【連載】フルカワユタカはこう語った
第19回『フルカワユタカはうまく語
れない』

言葉が出てこない。
レコーディングを間近に控えて、本来はもう書き終えて、なんなら歌の練習に勤しんでいなければならない時期なのだが、歌詞がまだ一行も出来ていない。加えてこのコラムも随分と遅れていて、こうして一旦作詞を中断して書いてはいるものの、こちらはこちらで言葉が滞る。ミュージシャンを志した時に、まさかこんなにも言葉で困るようになるとは想像もしなかった。歳をとって感動の沸点が低くなってるからだろうか? 毎日が平和でちっとも混沌としていないからだろうか? “ひねくれイジケ大王”の僕の場合、楽しいことや、正しいことは文字にノリづらく、ズルいことや、悔しいことなどの方が言葉にしやすい。
最近は文筆に挑む度に苦しんでいる気がするが、今回はその中でも中々悪質な言葉便秘だ。文字に漬かれば出てくるのでは?と思い、作詞後に読もうと我慢していた本をあえて手に取ったが、結果夢中になって読了してしまい、また丸裸のままレコーディングの日へと近づいただけだった。
とはいえ、このコラムを書くようになって僕は言葉を紡ぐ楽しさを覚えた。正確に言うと、そもそも言葉を紡ぐのは嫌いではなかったのだが、そうやって紡ぎ出された文章や歌詞を他人に評価されることに、ある種の快感を覚えるようになった。音楽と違い自己承認欲求どまりだった“言葉の表現”が段々と他者承認欲求に変わってきたといったところか、大袈裟に言えば。
小学4年生の夏休み明け、僕は必須課題の読書感想文ではなく、自作の小説を書いて提出した。内容はほとんど覚えてないが、擬人化された昆虫達が宝物を捜す旅に出るという冒険物で、返却の際、担任の先生が僕を叱っているような褒めているような、不思議な感じだったのをぼんやりと覚えている。「書け」と言われた時に、誰かが書いた本の感想より自分の頭の中の妄想を題材に選んだのだ。先生はあくまでも“読書感想文”を「書け」と言ったのだが。
“音源”の内容を「語れ」と言われたのに“人間”の内容を語ってしまい、いつもまともなディスクレビューを書か(け)ない僕らしいエピソードではあるが、あの自作の物語、実家に返って探せばまだあるのだろうか。僕の精神の原型がそこで垣間みることが出来るのなら今まさに読んでみたい。
高校2年生のとき、当時愛聴していた『ヘビーメタルシンジケート』という全国ネットの深夜ラジオで僕の手紙が読まれた。それはジェイソンベッカーというギタリストのニューアルバムについて書いたものだった。数年前に話題になった“アイスバケツチャレンジ”で注目を浴びたALSという難病(体中の筋肉が萎縮しいく病気で、原因不明かつ有効な治療法がなく、5年生存率が50%という難病)。ジェイソンベッカーは21歳という若さでその病気を発症していた(ちなみに現在も彼は存命で、体は全く動かないながらも周囲の協力のもと音楽活動を続けている)。僕は彼の新曲を番組でかけてもらおうと、思いの丈を手紙にしたためて送った。
「グリーンデイやらニルヴァーナやら演奏技術も乏しいのに多くの人々から脚光を浴び、その一方でジェイソンベッカーのように卓越した能力をもった音楽家には光があたらない。それどころかその技術までもが理不尽に奪われようとしていて、許せない」(といった趣旨の内容を、A4用紙にびっしりと書いた)
当時の僕は、一体何を許せなかったのだろう。今思えば、ジェイソンの新曲をリクエストするためにわざわざ他の音楽を否定する必要はまったくなく、ただ単に自分の陰鬱とした青春時代のストレスをズレた正義感でもって発散しようとしていただけかもしれない。それでも17歳なりに一生懸命、A4用紙いっぱいに紡がれたその言葉達はそれなりの説得力を持ったようで、“山口県山口市匿名希望17歳”から届いた手紙は、投稿の翌週、しかも番組冒頭のオープニングテーマより前と言う異例のスポットで(たしか。もしかすると美化されてるかも!)、グリーンデイやニルヴァーナといった実名は伏せられながらも、ノーカットで読まれ、そのあとでジェイソンベッカーの新曲が流れた。
不意をつかれたから、本懐を遂げたはずなのに、なんだか恥ずかしさだけが残って、“もしかすると、読まれたかったんじゃなくて、書きたかっただけだったのか僕は”と不格好な気持ちになったのをぼんやりと覚えている。週明け月曜日、違うクラスのバンド仲間が教室にやってきて僕に尋ねた。
「土曜日のシンジケートで読まれた手紙って古川が出したんだよね?」

