コラム【伊藤美裕の歌謡遊泳】ピンク
・レディー 幻のモンスター・アイド

先日のテレビ番組のトークテーマにとりあげたのは「ピンク・レディー」。女性デュオといえば、戦後のザ・ピーナッツに始まり、こまどり姉妹、そして後につづいたのはWink、PUFFYなど様々いる中で、歌謡曲を思い浮かべたとき真っ先に浮かぶくらいピンク・レディーの曲の印象は強いのに、それ以外のこと(パーソナリティーや歴史など)に関して、百恵さんや明菜さんなど、ソロのアーティストに比べてあまり詳しいわけじゃない。ということで、今回は学びの姿勢で収録に臨む(と言うまでもなく収録はいつも発見の連続なのだけれど)。

この番組の面白さのひとつは、リアルな世代の出演者の方と完全な後追い世代である私との感覚差を楽しんでもらえることである。「今のアーティストの中で、いちばん近いのは安室奈美恵さんかもしれませんね」と、打ち合わせのとき、共演者の松岡英明さんが突然言ったこの言葉にびっくりした。本当にびっくりしたのだ。私の中で、ピンク・レディーは「かっこいい」のジャンルにはいない。楽しい、元気な「エンタテインメント」のイメージはあるけれど、憧れの対象のイメージと言われてもいまいちピンとこない。当時、歌って踊れるアーティストというのはそんなにいなかったらしく、同性に人気があったというのもこのとき知った。

私の中のピンク・レディーは、音しかない。大全集を借りてきて、それを繰り返し聞いていた(ピンク・レディーをかけているとなぜか掃除ががはかどるのだ)。飛び出す絵本のように、1曲1曲しっかり物語があって、登場人物が楽しい。ペッパー警部、透明人間、スーパーモンキー孫悟空、パイプの怪人…どこか浮世離れした、というか地球離れしているファンタジーの世界。ワクワクしながら次の展開を待つ。阿久悠さんの頭の中は一体どうなっているんだろうとピンク・レディーを聴くたびふと掃除機の手を止めて真剣に想像してみたりしている。…えーと、こうなると結局掃除がはかどってるかわかりませんが。

デビューして間もなく、子供から大人まで、日本中を一瞬で虜にした。みんなが振り付けを真似し、ピンク・レディー関連の商品が巷に溢れるーー下敷きから、コップや自転車に至るまで(!)。睡眠時間は?と聞かれるのがテレビ番組での挨拶代わりという多忙を極めるモンスター・アイドル。阿久さんと都倉俊一さんのゴールデン・コンビによる楽曲が魔球のように次々と繰り出され、世の中へ浸透していった。曲に展開が多く、楽しませる仕掛けがいたるところにある(松岡さん曰く、オペラやミュージカル並だそう)。

ピンク・レディーの活動期には明らかな光と影の時期があるけれど、それを決定づけたのが私自身関心のあった、アメリカ進出のタイミングであることは間違いがない。

当時人気絶頂期だった1970年5月に「Kiss In The Dark」をリリース、突然全米進出を果たしたのだけれど、これがかなりピンク・レディーにとってターニングポイントになったのだと思う。たしかにかなりこの曲、かっこいい。けれど全英詞で、日本のファンの置いてきぼり感は容易に想像できる。ビルボードでの37位は「SUKIYAKI」に次いで2番目だし、日本人で初めて冠番組を持ったと言われている。これはすごいことなのだけれど、あとに続かず、日本に帰ってきてしまう。

この時もし、当時のアメリカにテイストを寄せず、日本語で、ピンク・レディーの世界観そのままに海外に進出していたら…もしかしたら今とは違う未来が待っていたのかもしれない。ミニスカでキラキラして派手なおねえさん2人組のイメージが、そっくりそのまま海外での日本の音楽のイメージにつながっていたかもしれない(かなしいけれど、それくらい日本の音楽はアメリカに渡っていないのだ)。アメリカで成功したとなれば、さらに日本での活動も勢いを増した可能性だって高い。

伝説と言われておかしくない実績があるのにも関わらず、アメリカ進出後勢いを欠いて尻すぼみになってしまい、百恵さんやよく引き合いに出されるキャンディーズのように有終の美を飾れなかったというのがとても淋しいです。

このミラクルを巻き起こした期間は、たった5年足らずーー。

ピンク・レディーを一言で言うと「革命」なんだ、と。売上枚数は驚異的ですらあり、時代に受け入れられるたくさんの要素があった。今の音楽界に与えた影響でいえば、人はどうしてもソロではなしえなかった「複数人グループ」の強みをこのデュオに見出した。「アイドルグループの原点をつくった」と言っても過言ではない。(松岡さん)

ピンク・レディーこそ、キラボシのように歌謡界という大空に輝いたスターだった。

伊藤美裕「ワンマンライブ」

・東京公演
日時:12月9日(土) 開場12:15 開演12:45
会場:恵比寿天窓.switch
料金:4,600円(税込、ドリンク代別) 全席指定
問:スネークミュージック Tel.03-3260-8535(平日11:00~18:00)

・大阪公演
日時:12月16日(土) 開場17:45 開演18:15
会場:Soap Opera Classics -Umeda-
料金:4,600円(税込、1ドリンク+1フード代別、整理番号付き) 自由席
予約・問:soap opera classics Tel.06-6121-6688

伊藤美裕

生年月日:1987年4月4日生まれ
血液型:A型
出身地:大阪府池田市
特技・趣味:バイオリン、古着屋散策
座右の銘:in dreams begin the responsibilities(責任というものは夢見ることから始まる)

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