10代の女子を中心に絶大な支持を集めている、恋愛のカリスマシンガー・8utterfly。彼女の作る曲は“泣き歌”よりも泣ける“病みソン”と呼ばれ、新しいジャンルを確立した。YouTube 関連作品総再生回数は 1,000 万回を超え、前作『cry』はレコチョクランキング、iTunesランキング、有線J-POPの問い合わせランキングのいずれも1位を獲得した。まさに、向かうところ敵なしの彼女が今、“病みソン”を捨てて、新しいステージへ行こうとしている。……一体なぜ? そんな変革期を迎えた今、8utterflyとは一体何者なのかを改めて見つめ直す。

Photography_Ryutaro Izaki

Text_真貝聡

自然と芸能の道しか選択肢がなかった

――8utterflyさんはどんな道を歩んできて今に至るのか、今回は幼少期から振り返っていきたいと思います。

8utterfly : お願いします。

――お父さんはミュージシャンをされてて。

8utterfly : そうですね、はい。

――お母さんは芸能界で活躍されてたとか。

8utterfly : 舞台女優ですね。父はプロのスタジオミュージシャンというか、フォークが盛んな頃にアコースティックギターを持って、当時流行っていたピーター・ポール&マリー、サイモン&ガーファンクル、ボブ・ディランとか、そういうのを弾いてました。あとは、有名なミュージシャンのサポートギターをしたり、銀座のステージに立ってお客さんのリクエスト曲を弾く、みたいなことをしてて。

――お母さんは?

8utterfly : 母は茨城から上京して、劇団に入団して。当時の写真を見たら、それはそれは可愛いんですよ。宮崎あおいかよ! みたいな感じで(笑)。で、舞台に出演したり『アタック25』でプラカードを持つ役をやったりして。

――じゃあ、舞台やテレビでも活躍されてたんですね。

8utterfly : あとは歴史のドラマに出たりしてて。そんな中で生活費も稼がなければいけないから、銀座のママがいるお店でお手伝いをしていたんですよね。そこへ父が演奏者として、お店に行ったのが出会いのきっかけです。で、結婚をして、姉が生まれて、私を妊娠したタイミングで東京から福岡へ移りました。

――8utterflyさんが生まれてから博多なんですね。

8utterfly : 父の実家が福岡だったので、それで戻りました。

――お母さんは子供を芸能界に入れたいって気持ちはなかったですか?

8utterfly : そういうのは特になくて。どちらかというと、同じ道を歩んでほしくなかったらしいんですけど。ただ、子供がやりたいことは否定しないで自由奔放に育てたい母だったので。で、父はギターを持って歌ったりして、母は本の読み聞かせをするわけじゃないですか。そしたら、姉も私も自然と芸能の道しか選択肢がなかった。それ以外が思いつかなかったんですよね。

――そんな環境で育ったら、そう思うのは自然かもしれないですね。芸能の道はいつから意識したんですか?

8utterfly : 幼稚園の頃から。振り返ると、完全に親の影響ですよね。

――小学生の頃はどんな子供でした?

8utterfly : 小学生の時は女優さんになりたかったんですよ。

――歌よりもお芝居だったんですね。

8utterfly : その時、私の身近にあるものが演劇だったので。で、「女優さん楽しそう」と思って。小学生の頃は演劇部で「私が主役をやる!」って言って、毎年主役をやってたんですよ。嫌な子供です(笑)。あははは!

――子供とはいえ、演技のことでお母さんとしては色々アドバイスしたくなりますよね。

8utterfly : このセリフはどうとか、かなり特訓させられましたよ。で、「とにかく演劇をやりたい!」と言って『アニー』のオーディションを受けて。

――『アニー』ですか! それって何歳の頃?

8utterfly : 5年生とか6年生だったと思います。良いところまで残ったんですけど「次は東京でオーディションがあります」って時に、「合格したら学校を休まなきゃいけないとか、リスクが大きいから受けるのを辞めよう」って母から言われて、渋々諦めました。とにかく、積極的に演劇をやってましたね。

――じゃあ、中学生までお芝居に没頭していたわけですね。

8utterfly : あとはミュージカルとか、新体操、ピアノもやってました。

――うわぁ、忙しい子供だ(笑)。

全部自分の意思でやりたいって言ったんですけど、忙しかったですね。

――小学生の頃なんて遊びたいとか、ゲームしたいとか、なるべく楽することしか考えなさそうですけど。

8uttterfly : それはなかったですね。宿題とか勉強は嫌だったんですけど、人前に出ることがとにかく楽しくてしょうがない!みたいな。自分の存在を認めてもらえる瞬間が好きだったんですよね。ずーっと何かに打ち込んでるタイプでした。

中学生の頃は女優さんになる気持ちが強
かった

――中学生の頃は、どんな生活を送ってました?