「それ俺も聴いてた。だけど違うよ」

「山口市の17歳でジェイソンベッカー知ってるヤツなんて、俺か○○か古川しかいないと思うんだよな。○○はあんな手紙書くわけないから、絶対古川だと思って」

「俺もびっくりしたよ」

「この街に他にもいるんだなそんなやつ。なんか気合い入っていい手紙だったな」
あいつの名前忘れちゃったな。確か平川中出身で、違う高校の電気屋の息子(←それが前述の○○君)とジューダス・プリーストのコピーバンドをやってて。まあ、絶対このコラム読んでないだろうけど、嘘ついてごめん。あの日読まれた手紙は俺が送ったものです。普段クールぶってたから熱い自分を知られるのが恥ずかしかったんだよね。曲をかけてもらいたくて一生懸命手紙書いたけど、まさか読まれるとはね。それと俺、東京出てからすぐパンクもオルタナも全部好きになっちゃった。上手いばっかが音楽じゃないっていうかさ。もちろんメタルは今でも好きだけど。とにかくなんかごめん。
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
『オスローバッティングセンター』──歌舞伎町界隈にはライブハウスが沢山あるのでバンドマンやライブ通いが好きな人なら知っている人も多いだろう。新宿ACBでHAWAIIAN6Jr.MONSTER とライブをやっていた頃、本番までの暇つぶしに何回か行ったことがある。僕は十数年ぶりにそこで時間を潰していた。
9月2日、新宿MARZで行われた『木下理樹 and more(仮)』という得体の知れないユニットの結成ライブ(ちなみに僕はその日をもって脱退した)。リハ後、本番までかなり時間があったので久々にバッティングセンターにでも行こうかとも思ったが、歌詞もコラムも上がってない今はそれどころではない。ほんの少しの時間でもなんとかして言葉を絞り出さねば。
ジョナサン新宿御苑前店。学生だらけの店内、消しゴムのカスまみれのテーブル、あと二口くらい残ったプレミアムモルツの中ジョッキ、左手に握るフォーク、掲げられた無傷の唐揚げ、右手にシャーペン、握ったまま天井の模様を鑑賞し続ける僕。2時間くらい「あー、うー」と唸っていたが結局何も生み出せず、気づけば僕はオスローバッティングセンターにいた。
一球打ち返すごとに“言葉を紡ぐ”とかどうでも良くなっていく。来る球を打ち返すだけの単純作業でどんどん無心になっていき、“やったことはないけど禅というのはこういうものかもな”と思った。たった50球程で手のひらに小さい豆が出来た。なんだか心地が良くて“なるほど順番待ちする程ここが混んでいるのは、こういうことか”とも思った。
▲LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
自分の全てを失うような気になって、言い訳なのか、悲しみなのか、怒りなのか、感謝なのか、その全部なのか、ファンになのか、自分になのか、とにかく告げなければならないと思い、5年前、僕は大事に大事に言葉を紡いで、DOPING PANDAの解散コメントを書いた。事務所からは「少し長いような気がするけどな」と言われたが、初めに書き上げたときはあの3倍くらいの長さがあった。一気に言葉が出てきて、それを全部書き出して、それから多すぎないよう、少なすぎないよう、足して、削って、を二週間くらい繰り返して。そしてみんなに届けたのが“アレ”だった。
心に色々つまっている時、それを吐き出さないとおかしくなっちゃうから自然と言葉が溢れる。逆を言えば、今の僕には小学4年生の僕や、高校2年生の僕や、5年前の僕のように、“吐き出さなければ我が身が持たないもの”がないということだ。そうか、今は残念なことに音楽家として平凡に幸せなのか。日々が充実しているというのも中々困ったものだ。
▲LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
野球少年だった僕。昔取った杵柄よろしくカキンカキンとバットに当たるもんで、調子に乗ってブンブンと振り回していたら、普段使ってない筋肉を使っていたようで、翌朝もれなく筋肉痛に。その日は新潟で、LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSのライブがあり、これはやっちまったかなと。昔ボーリングのやり過ぎで手首を痛めてベースプレイに支障をきたしていたタロティーを思い出しながら、内心かなり焦っていたのだが、“普段使わない筋肉を使ったため”というのがミソだったようで、嘘みたいな話、ギターを弾く分にはその筋肉痛は一切関係なく、パフォーマンスもここ最近最高の出来だった。
とまあ、オチもない話だが、今回のコラムはこれにて脱稿。たまには構わんでしょう。日々というものは本来ハッピーエンドやバッドエンドが必ずあるのではなく、ただただ過ぎていくものなのだから。僕に書けるかどうか分からないけど、作詞もこの際こんな気構えでいってみようかしら。例えば須藤君が書くヤツみたいなあの感じで。アレも素敵よね。
■シングル「days goes by」


