【ISEKI インタビュー】
“俺はこういう音楽をやっていくんだ
”とちゃんと提示できたと思います
元キマグレンのISEKIによるAOR風味のJ-POPカバーシリーズ『AOR FLAVA』の第三弾が完成した。今回も往年の名曲満載、さらに元℃-uteの矢島舞美をコーラスに迎えた新曲もあり、アダルトでウェットなムード満点の会心の仕上がりだ。
2カ月おき、3枚目のアルバムが完成しましたね。
このペースでCDをリリースするのは思っていた以上に大変でしたが、いい経験になりました。今後もっと忙しくなることを期待したいですね(笑)。“まだいけるな”って。
今だから明かしますが、アルバムのインタビューをしている時点で、2カ月後の次の作品の収録曲が決まっていないという状況も多々ありまして。
本当にスタッフのおかげです。
この3枚目はAORという視点でいうと、意外な曲も入ってますね。桑名正博の「セクシャルバイオレットNo.1」とか。
この曲に関しては、僕もそういう認識は持ってなかったです。ただ、自分で言うのも何ですけど、この曲は自分の声に合ってるなと。キマグレンの時からずっとやってくれてるヴォーカルディレクションの浅田祐介さんが、“これはISEKIの新しい歌い方だ”って言うぐらい、いい感じでできたと思います。
ヴォーカル的に挑戦した曲というと?
オリジナル・ラヴの「月の裏で会いましょう」は、ニュアンスを出すのが大変でした。実はこのピアノバージョン、田島貴男さん(オリジナル・ラヴ)もやられてるんですよ。それをもっとゆったりとした雰囲気にしてみました。自分としては挑戦だったので、最後までしっかり聴いてもらえるかドキドキしてます。
ばっちりだと思います。井上陽水の「飾りじゃないのよ涙は」、安全地帯の「じれったい」あたりはISEKIさんの声に合ってますね。声質がちょっと似ているというか。
そう言っていただくことも多くて嬉しいです。超似てるとかじゃなくて、どこか似てるというのがいいですよね。いい感じで歌えたと思います。この間、赤坂BLITZのイベントでスキマスイッチと馬場俊英さんと一緒にやったんですけど、彼らもAORが大好きなんです。打ち上げの時に大橋くん(スキマスイッチ)が“歌、めっちゃ上手くなったな”って言ってくれて。あの大橋くんからそう言われたのが、最近の僕の中でのヒットですね。ただ、“全部カバーじゃダメだよ”って言われて、“いや、大半がオリジナルだったんだけど”って(笑)。その日はオリジナル曲中心のセットリストだったんですが、全部カバーに聴こえたらしくて。
あはは。でも、分かる気はします。
この2年間はAORをずっとやってきたから、オリジナルもそういうふうに聴こえたのかもしれない。大橋くんに“あ、そうなんだ! 分かんなかった”って言われました。それは楽曲としてのクオリティーがあるということだから、僕にとっては収穫ですね。馬場さんの番組にもお誘いを受けたりしてつながりもできたし、“俺はこういう音楽をやっていくんだ”という提示をちゃんとできたのが、今後につながると思ってます。
ですね。
その流れからの「街 feat.矢島舞美」という新曲は、ザ・ポップスなので。来年に向けて、AORとポップスを混ぜたような楽曲を出せたんじゃないかなと思いますね。もう来年の動きも考えていて、がっつりやろうと思ってます。
その「街 feat.矢島舞美」でコーラスをしている矢島舞美さんとは、いつから?
『音霊 OTODAMA SEA STUDIO』の時に℃-uteでずーっと出てもらってるんで、10年とかの付き合いですね。それからバーンと勢いが付いて、毎年ワンマンをやってもらって、最近は僕が企画するクリスマスイベント『毎日がクリスマス』にも出てもらって、という流れがありました。今回の3枚のコラボは特に“縁”がキーワードで、1枚目の中田裕二くんも、2枚目のジャンク フジヤマも、今回の矢島舞美ちゃんも、ミュージシャンISEKIとしてだけではなくて、オーガナイザーISEKIとして“この人とやったら面白いな”という人とやれたと思います。矢島さんの新たな面も引き出せたんじゃないかなと思うし。
矢島さんは、本当にさわやかな声で。涼風のような。
そう、良い意味で裏切られたというか、ハイトーンの成分がすごくきれいなんですよ。キラキラしててシャリシャリしてる感じが、曲にすごく合ったんですね。僕はすごくねちっこいので、彼女のコーラスが入ってやっと歌詞に合う空気感になったなと思いました(笑)。この曲、実は2年前にライヴでも1回やったことがあるんですけど、その時はしっくりこなくて。矢島さんと一緒にやることになった時に“この曲だな”と思って、彼女も“ぜひやりたいです”と言ってくれたので、曲を手直しして、歌詞を書き直して、その中でやっとイメージが合致しました。プロモーションビデオも僕がやりたかったことを監督が汲み取ってくれて、すごくいいものになりましたね。男の哀愁を出したかったんですよ。歌詞は女性言葉に近いんですけど、“女の人にこう言ってほしいな”という言葉を書いてるので、まさに願望なんですよね。だから、別れても未練を残しててほしいなという未練たらたらの歌詞です(笑)。
それがこんなにさわやかなポップスになったという。
矢島さんのおかげでさわやかに聴こえてるだけです(笑)。根っこの部分は結構湿ってますね。あと、カバー曲としては竹内まりやさんの「SEPTEMBER」がすごく気に入っています。セブンスとかナインスと言われるテンションコードが多いんですよ。基本的には今のポップスのベースになっていると思うんですが、使ってるコードがだいぶ違うので、やってて面白いんです。曲作りの参考にもなるし、この辺のテイストで曲を書いてみようかな。
大人の男が歌う、ちょっと湿り気のあるAOR。ISEKIさんの歌を聴いて、“好きだったあの子は今どうしてるかな?”と思ったり、そういう感じもいいですね。
それいいですね。僕が一番共感しますね(笑)。意外と男性のファンが増えてきてて、いいなと思ってるんですけど。来年もいろんな活動を通じて、まずはISEKIの音楽を知ってもらおうと思ってます。
取材:宮本英夫