【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.87
「SUMMER SONICの空飛ぶドラゴンの
話」

FOO FIGHTERS、CALVIN HARRIS の2組がヘッドライナーを飾ったSUMMER SONICが、今年も8月19日(土)・20日(日)に東京と大阪の2都市で開催されましたね。参加された皆さん、お疲れサマーソニックでした。
サマーソニックは国内外で流行する最先端の音楽からマニアックなものまで、あらゆる音楽を揃えてオーディエンスを迎える日本最大の都市型音楽フェスティバル。その参加者の多くはその豊富なラインナップに惹かれて足を運んでいることと思います。今回はそんなサマーソニックのステージの外にも視線を向けてみてほしいというお話です。
音楽フェスのメインパートはもちろんライブですが、昼夜楽しむオーディエンスが過ごすために必要不可欠である飲食やトイレなどの場内施設、さらにライブ以外のアクティビティといった音楽以外のパートも含めて全体が成り立っていますよね。たとえば来場者がまず目にするものと言えば案内看板や入場ゲートなどですが、それらを含めたあらゆるものにそのフェスティバルのカラーが打ち出された装飾が施されるのが通例となってきました。とりわけサマーソニックの東京会場では年を追うごとにフェス全体を彩る装飾がパワーアップしており、そのエリア・ステージ毎に観る者を圧倒して飽きさせない華やかなデコレーションが毎年飾られています。
その中でもスタジアム内に設置されるMARINE STAGEに次いで2番目に大きなステージのMOUNTAIN STAGEをはじめ、サマーソニックの核とも言えるSONIC STAGEやその名の通り色とりどりのアーティストが集うRAINBOW STAGEなどが設置される幕張メッセ内のすべてのステージ・エリアと飲食エリアの頭上高くに吊り上げられた巨大な装飾を記憶されている方も多いことでしょう。それら幕張メッセ内ほとんどのエリア及びスタジアム外周の一部エリアの装飾を手がけているのはイギリス人デザイナーのTom McPhillips氏率いるATOMICというアメリカの会社で、筆者は彼らチーム ATOMICのローカル・アテンドとして2009年から参加しています。
ATOMICの歴史は古く、今から40年前のイギリス・ロンドン市内にある劇場のステージ・セット製作を手がけていたTom McPhillips氏が劇場からロックンロールのライブ会場へと活動の場を広げたことに始まり、80年代から90年代にかけてはThe WhoJudas PriestOzzy OsbourneMichael Jacksonなどの名だたる顔ぶれのコンサート・ツアーのステージ・セット製作を担ったとのこと。その後はアメリカからのオファーが急増したことにより活動拠点をアメリカ・ペンシルベニアに移してATOMICを創立し、ライブ・コンサートの他、TVショー、照明、装飾部材のレンタルなどのエンターテインメント業界における様々な分野において展開する企業として確立。ここ日本ではサマーソニックを筆頭に、EXILE ATSUSHI、ケツメイシ、MISHAなどのステージ・セットのデザインを担い、日本のエンタメ業界を支えています。
そんなチームATOMICによるサマーソニックでしか観ることの出来ない今年の装飾の数々は写真でご覧いただける通り大掛かりなものばかりで、飲食ブースに飛んでいた今年初見せの「Dragon」は顔部分の製作だけで2日要しました。これらのデコレーションは開催1週間前から仕込みが開始され、装飾を照らす東京舞台照明とステージ施工のシミズオクトら各セクション・メンバーが朝から晩まで、時に巨大なクレーンを使用するなどしながら一体となって設置します。
また、サマーソニックのすごいところはこれらの装飾をバックステージにある出演者専用のアーティスト・ケータリングエリアにも及ばせ、出演者並びにそのクルーに対するホスピタリティを作り上げている点です。白く巨大なサイコロ状の屋根のような装飾はファブリックとポールとで四角を延々作り上げるタイプのもので、組み上げに5、6時間を要します。ミュージシャンたちはこのスペースで食事や会話、マッサージやダーツなどを楽しみ、リラックスして本番に臨んでいるわけです。今回は特別に、そのエリア写真も公開させていただけることになりました。
日本にも音楽フェスが根付き始めたことで、フェスに参加するのはコアな音楽ファンだけではなくなり、子どもを含めた家族や友人を伴っての参加者やアジア近隣を中心とした諸外国からの来場者も年々増加しています。昨今ではそれぞれのフェスが独自のカラーを打ち出そうとフェス飯や施設内の充実を事前に謳うことも多くなり、オーディエンスは自分好みのフェスをより選びやすくなりましたが、今回ご紹介しました場内の装飾を観てまわるというのもフェスの楽しみ方もひとつ。これを機にステージ以外にも目を向けて、すべてのアートを存分に楽しんでいただきたいです。
写真=Tom McPhillips

文=早乙女‘dorami’ゆうこ

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