賞を獲得した。藤倉は「『WIRED』は本当に好きな雑誌で、そのトピックで曲を書いたりもしています」と受賞の喜びを語った。
藤倉大

 アウディジャパン株式会社マーケティング本部のシルケ・ミクシェ本部長は「テクノロジーで新たな未来を作りたいという共通の理念のもと、この賞を創設しました。通常のビジネスに囚われず壁を打ち破り、画期的な実績を残した方々を表彰しています」と同賞について説明。さらに「この賞を通じて、他のイノベーターと交流を深めていただき、新たなイノベーションやビジネスを産むきっかけになれば幸いです」と期待を込めた。

 そして、情報誌『WIRED』編集長の若林恵氏が「僕のたっての希望で、本日表彰したイノヴェイターの方に素晴らしい音楽を演奏して頂きます」と特別ライブ開催を案内。

 藤倉が「今日は『Sparks』と『チャンス・モンスーン』をやりたいと思います」と言い、クラシックギター奏者の村治奏一が演奏。普段のイメージを覆す前衛的な曲と演奏を前に、観客も静かに聞き入っている様子だった。

 英在住の藤倉は、作曲した「チャンス・モンスーン」について「長時間スカイプでやり取りしながら」と演奏を担当する村治とやり取りをしながら完成したことを振り返る。

 村治は「最後の敢えて音を出さないアレンジは藤倉さんのアイデアです」とイノヴェイターらしい発想を明かした。

 続いて坂本と藤倉による共演で即興ライブが披露された。今年について若林氏に尋ねられた、坂本は「忙しかったですね。まだ何日か残ってますけど、まだまだありますんで」と今年を振り返った。

 藤倉は演奏を前に「何にも決めないでやりましょうということだけを決めてきました」と明かす。坂本も「何にも決めないの、好きなんで」と即興演奏を好むと言う。

 グランドピアノを弾く藤倉と、ピアノの弦をマレット(鍵盤打楽器を叩く棒)などを使い叩いて新たな音色や反響の変化を出す坂本。最後は、高音部の座席に並ぶように坂本が座り、連弾のようなポジションで弾くものの、その合間も坂本は弦をいじり、アバンギャルドな音で会場を満たした。

 若林氏は「めちゃくちゃ良かったですね!」と絶賛し、会場からも盛大な拍手が起こった。坂本は「(演奏が)終わらないですね。楽しい」と童心に帰ったような笑顔を見せ、イノヴェイターたる由縁を感じさせた。【取材/撮影=松尾模糊】

MusicVoice

音楽をもっと楽しくするニュースサイト、ミュージックヴォイス

新着