井伊直虎役の柴咲コウ

井伊直虎役の柴咲コウ

「この1年を振り返ると、そんなにた
っていた?という感じです」柴咲コウ
(井伊直虎)4【「おんな城主 直虎
」インタビュー】

 波乱の人生を歩む直虎(柴咲コウ)を幼い頃から見守ってきた母・祐椿尼(財前直見)が、井伊谷の人々に見守られながらこの世を去った。若い万千代(菅田将暉)や万福(井之脇海)が徳川家康(阿部サダヲ)の下で活躍する一方、これまで直虎を支えてきた人物が1人また1人と姿を消し、物語はラストスパートに突入しつつある。終盤を迎えた今、主演の柴咲に改めてこれまでを振り返ってもらった。
-直虎が城主の座を降りて、農民として暮らし始めてから、いい意味で力が抜けてきた印象があります。ご自身ではどのように感じていますか。
 城主の頃は、頑張った方がいい役だった、そのためだと思います。自分のことをよく“スネ夫タイプ”と言っているのですが、私は本来、リーダーシップを取るような人間ではありません。だから、素質はないけど、頑張ってリーダーをやらなければいけない直虎という人物に、そういう性格的なものがうまく生かされたのかなと。その分、城主を降りた後、気楽になったことは確かですし、土にまみれた農民の格好も安心感があって、ニュートラルでいられます。その一方で、近藤(康用/橋本じゅん)さんにうまいことを吹き込んで材木を調達させたりするあたりは、本来の自分の性格に近いので、よりそういうふうに見えるのかもしれません。
-城主の座を降りた直虎は、まるで引退を決めたスポーツ選手のように、すっきりした表情をしていますね。
 本当は戦いたくないのに、なぜ戦(いくさ)が起きるのだろうという思いを抱えたまま、城主の座にいなければならない。ずっとそういう矛盾を抱えながら生きてきたので、やっと解放されるという安堵感があったのだと思います。スポーツ選手に似ているという意味では、戦わなくても済むというホッとした気持ちの一方で、ちょっとしたむなしさみたいなものも感じていたのではないでしょうか。
-農民となってから、直虎は龍雲丸(柳楽優弥)と一緒に暮らしていた時期があります。その頃の気持ちはどんなものだったのでしょうか。
 南渓和尚(小林薫)が「片方の翼」と呼ぶほどかけがえのない存在だった政次(高橋一生)を失って、弱っていた時期を支えてくれたのが龍雲丸でした。さらに直虎から見れば、龍雲丸には何ものにも縛られない風のような自由さがある。土地を愛し、その土地に根付いて生きている自分にはない部分に引かれたんだと思います。
-その後、龍雲丸から堺に行こうと誘われながらも、最終的には行かないという決断をしました。
 その土地に暮らす人々への愛があったからでしょう。もし、一緒に行くことができれば、別の土地で新しく作物を作ってやっていける人だとは思います。ただ、その土地に根付いている人たちを愛し、そのことに責任を持って生きている人だから、それがなくなると自分の支えも失ってしまうに違いありません。私自身とは全く違いますが…。私はどちらかというと一カ所に止まれないタイプで、引っ越しばかりしているので(笑)。
-放送も10カ月を越えて、龍雲丸以外にも物語から退場された方が多くいらっしゃいます。そんな中で記憶に残っているエピソードはありますか。
 やっぱり、政次役の(高橋)一生さんがクランクアップした時は「もう明日からいないんだ…」という気持ちになりました。ご本人も寂しそうにしていましたし…。政次とは碁を打つシーンが多かったのですが、撮影はものすごく大変だったんです。1日で何シーンも撮るので、せりふが混乱してしまったり…。そういうものを乗り越えた役者同士の絆みたいなものが培われたと思っていたので、それがなくなる不安や寂しさがありました。
-終盤に近付くにつれ、次々と登場人物が去っていきますね。
 お母さんも亡くなりましたからね…。少しずつ減っていくにつれ、徐々に「終わるんだな」という覚悟ができますが、1年以上にわたるプロジェクトならではの、心の交流やお芝居の交流があったので、喪失感や寂しさみたいなものも感じています。ただ、龍雲丸はまだ生きているので、また出てくるのかどうか…。それが気がかりです(笑)。
-撮影開始から1年がたちましたが、今のお気持ちは?
 今振り返ると、そんなにたっていた? という感じで、浦島太郎状態です。家に帰るのは、せりふを暗記するのと寝るためだけ。他のことは一切やっていなかったので、本当に一瞬という感じで…。特に城主時代は、これしかやっていないというぐらい夢中でやっていました。でも、それはイコール、充実していたということですからね。
-1年間という長期の撮影は初めてですよね。
 そうです。自分では飽き性だと思っているので、モチベーションが続くかどうか、最初は不安でした。でも、台本が本当に面白くて、スタッフや共演者の方にも恵まれていたおかげで、ずっと楽しいまま続けてこられました。だから、まだ終わりたくないなと思いつつも、いやそろそろ終わらないと…という気持ちです(笑)。
-最終回まで残りわずかとなりました。この先、楽しみにしているのはどんなところでしょう。
 今は万千代や万福たち新しい世代が活躍しているので、城主時代とは違った立場を生かして、彼らにどんなことを継承していけるのか。それが楽しみです。人々の心情を上手に捉えた脚本の面白さはずっと変わりませんが、私も右脳派の人間なので、そういった感情の表現には最後までこだわっていきたいです。
(取材・文/井上健一)

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