2017年11月8日(水)発売

【CD】NIW136 1,700円 +税

<収録曲>

1. days goes by

※ボーナストラックとしてDEMO音楽を多数収録予定。

■<フルカワユタカ SHELTER 3days>


11月28日(火)下北沢 SHELTER「バック・トゥ・ザ・インディーズ」

▼サポートメンバー

bass: 村田シゲ (ロロロ) / drum: 福田忠章 (Frontier Backyard , Scafull King)
11月29日(水)下北沢 SHELTER「フルカワユタカはこう弾き語った」
11月30日(木)下北沢 SHELTER「無限大ダンスタイム’17」

▼サポートメンバー

guitar: 新井弘毅 / bass: 宇野剛史 (QUADRANGLE,GOLIATH) / drum: 鈴木浩之 (U&DESIGN, QUADRANGLE,GOLIATH)
▼チケット

全公演 前売り¥3,500(税込、D別)

※3日間連続ご来場のお客様にはプレゼントあり

(問)DISK GARAGE 050-5533-0888(平日12:00~19:00)

■<フルカワユタカ 5×20 (ファイヴ バイ トゥエンティ)>


2018年1月28日(日)新木場コースト

act:フルカワユタカ & many bands , musicians (詳細後日発表)

■<FRONTIER BACKYARD 6th album「TH
E GARDEN」Release Tour>

2017年11月10日(金)宮城・仙台 enn 2nd

出演:ASPARAGUS / FRONTIER BACKYARD / フルカワユタカ

2017年11月11日(土)岩手・大船渡 KESEN ROCK FREAKS

出演:ASPARAGUS / FRONTIER BACKYARD / the band apart / フルカワユタカ

2017年11月12日(日)岩手・宮古 KLUB COUNTER ACTION MIYAKO

出演:ASPARAGUS / FRONTIER BACKYARD / the band apart / フルカワユタカ

2017年11月14日(火)北海道・札幌 BESSIE HALL

出演:ASPARAGUS / FRONTIER BACKYARD / フルカワユタカ

2017年11月16日(木)青森・aomori SUBLIME

出演:FRONTIER BACKYARD / フルカワユタカ

2017年11月17日(金)宮城・石巻BLUE RESISTANCE

出演:FRONTIER BACKYARD / フルカワユタカ

2017年11月18日(土)栃木・HEAVEN'S ROCK Utsunomiya VJ-2

出演:FRONTIER BACKYARD/ CALENDARS / フルカワユタカ

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