【インタビュー】ジャクソン・ブラウ
ン「人生は永遠じゃないんだ、と思う
よ」

これと言って困っているわけではない。不満を言えば幾らでもあるが、人並みではないかと思いながら、日々を重ねる。それでも、理由もなく淋しくなったり、悲しくなったりすることがある。家族や友人たちに囲まれていても、こころの何処かに孤独や不安を抱えていて、それが頭をもたげてくる瞬間というのがある。ジャクソン・ブラウンは、そういう瞬間や感情を、誰にも真似できない言葉と、憂いを帯びた歌声で見事に描く。
1972年にデビュー、今年45周年だ。その昔、最も重要な若き吟遊詩人とも、成熟した若きシンガー・ソングライターとも呼ばれた彼も、69才になった。てんびん座、誕生日は、ジョン・レノンと同じだ。正義感という点でもジョンに負けはしない。世の中に対して、時代に対して、真摯に向きあい、その結果として、反戦運動や環境問題を含めたいろんな市民活動にも積極的にかかわってきた。
そのジャクソン・ブラウンの来日公演が数日後に控えている。今回は、ライヴ・アルバム『ザ・ロード・イースト』を携えてのライヴだ。副題に“ライヴ・イン・ジャパン”とあるように、『ザ・ロード・イースト』は、2015年の、つまり前回の日本公演を収録し、日本への、殊に核廃絶を訴える彼の広島への思い、祈りにも似た思いがいっぱい詰まったアルバムになっている。
▲『ザ・ロード・イースト -ライヴ・イン・ジャパン-』
「バリケーズ・オブ・ヘヴン」や「青春の日々」のように、人生について何かを学ぼうと悩む若い頃の彼の息遣いが聞こえる歌や、「ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル」や「ライヴズ・イン・ザ・バランス」のように、社会への激しい願いを託した歌の数々が、ドリーム・バンドと彼が呼ぶ仲間たちの演奏でよみがえる。
「『孤独なランナー』のときに一緒だったバンドも、大好きだった。ダニー・コーチマー、ラス・カンケル、リー・スクラー、クレイグ・ダーギ、ぼくのヒーローたちだったからね。ツアーをしながら、レコーディングする自信をくれたのは彼らだ。今回のバンドは、何年も一緒にプレイしてきた人たちでできている。そのせいか、一度たりとも同じ演奏にはならない。それほど、息が合っているんだ。
ヴァル(・マッカラム)とグレッグ(・リーズ)の二人のギタリストも、組み合わせが最高で、一人が高音域に行けば、もう一人が低音域に、というように、お互いを補いながら、常に向き合い、刺激しあっている。みんながこうやってまた日本に帰ってこれたのは幸運だよ。みんな忙しいからね。殊にグレッグは超多忙だし、しかも、彼の創意をそそるのはお金ではないんだ。
現在のバンドは、グレッグがいなかったら、みんなここにいなかったと言えるかもしれないね。少なくとも、ぼくはそうだよ(笑)。みんな、グレッグとやりたいんだ(笑)。それに、ぼくらが演奏している曲は、デヴィッド(・リンドレー)と同じくらい上手いスライド・ギタリストが必要だからね」
グレッグ・リーズは、ジャクソンはもちろんだが、ジョニ・ミッチェルからエリック・クラプトンまで、数えきれないほどのアーティストたちから声がかかる超売れっ子のスティール・ギタリストだ。しかも、ジャクソンとは同じ高校の後輩にあたる。
「ただ、当時は知らなかったんだ。知っていたら、一緒にバンドをやっていたよ。最初、デヴィッドがどうやってるのか、グレッグがわからなくて時間がかかる曲もあった。少し変わったチューニングをやっているところがあるからね。それがわかってからは、もう素晴らしいとしか言いようがない。最初だけは、デヴィッドに敬意を捧げる意味で、彼と全く同じフレーズを弾くんだ。その後は、グレッグならではの個性を注いでいく」
■ぼくらは、みんな同じ伝統から生まれてきた

