【レポート】VALSHE、「忘れてしまう
のは、もっと素晴らしい明日を記憶す
るため」

VALSHEが9月29日および30日の2日間、東京キネマ倶楽部にて<LIVEツアー「WONDER BALANZA」>のファイナル公演を開催した。同ツアーは3rdフルアルバム『WONDERFUL CURVE』を引っ提げて行われたものであり、アルバムのコンセプトをそのまま持ち込んだステージも見どころのひとつだ。その最終公演、9月30日のオフィシャルレポートをお届けしたい。
“記憶”をコンセプトに掲げた3rdフルアルバムと密接に関連するライヴということもあり、舞台セットもそれに沿ったアートが見受けられる。アンティーク家具や古書などが随所にディスプレイされ、キャンドルの灯りが開場前の暗い舞台上に煌々と揺らめいていた。その中央には「WONDERFUL CURVE」ミュージックビデオでも重要な役割を担った天秤が配置され、“BALANZA(天秤)”をタイトルにしたステージが始まることを告げているようだ。
客席の照明が徐々に暗くなり、静かに始まったのはアルバム1曲目「エビングハウスの忘却曲」だった。徐々に楽曲が激しさを増していく中、VALSHEの登場を待つファンのペンライトの動きもそれに呼応して大きく揺れる。曲のエンディングで颯爽と登場したVALSHEの傍らには怪しげな黒マントを纏った4人が不気味に佇んでいた。
そして、ファンタジックなオルゴールの音色から始まったのは、アルバムのリード曲「WONDEFUL CURVE」。純白の衣装に身を包んだVALSHEと黒マントの4人は動きに人間味が感じられない。楽曲に込められた壮大な“物語”の中の人物がそのまま舞台上に現れたような演出に目を惹かれた。終始、人形のようなアクトを繰り広げたVALSHEは曲の終わりで糸が切れたように動かなくなる。異様とも言える光景が続く中、男性の声によるナレーションが。“物語”に登場する博士のよる臨終の独白は、「これは私の描いた願い。願いの世界だ」告げ、その途端に会場の雰囲気が一変した。
鳴り響いたのはビックバンドを思わせるJAZZ調の「Chain Smoke」。前述のナレーション中、ピクリとも動かなかったVALSHEが、まるで命を与えられたかのように楽曲に合わせて踊り出す。アンティークのソファーに腰を下ろし、妖艶に歌い上げるとボーイ風の男性が次々に登場。“欲に翻弄される男性”が描かれた同曲の歌詞世界を体現するように、VALSHEが振る舞う札束に男たちが翻弄される。その途中、VALSHEが過去のライブで着用した衣装が小道具として使用されてファンにとって嬉しい演出も加えられるなど、演劇のような一曲だった。
「WONDER BALANZAへようこそ!」──VALSHE
この掛け声とともに始まったのは「コドモハザード」。アルバムでは終盤に据えられていたアップテンポチューンが同ライブでは序盤に配置されて、会場の熱気も上がっていく。続けて始まったのは「TRANSFORM」だ。VALSHEが手を振りかざすたびに照明の色が変わり、純白の衣装が様々な色に変化。白い衣装ならではの光の演出に目を奪われた。
「昨日(29日)も凄かったのですが、今日はまた一段と凄いですね。絶景です。(VALSHEにとって)初めての“アルバム”ツアーです。ツアーで育ててきた楽曲たちをぜひ聴いてください」──VALSHE
と、千秋楽に集った満員の観客に笑顔をみせながら、最終公演への意気込みを語った。JAZZテイストの「shut out」に続いて、重厚なパワーバラード「フロムテンペスト」へ。どちらもドラムのビートが重々しくライブで映えるナンバーだが、そのビートに埋もれない凛とした声でサビを高らかに歌い上げる歌唱力は流石の一言。一転、静かなピアノから始まったのは「ガランド」。“孤独”をピアノの音色だけで表現した、歌い手としての実力が試される1曲も、VALSHEにとっては効果的な演出にさえ映る。ピンスポットが当たった舞台の真ん中で静かに淡々と、しかし力強くエモーショナルに歌い切って、会場を振るわせた。そのアウトロのピアノをバックにVALSHEが静かに舞台を後に。
と同時にステージバックの幕が開きスクリーンが姿を現す。そこに映し出された映像と、幻想的なSEとともにナレーションが始まった。“森の中での博士とVALSHEの会話のシーン”が流れ、アルバムではインターリュード的に配置されていた「embrace」へ。ヒーリングミュージックのような優しい音の世界感に、会場全体がうっとりと聴き入っているように感じられた。そして一瞬の沈黙の後、突如エレクトリックなエフェクトボイスがドラムの4つ打ちとともに流れ、それまで静かに曲の世界観に浸っていた観客も飛び上がるようにVALSHEの再登場を待つ。
舞台下手に設置された小高いサブ舞台から登場したVALSHEは、先ほどまでの純白の衣装とは真逆の真っ黒な出で立ち。肩と背面に黒の羽飾りを纏ったその衣装は、この後の激しい展開を予期させるかのようなハードスタイル。楽曲は、アルバム内でも熱狂的なライブと一際親和性の高い「DOPE」だ。オーディエンスの合いの手の声もワントーン上がっていくのがわかる。畳み掛けるように、VALSHE楽曲の中でもハードなロックチューン「拘束」へ。激しいストロボが明滅する中、モニターに足をかけて客席を煽るVALSHE。それに呼応するオーディエンスも一心に頭を振ってそれに応える。
