INTERVIEW / mouse on the keys 建築
× 音楽の新たな可能性を示すmouse
on the keys。建築界の巨匠・安藤忠
雄と彼らはどのようにリンクするのか
、その熱い想いを語ってもらった

元プロボクサーにして独学で建築を学ぶなど、異色のキャリアを持ちながらも、世界的に著名な建築家として知られる安藤忠雄による“安藤忠雄展―挑戦―”が国立新美術館開館10周年企画として、2017年12月18日(月)まで開催されている。
そんな本展示の目玉のひとつとも言える『直島の一連のプロジェクト』インスタレーションの音楽を、mouse on the keysが担当している。ポスト・ハードコア、テクノ、現代音楽などをミックスした独自なサウンドを作り出し、ミニマルで幾何学的抽象を思わせる映像演出によるライブ・パフォーマンスで、国内のみならず、海外でも多大な人気を誇るmouse on the keys。
昨年10周年を迎え、今年に入ってからは自主レーベル〈fractrec〉から初の作品『Out of Body』をリリースするなど、その節目に相応しい活動を行うmouse on the keysの3人に、今回はこの異色のコラボの裏側を訊くことに。
建築 × 音楽の交差点とは、そして、mouse on the keysの3人がどのようにして建築家・安藤忠雄に魅せられたのか、じっくりと腰を据えて語ってもらうことに。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Kohei Nojima
――まずは今回、mouse on the keysが“安藤忠雄展―挑戦―”のインスタレーションの音楽を担当するに至った経緯を教えてください。
川﨑:“安藤忠雄展”の映像を担当されている稲垣晴夏さんとお会いする機会があって、「僕は建築が大好きなので、もし何かお力添えできる機会があればぜひお声がけください」とお伝えしてたんです。そうしたら今回のプロジェクトの話を繋いで頂くことになって。
――実際に“安藤忠雄展―挑戦―”に行って、自身の音楽が使用されている様子を観て、どのように感じましたか?
川﨑:感慨深いですね。バンド結成当初から、安藤建築のような音楽を作りたいと考えていたので。今回僕らが音楽を担当したのは、“直島の一連のプロジェクト”のインスタレーションなんですが、映像、模型、照明、音楽が一体となった空間は素晴らしいですよ。みなさんぜひ足を運んでみてください。昨日も観に行ってたんですが、すでに5回目なので、もう来てる人の顔や様子ばかりを見てました(笑)。会場がかなり広いんですけど、僕らが音楽を担当しているインスタレーションのエリア以外にも、音楽が漏れて聴こえるんです。だから、他の展示への関わり具合とか、その日の混み具合での聴こえ方の違いなども確認してました(笑)。
――お客さんの反応などを見て、印象的だったことはありますか?
川﨑:直島インスタレーションのエリアは楕円形に壁で囲われていて、そこに入って体感するのですが、みなさん酔いしれているな〜っていう感じがして、すごく嬉しかったですね。途中で帰る人も全くいないですし。終わるまでジーっと観ていたり、もう一回観にくる人もいましたね。このプロジェクトに参加出来て本当に光栄です。
――そもそも、安藤忠雄さんの作品との最初の出会いはどのようなものだったのでしょうか?
川﨑:意識して建築に興味を持ったのは2003〜2004年頃で、安藤忠雄さんの写真集や『連戦連敗』などの本を読んだのが最初のキッカケでしたね。当時は、建築に関する知識がほとんどなかったので、単純に建築写真の美しさに惹かれつつ、専門用語や固有名などが頻発する建築書のなんだかよくわからないけどおもしろい所にもハマりましたね(笑)。
川﨑:そんな流れで、ル・コルビジェ、ルイス・カーンや丹下健三などのモダニズム建築、そして、それを継承しつつ、進化させた安藤忠雄建築に惹きつけられました。実際に建築物を見に行くようにもなり、都内にある安藤建築もほぼ見に行きましたし、直島にも4回ほど行きました。特に地中美術館が好きで、美術館内を移動すると、壁の傾斜、細長いスリットの動きなどが、あたかも音楽のように感じられるんですよね。そこで、こういうような音楽が作りたいと思うようになりました。
――最初は「何だかよくわからないけどおもしろい」という知的好奇心から興味をもったというモダニズムに、川﨑さんが本格的に惹かれることになった一番の理由は何だったと思いますか?
