【インタビュー】エンスレイヴド「プ
ログレよりアバンギャルドの方がいい
な」

2017年10月13日、ノルウェーのエクストリーム・メタル・バンド、エンスレイヴドの14枚目となるニュー・アルバム『E』が世界同時発売となった。『E』のリリースを受け、ベース/ボーカル担当のグリュートレ・チェルソン、そしてギター/ボーカル担当のイヴァー・ビョルンソンに話を聞いてみた。
──ニュー・アルバム『E』は、過去の作品と比べてどのような作品になっていますか。
イヴァー:やっぱりプロダクションと演奏が大きく進歩していると思うよ。26年間エンスレイヴドをやってきたけれど、バンドとしてのパフォーマンスが大きく進歩したと、今回しみじみ実感したね。完成したアルバムを聴いて改めて確信した。とにかく今回は精神的にも肉体的にも、事前に非常に細かい点まで時間をかけて準備をしてレコーディングに臨んだんだ。それにもちろん作曲のクオリティも、過去のいかなる俺たちの作品を凌駕している。『E』は、エンスレイヴドのあらゆる面を含んでいるアルバムさ。
──タイトルは随分とシンプルですよね。なぜこのタイトルにしたのでしょう。
イヴァー:『Axioma Ethica Odin』や『Riitiir』みたいな“ヘヴィな”タイトルが続いたからね。今回は非常に短いタイトルも良いんじゃないかと思ったんだ。それで結局一文字という、極端に短いタイトルになってしまった。だけどこの一文字の後ろには巨大なコンセプトがあるし、俺自身もをそれをとても気に入っている。“E”というのは、ルーン文字ではEhwazというのだけど、これはアルバムのテーマである二元性、協力、共生という意味を持つ。もちろんEnslavedのEであるし、ほかにも解釈は可能だよ。例えばEnergyのEとかね。ドラッグのEcstasyのEではないけど(笑)。
──読み方は普通に「イー」で良いのですか?それともルーン文字風に「イーワズ」?
グリュートレ:シンプルに「イー」だよ。とてもわかりにくいけど(笑)。
──これはコンセプト・アルバムであると考えて良いのでしょうか。
グリュートレ:俺たちがこれまでにリリースしたアルバムは、すべてコンセプト・アルバムだと考えているよ。もちろんストーリーがあったりするわけではないけれど、どれもひとつのテーマを持っているからね。アルバム内の曲の歌詞はそれぞれ関連を持っているので、そういう意味でコンセプト・アルバムと捉えている。
──今回もミキシング、マスタリングをイェンス・ボグレンが手掛けていますが、彼を起用し続けているのはなぜですか?
グリュートレ:『Axioma Ethica Odini』からずっと一緒にやっているから、エンスレイヴドとの作業はどんなものなのか、イェンスもよくわかってきているからね。俺たちが何を欲しているか、どんなことをやりたいのか、完全にわかってくれている。それから、バンドの外部の人間にミキシングを任せるというのはとても大事なことだと思っているんだ。もし自分たちでミックスをやったら、全体像をつかめなくなってしまうというのかな…大して重要でもない細部にこだわりすぎてしまったりしかねない。ずっとアルバムの作業をしていると、自分自身のことがわからなくなって、大枠を見失ってしまうのさ。だからスキルのある外部の人間にミックスをやってもらうというのが、賢い選択だと思う。だってさ、バンドのメンバーでスタジオに座ってミキシングをやると、みんな自分のパートばかりデカくしようとして、とてもイライラするだろ(笑)?
──アートワークは何を意味しているのでしょうか。
グリュートレ:これはシンボリックに描かれている馬だよ。古代の絵画みたいなタッチだけどね。
──ボーナス・トラックのロイクソップ・カバーはさすがに意外なチョイスだと思ったのですが、彼らもベルゲン出身なのですよね。
グリュートレ:ベルゲンにはBRAKというミュージシャンの組織があって、それの20周年パーティがあったんだ。コンサートもあって、そこでベルゲンのミュージシャン同士カバーをやるという企画があった。それで俺たちはロイクソップの曲をやってくれと頼まれたのさ。メタルっぽくアレンジはしたけれど、ロイクソップの要素は残っていると思うよ。完全に破壊はしていないつもりさ。
──10年以上一緒にやってきたキーボーディスト、ヘルブランド・ラルセンの脱退理由は何だったのですか?
グリュートレ:あいつは完全なプッシーだからだよ(笑)と…冗談はさておき、結局彼はツアーに疲れてしまったんだ。ツアー・バスに空港、サウンドチェックといった、ライブに付属するものにね。ライブ自体は好きだったのだけど。まあ理解できるよ。それで彼は電話してきて、理由を説明してバンドを抜けたいと。もちろん言い争うこともなくフレンドリーに了承したよ。やる気がなくなってしまったのなら、強制することはできないからね。決してドラマチックな脱退劇ではないんだ。
──代わりに新しく加入したホーコン・ヴィンイェですが、彼はとても若いのですよね。
