『親バカ子バカ』復活!藤山扇治郎に
聞く『松竹新喜劇新秋公演』の見どこ

2017年9月7日より新橋演舞場で『松竹新喜劇 新秋公演』が絶賛上演中だ(24日まで)。昭和の喜劇王・藤山寛美がその名を全国に知らしめたテレビドラマ『親バカ子バカ』が、現代の風潮をとりいれた『新・親バカ子バカ』として復活。寛美が演じた、“ちょっと足りない”社長の息子役を務めるのは、寛美の孫である藤山扇治郎だ。先月(8月)21日には、浅草公会堂の前で公演PRイベントが開催され、松竹新喜劇の三代目渋谷天外、藤山扇治郎、さらにゲスト出演するワハハ本舗の久本雅美と梅垣義明が参加した。
役の衣装で登場した4名は、公演への意気込みを色紙で披露。「ぼちぼちいこか」と書いたのは渋谷天外。「ゆっくり行こうか」ではなく、関西弁で言うところの「さあ、用意はできた!ぼちぼちいこか!」の意であるとし、貫録あるコメントの合間にも気合いをのぞかせる。扇治郎は「今年も演舞場で(藤山)炎舞場します」。“炎”の字に意気込みを感じさせつつ、新橋演舞場の人気公演「滝沢演舞場」も意識した色紙で笑いを誘った。
左から、梅垣義明、久本雅美、渋谷天外、藤山扇治郎
久本は、舞台での下ネタを禁止されていることを明かした上で、「やる気、元気、歯ぐき!よろちくびー!でございます。せめてここでは、やらせてください!」とイベントを盛り上げた。最後の梅垣の色紙は、「一生懸命」 。「真面目に書けって言ったじゃないですか」と梅垣本人は不満を漏らすも、奇抜なビジュアルと硬派な意気込み(しかも達筆!)のギャップに、一般の方も報道陣も爆笑。浅草公会堂入口に並ぶ『スターの手形』の中にある、寛美の手形に扇治郎が手を重ね、イベントは終了。その後、昭和に書かれた『親バカ子バカ』を現代版にリメイクするという新たな試みとなる『新・親バカ子バカ』について、SPICEは松竹新喜劇の藤山扇治郎に話を聞いた。

