『CREATORS INTERVIEW vol.4 福田貴
史』 ――アーティストの力を引き出
して具現化するプロデュースワークを

ソニー・ミュージックパブリッシング(通称:SMP)による作詞家・作曲家のロングインタビュー企画『CREATORS INTERVIEW』。第4回目は、最新のダンスミュージックからアイドルソング、そして音頭まで幅広い楽曲を手掛ける福田貴史が登場。和楽器の家庭で育った彼が、クラシックピアノの道から作曲家デビューに至った経緯や、多岐にわたるジャンルの作曲と綿密なトラックメイクの秘訣などをお聞きしました。
和楽器の家庭で育ち、クラシックピアノの道から作曲家へ
――福田さんは音楽一家で育ったんですよね。
父親が尺八奏者です。母親も表舞台には立っていませんが三味線が弾けて、兄は父の跡を継いで尺八奏者をやっています。
――福田さんご自身は?
和楽器よりもポップスのほうが好きだったので、和の方向には進もうと思いませんでした。
――では、音楽的なルーツというと?
日本のポップスでは、小学生の頃、さだまさしさんが好きでよく聴いていました。そのあと、CHAGE&ASKA槇原敬之さん、ミスチル、サザン、ドリカム、小田和正さん、MISIAさん………。挙げるときりがないのですが、誰かにハマるという感じではなく、いい曲をかいつまんで聴いていましたね。基本的にダイレクトに人の心に刺さる歌モノが好きなんです。マニアックじゃない、分かりやすいものが好き。中高生の頃は、マックス・マーティンがプロデューサーにクレジットされている曲が好きで、バックストリート・ボーイズとか、ブリトニー・スピアーズもよく聴いていました。
――共通しているのは曲の良さっていうことになりますか?
うーん……ヒット臭ですね。なんか、直感で「いい!」って思える。すごく偉そうな言い方ですみません(笑)。基本的にたくさんの人に好かれている曲が好きです。ただ、自分の音楽のルーツはクラシックになるのかなと思います。
――4歳から24歳までクラシックピアノを本格的にやられていたんですよね。
そうですね。ただ、一応受験したので本格的にやっていないというわけではないんですけど、クラシック畑の人から見たら、そんなに深いところまではやっていないと思います。有名な曲しか知らないので。
――クラシックピアノの演奏者から作曲家に興味が移ったのはいつ頃ですか?
音大のピアノ科の受験に2回失敗しているので、20歳くらいの頃ですね。親戚にDTMを進められて、それでやってみようかなと思って、やるようになりました。
――それまで作曲をされたことはありましたか?
全くしてないですね。ただ、漠然と何かを作ってみたいっていうのはあったのかもしれません。ピアノはやっぱり限界があると思ったんですよ。上手い人は本当に上手いので。ピアノの練習がそこまで好きじゃなかったのもあります。「作曲のほうがピアノをやるよりプロとしてやっていけるんじゃないか」と思っていました。そういう根拠のない自信があったんですよね、大変恐縮ですが。
――プロの音楽家として生きていくというのは決めているんですよね?
あ、もちろん。それも漠然とですけど……。特に何もなかったんですよね。「音楽でやっていく!」って決めるとか、そんなに意識していませんでした。多分、親が音楽で仕事をしていたから、当たり前のようになっていたのかもしれないです。それで大学受験はやめて、DTMの専門学校に行って、いろんなアルバイトを経て、着メロを作るために耳コピをするバイトとかをしながら作曲をしていました。そのあと、24歳のときにSD(ソニー・ミュージックエンタテインメントの新人開発・発掘セクション)のクリエイターズ・オーディションを受けたんです。
――作曲家だけじゃなく、トラックメイカーや作詞家、A&Rなど、歌を唄う人を支える側の人たちのオーディションでしたが、もう作曲家でいくと決めていました?
そうですね。メロディを作るのが好きなんだと思います。ただ、当時はバラードしか作れなかったんですよね。多分、元々自分の持っている資質がバラードメイカーなんですよ。それは多分、感性だけでできるものだと思うんです。でも、アップテンポとか他のジャンルは勉強しないとできないので、初期の頃はコンペのときに出てくる参考楽曲は必ずCDで借りてきて聴いていました。知らない曲があったら調べて、何回も聴いて、それがどのような音の作りになっているのか分解して、どういうものが求められているのか研究していました。そのときは何の結果も出ませんでしたが、今となってその蓄積がいろんなジャンルに対応できる糧になっているのかもしれないですね。まあ……努力っすね(笑)。
――(笑)。オーディションから最初のお仕事までは?
SDで1年間預かりのような形になって、そのあとにSMPを紹介してもらいました。最初の頃は何をやっても全然結果が出なかったですね。最初は、2009年頃の九州電力のCM曲(亜希「永遠の光り」)で作曲コンペに採用されて、そのあとJUJUの楽曲コンペに受かるまでは結構期間がありました。
――福田さんが作曲したJUJUの21枚目のシングル「ただいま」は、2012年の6月にリリースされています。
本当にそれまでコンペには全然受からなかったので、受かったときは信じられなかったです。「まさか」って。
――何かテーマがありました?
ドラマ『もう一度、君にプロポーズ』の主題歌というのが決まっていたので、ドラマの概要がコンペシートに書いてあって、それを読んだときに、はじめにイントロが思い浮かんだんです。なので、メロディはイントロから引き出される形で作っていったと思います。
――この曲はロングヒットしたんですよね。
とても有難いです。僕、当時よくTSUTAYAに行って、いろいろとCDを借りていたんですけど、TSUTAYAのレンラルランキングで1位の棚にあったのを見たときに「あ、これ作ったんだっけな」と思って……。
――結構他人事ですね(笑)。
でも、嬉しかったですよ。嬉しいんですけど、「作ったんだっけな……」みたいな。あんまり実感が湧いていない感じというか。曲の完成までのプロデュースは亀田誠治さんがしてくださったので、本当に曲が採用されただけ、曲が一人歩きしている状態だったんです。

