『CREATORS INTERVIEW vol.6 カワム
ラユキ』――歌詞を書いて世に出すと
ころに辿り着くためにプロデュースを
する

ソニー・ミュージックパブリッシング(通称:SMP)による作詞家・作曲家のロングインタビュー企画『CREATORS INTERVIEW』。第6回目は、プロデューサー、作詞家、DJと多岐にわたり活動の幅を広げ、サム・スミス「ステイ・ウィズ・ミー」の日本語詞をはじめ、さまざまなアーティストの作詞やプロデュースを手掛けるカワムラユキが登場。DJから作詞家になった経緯や、コラボレーションしたアーティストとのエピソード、コンセプト・プロデューサーを務めるウォームアップ・バー「しぶや花魁」について、そして今後の展望などをお聞きしました。

一晩でわーっと騒いで終わるものだけじゃなく、後に残せることがしたいと思うようになった
――カワムラさんはDJ、作詞家、ラジオパーソナリティー、ブロガー、イベントやショップのプロデューサーと実に幅広い活動をされていますが、今、職業や肩書きを聞かれたらなんと答えてますか?
1つで言うのが普通になっているので、全部含めて、プロデューサーにしてますね。
――その中で作詞という仕事に関しては、ご自身の中でどんな位置づけにありますか?
最初に音楽に触れるきっかけがDJだったので、DJとしてかける音楽を作っていきたいと思う反面、DJとしてかける音楽とは別の側面からもっと深く音楽に関わっていきたいと思っていて。DTMをやっていた時期もあるんですけど、あんまり才能がなかったんですよね(笑)。それで、とある方に「詞のほうがいいんじゃない」と言われて作詞を始めたんですけど、今度はその歌詞を広めたり、ステージにあげたりっていうプロモーションも、DJをやっていたからこそできるタイミングがあって、360度になっていったという感じですかね。
――DJから作詞家になったきっかけをもう少し詳しく聞いていいですか。
私は90年代からDJをやっていたんですけど、同時に、まだブログがない時代からネットで日記をあげていました。「その視点が面白いね」って言われて、のちに携帯小説やブログを書き始めたんです。それが2000年代の中期頃かな。ブログはわりと要点をまとめた短文が多いじゃないですか。それが作詞のスケッチや素材になって、歌詞に転用できるっていう発想の転換は自分の中にはなかったんですけど、勧めてくれた人がいて。
――声をかけられてどう感じました?
それこそ10代から20代の中盤くらいまでがDJの旬なんですよ。現場も多いし、たくさんやらせてもらいました。でも、20代の後半になってくると、一晩でわーっと騒いで終わるものだけじゃなく、後に残せることがしたいと思うようになったんです。そのときに作詞を始めるのはアリかもしれないと思ったし、憧れの存在の一人に作詞家の安井かずみさんがいらっしゃったので、彼女の人生のステップを追いかけていくのは面白いかなと思いました。
――実際に作詞を始めてみてどうでした?
私がメジャーで作詞を始めたのは2000年代中期なので、音楽業界も混迷を極めていて(笑)。小さい頃は音楽業界や作家という存在がとても華々しいものに見えていたので、思っていたものとは違ったんですけど、そこからもう一回、発想の転換ができるようになるまでには何年かかかりましたね。
――作詞家としての発想の転換というのは?
自分の制作の仕方を見つけるっていうのが難しかったんですよね。自分にとって、制作はもっと自由なものだと思っていたんです。でも、そんなことはなくて。一定の規則やルールがあって、組織をクリアする力も必要。そういったものが軸にあって、制作が進んでいくっていうのがありまして。それをクリアしていくことを一生懸命にやるのも1つのスタイルだし、自分の確固たる制作方法を持って、そこに来るオファーを待つのも1つのスタイルだし。どっちが自分にできるんだろうって考えたときに、前者の才能がとてもなかったので、必然的に後者しかないなと思いました。
――前者でいうと、そもそも作詞のみのコンペというのが少ないですよね。シンガー自身が書くことも増えましたし、48グループや坂道シリーズは秋元康プロデューサーが全て手掛けてますし。
そうなんですよね。だから、私のニーズはどこにあるんだろうって考えたときに、詞を書かない方か、詞を書く部分に自由度を持っている方、今回のタイミングは人に書いてもらいたい方、もしくはタイアップで、アーティストが書いちゃうと上手くまとまらなさそうだから、作詞家に依頼するっていうパターン。それか、海外の楽曲を日本語にするものなんですよね。
――カワムラさんはクリス・ハートが歌ったサム・スミス「ステイ・ウィズ・ミー」の日本語カバーをはじめ、ATF(中国のアイドル)やWonder Girls、Brown Eyed Girls(ともにK-POP)などの日本語詞を手掛けてますね。
日本語詞はやりがいがありますね。海外の曲を日本語詞にするのは、DJとしても、自分の生きてきた感覚としても合っていて。日本語の字幕というか、日本語訳の絵本を作るような感覚なんです。原文のまんま書き出すんじゃなくて、原文にあるメッセージを日本のポップ・ミュージックの方程式に当てはめて、日本語の歌詞に置き換えるっていう。もともと、シルヴィ・ヴァルタンやフランス・ギャルの日本語詞も好きだったし、そこが自分の糸口になるなって思っていました。

