怪電波で裏切り連続! 「狂気」の祭
典~「ザ・ぷー」ワンマン・ライヴ『
怪電波放送局』ライブレポート by
高木大地(金属恵比須)

「いたいけな若者から、富裕層のお年寄りまで」
――楽しめるというのがコンセプトの国際派国際的怪電波ユニット「ザ・ぷー」ワンマン・ライヴ『怪電波放送局』の千秋楽を見に、ジョン・レノンの名曲の名を冠したニッポン放送イマジンホール・イマジンスタジオに。11月12日、日比谷へと赴いた。
もともと「ザ・プーチンズ」と名乗っていたが、諸事情により「ザ・ぷー」と改名してから今回が初めてのワンマン・ライヴ。
このユニット、「音楽ユニット」なのか「演劇ユニット」なのかイマイチよくわからない。音楽に関しては、基本的には4つ打ちのダンサンブルな曲が多く、時折箸休め的なボサノヴァも交え、メロディは必ずテルミンで奏でられるという、本格的な基盤を持つ。
にもかかわらず、歌詞がいたってシュール。曲調を台無しにするかのような意味のないことを淡々と歌い上げる。
そしてライヴでは、その歌詞に合わせ、事前に長いMCが入る。つまりは「ショートコント」のようなノリだ。
ザ・ぷーのライヴはその繰り返しによって構成される。だから「音楽ユニット」か、「演劇ユニット」かがわからない。
しかし、このシアトリカルなステージこそが彼らの魅力なのである。
会場を見渡せば、10代から50代までの幅広い年齢層で埋め尽くされていた。さすがに「富裕層」らしき「お年寄り」までは見受けられなかったものの、多くの世代から支持されていることがわかる。
開演20分前、突如として館内放送が。声は、メンバーの1人(1匹?)である川島さる太郎。テルミン奏者の街角マチコに声色がそっくりだが、あるいは気のせいかもしれない。
さる太郎
そこで、『藤井隆のオールナイトニッポン』に出演したという報が。実際にその放送が流される。マチコとさる太郎の声が「グラデーション」していたとのツッコミを受け、ザ・ぷーの面々はタジタジという場面も。
そして開演時刻から少し過ぎたころ。スクリーンが現れ、楽屋でのメンバーが映される。“かの大統領”からの差し入れだというボルシチドリンクを飲むメンバー。卒倒し、中継が途絶える。そこでスクリーンには“かの大統領”が登場。毒を盛って暗殺をしたと告白し、後悔をする。なぜか“かの大統領”は関西弁である。
その間に、黒子によって白い布をかぶせられた移動式ベッドが運ばれる。まるでピンク・フロイド「走り廻って」。しかし、解毒剤を飲んでいたということで立ち上がった街角マチオ(ギター、ヴォーカル)と街角マチコ(テルミン、ヴォーカル)。
生き返るマチコマチオ
踊り狂えそうな「THE KAIMEI」で幕を開け、改名を高らかに宣言する。メドレーで「シンデレラIII」に。お米の愛を語る歌で「♪ゲンマイ、ハクマイ、ゴコクマ~イ」のコール&レスポンスが気持ち良い。そして、後々まで頭に残り、お風呂の中でも口ずさんでしまうフレーズ。
続いて人気曲「恋愛契約書」。恋人の恋愛模様を法律用語でラップするザ・ぷーの金字塔ともいえる曲だが、ライヴも個性的だ。観客から有志を集め、まるで契約書のごとく男を「甲」と、女を「乙」とし壇上に乗せ、「甲」と「乙」に手を繋がせるというパフォーマンスが待っている。今回はいつもより多めの人数が駆り出され、曲の終了後もまだ手を繋がせるパフォーマンスに従事していた。「乙」(女)側が1人多く舞台に上がったため、1人の「甲」(男)が女性2人に挟まれ手を繋ぐというぜいたくな場面も。こういったアクシデント(?)も余裕でさばくマチオのMCは天下一品である。
恋愛契約書
ここで振付練習のコーナー。マチオは星野某の「某ダンス」がヒットした際、非常なる嫉妬を覚えたそうだ。それよりも簡単な振り付けをと、「ガリダンス」の練習を。
「♪G. A. L. Y. ガリガリガリガリ はいどうぞ」
という振付を観客とひたすら練習した後、本編の「星空とガリ」。マチオがの昔の彼女に何としてでもガリを食べさせたくて、羽交い絞めにして食べさせたときに思いついた曲だそうだ。サディスティックな動機とは裏腹におしゃれなボサノヴァ風という対比が素晴らしい。
街角マチオ
ショートコントに突入。
明治時代のデートを再現し、当時の物価がいかに低かったかを面白おかしく表現。そこから「ハイパーインフレイション」に突入する。
「♪物価上昇、気分上昇」
のフレーズが耳にこびりつく。
次なるは、大告知。
なんと来年1月より3ヶ月間、渋谷の交差点のスクリーンにマチオが登場するとの報。しかし「街角マチオ」ではない。全身赤いタイツを身にまとい、サングラスをかけた「信号マチオ」というキャラクター。
「♪マーチオマチオ、マチマチマチオ
♪マーチオマチオ、信号マチオ」
との悪魔の呪文のような歌に合わせ、踊るというシュールな映像が流れる。これがなんと、渋谷の公衆の面前で流れるのだ。
あまりに唐突でビッグな告知に、観客はちょっと戸惑い気味。なにせ、演劇の要素が多く入り混じるザ・ぷーのステージ。どこかに落とし穴があるのではないかと警戒するのだが、れっきとした事実。これで渋谷の信号待ちは少し楽しくなるかもしれない。
