CHAI 撮影:中磯ヨシオ

CHAI 撮影:中磯ヨシオ

“NEOかわいい”4人組「CHAI」のライ
ブがすごい! オンナもオトコも虜にす
る刺激的な魅力とは

2017年、熱い注目を集めたバンド・CHAI(チャイ)。彼女たちのライブはなぜオンナもオトコも夢中にさせるのか? ワンマンライブの模様をレポート!

2017年ももうすぐ終わり。今年の音楽シーンのトピックとして真っ先に挙げたいバンドがいる。
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今年、SNSやフェス、ライブイベントの現場で「CHAI」の4文字を目にする機会が増えた。チャイと読む。最新のアーティスト写真は鮮やかなピンクをバックに、顔を寄せ合ってニヤ~っと微笑む多幸感満載の女子4人の顔面どアップだ。すでにインパクトがすごい。
でももっとすごいのが彼女たちのライブだ。早々に宣言してしまおう。CHAIこそ、いま最もライブを見るべきバンドである! いや、それほどすごいんです、このバンド。
なにがそんなにすごいのか。渋谷WWWで開催された、1stフルアルバム『PINK』を引っさげたツアーの東京公演の模様から、CHAIというバンドの得難さを紹介したい。
CHAIは、双子の姉妹であるマナ(Vo.&Key.)とカナ (Vo.&Gt.)、そしてユウキ(Ba.&Cho.)とユナ (Dr.&Cho.)のリズム隊という4人組。2015年から本格始動している。
CHAIは自らを“ニュー・エキサイト・オンナバンド”と称する。いわゆる既存のガールズ・バンド的存在とは一線を画したいということなのだろう。そして実際に一線を画しまくっていることは、そのステージを見れば一目瞭然だ。
オーディエンスを引き込むためならどんな手でも使うぜ!と言わんばかりに、ときにMCで客をいじったり、ときに作品宣伝のためだけの曲を披露したり、ときに「ぶ~!」とブーイングを強制したり。
てんこ盛り盛りに盛られた4人のパフォーマンスは、バンドの本格始動からまだ2年ほどしか経っていないのに、アートフォームとしてすでに洗練されている。
とにかく客をノセるのがうまい! 各地の夏フェスやイベントで初見の客をおおいに盛り上げたパフォーマンスは、この日のワンマンでもさらにパワーアップ。すでにアメリカでのライブも成功させていて、軽々と国境を超えるポテンシャルを備えていることも実証済みだ。
では単に飛び道具的なパフォーマンスだけで注目を集めているのかというと、もちろんそんな訳はない。さらに魅力的なのがカラフルかつ骨太な楽曲と演奏だ。
インディー・ロック~ニューウェーブ~ポストロック~ヒップホップ――様々な音楽性を「これカッコいいよねっ」という抜群のセンスで無邪気にミックス。そんな楽曲たちを思わず息を呑む迫力の演奏で鳴らすCHAIのグルーヴは、盛り上げ重視の縦ノリではなく、腰にクる。
性別・世代・国籍関係なく思わず体を揺らさずにはいられない、広義のダンス・ミュージックとしてめちゃめちゃ高性能なのだ。
そんなサウンドとキャッチーなパフォーマンス、そのがっぷり四つっぷりが尋常じゃないから、CHAIのライブにはナマならではの爆発力がちゃんとある。本当にライブがうまいバンドって、こういうバンドのことを言うのだと思う。
ここまででCHAIのライブをおすすめする理由としては十分すぎるほど。だけどCHAIの魅力はこれだけではない。
さらに驚く! CHAIの魅力とは
とある夏フェスで偶然初めて見たCHAIのステージに衝撃を受けた自分。後日アルバム『PINK』を聴いてみてもう一度驚いた。彼女たちが歌っているその内容に、だ。
CHAIの音楽のテーマ、そのひとつに“コンプレックス”がある。もしかしたらこれだけ聞いて若干のアレルギー反応をおぼえる人もいるかもしれない。
というか現在32歳である自分も若干その節はあった。思春期の頃ならともかく、今さらコンプレックスって言われてもなあ、なんて。
でも心配無用。コンプレックスという言葉から連想されるステレオタイプなネガティビティは、彼女たちの音楽には存在しない。
コンプレックスとセットになりがちな、強烈な自意識、劣等感、卑下、自虐、必要以上の卑屈やその逆の開き直り、そういった安直なフィーリングは、CHAIの表現には皆無と言っていい。