「緊急事態発生!」と少し滑稽な声色のSEに、またしても場内の雰囲気が一気に変わった。オレンジのサングラスを装着したVALSHEと4人のdancer(NAOKI, Kyo-hey, HACHI, TAKAMASA)が、“コドモ団”に扮して登場。お面と紙の3Dメガネにクラッカーを携えたスタイルはさながら子どもの“ごっこ遊び”を連想させるもの。クラッカーを派手に打ち上げた後は、面白おかしいMCを織り交ぜたコール&レスポンスへ。同MCではツアーに帯同していたdancerの様子をイジルようなものもあり、会場は爆笑モードに。シームレスに始まったのは「ドミノエフェクト」だ。4人のdancerと踊りながら歌を披露するダンスセクションは、曲中で戦隊もののヒーローを想起させるような決めポーズが披露されるなど、終始コミカルなものとなった。
しかし、タイムアラームのようなSEをきっかけにまた世界観がガラリと変わる。楽曲はソリッドなベースサウンドが印象的な「COUNT DOWN」。怪しげな仮面を身につけたdancerが再登場し、一糸乱れぬキレのあるステップがクールな楽曲を引き立たせる。途中、殺陣を思わせる格闘シーンも織り込まれ、シリアスなシーンの連続に客席から大きな歓声が上がった。
「暑いけど楽しい!」と大汗をかきながら、息を切らして笑顔で話すVALSHE。蒸気が上がるフロアも、同様に「楽しい!」と笑顔で応えていたのが印象的だ。そして、今回の振り付けを担当していたダンスチームのリーダーNAOKIから、簡単な振り付け指導があった後、始まったのは「Show Me What You Got」。アルバムの中で最も異彩を放つダンスチューンは、これまでのVALSHE曲には存在しなかったもの。振り付け指導のあったサビ部分では、会場全体が右へ左へ大きく躍動。曲に合わせた大きなうねりが会場の一体感を表しているようにみえた。
「ライブも早いもので終盤です。心待ちにしていたライヴが本当に今日で終わっちゃう。今回のライブでは(観客の)みんなの成長も感じましたよ。今回、みんな本当にノリが良くて!」──VALSHE
とツアーの終焉を惜しむかのように話し、観客の一体感を絶賛するコメントに会場も大きく湧いていた。「あーそびましょー!」と不敵な笑顔から始まったのは、超ハイテンポな「ツリーダイアグラム」。観客の合いの手も最高潮に、拳を振り上げるVALSHEに割れんばかりの声援でこれに応える。さらに「CYCLE×CYCLON」では「タオル回せー!!」と大声で叫ぶVALSHE、一斉にタオルを回す会場のボルテージはメーターを振り切っていた。
「最後の曲です」とSEをバックに静かに話し始めたVALSHEが「みんなの赤い心の灯火を掲げてください」と促すと、観客は思い思いの色を映していたペンライトを一斉に赤に変えた。静かにドアを開ける効果音から始まる「a light」では、真っ赤に染まった会場を見据えながら、最後の力を振り絞って歌いあげるVALSHEの姿に涙を浮かべるオーディエンスも多く見受けられた。そのアウトロでは、博士のナレーションがオーバーラップする。
「起きた全てのことを覚えている必要などない、と私は思う。喜び、悲しみ、怒り、迷い、憂い、楽しみ、笑い、苦しみ、悩み、愛した記憶の断片こそが、現在の自分を、そして未来の自分を作るのではないだろうか」
今回のアルバムのコンセプトにまつわるひとつの“答え”を提示する言葉が続く中、VALSHEはまた、ライブ冒頭の“人形”に戻ろうとしていた。再び動かなくなったVALSHEとともに照明が落ちる。ここまでの公演のセットリストでは、確かに同曲が本編のラストに据えられていた。しかし、千秋楽では驚きの展開が待っていた。スクリーンに綺麗な青空が映し出され、再び命を与えられたように大きく伸びをして笑顔にもどったVALSHE。dancerの4人も再び登場し、始まったのはアルバムのラストチューン「GREAT JOURNEY」だ。アルバム『WONDERFUL CURVE』の物語では、青い空がとりわけ大きな意味を持つことを十二分に理解しているオーディエンスは、千秋楽の突然の演出に涙を隠せない。曲調は涙とは無縁の底抜けに明るいメロディーだが、その最後に全員で同じメロディーを合唱する部分では、客席が涙で顔を歪ませながらも、笑顔で大きな声を張り上げ、本編が感動的に幕を閉じた。
舞台が再びセットのキャンドルの瞬きがわかるほどに暗くなると、すぐにアンコールを求める声が響き渡った。その声援に応え、VALSHEは今回のライブTシャツ姿で登場。満面の笑顔でファンに応える中、始まったのは10分にもわたるメドレーだ。各会場でそれぞれのテーマのもと、内容を変えて披露されてきたメドレーだったが、最終日は『出張!VALSHE王道メドレー』と題した代表曲のオンパレード。「Myself」「PLAY THE JOKER」「君への嘘」「Butterfly Core」の4曲を一気に歌い上げた。