8utterfly : 中学は演劇部がなかったので、吹奏楽部に入ったんですよ。で、気付いたら部長になってましたね(笑)。

――仕切るのが好きなんですか。

8utterfly : みんながやりたがらないんですよ。だったら私がやるみたいな感じで。実行委員もしました。でも、学級委員とか生徒会は嫌なんですよ。ただ、音楽とか演劇は好きだからそこに立っていた感じですかね。

――中学生の頃って多感な時期だと思うんですけど。その頃、将来の自分はどうなると思ってました?

8utterfly : 中学生の頃は女優さんになる気持ちが強かったですね。とにかく、オーディション雑誌をたくさん読んでました。音楽も好きだから、歌もやってて。中学生の頃はまだ作曲活動は……してないかな。ミュージシャンになるって難しいことだと思っていたので。

――身近にプロがいると、余計に感じますよね。

8utterfly : そうなんですよ! 身近にいるし、小さい頃から「はい、ギター持って、Aのコードを押さえて!」、「え?」みたいな(笑)。超難しいものだと思ってて。ピアノはまぁ弾いてましたけど、マニアックなレベルまでいくと「無理無理」って。演技をすることが好きだったので、その時はまだそんな感じでしたね。とにかく目立ちたいって気持ちが強い子供でした。

――外から見ると、部長をやったり、お芝居もやったりしてヒエラルキーで言えば上にいたと思うんですけど。内面はどんなことを考えてました?

8utterfly : 自分の好きなことしか考えてないとか、自分の話ばっかりとか……キャラ的には普通の女子中学生でした(笑)。よくいる明るい人っていう。

今思うと、どうかしてました

――高校はどうでした?

8utterfly : 部活でいうとコーラス部しかなくて、それも部長になったんですけど。

――(笑)。

8utterfly : 音楽室も借りられるし、歌の練習がしたいからコーラス部にしよう、みたいな。高校生の頃は……そのまま明るかったと思います。

――大奥みたいな、女子の争いには巻き込まれなかったですか?

8utterfly : 高校の女の子ってクラスでグループができるじゃないですか? ただ、私の場合は友達に言われたけど「グループのどこにも属さないし、どこにでも属してるよね」って。

――そういうポジションが一番嫌われないですよね。

8utterfly : そうなんですかね(笑)。やっぱり、その時からあったのかな、その能力が。嫌われないっていうよりかは、誰とでも馴染む能力があって。で、友達も多かったです。でも、親友は幼馴染と20代の頃に亡くなっちゃった友達の2人だけ。放課後にカラオケへ行ったり、プリクラを撮ったり、男の子の話をしたり、親にバレないように夜中に抜け出したり。まあ、普通の高校生ですよね。

――見た目はギャルでした?

8utterfly : いや、福岡ってギャルがいなくて、白ギャルかストリートファッションなんですよ。私はそんなオシャレじゃなかったし、お金もなかったので、お父さんのチャンピオンを借りたりして(笑)。

――卒業後は上京して、音楽活動を始めたわけじゃないですか。それは、どうしてですか?

8utterfly : 高校の女の子ってクラスでグループができるじゃないですか? ただ、私の場合は友達に言われたけど「グループのどこにも属さないし、どこにでも属してるよね」って。

――じゃあ、オーディションを受けて。

8utterfly : そうですね。毎月、東京から事務所の人が来てオーディションするみたいな。いつも途中までは受かるんですけど、最終までいかない。デモテープを毎月何十本も送りつけても中々通らない。で、どうやったら歌が上手くなるんだろうと思って。

――そこから、本格的に音楽へのめり込んでいくんですね。

8utterfly : その時から、そこそこは歌えていたんですけど、より特徴的じゃないとダメだと思って。マライヤ・キャリーは歌がうまいから、この人を完コピすれば良いんじゃない?っていう単純な発想で2ndアルバムの『Emotions』を全曲、彼女の真似をしながら歌ってたら、声帯の開き方が分かるようになって。実家の近くに、おばあちゃんの母屋があったので、学校から帰ったら狂ったように3時間くらい歌ったり、毎日腹筋を200回してました。今思うと、どうかしてました。

――それはストイックですね。

8utterfly : とにかく、どうにかしてデビューしたかったんです。で、クリスティーナ・アギレラ、MISIAさんとか歌が上手い人をとにかく模倣しようって。ただ、デモテープをいくら送っても受からない、みたいな。

――その頃は演技から音楽へシフトしてたんですか?