川﨑:その頃、第二次世界大戦前後に欧米モダニズムを日本人なりに昇華させようとしていた巨匠たちがいることを知りました。村野藤吾、吉田五十八、堀口捨己、白井晟一、前川國男、丹下健三、剣持勇、重森三玲など。ここには明治維新から続く近代化の問題があって、近代化する中で日本人の表現、世界の中でどのような表現で対抗しうるのかという問題があるんだなと僕なりに解釈したんです。僕らは音楽やバンドというスタイルでやって来きていますけど、同じ国/地域で生まれ育った者として、同じ問題を抱えているなと。そこでモダニズムに興味を持ったわけです。
そして、安藤忠雄さんですが、この頃の自分の感覚だと、モダニズム建築の範囲の建築家なのだろうなと思っていました。しかし、色々と知るうちに、先に触れた日本のモダニストが意匠的に伝統へのこだわりが明らかにあるのに対して、安藤建築にはそれがないか、気づかない塩梅になっているんですね。さらに加えて、一見欧米モダニズム建築のようで、光や風を取り込む、自然との調和を目指すある種日本の伝統的美意識が感じられます。安藤建築が、国内では欧米的に感じられ、海外では日本的と言われ、高い評価を得ているのも頷けますよね。安藤忠雄建築は、明治維新以来の現代日本人が問うてきたことのひとつの到達点なんだと思います。僕はmouse on the keysを結成するにあたって、音楽で安藤忠雄さんのような思考や美意識を表現したいと思って、今に至っています。
――それは具体的にはどういったことですか?
川﨑:何と言えばいいんでしょうかね。一聴して、欧米のモダンな音楽に聴こえるようで、緻密さや繊細さは日本的、と言えばいいでしょうか。僕らは、安藤建築同様にあからさまな日本感はないが、緻密な日本的美意識を感じると海外で評価されています。僕は、昔から日本人としてのアイデンティティを持ちながら、世界と対等に渡り合いたいという強い想いがあったので、今の状況に至れたのは嬉しい限りですね。これも建築並びに安藤忠雄さんの思想を知ったからこそですし、だからこそ、今回の安藤忠雄展に参加出来たことは、今までやってきたことが報われたように思いますね。
――ここまでかなり熱量高く建築、そして安藤忠雄先生への想いを語っていただきましたが、こういった想い、そしてそれをバンドとリンクさせようとするアイディアは、メンバーとも共有されているのでしょうか?
川﨑:もちろん共有しています。mouse on the keysを始めるにあたって色々な話をしていく中で、建築や安藤先生の話もしましたし、安藤先生の本を回して読んでもらったりとかもしました。今では、メンバー間でmouse on the keysらしさという共通認識を言葉を交わさずとも持っています。
――では、今度は“安藤忠雄展―挑戦―”のインスタレーションに提供した楽曲についてお聞きしたいと思います。シングルには「The Beginnings」、「The Prophecy」の2曲が収録されていますが、それぞれどのようなプロセスを経て完成した楽曲なのでしょうか?
川﨑:最初映像はなく、頂いた絵コンテのみで作曲しました。「The Beginnings」は新留が、「The Prophecy」は僕が作曲して。映像が届いてから、さらに微調整を繰り返して完成させましたね。
――今回の楽曲は、ドラムレスでかなりアンビエント色の強い作品となっていますよね。
川﨑:そうですね。最初に稲垣さんからピアノ主体のアンビエント曲がいいというオーダーを頂いていましたから。さらに僕らの持ち曲の中でアンビエント色の強い曲を安藤忠雄さんや所員の方に聴いて頂いた時に、特に「Completed Nihilism」を気に入って下さったので、その方向性で作曲していったわけです。
――「The Beginnings」、「The Prophecy」というタイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか?
