これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

    これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!

    スティーブ・ウインウッドの全米1位
    に輝いた、
    ソロ作品の中でもっともソウルフルな
    テイストの
    『ロール・ウィズ・イット』

    『Roll with It』(’88)/Steve Winwood

    『Roll with It』(’88)/Steve Winwood

    僕は事あるごとにスティーブ・ウインウッドは天才だと言いまくっているが、中年以上のロックファンなら当たり前のこととして受け止めてもらえるはずだ。ただ、若い人はウインウッドの名前すら知らないことも少なくないので、残念ではある。スペンサー・デイヴィス・グループ時代も、パワーハウス時代も、トラフィック時代も、ブラインド・フェイス時代も、彼はどんな時でも才能に満ちあふれ、ロックの新しい道を切り開いてきたパイオニアであった。それは、もちろんソロになってからも変わってはいないのだが、尖った部分が後退し、予定調和的な部分も見えなくもなかった。しかし、今回紹介するソロ5作目の『ロール・ウィズ・イット』は彼の原点ともなる黒人音楽を見つめ直し、これまで培ってきたキャリアを再構築したようなグルーブに満ちたアルバムとなった。

    ソロ活動前の歩み
    (スペンサー・デイヴィス・グループ〜
    トラフィック)

    それでは、まずは彼がソロデビュー前の活動を見ていこう。スペンサー・デイヴィス・グループは1964年にデビュー、ブルースやソウル風味のある音楽で人気を得ていた。65年リリースのシングル「Keep On Running」で初の全英1位を獲得し、ソウルシンガーのようにシャウトするスティーブ・ウインウッドのヴォーカルが注目を集める。この時、彼はまだ16歳であった。そして翌年、ロック史に残る名曲中の名曲「ギミ・サム・ラヴィン」(スティーブ、彼の兄マフ、スペンサーの共作)の大ヒットでスティーブはミュージシャンやプロデューサーから引っ張りだこの存在となり、クリーム結成前のエリック・クラプトンやジャック・ブルースと一緒にパワーハウスというブルースロック・ユニットを組んでいる。このユニットの残された音源は『ホワッツ・シェイキン』(‘67)というコンピレーション盤に収録されている。パワーハウスのセッションで新しいロックの可能性を予感したスティーブは、スペンサー・デイヴィス・グループを脱退し、新たなサウンドを創造するためにデイブ・メイソン、クリス・ウッド、ジム・キャパルディとトラフィックを結成する。
    トラフィックは67年に発表したデビューシングル「Paper Sun」(全英5位)と続く「Hole In My Shoe」(同2位)が大ヒットし、同年終わりにリリースされたデビューアルバム『ミスター・ファンタジー』は時代の感性をキャッチした新しい“ブリティッシュロック”となった。

    ソロ活動前の歩み
    (トラフィック解散〜ブラインド・フェ
    イス)

    ミュージシャンとしてのスティーブの才能はどんどん成長を続けるが、メンバーとの確執(主にデイブ・メイソン)が根強くあり、続く2ndアルバム『Traffic』(‘68)をリリースした後、グループは活動休止を余儀なくされてしまう。
    そもそもトラフィックはスティーブのワンマン・バンド的な部分があり、ギター、ベース、キーボードを彼の多重録音で処理していて、この時点でソロになっても不思議ではなかったのだが、ちょうどこの頃、クリームを解散したばかりのクラプトンとジンジャー・ベイカーに誘われて、新たなロックグループのブラインド・フェイスを結成することになったのである。スーパーグループであったブラインド・フェイスもジンジャー・ベイカーとクラプトンの中が険悪となってしまい、結局1枚アルバムを作っただけで空中分解してしまう。ただ、ブラインド・フェイスでのスティーブのヴォーカルとキーボードは素晴らしく一聴の価値はある。

    ソロ活動前の歩み
    (トラフィック再結成〜セッション活動

    ブラインド・フェイスがうまくいかず、スティーブは再びクリス・ウッドとジム・キャパルディを呼び寄せる。今回はブラインド・フェイス時代の名ベースプレーヤー、リック・グレッチが加入し、ここにトラフィックの再結成が決まった。リック・グレッチはカントリー音楽に精通しており、それまで黒人音楽一辺倒だったスティーブに彼が音楽的な拡がりを与えたことは大きな収穫であった。
    第2期トラフィックはソウルやブリティッシュ・トラッド風味に加え、フュージョンやジャズファンク的な要素もある。実験的でありつつポップな部分も感じさせるなど、ロック界に大きな足跡を残している。『ジョン・バーリイコーン・マスト・ダイ』(‘70)以降、メンバーチェンジしながらも5枚の秀作をリリースし74年に解散する。そして、スティーブ・ウインウッドは数年間のセッション期(充電期間でもある)を経てソロアーティストに転身する。

