若手チェリスト伊藤悠貴が『サンデー
    ・ブランチ・クラシック』初登場!
    福原彰美と奏でる秋の調べ

    “サンデー・ブランチ・クラシック” 2017.10.29ライブレポート
    「クラシック音楽を、もっと身近に。」をモットーに毎週日曜の午後、東京・渋谷・道玄坂のeplus LIVING ROOM CAFE & DININGで開催されている『サンデー・ブランチ・クラシック』。10月29日は内外で活躍する注目の若手チェリスト伊藤悠貴、ピアニスト福原彰美が登場した。2010年にブラームス国際コンクールを制し、翌年に英フィルハーモニア管弦楽団定期公演でメジャーデビューを飾った伊藤は、今回が『サンデー・ブランチ・クラシック』初お目見え。一方の福原は、ソロ出演した10月8日の同イベントでブラームスの名曲を披露したばかり。11月15日にそれぞれ新アルバムの発売を控えた2人が、初共演とは思えない息の合った演奏を繰り広げた。
    ハロウィ-ン直前の10月最後の日曜日。台風22号の襲来が重なるというタイミングだったが、開演前にはほぼ客席は埋まり、老若男女がゆったりと食事や談笑を楽しみながら、主役たちの登場を待っていた。
    福原彰美(ピアノ)、伊藤悠貴(チェロ)
    午後1時。黒の上下に真っ白のジャケットを羽織った伊藤と、真紅のドレス姿の福原が現れ、拍手で迎えられた。まずはおなじみ、エルガーの「愛の挨拶」から。ブランチにふさわしい、爽やかで上品な調べが耳に快い。チェロが時折脇に回ってピアノが主旋律を奏でたり、リピートのたびに音色やニュアンスが変化したり。2分半程の曲に、聴く者を飽きさせない工夫がちりばめられており、演奏終了と同時に「ブラビー!」の声が掛かった。
    伊藤が「皆さま、おはようございます」と笑顔で語りかけ、すぐさま「あ、おはようございますっていう時間じゃないですね。こんにちは」と言い直した。すると、福原も明るい声で「こんにちは」と唱和。トークにも阿吽の呼吸が垣間見える。再び伊藤。「日本でコンサートでやる時は大抵、晴れるんですけど、大雨になってしまって……大変足元が悪い中、来ていただいて誠にありがとうございます。きょうのコンサートは、耳馴染みの良い作品から、聴くのが初めてというような曲まで、いろいろな国のいろいろな小品を集めてみました」
    福原彰美(ピアノ)、伊藤悠貴(チェロ)
    ここで初共演の経緯について言及があった。きっかけになったのは、ファッションブランド・シャネルによるクラシック支援企画『シャネル・ピグマリオン・デイズ』。ブランドの創業者ガブリエル・シャネルが無名時代のストラヴィンスキーらを支援したことにちなみ、シャネル銀座ビルのオープン(2004年)とともに始まった。才能ある若手アーティスト数人を選出し、同ビル内のホールで年6回コンサートを開く機会を無償提供するという試みで、2人は同じ時期に、その「シャネル・ピグマリオン・デイズ・アーティスト」に選ばれている。福原によると、「年6回のコンサートはソロですが、毎年秋にアーティストが集まって室内楽を行うフェスティバルがあり、そこで何度かお目にかかっているんです。演奏を聴いて素晴らしいと思い、いつかぜひ一緒にやりたいなと思っていました」。それで今回、伊藤との共演をリクエストしたのだという。
    2人が『シャネル・ピグマリオン・デイズ』で出会ったのは2014年。当時、直接言葉を交わす機会はなかったそうだが、コンサート後に確認したところ、伊藤の方も「福原さんが素晴らしいっていう話は周りの方からもいろいろ伺っていて……」と話していた。ちなみに2人には15歳で英語圏(伊藤は英・ロンドン、福原は米・サンフランシスコ)に留学したという共通点もある。
    伊藤悠貴(チェロ)
    トークの中で、次に取り上げるシューマンの「献呈」、スクリャービン「ロマンス」について伊藤が概略を説明し、演奏へ。2曲目の「献呈」は連作歌曲「ミルテの花」の1曲目で、ピアノと声楽のための曲を伊藤自身がチェロ用に編曲したという。幸せに満ちた、流れるように美しい旋律をチェロが担い、ピアノが柔らかく支える。「ミルテの花」は、シューマンが生涯のパートナーとなるピアニスト・クララに結婚直前に捧げた作品。男性の声域と重なるチェロによって奏でられると、さらに「愛の歌」の色合いが深まるように感じられた。3曲目「ロマンス」も愛の歌だが、曲調はやや哀調を帯びる。喜びと不安が交錯するような繊細さで奏でられ、1曲目の「愛の挨拶」同様、同じフレーズが現れるたびに表情を変えていく。そして最後はチェロのソロで幕。この曲もチェロ・オリジナルではなく、元々はホルンとピアノのために書かれたものだという。