川﨑:インスタレーションを観てもらえればわかると思うんですが、段々と建物ができていくというシーケンスになっているので、シンプルに「始まり」=「The Beginnings」というタイトルにしました。もうひとつの曲「The Prophecy」は予言という意味です。映像の終盤に夕陽が出てきて、上空からの空撮で終わるんですけど、それが何か単純な「終わり」ではなく、これからに繋がっていくような何かを予言しているように感じられたんですよね。あとは、このインスタレーションや“安藤忠雄展”で何かを感じ取った人たちが、新しい未来を創り上げていってくれればいいなって、そういう想いもあります。
――シングルのアートワークも印象的ですが、これはどのようなことを意図して?
川﨑:アートワークは三浦義晃くんっていうカメラマンでもあり、デザインもやられている方にお願いしていて。何枚か候補として挙げてもらったうちの中から、今回の配信では、あまり具体性を持たせないアートワークの方がいいなと思ったので、この写真を選ばせてもらいました。
――そもそも、この写真は何の写真なのでしょうか?
川﨑:僕らもわからないんですよ(笑)。
新留:でも、そういうところがいいんですよね。
川﨑:水面か、泥の表面なのか……。先程も言ったように、あまり具体的な意味を持たせたくなかったので。
――日本人としてのアイデンティティを持ちながら、「世界に認められたい」、「世界と対等に渡り合いたい」という想いが強くあったと先程語られていましたが、すでにmouse on the keysは何度も海外ツアーを行っており、ニューヨークやロンドンでは東京を超える集客もあったりと、すでに世界から認められていると言えますが、実際に海外で受け入れられているといった実感は得られていますか?
川﨑:そうですね。お客さんの反応もダイレクトですし、バンドは今年で11年目なんですけど、「高校生の時から聴いてました」ってアメリカやイギリスの方から言われたりして、不思議な気分になりましたね。
新留:「何年も待ってました」って言ってくれたりね。
川﨑:見た目は完全に僕らより年上に見えてしまうんですけどね(笑)。
新留:歌詞がないぶん、ライブ中に僕らの曲のメロディを口ずさんだりしてくれたりもしてくれて。だから、単に物珍しい感じで観に来てくれてるんじゃないんだなっていうのは感じます。
川﨑:特にブラジルのサンパウロはすごかったですね。僕らのCDはそこでは流通していないのに。
新留:僕らがブラジルに行った時はまだSpotifyもApple Musicもなかったので、たぶんYouTubeか違法ダウンロードで聴いてたんだと思うんですけど、僕らの曲歌ってくれて。純粋にスゴイなって圧倒されましたね。
川﨑:バンドによっては厳しい条件を突きつけられる中国でもかなり反響があったんですよね。僕らはインストなので、政治色がないという判断をされるのと、ライブの時にスーツを着るので、上品なものだと判断されやすいんでしょうね。
――なるほど。
川﨑:あと、そうやって実際に海外に行って、現地の方々と話してみると、さっき話したような近代化の問題から来る欧米コンプレックスは、幻想だったんじゃないかと思わされるんです。
――今回、mouse on the keysを通じて初めて建築に興味を持った方や安藤忠雄展に足を運ぶ方、もしくは運ぼうかなと考えている方も多くいるかと思うのですが、そういった方々にアドバイスをするとしたら、どのような言葉をかけますか?