アレンジャーとして培った経験がトラックメイカーとしての基盤に
――「ただいま」でプロの作家としての活動がスタートして、翌年からはクリス・ハートさんとの密接な仕事が始まり、カバーアルバムのほとんどの編曲を担当しています。
たまたまプロデューサーさんと仲良くさせていただいて、オケに関してはほとんど携わらさせていただきました。ストリングスやブラスの譜面も書く機会がなかったので、ミュージシャンの方に教えていただいたり、すごく勉強になりましたね。
――日本の名曲をリアレンジすることでどんなことを感じましたか?
ヒット曲はメロディと詞、歌声だけじゃなくて、アレンジも素晴らしいと思うものばかりなんですよね。全てが上手く噛み合わないとヒット曲にはならないのかな、と改めて思いました。
――同年にはSKE48の12枚目のシングル「美しい稲妻」の作曲を手掛け、大ヒットしました。
表題曲は世間の方々に聴いていただける機会が多いので、嬉しいと言えば嬉しいですよね。でも、この曲も一人歩きしていて、どこか他人事かもしれないです。
――当時、アイドルのサマー・ソングと言えば、「海、太陽、水着」みたいなイメージの曲が多い中で、この曲は大人っぽくて妖艶な感じがあって、これまでとは少しイメージが変わった曲だったんですよね。
特にアイドルソングということは意識せずに、ノリの良い感じにしようと思って作りました。アレンジは携わっていないので、制作側の方々が妖艶にしてくださったんだと思います。
――翌年には、クリス・ハートのオリジナル曲でシングルとしてリリースされた「I LOVE YOU」(作曲は坂詰美沙子)の編曲も手掛けています。
作曲したのは僕じゃないんですけど、特にメロディがとても素晴らしくて。このとき、レコーディングで初めてピアノを弾きました。
――ピアニストとしての面も出していきたい?
弾ける環境だったら弾いてみたいですね。自分が作った曲だと尚更いいですね。
――そして、直近では、AKB48HKT48乃木坂46欅坂46に加えて、LDH系のお仕事も増えてきました。7月26日にリリースされたE-girls「Love☆Queen」のカップリング「Smile For Me」はコライトですよね。
ソングライティングのレジェンド的な存在のmichicoさんと一緒に作らせてもらいました。この曲はE-girlsのライブを観させていただいたときに大まかな構想が思いついた曲なんです。切ないんだけど、さよならではない、悲しさだけでなく、また会えるから、みたいなポジティブさも残すように。言葉で表現するのは難しいんですけど。
――明るくてポップでアップテンポの楽曲が多いグループなので、ミドルテンポでしっかりとメッセージ性もある曲なのでいいなと思いました。
どうもありがとうございます。僕はどんな曲でもメロディを盛り上げる音のフレーズというのをいつも考えていて、「Smile For Me」だと、サビのシンセフレーズで泣かせるというのも意識しました。