    伊藤が再びマイクを取り、次の2曲を紹介した。4曲目は現役の日本人作曲家でピアニストの雁部一浩による「ロマンス」、次がチャイコフスキー作曲「ユモレスク」。前者はフルートとピアノのための楽曲を伊藤自身が編曲したもので、後者は現代を代表するチェリストの一人・ゲリンガスが編曲を手掛けた。「ロマンス」は物思う秋にぴったりの小品。チェロとピアノがさりげなく主客を交代しながらゆったり進んでいく。「ユモレスク」は打って変わって軽やかにスタート。高音域と低音域、軽快と重厚、動と静を激しく行き来しながら、一部に民族音楽的なフレーズも紛れ込むという洒落た一品だった。
    福原彰美(ピアノ)
    伊藤悠貴(チェロ)

    中盤に差し掛かり、2曲ずつ演奏してトークという流れにリズムが出来てきた。6曲目は英国の作曲家アイアランドの「聖なる少年」で、7曲目がリヒャルト・シュトラウスの歌曲から「あなたは私の心の冠」。ともに思い入れの深い作曲家ということで、伊藤のトークも長くなっていく。
    「アイアランドは日本では余り知られていませんが、英国ではエルガーやブリテンと同じように賞賛されている作曲家です。『聖なる少年』は元はオルガン、あるいはピアノのための曲。歌詞がついていて、今でもロンドンから少し離れた田舎にいくと、クリスマスの時期に演奏されているんですよ。それから、次のリヒャルト・シュトラウスは日本では大掛かりなオーケストラ曲が取り上げる機会が多いかと思いますが、今日は彼が残した歌曲から1曲、僕の編曲で演奏させていただきます。僕は編曲が大好きなんです。世の中にはチェロ以外にも素晴らしい曲がたくさんありますので」――。アイアランドの「聖なる少年」はゆっくりしたテンポが特徴。優しい響きが心にしみ、まさに聖夜にふさわしい作品だった。R・シュトラウスの「あなたは私の心の冠」は朗らかな愛情を感じる一曲。女性歌手がレパートリーにすることも多いが、チェロの音域で奏でられるとまたニュアンスが違ってくる。編曲の妙を感じた。
    福原彰美(ピアノ)、伊藤悠貴(チェロ)
    コンサートもいよいよクライマックスへ。8曲目には、デビューアルバムでチェロ全集に挑むなど伊藤がライフワークとするラフマニノフ作品を取り上げた。曲目は歌曲集「6つのロマンス」の3曲目「夜のしじま」で、これも伊藤自身の編曲だ。名ピアニストでもあった人の曲らしくピアノの比重が重く、福原の奏でる多層的できらびやかな響きが全編を彩る。優美なチェロとの絡みも絶妙。ラフマニノフのロマンティックな魅力が凝縮された名演となった。
    そしてラストはユダヤ系チェコ人の作曲家兼チェリスト、ポッパーの「ハンガリー狂詩曲」。伊藤の十八番である。「編曲作品が続いてきましたが、最後はチェロ・オリジナルの曲になります。初めて聴かれる方も多いかと思いますが、ポッパーはヴァイオリンで言えば、パガニーニのような存在。チェロのテクニックを駆使した難しい作品をたくさん書いています」。その言葉通り、チェロの超絶技巧がぎっしり。肉眼ではとらえきれないほどの速さで左指を上下左右に滑らせたかと思うと、弓もアクロバットといってもいいほど派手な動きを重ねる。色彩の異なる7つのハンガリー舞曲をモチーフにしているということで、テンポもタッチも様々。目まぐるしく変化していくのにそれが自然な流れとなり、知らず知らずのうちに乗せられていく。ツィゴイネルワイゼンを思わせる民族色の濃いロマンチックな楽想も登場し、7分半の演奏が終わった時にはともに疾走したような充実感を味わった。
    福原彰美(ピアノ)、伊藤悠貴(チェロ)
    拍手と喝采にこたえ、「今日は『ヨーロッパの旅』のイメージで、イギリス、ドイツ、ロシアなどの作品を取り上げてきました。アンコールはスペインの曲になります」と伊藤。演奏の前にそれぞれの近況や今後の活動についてコメントがあった。福原は「12月は米国のチェリスト、クリスティーヌ・ワレフスカさんと一緒に中国や台湾で演奏した後、22日にはピエール・アモイヤルさん(ヴァイオリン)、ナサニエル・ローゼンさん(チェロ)、清水祐子さん(ヴィオラ)と一緒に山梨市で室内楽のコンサートを行います。それからブラームスの生誕120年を記念し、小品を集めたアルバムを作らせていただきました。発売日は悠貴君のCDと同じ11月15日です」。続けて伊藤が12月9日の「向山佳絵子+伊藤悠貴チェロDUOリサイタル」を始め、12月にかけてのコンサートを告知。「11月15日に発売される僕のセカンドアルバム(『ザ・ロマンティック』企画制作=ソニー・ミュージックダイレクト)には本日演奏した曲もたくさん入っていますので、チェックしていただければと思います」
    アンコールは、ファレ作曲のスペイン民謡組曲の第1曲「ムーア人の織物」。福原から紹介に続いて演奏へ。アンダルシア独特の鋭いリズム感覚と哀愁を帯びた旋律。血のにおいすら感じさせる情熱的な曲を加えたことで、「ヨーロッパの旅」にもう一つの色合いが加わった。
    福原彰美(ピアノ)、伊藤悠貴(チェロ)

    アンコールも含めるとたっぷり10曲。熱のこもった演奏の余韻冷めやらぬ2人にお話を伺った。
    ――初共演とは思えない息の合った演奏でした。
    福原:実はリハーサルは1回だけ。通して弾いたのは1回だけなんです。
    ――いつなさったのですか?