作詞だけをやるのではなく、自分のブランドを作らないと生き残っていけない
――同時に、日本の文化を海外に発信する役割も担うようになりましたよね。
全然バイリンガルなわけじゃないんだけど、海外に対して日本を紹介する作品とか、そういったお仕事をいただけることがとても多いですね。世界で遊んでるからかな(笑)。あと、DJとして、もう1回オファーがたくさん来始めた時期があって。若い世代の人たちがフェスのブッキングや制作面でも相談してくれるようになったんです。そこで、作詞だけをやるのではなく、自分のブランドを作らないと生き残っていけないなと思いました。
――アーティストとして活動する中で作詞もするというスタンスですか?
いや、アーティストというよりはプロデューサーですね。簡単に言うと、私が秋元康さんにならないと意味がないっていう。ある程度のキャリアがあって、プロデュースもできる女性のプロデューサーがいないから、私にやらせてくださいって思ってます。だから、今はそこに行くステップに時間を割いてますね。
――具体的にはどんなことをされてますか?
例えば、最近は「ベタックマ」(LINEの動くスタンプ)を使ったスペースシャワーTVのCMのサウンドプロデュースをしました。また、YANAKIKUがJ-POP SUMMITで披露するために作った「チコイイネ」は久々に詞先に挑戦したプロデュース曲ですね。あと、フランス語やスペイン語にも訳される楽器を題材にした絵本を書いていたり、アーティストさんと一緒に詞を書くリリックディレクションという仕事もしています。
――2014年にはミュージック&アートプロジェクト「OIRAN MUSIC」を立ち上げてますね。
アンディ・ウォーホールのチェルシー・ガールズやヴェルヴェット・アンダーグラウンドが好きなので、アート活動に付随する音楽があったらいいなと思ったんです。所属アーティストの“ナマコプリ”は自分で全部やっています。ダンス・ミュージックの先鋭的なアーティストとリンクして、海外の人気DJたちの手によってULTRAでかかったりとか。想像できないことに発展があって嬉しいですね。
――コンセプト・プロデューサーとして、ウォームアップバー「しぶや花魁」や「代々木カリー」も手掛けてますが、「しぶや花魁」はご自身にとってどんな場所になってますか?
10代から20代までは、よく海外に行ってDJをしていたので、そのときにできた友達がみんな遊びに来てくれるんですよね。「しぶや花魁」がある道玄坂って、東京ドームや武道館ではなく、duo MUSIC EXCHANGEとかTSUTAYA O-EASTとか、WOMBとかclubasiaとか、これから上に行く方たちが出入りなさるエリアなんです。だから、新しい音楽の躍動を常々感じられる。海外のソングライターやミュージシャンも多いので、交流を図るにはいい場所だし、私のアンテナの1個としてやっていますね。
――安井かずみさんや加賀まりこさんが常連だった飯倉のイタリアンレストラン「キャンティ」のような存在になってる?
林真理子さんの「アッコちゃんの時代」のモデルになったアッコさん(キャンティのオーナー川添象郎氏の元妻)と息子さんが「ここが今のキャンティね」と言ってくださったことがあって。酔った勢いかもしれないけど(笑)、嬉しかったですね。ジャスティン・ビーバーカーリー・レイ・ジェプセンの曲を作っている人が嗅ぎ付けて遊びに来たり、コムアイちゃん(水曜日のカンパネラ)もよく遊びに来ていました。
――コムアイさんとは「金曜日の花魁」という曲でコラボしてますね。
こんなに時代の寵児になるとは思いませんでしたけど、一緒の現場が多い時期があったので仲良くなって。水曜日のカンパネラの中で他人が歌詞を書いた初めての曲だし、フィーチャリングもほとんどないので、珍しいかもしれないですね。金曜日の渋谷はあまり好きじゃなくて苦手だっていうことを書いてるんですけど(笑)、当時のインタビューでコムアイちゃんが「90年代から00年代に続く、カワムラさんの感覚を自分に憑依させてやってみました」って言ってくれたのが嬉しかったですね。その後、大スターになったのでよかったなって思うし、ブレイク寸前の彼女に関われたのは幸せです。