グリュートレ:そうなんだよ、彼はエンスレイヴドより1歳若いんだ(笑)。ヘルブランドの脱退が決まった時に、何人か候補はいてコンタクトしてみたのだけど、彼らは参加したいけれど残念ながら他のバンドで忙しすぎるということだった。それで俺たちのコ・プロデューサーでエンジニアのIver Sandoyに、「ベルゲンで誰か良い候補はいないか」とたずねたところ、ホーコンを試してはということになった。彼はホーコンがやっていたSeven Impaleというバンドのプロデュースをやったことがあったからね。それでスタジオで、エンスレイヴドのライブ・レコーディングやシンセパートをミュートしたアルバムのトラックを使ってオーディションをしたのだけど、とても良い出来だった。その後一緒にリハーサルをやり、今年の2月26日にベルゲンのあるお店の救済コンサートでもプレイしてもらった。それからずっと一緒にやってるのさ。彼はアルバムのレコーディングでも素晴らしいプレイをしたしね。とても満足しているよ。彼は非常に若いから、若さというエネルギーももらえるし(笑)、とても良い影響を受けている。ビタミン注射みたいなものさ。
──今のエンスレイヴドを、無理やりカテゴライズするとしたら、どうなりますか?
イヴァー:もしどうしてもカテゴライズしなくてはいけないのであれば「トゥルー・アヴァンギャルド・ノルウェジアン・メタル」かな。俺たちのことをプログレッシブ・メタルと呼ぶ人もいるけれど、プログレのシーンって、どちらかというと保守的ですらあるだろ?俺としては「アバンギャルド」という御大層な呼び方を使って物議を醸す方がいいな(笑)。
──1990年代の初め、ノルウェーではインナーサークルが色々な犯罪行為を行っていました。あなたたちはシーンの一部である一方、そういった行為とは一線を引いていましたよね。
グリュートレ:もちろん俺たちは彼らの活動に直接関わることはなかったけれど、ノルウェーのシーンというのは非常に小さかったからね。バンドも多くなくて。だから俺たちも、そういう活動に直接関わっていた奴ら全員知っていたよ。放火とかをやっていた奴らさ。俺たちにとっては、そういう行為は自分たちを表現する手段ではなかった。刑務所で過ごすより、音楽を作る方に興味があったからさ(笑)。ああいうバカなことに関わらなくて本当に良かったと思っている。バンドとしてのキャリアや個人的なもの、家族なども失ってしまう可能性があったからね。
──では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いします。
グリュートレ:昨年は日本に呼んでくれてどうもありがとう。日本でプレイするのがずっと夢だったから、素晴らしい経験ができたよ。オーディエンスも素晴らしかったし、オーガナイザーもプロフェッショナルだった。<ラウドパーク>は、今までプレイした中で最高のフェスティバルだったよ。またすぐに日本に行きたいね。東京で過ごした時間も最高だった。次回は他の都市でもプレイしたいと思ってる。アリガト!
昨年のラウドパークにおける素晴らしいパフォーマンスも記憶に新しいエンスレイヴド。結成から四半世紀を過ぎた今も、彼らの創作意欲に一切の衰えはない。イヴァーは自らのスタイルを「アヴァンギャルド」と形容しているが、エンスレイヴドの作品には、「アヴァンギャルド」という言葉がほのめかす難解さは皆無。長い曲にもすべて血が通っているのである。『E』はエクストリーム・メタルから70年代ロックまでを飲み込んだ、エンスレイヴドにしか作れないアルバムである。日本盤には、私の7,000字を超えるライナーノーツも付属しているので、よろしければこちらもぜひ。
取材・文:川嶋未来/SIGH

Photo by Christian Misje

エンスレイヴド『E』

2017年10月13日 世界同時発売

【50セット通販限定 CD+Tシャツ】 ¥5,000+税

【CD】¥2,300+税

※日本盤限定ボーナストラック収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き

1.ストーム・サン

2.ザ・リヴァーズ・マウス

3.セイクリッド・ホース

4.アクシス・オブ・ザ・ワールズ

5.フェザーズ・オブ・エオロー

6.ハインドサイト

《ボーナストラック》

7.ユーペット

8.ホワット・エルス・イズ・ゼア(ロイクソップ カヴァー)

9.ジズロバー(フェイス・ノー・モア カヴァー)*日本盤限定ボーナストラック
【メンバー】

イヴァー・ビョルンソン(ギター)

グリュートレ・チェルソン(ボーカル/ベース)

アイス・デイル(ギター)

ホーコン・ヴィンイェ(キーボード/ボーカル)

カトー・ベッケヴォル(ドラムス)

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