【中島 愛 インタビュー】
今の年齢のヒリヒリした気持ちを
パッケージ
ニューシングル「サタデー・ナイト・クエスチョン」はフジファブリックとボンジュール鈴木が全面バックアップ! 今までの彼女の楽曲にはない、新たなサウンドと大人な一面にチャレンジした、彼女のリアルな年代を投影する一枚になった。
「サタデー・ナイト・クエスチョン」はフジファブリックの加藤慎一さんが作詞、山内総一郎さんが作曲、編曲と演奏もフジファブリックが手掛けているわけですが、もともとフジファブリックの音楽は?
「若者のすべて」や「徒然モノクローム」などシングル曲は聴いていたんですが、ある時スタッフから勧められてアルバムを聴いたら…時期によって違いがあると思いますが、日本的な情緒や歌謡的な部分がありつつ、印象的なギターリフやメロディーがどの曲にもフックとしてあって、それがすごく自分の好みで、アルバムだけでなくライヴDVDを買い集めるほどハマってしまったんです。そうしたら“次の新曲をフジファブリックさんにオファーしてみようと思うけど、どうですか?”とスタッフから提案があったので、“ぜひ!”って。
実際に今回の曲を聴いた時はどんな印象でしたか?
デモからほぼ今の完成形で“本物のフジファブリックさんだ!”と、ものすごく感動しました。特徴的なイントロのギターリフを聴いた瞬間、“おお〜!”って。
レコーディングはどんな感じでしたか?
プリプロから見学させていただいたのですが、その時はどこまで踏み込んでいいかが分からず、ただただ見ているという感じで(笑)。でも、プリプロとは別の楽器レコーディングの時にブースに入って、せーの!で仮歌を歌わせていただいたので、そこで緊張や不安が解けましたね。
A・Bメロは抑えめに歌っている感じですね。
はい。それでサビは開けていくような感覚です。そういう表情の変化はサウンドや楽器の印象にも表れていたので、同じ方向性の歌い方を心掛けました。本番の歌録りには山内さんが立ち会ってくださって、自分で考えていったものをベースに、A・Bメロの抑えたところは“気怠くボソボソ歌うくらいの感じで”とか、“Bメロの2行目のここからちょっとずつ明るく”とか、とても丁寧にアドバイスをいただきながら歌を完成させていきました。
他に、どこか歌い方で意識したことは?
私は語尾をしゃくってしまう癖があって…それは、80年代頃の好きだった歌謡曲の影響で無意識にやってしまうのですが、なるべくそれを抑えました。この曲はつんけんしているわけではないけど、少女っぽいかわいさは必要ないと思ったので、自分の癖を抑えて、聴いてくださった方に“新しい歌い方だね”と言ってもらえるように意識しましたね。この曲がOPテーマになっているアニメ『ネト充のススメ』の主人公・盛岡森子が30歳で、自ら脱サラしてニートになったキャラクターなので、媚びない感じをイメージして。彼女が部屋に居る時の様子も思い浮かべながら歌っています。
あと、サビの《解けないク、ク、クエスチョン》と歌っているところは昔のアイドルっぽいですね。
分かっちゃいましたか(笑)。サビや2番には、とある伝説的なアイドルさんにちなんだ言葉が散りばめられています。加藤さんが、私が歌謡曲やアイドルを好きということを知って、シリアスな曲調の中にこうしたユーモアと遊び心を込めてくださったんです。すごく楽しくレコーディングできました。
もう1曲の「はぐれた小鳥と夜明けの空」は、ボンジュール鈴木さんの作詞作曲で、作曲はTomgggさんと共作ですね。
乙女チックなキラキラとしたポップスで、毒じゃないけどチクッと胸が痛くなるような切なさが散りばめられていて、そこはボンジュール鈴木さんワールドだなと思いました。『ネト充のススメ』との関わりはないのですが、「サタデー・ナイト・クエスチョン」の主人公が夜明け間際に家に帰って、ベランダに出て空を見ている感じといいますか。大人の現実逃避じゃないけど、大人でも少女に戻って空想しちゃうみたいな雰囲気があって。かわいいんだけど、子供っぽいかわいさではないところが、ボンジュール鈴木さんのエッセンスだと思います。
タイトルからして童話とかのエッセイっぽいなと。
絵本みたいですよね。ファンタジーというか。でも、歌っていることは悲しくて眠れない夜の気持ちとか、現実的な部分も見え隠れするものになっています。私は“はぐれた小鳥”という表現が良いなと思っていて。勝手な解釈としては、少女から大人へ飛び立っていくイメージかなと。いつまでも夢を見てはいられないよねって、そう思いながら歌いました。
中島さんご自身と重なる部分もありますか?
そうですね。少女から大人へではないけど、私も新人ともベテランとも言えない、掴みどころのないところにいるなって。でも、この年齢だからこその気持ちがあるので、そこは歌詞に共感して自分を投影しながら歌いました。
中堅ってことじゃないですか?
難しいところですよね(笑)。仕事を始めてからもうすぐ10年ですけど、変に偉そうになってもいけないし、若手でもなくて(笑)。そういうヒリヒリとした感覚は、きっと30代に突入して気持ちが開けた時にはなくしてしまいそうなので、今は今だけのこの気持ちに溺れてみようかなと。そういうその年代ならではの気持ちを、その都度CDにパッケージしていきたいと思っています。
その時の気持ちをしっかり引き出しに留めておこうと。
はい。でも、今回は踊れるシングルにしたかったので、気持ちを込める部分もありつつ、基本的には何も考えず、気持ち良いなって感覚で音に乗ってほしいと思っています。2曲とも音として面白い作りになっていますし、歌声も楽器の一部になれていると思います。この一枚を聴いて自然と体が揺れてくれたり、心が躍ったりとか、気持ちがほどけていく感じになってもらえたら嬉しいですね。
取材:榑林史章