自分が出会ったものや見たものを、自分の仕事にどう活かせるか
――今は作詞家というよりはもっとトータルで見る方に興味が向いてる。
そうですね。年齢のステップとしてもそれが正しいと思うんですよね。20代まではDJで頑張って、30代は作詞に注力して、40代以降は場作りをしていく。今は作品を作ったら、フェスに出ようとか、ラジオのゲストに呼ぼうとか、CMに使おうとか。全部、紐付いていく。そういう広がりがあることが分かれば、クライアントさんも私に頼みやすくなるだろうし。普通の人に頼んでも面白くないから頼んでみようとか、今回はちょっと気分を変えて任せてみようっていう仕事が多くなっていて、とっても嬉しいです。
――12月21日にはカワムラさんがプロデュースや作詞で関わったアーティストが出演するショウケース型ライブイベント「カワムラユキ presents『Up & Coming 2017→2018』」が開催されます。
自分でDJもやらないのに「お客さん来てください」って言うことがあるとは思いませんでした(笑)。今年1年の中で、作詞やプロデュースで関わった方とか、ラジオやフェスでお仕事をさせてもらった方とか、そういう切り口でキャスティングできたのでよかったです。
――意外なところではモデルで作家の華恵さんの名前もあります。
去年、山代温泉の瑠璃光さんの25周年を記念して私が作らせていただいた写真詩集のモデルをやってもらったんですよ。彼女は今年、JFNの毎週月曜と火曜にお昼の番組をレギュラーで受け持っていて、何度かゲストで呼んでくれたりとご縁が深く、私もラジオをやっているので、ラジオっていうキーワードでも喋ろうと思っています。あと、cossamiのminamiちゃんも来てくれます。海外の有名な民謡に日本語の歌詞をつけたアルバムを出されたときにご一緒したんですけど、彼女は今、絵も書いているんです。作詞で関わった方のセカンドキャリアでも関わりが生まれているのも面白いので、そういったことも紹介できるといいなと思っています。
――Yun*chiさんにはアニメ『うーさーのその日暮らし』の主題歌「Lucky Girl*」の作詞を提供してますね。
今年は私がキャスティングの一部を担当させていただいた加賀温泉郷フェスに出てもらったりしたので、歌詞を提供させてもらったアーティストと、その後、イベントやフェスでの絡みがあるっていう側面を見てもらいたいなと思いました。あと、小南千明さんは浅田祐介さんプロデュースの新人。来年はさらに躍進の年になるでしょう。1曲作っていまして。これからに期待したい若いアーティストにも出ていただくので、是非遊びに来て欲しいです。
――2018年以降はどう考えてますか?
オーディション企画をやりたいんですよね。デビュー前のアーティストを育成して、それこそコムアイちゃんのようなポップアイコンを作りたいです。今って夢が持ちづらいじゃないですか。夢がないのって本当に辛いと思うんです。私ももちろん辛いこともありますけど、見た感じは明るくしていきたいし、進んで明かりを灯しましょうと思っていて。夢を売る仕事だからシャキッとしてないとねって思う。だから、オーディション企画も、シンデレラストーリーを作れたら面白いと思いますね。
――最後に、もう1回、作詞家になるためには? という質問に戻っていいですか。
やっぱり「遊びましょう」っていうことしかないかな。私は本をあまり読まないけど、いろんな人と出会って、いろんな人との会話だけはたくさんしてる。遊ぶことで視野が広がるし、人間関係においては出会いに何1つ無駄はないと思っていて。これからは、自分が出会ったものや見たものを、自分の仕事にどう活かせるかっていう力、チョイスする力が必要なんじゃないかなって思います。作詞ってやっぱり共同作業でしょ。一人で山小屋にこもってできるものではないんですよね。書くっていう作業だけはできるけど、“書くまで”と“書いてから”が大変なので。自分が思いついたのは、歌詞を書いて世に出すところに辿り着くには、プロデュースからしようっていうことでした。畑から作ろうっていう。なので、今、一生懸命に畑を耕しているところですね。

取材・文=永堀アツオ

プロフィール
カワムラユキ
作詞家、DJ。東京渋谷道玄坂発のミュージック・ブランド「OIRAN MUSIC」プロデューサー。毎週月曜16時は渋谷のラジオ、金曜20時にblock.fm、土曜28時は神戸Kiss FMにてナビゲーター&選曲を担当中。
[オフィシャルサイト] http://oiranmusic.com/yuki-kawamura-oiran-music-producer/
[所属事務所ページ] https://smpj.jp/songwriters/yukikawamura/

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