川﨑:“安藤忠雄展”に関しては、音声ガイド(有料:550円)を借りて、それを聞きながら作品を観ることをオススメします。安藤先生のぶっちゃけトークは必聴です! 絶対借りた方が100倍楽しめますよ。さらに今回すごいのは、安藤忠雄さんのギャラリー・トークをかなりの頻度でやられてる点ですね。できるだけご本人がいらっしゃる時に行くのがいいと思います。
新留:作品だけじゃなくて、安藤忠雄さんっていう人間の魅力がすごくて。「こんなすごい人がいたんだ」ということがわかるだけでも、行く価値はあると思います。
川﨑:建築に興味を持った方々へのアドバイスとしては、日本には、建築界のノーベル賞であるプリツカー賞を受賞している建築家が6人いますし、世界に名だたる建築家も数多く存在する。日建設計のような組織系設計事務所もあり、日本のゼネコンは世界一の技術力を誇っています。建築は、色々な方が関わって成り立つ分野ですが、入り口として、まず建築家の方々の書かれた本を読むのをお勧めしますね。
建築家というのは、社会に関して非常に考えなくてはならない職業ですので、他業種の人々が読んでもヒントが数多くあると思います。そして、実際に建築物そのものを観に行くべきでしょう。
一般的に、建築は敷居が高い分野だというイメージが強いかもしれないですが、安藤忠雄さんはファッション・デザイナーの三宅一生さんやコシノジュンコさん、彫刻家のイサム・ノグチさん、具体などの前衛グループと交流されてきましたし、僕らのようなバンドともコラボが実現したように、垣根を越えることは決して不可能なことではないと思います。
2016年イギリスで、アセンブルという建築グループが現代アートの賞であるターナー賞に輝きました。評価されたポイントは、住民を巻き込んだ地域再生、デザインされ過ぎていなかったことがあげられますが、これは垣根を越えたひとつの例であり、新しい時代の潮流を象徴しています。実は日本でも、浜松を拠点とする403Architectureという刺激的な建築家集団が存在し、リノベーションやインテリア改修といった小規模物件、また「まちづくり」を同時に手がけています。僕は以前、403Architectureの辻琢磨さんと対談をした際に、建築家・青木淳さんの本『原っぱと遊園地』をお勧め頂き、読ませて頂いたところ非常に感銘を受け、青木さんの大ファンになりました。また、青木さんは青森県立美術館やルイ・ヴィトンの商業施設などを手がける日本を代表する建築家ですが、建築を思わせる文学などを選び抜いた『建築文学傑作選』を出版されていて、文学好きな人などは、この本から建築の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
――mouse on the keysは自主レーベルから初の作品『Out of Body』をリリースしましたが、今バンドはどのような状態であると言えますか?
川﨑:11月30日(木)に“FRACTREGION Vol.1”というワンマン公演が控えているんですけど、これはある意味、mouse on the keysのこの先の10年の始まりを表す内容になるんじゃないかと思うんですよね。今曲作りをしている最中なんですが、来年はアルバムを出そうと思っています。去年10周年という節目を迎えて、改めてこの先の、新たなmouse on the keysをどう作るか、どう変化させていくかっていうのを探っている状態ですね。インディペンデントながらも海外にも行き、自主レーベルも作ることができました。なので、今後はより社会に向けてしっかりと対応できるような体制に整えていきたいですね。
――タイトルに“Vol.1”とある通り、このイベントは今後も開催していく予定で?
川﨑:はい。新たな10年の第一弾ということで、すごく意味のあるものだと感じていますし、今回はスペシャル演出として、安藤忠雄建築 meets mouse on the keysという形でパフォーマンスする予定です。だから、みなさんぜひとも11月30日のライブと安藤忠雄展に来てください!
【イベント情報】

“FRACTREGION Vol.1”

日時:2017年11月30日(木) 開場 18:30 / 開演 19:30
会場:WWW X
料金:スタンディング¥3,500(税込・ドリンク代 500 円別)
※小学生以下のご入場不可
企画:fractrec
制作:SMASH COPRPORATION
【リリース情報】

mouse on the keys 『The Beginnings / The Prophecy』

Release Date:2017.10.18 (Wed.)
Label:fractrec
Tracklist:
1. The Beginnings / The Prophecy (TADAO ANDO : ENDEAVORS Version)
2. The Beginnings (Long Version)
3. The Prophecy (Long Version)
■mouse on the keys オフィシャル・サイト:http://mouseonthekeys.net

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