じゃあ彼女たちはコンプレックスをどう表現しているのか? ここでこの日のライブMCでの、メンバーとお客さんのやり取りを紹介したい。
「みんなもコンプレックスある?」
「イエーイ!」
「じゃーあなた! あなたのコンプレックスってなに?」(と、ファンを指差す)
(指を刺された人)「声がヘンなところ!」
「えー! アニメみたいな声でかわいいじゃん! よく通るしねー」
「ねー! かわいいよ~」
「ヘンな声もかわいいよ!」
今思い出してもすごいMCだ。このMCに象徴されるように、CHAIの表現に通底するメッセージはシンプルに言うとたったひとつ。
「たとえヘンでも、ちょっと不格好でも、そのまんま、ありのままがいちばんかわいい(かっこいい)よ」
彼女たちはそれを“NEOかわいい”と呼ぶ(どんな敏腕広告マンも思いつけないだろう最高のコピー!)。
でも酸いも甘いも知った(気になっている)大人な(つもりの)俺はこうも思ってしまう。いや、それはわかる。そりゃそうあればいいのになって誰もが思ってるよ。それは当然じゃん。でもそう生きられないから悩むし、傷つくし、苦しいわけで――。
そんな意地の悪いツッコミをしてしまう捻くれ者の自意識を、そのぶっといビートとキュートなメロディ、そしてユーモアと知性たっぷりの言葉で、CHAIはゆっくりとほぐしてくれる。
CHAIのライブを見終えると、体と心がいつの間にかすっかり軽くなっていることに気づく。まるでスゴ腕のマッサージ師の施術を受けたあとみたいに。
でもマッサージと違うのは、マッサージは体の調子の悪いところを直しに行く場所だけど、CHAIのライブは自分でも気づかない、普段の生活の中でいつの間にか背負ってしまっている重~いものを、ふっと軽くしてくれるのだ。
その重さこそ、自分の心の中に沈殿するコンプレックスであり、この社会を縛り付ける既成概念なのだろう。
CHAIは、勝ち組/負け組といった言葉がすっかり定着してしまったこの国で、「そもそもその線引きってつまんなくない?」と笑顔で言ってのける。
凝りに凝った写真を加工しまくってSNSにアップし承認欲求を満たす人たち(もちろん自分を含む)に、「それもいいけどさあ、もっとかわいいこともあるんじゃない?」と、フランクに肩をたたいてくれる。否定も攻撃もせずに、目の前に漂うモヤモヤをサーッと晴らしてくれるのだ。
なぜCHAIにはそんなことができるのか。その理由はシンプルで、ものすごく純度の高い「そのまんま」を、他でもない彼女たち自身が体現しているからだ。
外野にとってはすべてが規格外で刺激的なCHAIのあり方は、当人たちにとっては至って等身大の、嘘のない姿なのだろう。だからこそ彼女たちのメッセージには説得力がある。
CHAIが優しく掬い取る「ほろ苦さ」
CHAIのライブは強烈にキャッチーでハッピーなものではあるけど、ただただ享楽的なわけではない。楽しいパーティが終わったあとでひとり眠りにつく夜の寂しさも、CHAIは優しく掬い取る。
この日のライブで自分は、いくつかの楽曲の隙間から否応なしにじんわり滲み出す、ほんの少しの、でも確かな苦みのようなものを受け取った。自らのコンプレックスとまっとうに向き合う過程で感じたほろ苦さを、CHAIはなかったことにしない。
目を奪われる鮮やかなピンク色、その裏に漂うウェットな感情がじんわり心に沁みてくるーーそこがとにかく素晴らしいライブだった。特にアンコールで披露された『sayonara complex』という曲は、これからもっともっと多くの人の心に残るアンセムになると思う。
というわけで、サウンドに踊り、パフォーマンスに笑い、メッセージにじんわり沁み、最終的には心身ともにスッキリしてしまうという、ものすごいライブをするバンドなのです、CHAIは。この日は性別も年代も色々なお客さんでギュウギュウになっていて、それもすごくいい感じだった。CHAIの表現は聴き手を選ばないのだ。
残りわずかな2017年、そして2018年もたくさんライブが決まっているので、少しでも気になった人は、近くで見られるうちに見ておいたほうがいいですよ!

アーティスト

ウレぴあ総研

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