    ソロ活動

    パンクロック旋風が巻き起こっていた77年、とうとうスティーブはソロデビュー作『スティーブ・ウインウッド』をリリースする。アンディ・ニューマーク、ウィリー・ウィークスという鉄壁のリズムセクションをバックに、フュージョン系のソウルっぽいサウンドを聴かせている。当時、イギリスで流行っていたパブロック系ファンクバンドに影響されているのだが、本家は俺だと言わんばかりの卓越した演奏は今聴いても素晴らしい。名作である。
    続く『アーク・オブ・ア・ダイバー』(‘81)『トーキング・バック・ザ・ナイト』(’82)はシンセが中心のポップアルバムで、どちらも大ヒットしたのだが、ほぼひとりで多重録音しているだけに音がチープ(シンセの黎明期だけに…)なのが残念だ。どちらのアルバムも良い曲が多いだけに、バンド形式での再録音を望みたい。
    そして、音がチープなのをスティーブ自身がどう思っていたかは分からないが、4thアルバム『バック・イン・ザ・ハイライフ』(‘86)では一転して豪華なバックに囲まれての収録となった。ナイル・ロジャーズ、ジョー・ウォルシュ、スティーブ・フェローニ、チャカ・カーン、ジェームス・テイラーなどなど、驚くほどのメンバー群が参加している。また、彼の代表曲のひとつ「ハイヤー・ラブ」が全世界でヒットし、アルバムも全米チャートで3位となり、翌年のグラミー賞を受賞するなどソロ時代最大の注目を集めた作品となった。サウンドはと言えば、80年代中期という時代にマッチしているもので、ポップさにも磨きがかかり、彼の天才ぶりが改めて認識された感じであった。ただ、僕には彼が「ヒットメーカーであらねばならない」と少し無理をしているように感じた作品である。

    本作『ロール・ウィズ・イット』につい

    前作で大ヒットを飛ばしたあとであるだけに次はどんなサウンドでくるのか、ファンの期待は大きかった。リリースされたのは前作から2年経った88年である。アルバムを手にしてみての最初の驚きは、第1期トラフィックの頃から前作まで長い間在籍したアイランドからヴァージンへと移籍していたことだ。これは相当大きな判断のはずで、彼の心機一転ぶりが分かる。
    1曲目のタイトルトラック「ロール・ウィズ・イット」はスペンサー・デイヴィス時代に戻ったかのような熱いソウルナンバーだ。こんなにストレートに原点回帰していいのかと思うぐらいのシンプルなサウンドで、昔の彼をよく知るファンには素敵なプレゼントであった。他の曲でもスタックスやモータウンなど、北部や南部を問わずソウルに対する愛着が見え隠れするナンバーが多い。もちろん、前作の流れに属するポップなロックも含まれてはいるが、おそらく彼自身、この作品でこれまでの経歴をリセットしたかったのだと思う。
    このアルバム、蓋を開けてみれば前作よりもヒットし、全米チャートでは1位を獲得し、全英チャートでも4位というセールス的には文句のない成績を収めている。彼の弾くハモンドオルガンはカッコ良く、本作以降ロック界におけるハモンドオルガンブームにつながったのは間違いないだろう。最後から2曲目の名曲「ワン・モア・モーニング」での泥臭いホーンセクションは、オーティス・レディングやアレサ・フランクリンらの南部ソウルを支えたメンフィス・ホーンズによるもの。シンセによる似非ホーンと違ってとても味わい深い。
    このアルバムがスティーブ・ウインウッドの最高作かと言うと、僕はそうは思わないが、それでも上位にランクされる作品であることは間違いない。まだ彼のアルバムを聴いたことがないのであれば、本作か前作の『バック・イン・ザ・ハイライフ』あたりから聴いてみるのが良いのではないだろうか。あ、トラフィックも抜群のグループなので、是非聴いてみてください!

    TEXT:河崎直人

    アルバム『Roll with It』1988年作品
    『Roll with It』(’88)/Steve Winwood

    OKMusic編集部

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