photo:Chris Dorney /123RF アフリカ・ルワンダの「セックス・ピストルズ」切手、2009年頃。(RWANDA, AFRICA - CIRCA 2009: A postage stamp from Rwanda of legendary band 'Sex Pistols', circa 2009.)

photo:Chris Dorney /123RF アフリカ・ルワンダの「セックス・ピストルズ」切手、2009年頃。(RWANDA, AFRICA - CIRCA 2009: A postage stamp from Rwanda of legendary band 'Sex Pistols', circa 2009.)

セックス・ピストルズはへたくそなの
?:ロマン優光連載92

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第92回 セックス・ピストルズはへたくそなの? セックス・ピストルズというバンドに対して下手くそだということを言っている人がたまにいるのだが、果たしてそうなのだろうか?
 少なくとも、グレン・マトロックのベースは間違いなく上手い方だと思うし、ポール・クックのドラムも手数こそ少ないがタイトでしっかりとしたドラムだ。スティーブ・ジョーンズも超絶技巧なギタリストではないが、自分たちの曲を演奏するに当たっては何の問題もない演奏力があって、控え目に言っても下手くそではない。ジョニー・ロットンのボーカルは暴力的で調子っぱずれのように聴こえなくはないが、ちゃんとコントロールがなされているものであって、あれを上手い下手で評価するのは何か違うような気がする。だいたい、彼らはライブデビューするまでに、長期間に渡ってスタジオ練習を重ねてきたグループなのだから、下手くそなわけはないのだ。ジョニー・ロットンのオリジナリティあるボーカル(といっても、ヴァン・ダー・グラーフ・ジェネレーターのピーター・ハミルといった先駆者はいるのだが)を外して聴いてみれば、グレン在籍時のピストルズの演奏は活きのいいロックンロール・バンドと言えるものだ。彼らの代表曲『アナーキー・イン・ザ・UK』にしても、ギターのミニマルで凶暴なフレーズとロットンのボーカルによって破壊的な印象を与えるかもしれないが、基本的に演奏自体はすごく真っ当な曲だ。
 グレンの公認のベーシストであるシド・ヴィシャスは確かに演奏経験がほぼ無いに等しい状態で加入しているために演奏能力に関していえば非常に低いものがある。それに加えてヘロイン中毒の進行により、まともに演奏することすらできない時もあった。いくつかのライブ録音で聴くことができる彼のベースは確かに間違いなく下手くそだ。
 しかし、「ピストルズは演奏が下手くそ」と言ってる人の多くが、シドがベースを弾いている音源を指してそういっているわけではない。彼らのアルバム『勝手にしやがれ』に収録されている音源や、せいぜい、彼ら主演の映画『グレート・ロックンロール・スウィンドル』のサントラに収録されている音源に対してそういう感想をもらしている場合がほとんどだ。
『勝手にしやがれ』でのベースはギターのスティーブが弾いていて、面白い演奏ではないが別に下手くそというわけではない。オーバープロデュース気味に仕上げられた『勝手にしやがれ』は全体的にしっかりした作りであり、演奏もかっちりしている。
『グレート・ロックンロール・スウィンドル』でも、シドの演奏は『ベルゼン・ウォズ・ア・ガス』のライブ録音ぐらいしか収録されてなかったと記憶しているが、他のピストルズ名義の演奏はグレン時代は言うに及ばす、普通にしっかりしたものだ。
 Twitterなどでも彼らの曲のYouTube動画を貼って「演奏力を無視したかっこよさ」のような、彼らが演奏能力が低いのを前提にしたコメントが付けられているのをたまに見たりするのだが、そこで貼られてる音源は『勝手にしやがれ』の収録音源であって、コメントと内容が一致してないことが多い。
 結局、そういう人は、シド・ヴィシャスのパブリック・イメージやパンクに関する様々なハイプな情報に引きずられてるだけで、実際の音楽を聴いていないのだろう。実際にあるものより、事前情報によって得られたイメージを優先しているのだから。
 こういうことに限らず、かなりの数の人が実際に起こっていることを把握するよりも、表面的なイメージを優先する傾向があるのではないだろうか。2者の間にトラブルがあった場合、実際どちらが悪いかを事実から判断するのではなく、口調が丁寧な方が正しく、乱暴な方が間違っているという風に判断する人は多い。被害者側が怒りを露わにして抗議する場合、加害者側がそれに対して怯えてみたり、弱った様子を見せると、本来の加害者を被害者のように判断する人はいるのだ。事実を検証して正当性を証明したとしても、そういう人は最初の印象を優先してしまいがちでもある。そういう人たちは、対象に対してそこまで興味がないのだろう。他人事だから、深く考えることをせずにイメージを優先させる。こういう人は、自分が当事者にならない限り、どこまでいってもこのまんまなのだろう。自分的には「いかがなものか」と思うのだが、世の中とはそんなものなのだろう。
 長々と書き連ねてきましたが、私が何が言いたいかというと、初期のクラッシュこそ本当に演奏が下手だということ、そしてポール・クックがプロフェッショナルズとして新譜をだすこと、私がピストルズで一番好きな曲はポールが歌ってるバージョンの『シリー・シング』ということなのでした。『シリー・シング』、本当に良い曲。
(隔週金曜連載)
photo:Chris Dorney/123RF RWANDA, AFRICA - CIRCA 2009: A postage stamp from Rwanda of legendary band 'Sex Pistols', circa 2009.
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。
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