宮崎駿より早かった?Plastic Tree『サナトリウム』に込められた引用のマジックとは

宮崎駿より早かった?Plastic Tree『サナトリウム』に込められた引用のマジックとは

宮崎駿より早かった?Plastic Tree『
サナトリウム』に込められた引用のマ
ジックとは

『アローンアゲイン、ワンダフルワールド』『リプレイ』『梟』と、それぞれテイストは違うが4回連続の失恋ソング続きで、ファンとしては「そろそろいい加減にしてくれー」と根を上げそうになる1枚でもあった。だがいずれも、曲としてとてもいいことに変わりはない。
リリースから6年経った今、改めて冷静に『サナトリウム』を紐解くと、あるからくりが見えてきた。例えば1番の歌詞。

「禁じられた遊び」とは、アカデミー賞を受賞した古いフランス映画だ。戦争のさなかで孤児の少女と家庭のある少年が出会い、犬の死をきっかけに十字架を盗んでいく。十字架は終盤、川に捨てられ、燃やされるわけではないので、歌詞においては、タイトルから雰囲気を捉えれば充分かもしれない。
2番の歌詞を見てみよう。
「風立ちぬ」は宮崎駿の映画の原作にもなった、堀辰雄の文学作品のタイトルだ。舞台は戦時中の日本で、主人公は飛行機造りに没頭する青年。そして主人公の恋人は、サナトリウムに入院している。
1番の歌詞での引用と共通するのは「戦争」だが、おそらく「禁じられた遊び」は「風立ちぬ」に対する引き立て役のようなものだろう。実際に堀辰雄の『風立ちぬ』を読むと、プラスティックトゥリーの『サナトリウム』との共通点があまりに多い。『サナトリウム』に隠されたからくりとは、あくまで下地のある、完全にフィクションの世界を描いている、というものだ。
もう少し深読みしてみよう。「甘い屑」とはなんだろう?
この『サナトリウム』が『風立ちぬ』を下地にしていることがわかれば簡単な謎解きだ。「数えきれ」なくて「散らか」る「屑」といえば、手紙だろう。形容詞に「甘い」とあるのでここでは、おそらくラブレターのことを指している。
「ラブレター」「恋文」「手紙」という言葉を選ばず、「甘い屑」と表現してしまうところに、プラスティックトゥリーらしさが垣間見える。このバンドを説明する際、しばしば「歌詞が文学的だ」と表現されるが、「甘い屑」という歌詞はまさに文学的な言い方だ。
宮崎駿が『風立ちぬ』の戦争面にフォーカスしたとすれば、プラスティックトゥリーは恋愛面にフォーカスしている。
曲を聴いてもらう、人に音楽で何かを伝える、という場面では、恋愛をテーマにした方がわかりやすいのかもしれない。
もちろん、『風立ちぬ』はあくまで下地だ。もっと読み解いていくと、プラスティックトゥリーが独自に世界観を作り上げていることもわかってくる。
『サナトリウム』の歌詞の世界はあくまで失恋ソングだ。『サナトリウム』は和訳すれば療養所の意味で、病院とはちょっと違い、重症患者が心身を休めるための施設で、山奥にあったりする。そしてこの前には、「恋は虫の息です」という歌詞がある。つまり、恋人は「虫の息」から死へ向かい、「枯れていく」のだ。
死というテーマが見えてくると、「禁じられた遊び」の引用もむやみなものではないことがわかる。歌詞の主人公は「待ちこがれた涙」を流して、恋人の死を悼んでいる。
個人的には、この『サナトリウム』という曲は、プラスティックトゥリーの歌詞世界全体における真骨頂ではないかと考えている。上の引用は抽象的だが、ここまで読み解いてみればなんとなく伝わってくるものがあるはずだ。ハッキリとは歌わず、遠回しな表現を多用することで、絵画のような美しさがある。淡い水彩で、静かに優しく、画用紙に絵を描いているようだ。
『サナトリウム』はあくまで失恋ソングだが、単なる失恋ソングとして流し見できない魅力を秘めている。

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