コンセプチュアルな本編を無事に遂げた満足感でいっぱいの表情を見せるVALSHEだが、これだけで終わらない。「次の約束を持ってきました!」とスクリーンに映し出されたのは「新曲制作中!」の文字だ。それだけでもファンにとっては嬉しいニュースだが、新曲は2018年発売のPCゲーム『マジェスティック☆マジョリカル』のエンディングテーマに採用されるという。しかも、キャラクターデザイン・イラストを、VALSHEとともに活動してきたイラストレーターの白皙が担当していることも発表され、悲鳴に似た驚きと喜びの声が会場に広がった。
「いつかこういうこと (白皙がイラスト/VALSHEがテーマ曲を担当すること)があればいいよねと話していたので。夢が叶いました」──VALSHE
と感慨深い表情をみせたVALSHE。さらに、もう一つ発表されたのは次なるライヴの情報だ。<COOKIE’s GHOST CARNIVAL>と題されたライヴが11月25日に新宿BLAZEで2回公演で行われる。VALSHEの口から明かされたライヴの内容は今回とは別の意味でコンセプチュアルなものであり、今後の情報公開に着たいが高まるところ。そしてステージには、10thシングル「MONTAGE」のプロモーション企画として行われた“ダンスコンテスト”受賞者がゲストダンサーとして呼び込まれ、最終日限りのこの演出にオーディエンスも驚きの声を上げつつ、二人の受賞者に温かい拍手が送られた。
ダンサー6人となって始まったのは、もちろん「MONTAGE」だ。キネマ倶楽部の舞台を左右いっぱいまで使いきった振り付けはアンコールにふさわしい豪華さ。続けて2016年のソロ活動再開時に発表された「RIOT」へ。サビの最後に“RIOT”とオーディエンスとともに叫ぶ展開はライヴで培われたもので、そのサビではマイクを通したVALSHEの声に負けないほどの大きな“RIOT”が会場に響き渡った。
「VALSHEとして活動をするようになって、忘れたくない記憶が増えた。素敵な時間をたくさん過ごしてきた。そんな経験が今回の“記憶”をコンセプトにアルバムを作ったきっかけです。なんで忘れちゃうんだろうと思っていたことがアルバム制作のきっかけだったけれど、この制作とツアーを通して、今は忘れてもいいと思うようになっています。今日のことを忘れてしまうのは、明日のもっと素晴らしいことを記憶するためなんだと。そんな風に思わせてくれたみんなへの素直な気持ちを歌った曲です」──VALSHE
というMCに導かれたのは2017年のホワイトデーに配信限定で発表された「White Prelude」。優しく語りかけるように穏やかな声で歌い上げる姿は、VALSHEのファンに対する思いの大きさを表していたようだ。ストレートなラブソングにオーディエンスのすすり泣きが聞こえる中、それをかき消すように始まったのは「GREAT JOURNEY」。本編の“物語の終わり”に加え、“LIVEツアーの終わり”も同曲が担う形となる。オーディエンスはdancerとVALSHEの爽やかな姿に徐々に笑顔を取り戻し、ラストシーンは会場全体が明るい笑顔で満たされた。
アルバム発表からライブツアーまで、「WONDERFUL CURVE」を走り続けてきたVALSHEの軌跡は「GREAT JOURNEY」そのもの。この物語はツアーファイナルを持って一区切りとなるが、VALSHEは既に次の旅路に向けて歩みを進めているとのことだ。“素晴らしい明日”が訪れるまで、「WANDER BALANZA」の“記憶”を忘れずに。
■<VALSHE LIVE TOUR 2017 「WONDER BALANZA」>ファイナル 2016年9月30日(土)@東京キネマ倶楽部SETLIST


-Op SE- エビングハウスの忘却曲

01.WONDERFUL CURVE

-Narration SE-

02.Chain Smoke

03.コドモハザード

04.TRANSFORM

-MC-

05.shut out

06.フロムテンペスト

07.ガランド

-SE- embrace

08.DOPE

09.拘束

-Narration SE-

10.ドミノエフェクト

-SE-

11.COUNT DOWN

-MC-

12.Show Me What You Got

-MC-

13.ツリーダイアグラム

14.CYCLE×CYCLON

-MC-

15.a light

16.GREAT JOURNEY

encore

en1.『出張!VALSHE王道メドレー』

 Myself/PLAY THE JOKER/君への嘘/Butterfly Core

-MC-

en2.MONTAGE

en3.RIOT

-MC-

en4.White Prelude

en5.GREAT JOURNEY

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