ジャンルに関係なくヒット曲を作っていきたい
――8月30日にリリースされたDANCE EARTH PARTYのニューシングル「POPCORN」では作曲、編曲、トラックプロデュースを担当しています。
これはもうライブやフェスでお客さんと一緒に「タオルをブンブン回す」というお題で、「まさにポップコーンみたいに弾けるような曲を」と言われて、ファンタスティックなソングライターのSAKURAさんと一緒に作りました。
――パワーソカになっていますよね。
でも、あんまりソカっぽく聴こえないようにしたつもりなんです。前にリリースされている曲がソカだったので、あまり寄りすぎないようには気をつけました。
――立て続けにダンスミュージックの現場に関わってみていかがですか?
ディレクターさんが凄腕な方で、デモの段階で、ほぼ完パケに近いクオリティを求められるんですね。歌もズレているとダメですし、サウンドも踊れるように考えて作らないといけない。デモの段階から、「スネアの音を1db下げて」みたいなレベルの細かさなんです。ミックスエンジニア的な作業もある程度は分かっていないといけない。デモの段階でそこまでこだわることは、大変だしものすごく労力がかかりますが、とても勉強になります。
――同時期にゲーム『ソラとウミのアイダ』で演歌もやっていますよね。かけ離れたジャンルを作ることができるのはなぜですか?
演歌というより音頭ですね。楽曲を分解できるので作れるんだと思います。「こういうことをやればこういう音になる」というのが分かるし、自分で組み立てられるからかもしれないです。この要素があれば音頭になるし、この要素があればEDMっぽくなるっていうのがある程度分かるので。……努力っすね!(笑)。
――(笑)。ピアノバラードだけじゃなく、最新のダンスミュージックからアイドルソング、音頭まで幅広く提供していますが、ジャンル的に特にやりたいものはありますか?
そういうのは全然ないです。ただ、飽きっぽいので、ダンス曲をたくさん作っていると今度は歌謡曲みたいな曲を作りたいと思うことはあります。またそれに飽きたらダンス曲をやりたいと思うのかもしれないですし、同じジャンルだけを作り続けられないのかもしれません。飽きちゃうんです。それで嫌々作っていると、いいものができないんですよね。最近は無理にやっているといいものができなくて。そのときの自分の作りたいものに寄り添って作ったほうがいい作品が生まれやすいと思います。あとは、やっぱりジャンルに関係なくヒット曲を書きたいですね。
――今後はどう考えていますか?最後に目標を聞かせてください。
ヒット曲を作ることを目標に、アーティストの力を引き出せるようなこともやっていきたいです。僕は、アーティストがやりたいことをサポートする、お助けマンみたいな立ち位置が一番いいのかなと思っていて。自分の中では楽曲を組み立てていくことが得意だと思っています。アーティストの「こういうことがやりたいけど、音で形にできない」というところを具現化できると思うので、最終的にはプロデュースワークもできるように、高望みするならば、マックス・マーティンみたいなヒットメイカーを目指してみたいですね。

取材・文=永堀アツオ

プロフィール
福田貴史
1982年東京都出身。SDグループ主催オーディション「Sony Music Creators Audition」を経てSMPにて作家活動を始める。本来ピアノ主体の壮大なバラードを最も得意とするが、ミッドバラードや歌謡テイストのアップテンポまで手がける。ジャンルに偏らないオールラウンダー。
[所属事務所ページ] https://smpj.jp/songwriters/takashifukuda/

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