■その一部でいられることは幸運だと思う
ジャクソン・ブラウンが、イーグルスやリンダ・ロンシュタットとカリフォルニアの音楽を牽引し始めるのは、1970年代だ。グレン・フライとは、同じアパートで暮らし、「テイク・イット・イージー」を含めて一緒に曲を書いた。そのグレンをはじめとして、最近、グレッグ・オールマン、トム・ペティといったように、彼と同じ世代で、それぞれが何かと戦いながら時代を生きてきた人たちが相次いで旅立っていった。
「人生は永遠じゃないんだ、と思うよ。だからこそ、生きていることを有難く思うし、彼らと同じ時代にいられたことに感謝したい。彼ら3人とは、いずれも友だちだったからね。彼らの人生の一部は、ぼくの人生の一部でもあるようにも感じる。でも、彼らばかりじゃない。彼らほど親しくない人たちに対しても、作品を通じてそう思える相手もいる。それに、新しい人たちもどんどん出てくる。
今回、成田空港から都内に向かっている間、以前にもこうやって移動中に車でインディゴ・ガールズを聴いていたことを思い出していた。本当に良いなあ、彼女たちに比べると、ぼくなんて別の時代からやってきたみたいだ、いつか、一緒にやってみたいなと、思ったときのことをね。それから、ぼくらは友だちになり、一緒に仕事もした。彼女たちも、実は、ぼくがずっとやってきたことと同じことをやっていたんだ。ぼくが、ジョーン・バエズがやってきたことと同じようなことをしてきたようにね」
Photo by Danny Clinch
そう言えば、ジョーン・バエズが、今年ロックの殿堂に迎えられたとき、プレゼンターをつとめたのが、ジャクソン・ブラウンだった。もちろん、彼も、2004年にはロックの殿堂入りを果たしている。そのときのプレゼンターは、西のジャクソン、東のブルースと評されることも多かった友人のブルース・スプリングスティーンだ。
「ぼくらは、みんな同じ伝統から生まれてきた。その一部でいられることにぼくは幸運だと思うよ。フォーク、ジャズ、ゴスペル、ブルース、シンガー・ソングライター、イギリスの影響、サザン・ロック等々、いわゆるアメリカの音楽の一部にね。そして、大切なのは、成長し続けること、それを諦めないことだ。DAWESもそうだ。カリフォルニアっぽい音楽を代表するいいバンドに過ぎなかったのに、いまでは、世界を広げて大きく成長している。ブレイク・ミルズ、ジョナサン・ウィルソン、フィービ・ブリッジャーズ、ぼくが名づけ親でもあるイナラ・ジョージなど、素晴らしい若い人たちも沢山いる」
こうやって、新しい世代との交流も意欲的だ。それでも、親しい友人たちの不在が、彼にどれほどの悲しみや痛みをもたらしたか、想像に難くない。グレッグ・オールマンの遺作となった『サザン・ブラッド』には、彼の「ソング・フォー・アダム」が入っている。しかも、彼もそこに参加し、一緒に歌っている。ところが、グレッグが最後まで歌えないまま亡くなり、未完成のまま完成に至る。二人の友情を知るファンにとっては涙を誘わずにはいられない歌になった。
「ウォーレン・ジヴォンのことも、もしも彼が生きていて、書いていただろう曲をいま聴いてみたかったと思う。トム・ペティもだよ。次に彼はどんな曲を書いたんだろう、と思う。トムが亡くなった後はしばらく、ラジオで彼の曲ばかりが流れていた。マッドクラッチの『スケア・イージー』のカッコよさといったらなかったよ。彼はものすごい数の曲を書いていたから、まだぼくが聴いていない曲が沢山あるんだ。彼の『ライヴ・アンソロジー』には4枚のCDがあるんだけど、『ラーニング・トゥ・フライ』とかもスタジオ盤とは全然違う。ぼくは、ライヴが好きなんだ。その場にいるのがいちばんだけど、彼は、まるでいたかのように感じさせてくれる。
友人たちが、死ぬには早すぎる若さで亡くなったことはとても悲しいが、彼らが素晴らしい音楽を創っているのと同じとき、ぼくはそれを受け取る側でいられたことが本当に幸運だったと思う。イーグルスは、ぼくの友だちから、ぼくのヒーローになった。一つの世代とか、一つの時代の枠にはとらわれてはいない。もちろん、彼らと同じ世代からぼくはやってきたのかもしれないが、いまのぼくはここにいる。いま、確かにここにいるんだ」。
ジャクソン・ブラウンの来日公演は、10月17日から始まる。
取材・文:天辰保文
Photo by Danny Clinch
■リリース情報


『ザ・ロード・イースト -ライヴ・イン・ジャパン-』

2017年10月4日(水)発売

¥2,000+税

※高品質Blu-specCD2仕様

※4面ソフトパック仕様

※ジャクソン・ブラウン本人による各曲コメント

※歌詞・対訳・解説付

[収録曲]

01. バリケーズ・オブ・ヘヴン Originally from “Looking East” (1996)

02. 青春の日々(These Days) Originally from “For Everyman” (1973)

03. コール・イット・ア・ローン Originally from “Hold Out” (1980)

04. ザ・クロウ・オン・ザ・クレイドル (1979年のNO NUKESで歌った反戦曲)

05. ルッキング・イースト Originally from “Looking East” (1996)

06. アイム・アライヴ Originally from “I’m Alive” (1993)

07. シェイプ・オブ・ア・ハート Originally from “Lives In The Balance” (1986)

08. ライヴズ・イン・ザ・バランス Originally from “Lives In The Balance” (1986)

09. ファー・フロム・ジ・アームズ・オブ・ハンガー Originally from “Time The Conqueror” (2008)

10. アイ・アム・ア・ペイトリオット Originally from “World In Motion” (1989)
Recorded in Nagoya, Tokyo, Osaka, Hiroshima, Japan - March 9-17, 2015

Produced by ジャクソン・ブラウン

Recorded and Mixed by ポール・ディーター
・ハイレゾ版(96kHz/24bit)

2017年10月4日(水)配信開始

¥2,600(税込)
最新アルバム来日記念エディション

『スタンディング・イン・ザ・ブリーチ+ザ・ロード・イースト -ライヴ・イン・ジャパン-』

2017年10月4日(水)発売

¥3,500+税

※2枚組

※完全生産限定盤

※高品質Blu-specCD2仕様

※6面ソフトパック仕様

※12面ポスター(2017ツアー告知ビジュアル)封入

※ボーナス・トラック「ザ・バーズ・オブ・セント・マークス」

<ライヴ:ピアノ・アコースティック・ヴァージョン>収録(DISC1)

※ジャクソン・ブラウン本人によるLIVE IN JAPAN各曲コメント

※歌詞・対訳・解説付

■ライヴ情報


<JACKSON BROWNE JAPAN TOUR 2017>

2017年

10月17日(火)東京・Bunkamuraオーチャードホール

10月18日(水)東京・Bunkamuraオーチャードホール

10月19日(木)東京・Bunkamuraオーチャードホール 【追加公演】

10月21日(土)名古屋・ZEPP Nagoya

10月23日(月)大阪・オリックス劇場

10月24日(火)広島・広島文化学園HBGホール
公演詳細:ウドー音楽事務所 http://www.udo.jp/

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