    伊藤:数日前です。普通なら2回はやるのですが、全く違和感がありませんでした。リハーサル一回でここまでできたのか、という感じ。こんな素晴らしいピアニストの方とご一緒でき、いい経験になりました。
    福原:悠貴君の音楽はすごく大らか。かちかちと決めていくタイプではないんですよね。
    伊藤:僕、適当すぎるところがあるから……。
    福原:いや、そういう意味ではなくて(笑)。きょうは名曲集ということで小さな作品が多かったんですが、今後はソナタなども一緒にやってみたいなと思いました。
    ――具体的には?
    福原:悠貴君はラフマニノフのCDも出されているので、ぜひラフマニノフのチェロソナタをやってみたいですね。
    伊藤:あれは40分近くあるので、きょうは取り上げられなかったですけど、いつかやりたいですね。
    福原彰美(ピアノ)、伊藤悠貴(チェロ)
    ――15歳で海外に渡られたという共通点に加え、11月15日に新たなCDを発売されるというのも重なりました。
    伊藤・福原:11月15日は全くの偶然なんです(笑)。
    ――今日は伊藤さんのCD『ザ・ロマンティック』と重なる曲目が多かったですよね。
    伊藤:30分の企画で小品集ということもありますが、今、僕が弾いてみたい曲を集めたらこうなった、という部分が大きいです。(福原に)初めての曲が多かったのではないですか?
    福原:そうですね。弾いたことのあるのはエルガーの「愛の挨拶」とシューマンの「献呈」。
    伊藤:それ以外を短期間で準備していただいて……。
    ――本番までどの位の時間があったのですか?
    福原:一か月弱位でしょうか。悠貴君はすごくお忙しくて日本と英国を行ったり来たりですから……。
    ――それで一回で合わせて本番を迎えた。すごいですね。ところで伊藤さんは今回が『サンデー・ブランチ・クラシック』初登場だったわけですが、感触はいかがでしたか?
    伊藤:チェロの音が前に行かないかもしれないと思っていたのですが、全然、そんなことはなかったです。
    伊藤悠貴(チェロ)、福原彰美(ピアノ)
    今回は各作曲家1曲ずつの構成だったため、「もっとじっくり聴きたい」という思いが残った。お二人によるソナタ共演が実現する日を楽しみにしたい。
    取材・文=刑部圭 撮影=山本れお
    リリース情報
    伊藤悠貴『ザ・ロマンティック』​
    発売日:2017年11月15日
    価格:3,000円 (税抜)
    https://www.japanarts.co.jp/artist/YukiITO
    福原彰美ソロアルバム『ブラームス ピアノ小品集』
    発売日:2017年11月15日
    価格:3,000円(税込)
    http://www.akimifukuhara.com/jp/
    サンデー・ブランチ・クラシック情報
    11月26日(日)
    松田理奈プロデュース OTOART vol.3
    『MUSIC ✕ ALIVE PAINTING』
    13:00~13:40
    MUSIC CHARGE: 500円
    12月3日(日)
    米津 真浩/ピアノ&小瀧 俊治/ピアノ
    13:00~13:40
    MUSIC CHARGE: 500円
    12月10日(日)
    1966カルテット/女性カルテット
    13:00~13:40
    MUSIC CHARGE: 500円
    ■会場:eplus LIVING ROOM CAFE & DINING
    東京都渋谷区道玄坂2-29-5 渋谷プライム5F
    ■お問い合わせ:03-6452-5424
    ■営業時間 11:30~24:00(LO 23:00)、日祝日 11:30~22:00(LO 21:00)
    ※祝前日は通常営業
    ■公式サイト:http://eplus.jp/sys/web/s/sbc/index.html?

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