藤山扇治郎インタビュー

――新橋演舞場『松竹新喜劇 新秋公演』は、昼夜2部、各2作品ずつの上演です。扇治郎さんは、4作すべてに出演されます! それぞれの役どころを教えてください。
昼の部の『新・親バカ子バカ』では、社長(渋谷天外)の息子役を、任侠モノの『帰って来た男』では万吉親分(曽我廼家八十吉)の弟分《浅吉》を演じます。夜の部の『鼓』では、久本雅美さん(ダブルキャストで泉しずかさん)と漫才コンビの《梅吉》役を、長屋を舞台にした『お染風邪久松留守』では、大工《国松》役をやらせていただきます。
――名作と新作が揃う『松竹新喜劇 新秋公演』ですが、見どころは?
まず何と言っても、ワハハ本舗の久本さんと梅垣さんに出ていただけることは見どころのひとつです。これはもう、本っ当にありがたいことです!
――久本さんが新橋演舞場の公演に出演されるのは4回目、梅垣さんは初出演です。
何度目であっても僕らにとっては特別なことです。松竹新喜劇には素晴らしい作品がたくさんありますが、そこにゲストの方が出てくださると、作品の元々の良さを残しつつも、新しいものに生まれ変わります。お客様にも存分に楽しんでいただけると思います。
――生まれ変わるという点で、『親バカ子バカ』のリメイクも楽しみです。おじいさまである藤山寛美さんが演じた《寛一》を、藤山扇治郎さんは《扇一》という役名で演じるそうですね。
祖父が演じたアホのぼんぼん《寛一》は、当時「寛美といえば寛一くん」と言われたくらい人気のある役でした。上演する上で、時代も変わりそのままやるのは難しいところも出てきたので、社長とひとり息子の父子家庭という設定はそのまま、平成29年、現代を舞台にしたお話に書きかえてくださいました。
――どのような物語ですか?
製薬会社の社長である父親は、仕事が忙しくてなかなか家にいられない。そんな環境で育った一人息子は、小さい時から鍵っ子で、一人で過ごす時間が多く、友だちはテレビだけ。父親に溺愛されながら、世の中をほとんど知らないまま、戦隊ヒーローオタクになった青年が《扇一》くんです。その彼が、外の世界に出て、人との巡り合いから親と子の愛情に気がついていきます。
――テレビドラマ『親バカ子バカ』の初回放送は昭和34年でした。昭和と聞くと、そう遠くない昔をイメージしてしまうのですが、実はもう60年近い時を経ているのですね。
松竹新喜劇も来年70周年を迎えますからね。『親バカ子バカ』以外でも、上演する作品は昭和30年代から40年代に書かれたものが多いんです。
――現代の感覚でも楽しめる作品をたくさん受け継いでおられますが、昭和の作品を昭和の雰囲気で楽しめるのも魅力のひとつです。
レトロなんですよね。人が登場するときは絶対に音楽がなりますし(笑)。そういうちょっとレトロなところは、懐かしいなあという気持ちで、楽しんでいただければと思います。
一方で、昭和30年代から40年代に現代劇として作られた作品を、平成29年に現代劇として演じようとすると、無理が出ることも多いんです。お客様にも「これ、物語の設定は平成29年って言っているけれど昔っぽいな」と感じさせてしまうことがあると思います。
例えば、携帯もスマホもない時代に書かれている作品では、公衆電話を使うんですよね。現代にあわせようとして、単純に公衆電話をスマホに置きかえようとしても、物語の筋が「あれ?」となることがある。魚屋さんや商店街だって、今とはやはり違います。単純な置き換えでは通用しないところが難しいのですが、今回は、現代の感覚で現代劇として楽しんでいただけるリニューアルが施され、素敵な作品に仕上っています。
――アホぼん(※アホなぼんぼん。ちょっと“足りない“良いところのお坊ちゃん)の代名詞《寛一》が、ヒーローオタクのぼんぼんになるのも時代にあっていますね。最近は「アホ」という言葉も、状況次第で扱いの難しさを感じます。
「ドジ」という言葉はまだ使いやすいのですが、「アホ」はね(笑)。最近思うのですが、人間って誰にでもどこかドジなところがあって、そこがアホっぽくみえる。そういうところを、みんなが持っているんじゃないかと思うんですよ。例えば《扇一》くんは、戦隊ヒーローものが大好きです。「ハイ!お父様!」みたいな、“いいところのお坊ちゃん”らしい素直な明るい性格で、元気で真面目でまっすぐなところもある。でも、ヒーローオタクの一面がアホっぽく見えたり、まっすぐな性格がアホっぽく見えるときもある。
『新・親バカ子バカ』は、現代の設定に書き換わる中で、アホっぽいところだけをクローズアップしない、人の絆を描く物語として観ていただける作品になりました。もちろん面白い喜劇ですが、家族の絆が薄れてきている現代だからこそ、「世の中を知らないボンボンの笑えるお話」というだけでない、感じるところのある舞台になっています。
――関東圏に暮らしていると、新喜劇と聞くと、コントのようなステージを想像する方もいらっしゃるかもしれません。松竹新喜劇がみせるのは、涙と笑いと人情の舞台ですね。
松竹新喜劇がやるのは、お芝居ですね。一発ギャグはしませんし、会話の中で「なんでやねーん!」とかもしません(笑)。あくまでも物語の筋の中でのギャグ、筋にのっとったお芝居での笑いをやるのが、松竹新喜劇です。ですから「笑かそう、笑かそう」とか「こうやったらお客さん笑ってくれる」というのが出てしまうのは、ダメなんです。
――「笑かそう」はダメですか?
お客さんに笑っていただくことは、すごく大事です。でも笑ってもらえればそれでいいのかというと、違うんですよね。「笑かしたい」と思っているのは、役(劇中の人物)ではなく、演じている人(役者本人)です。そうなると、役者が役ではなくなっている。役から脱線していることになります。
松竹新喜劇の先輩方がよくおっしゃることがあります。「色んな役に挑戦していくと、自分とは性格の違う役をやることも多くなると思う。それでも、役を演じている時は、その性格の人間になれるようになりなさい」と。お芝居をするだけでも大変なのに、自分ではなく役の人でお客様を笑かし、お客様に喜んでいただけるようにならないといけない。その微妙なバランスが難しいなと感じています。
――松竹新喜劇が、コントではなく、あくまでもお芝居だからこその難しさですね。
あらためて思うのは、祖父のそういったバランス感覚は本当にすごいな、ということです。藤山寛美と《寛一》がつながっている。役と人がつながっているんです。「自分にはまだできひんな」と……、見習わないといけないんですけれどね(笑)。
――扇治郎さんは、前のイベントの中でも寛美さんのことを「眩しすぎて、神様みたいな人」とおっしゃいました。
「プレッシャーを感じるか?」と聞かれることも多いのですが、僕が3歳の時におじいさんが60歳で亡くなっています。一緒に舞台に立った経験等があれば違うのかもしれませんが、会った記憶もありませんし、凄すぎて……。尊敬はしていますがプレッシャーはありません。僕がプレッシャーを感じることさえ畏れ多いといいますか、豊臣秀吉とか聖徳太子みたいな感じです(笑)。
――尊敬する、歴史上の人物ですね。
祖父のお芝居をDVDなどで観て勉強もしますが、今は、先輩方や他の方の演技を観ることが一番勉強です。松竹新喜劇の場合、自分がいつかやる役を先輩方の演技で勉強することができます。「この役の時はこういう人間になるんだな」「そこはそういうイントネーションか」「だったら自分ならこうやってみよう」などを学んで、先輩方に助けていただきながら、今のお客様によろこんでいただけるようにがんばるだけです。
取材・文・撮影=塚田史香
公演情報

松竹新喜劇 新秋公演

■日程:2017年9月7日(木)〜9月24日(日) 昼の部:11:30~ 夜の部:16:30~
■会場:新橋演舞場
■演目
【昼の部】
一、新・親バカ子バカ 三場
二、帰って来た男 四場
【夜の部】
一、鼓(つづみ) 三場
二、お染風邪久松留守 四場
■出演:渋谷天外、藤山扇治郎、曽我廼家八十吉、曽我廼家寛太郎、曽我廼家玉太呂、江口直彌、川奈美弥生/髙田次郎、小島慶四郎、井上惠美子/久本雅美、梅垣義明/曽我廼家文童、大津嶺子 他
■公式サイト:http://www.shochiku.co.jp/shinkigeki/

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