信号マチオ
再び曲に戻る。「人とサルの境界線」。NHK教育番組の科学の番組を彷彿とさせるサイエンティックな映像が流れるあたりが、ロジャー・ウォーターズ『死滅遊戯』を想起させた。たまに(ごくたまに)真面目なテーマを考えさせるのも、彼らの曲の特徴。
「次の曲はエリック・サティ」
と、テルミンを奏でようとするマチコ。しかし、そのテルミンが鳴らない。
ここから、ステージの逆方向を向けとの指示。この時点で常軌を逸した狂気のステージであると確信するが、後ろで始まるのはなんと人形劇。テルミンを直すために「怪電波神社」を探しに行くというストーリー。怪電波神社は、「威魔神古墳」にあるという。「威魔神」とはつまりここ「イマジンスタジオ」をもじったことがうかがえる。魔神怒るぞ、ヨーコ怒るぞ。
人形劇
リアに設置されたスピーカーから音が流れていた人形劇だったが、終わった途端フロントスピーカーから流れるのは、はたまたダンサンブルなリズム。前後に音空間を使い分けるのがまたピンク・フロイドの立体感のようだ。「バックヤード」という曲の始まりである。マチオ曰く、
「アルバムに入ることのない曲」
とのことで、今回のワンマンのための曲らしい。レア曲だからこそ凝視しなければと思うのだがそうは問屋が卸さないのがこのステージ。観客を立たせ、ニッポン放送のバックヤードへと誘(いざな)う。観客全員が順々にバックヤードに入り、レアな曲は舞台上でひたすらマチオが歌って踊るのみ。
観客のいないステージで淡々と演奏をこなす――古代ローマの遺跡において無観客で行なわれたピンク・フロイド『ライヴ・アット・ポンペイ』を彷彿とさせる。「古墳」という遺跡を舞台にしているのにも相似点。
怪電波神社
無事にテルミンが直ったということで、おなじみ「いきなりテルミン」に突入。
「♪男だったらテルミンを弾く女狙え
♪女だったらテルミンで女子力上げろ~」
街角マチコ
わからない。まったくわからない。テルミンで女子力が上がる根拠がわからない。80年代のアイドル風の曲調ですべてがサビという歌謡曲。続けて「僕のプリン食べないで パートII」。そこからマチコによる物販の案内。あまりにしつこく、音声がフェイドアウトされる中、再び流れてきた悪魔の呪文。
「♪マーチオマチオ、マチマチマチオ
♪マーチオマチオ、信号マチオ」
ステージ上手の壁の幕が上がり、ガラス越しにランニングマシンに乗った街角マチオ、ならぬ信号マチオが登場。全身赤タイツでサングラスの姿でひたすら走っている。
ナニコレ変身
「お前たちは今、世界一恥ずかしい格好をしたアーティストをスマホで撮っている」
と自虐MCを挟み、最終曲「ナニコレ」に突入。本当に恥ずかしかったのか、おもむろに脱ぎ出す。しかし、下は緑のタンクトップにハチマキ姿。大ヒット曲であるこの曲の衣装である。これはこれで恥ずかしい。
「♪上から目線、下から目線、舌絡めません」
と、熟語のしりとりゲームのような意味のわからない歌詞が続く軽快なダンス曲。
ナニコレ変身
観客は熱狂の末、大団円。
ステージ上にはクラシック・ギターとテルミンのみ。実際に演奏される楽器はその2つで、あとのバックはテープの「ポン出し」という、通常のライヴとは一風違ったかたちのライヴではある。
しかし、私のような現役プログレ・ミュージシャンがこのステージの虜になってしまうのは、ひとえに「構成力」にある。
とにかく飽きさせないエンターテイメントショーなのだ。期待するところは期待通りに応え、その端々に期待を裏切る常識はずれの展開が待っている。
いくつかの事例でピンク・フロイド関連の言及をしたが、彼らのエンターテイメント性に近いにおいがする。予想のつかない裏切り方の気持ち良さは、『狂気』のサラウンド効果や、『ザ・ウォール』にて観客との間に壁を築いてしまうパフォーマンスに魂がそっくりだ。
そのような偏狭な人間が楽しめているのだから、「いたいけな若者」でも「富裕層のお年寄り」でも十分に楽しめる内容だったのではないか。今後のザ・ぷーの狂気の裏切りに期待したい。そして、次は「富裕層のお年寄り」っぽい人も観客には混じってもらいたいものだ。
取材・文=高木大地(金属恵比須)

公演情報(終了)

ザ・ぷー改名後初のワンマン公演「怪電波放送局」

■日時:
11/10(金) 夜:開場18:30 開演19:30
11/11(土) 昼:開場13:00 開演14:00
11/11(土) 夜:開場18:00 開演19:00
11/12(日) 昼:開場13:00 開演14:00

■場所:ニッポン放送B2イマジンスタジオ
千代田区有楽町1−9−3 ニッポン放送本社ビルB2
JR有楽町駅 徒歩3分 日比谷線 徒歩1分
■企画・制作:Grand Pacific Work
■主催:ニッポン放送
■公式サイト:http://theremin-unv.com/putins/?p=1164

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