8utterfly : まだ、演技の道も捨ててなかったです。受験シーズンになって「演技の勉強ができる日大へ行こう」と思って親に相談したら「演技指導のレッスンをしてくれる人がいるから」って、毎日その人のところへ通って。ハンカチの落とし方をやるんですよ。で、ハンカチを落とした瞬間に「違う!」って言われて。その瞬間に「面倒くせえっ!」ってなって(笑)。

――あははは!

8utterfly : ハンカチ1枚落とすのに、どうのこうの言われても分かんない!と思って。で、私は演技に向いてないから女優を辞めよう!もう歌だ!って、そこから歌に意識が切り替わってますね。で、上京して歌うようになりました。

――当時は8utterflyじゃなくて、コユミ名義ですよね。

8utterfly : そうですね。東京へ行って、当時の大学にロック研究会っていうサークルがあったんですよ。そこでロックのカバーをたくさんやってたんですよね。元気なので、サークル活動だけじゃなくて、深夜でも歌をやろうと思って、渋谷界隈のクラブへ通ってたんです。そこで初めてラッパーのライブを観るわけですよ。すぐに「カッコイイ!」と思って。とあるラッパーのファンになって、その人のライブに行くのをきっかけに人脈が広がって「じゃあ、出てみたら」って誘われて、クラブでも歌うようになりました。

エンタメを意識して書いていたところは
ある

――根本的な話なんですけど……これまでの経歴を聞いていても、話をしてる雰囲気を見てても、8utterflyさんは明るい人って印象が強くて。

8utterfly : 私、明るいですよね。

――でも、作ってる曲は……。

8utterfly : 暗いですよね(笑)。
――そのギャップは何でですか?

8utterfly : そういう世界が好きなんですよね。すべては父の音楽観だと思います。父のやっていた音楽っていうのが、フォークミュージックで。その中でも陰と陽があるじゃないですか、私は陰のフォークが好きなんですよ。ボブ・ディランに「人はどれくらいの耳があれば 人々の悲しみが聞こえるのだろう」みたいな歌詞があって。そういう曲ばっかり聴いて育っていたので。そりゃあ、そうなりますよね。

――お父さんの世代的には森田童子とか、中島みゆきとか。

8utterfly : そうなんですよ、ちょっと哀愁がある感じ。特に、私がずっと聴いていたピーター・ポール&マリーは戦時中の歌が多くて。「あなたの戦友のふりをして通りすがれば、誰も気が付かないわ だから一緒に連れてって……」みたいな。そういう曲を家で聴かされて「なんて切ないんだろう……」と思って。小さい頃から、ちょっとロマンチストだったんですよね。あとは、中島みゆきさんの曲を聴いて「ダークな世界って、なんて素敵なんだろう」と思ってましたね。

――それで、根暗にならなかったのは奇跡ですよ。
8utterfly : あははは、たしかに(笑)。で、高校生になると椎名林檎さんが同じ地元から誕生するわけじゃないですか。「カッコイイ、何これ!」って。そういう女性にしか出せない闇とか、胸の奥に秘める日本的な熱さがキレイとかが美しいなと思って。そこを書いてるんです。

――(時計を確認して)すいません! そろそろ時間がきちゃいました。

8utterfly : そうですよね! しゃべり過ぎちゃいました(笑)。

――最後に言いたいんですけど、8utterflyさんの曲って1stアルバムから人間の陰りの部分を歌ってますけど。それを多くの人が共感できるってことは、ある種のエンターテイメントだと思うんですよ。

8utterfly : たしかにエンタメを意識して書いていたところはあるし、そことの戦いが長いです。今は、それを脱ぎたい! っていう気持ちが強いですね。今度はそこを回顧して包括しながら活動ができるのかなって。

――次のステージへ向かう8utterflyさんの人生を、今のタイミングで振り返ることができて良かったです。

8utterfly : ありがとうございました!
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8utterfly 次のステージに向かう決意はミーティア(MEETIA)で公開された投稿です。

ミーティア

「Music meets City Culture.」を合言葉に、街(シティ)で起こるあんなことやこんなことを切り取るWEBマガジン。シティカルチャーの住人であるミーティア編集部が「そこに音楽があるならば」な目線でオリジナル記事を毎日発信中。さらに「音楽」をテーマに個性豊かな漫画家による作品も連載中。

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