【インタビュー】パラダイス・ロスト
「どこまでも暗い深みに堕ちていく」

英国デス/ドゥーム&ゴシック・メタルを代表するパラダイス・ロストがニュー・アルバム『メデューサ』を発表した。ダークで憂いに満ちたそのヘヴィ・サウンドは、初期の彼らを彷彿とさせながら鮮血の暖かみを感じさせるような現在進行形のサウンドが息づいている。
バンドのボーカリスト、ニック・ホルムズに、新作『メデューサ』を語ってもらった。
──『メデューサ』でのダークでヘヴィなアプローチは、初期を思わせるものがありますね。
ニック・ホルムズ:うん、でももう『パラダイス・ロスト』(2005年)の頃から“原点回帰”と言われ続けてきたんだ。正直、過去を掘り返そうと考えることはない。今の自分たちにとって最もナチュラルな音楽をプレイしているよ。前作『ザ・プレイグ・ウィズイン』(2015年)で「ビニース・ブロークン・アース」をやったことが新作への扉を開くことになった。すごく速く、スムーズに曲を書くことができたんだ。アルバムの曲は7ヶ月で書いた。俺たちにしては短い方だよ。その間、過去の作品を意識することはなかった。あえて新作を過去のアルバムと較べるとしたら『シェイズ・オブ・ゴッド』だな。あのアルバムは過小評価されていると思う。ドゥームな音楽性で、リフ的なアルバムという点が共通している。ただ、それ以外はまったく異なっている。あのアルバムが素晴らしくヒットしたわけでもないし、『シェイズ・オブ・ゴッド2』を作る意味はないからね。
──近年の作品で音楽性がよりヘヴィになったのは、何故でしょう。
ニック・ホルムズ:パラダイス・ロストで多くの曲を書いているのはグレッグ(マッキントッシュ/G)だから、彼の創造性によるものが大きい。ここ5~6年、彼の書く曲はヘヴィ度が増している。それは彼のお父さんが亡くなったことで、自分の人生を振り返って、聴いて育った音楽を再確認してみたこともあるかも知れない。でもグレッグの書く曲は単なる思いつきでなく、魂の奥底から湧き出るものなんだ。彼はじっくり時間をかけて曲を書いて、それを俺に聴かせてくれる。彼が書く曲がヘヴィであろうとなかろうと、実験してみる価値があるよ。
──どのようなボーカル・パフォーマンスを志しましたか?
ニック・ホルムズ:曲に合ったボーカル・スタイルで歌う…それだけだよ。ヘヴィで分厚いギター・リフがあれば、グラウルを乗せた方が効果的だ。クリーンなボーカルだとリフの迫力を奪ってしまう可能性がある。『メデューサ』はリフ的なアルバムだから、グラウルが向いているんだ。ただ、グラウルであってもユニークな表現でなければならない。犬がワンワン鳴くんじゃないからね。初期デス・メタルのボーカリストには独自のアイデンティティがあった。オビチュアリーのジョン・ターディとモービッド・エンジェルのデヴィッド・ヴィンセントを比較すると、まったく異なっていることがわかるだろう。でも1990年代後半になって、彼らのフォロワーが似たり寄ったりのデス・ボイスで歌うようになった。それでちょっとウンザリした部分もあったんだよね。でも今はグラウルで歌うことに喜びを感じているよ。『メデューサ』のボーカルは俺の歴代ベストのひとつだと確信している。
──『メデューサ』というアルバム・タイトルは?
ニック・ホルムズ:グレッグはいつもリフやアイディアに仮タイトルを付けて俺に渡してくるんだけど、そのひとつが「メデューサ」だったんだ。ギリシャ神話の蛇の髪をした怪物で、彼女の眼を見ると石になってしまう。これはクールだ!と思った。ただ問題だったのは、そのメデューサを俺なりの言葉で歌詞にすることだった。ギリシャ神話をそのまま歌っても意味がないし、メデューサをどう解釈するかが問題だったんだ。そうしていろいろ調べるうちに、“メデューサの眼を覗き込むことは、この世界が無意味であるという現実と直面すること”というコンセプトに出会った(註:ジャック・ロンドン『エルシノアの乱』1914年)。「メデューサ」の歌詞はその比喩となっている。
──『メデューサ』のアートワークも印象的なものですね。
ニック・ホルムズ:ありがちなイメージは避けたかった。いかにもデス・メタル風なメデューサを描いたようなジャケットは嫌だった。最近いろんなバンドのアートワークを担当しているブランカ・スタジオの作風がすごく気に入っていて、ぜひ一緒にやってみたかったんだ。レトロで1970年代ぽくもあり、一度見たら忘れられないインパクトがある。実は『メデューサ』のジャケットを考えるにあたって頭の中にあったのはブラック・サバスの『悪魔の落とし子』(1983)だったんだ。好みが分かれるアートワークだけど、インパクトは十分以上だろ?『メデューサ』もありきたりな“メデューサ像”から脱して、斬新なものになったと思う。
──2015年に加入したドラマーのワルテリ・ヴァイリネンについて教えて下さい。
ニック・ホルムズ:ワルテリはフィンランド出身のドラマーで、まだ22歳になったばかり。元々グレッグのサイド・プロジェクト、ヴァレンファイアのメンバーだったんだけど、才能にあふれた多彩なスタイルをこなせるドラマーだよ。元々彼はパラダイス・ロストの熱心なファンで、バンドに加入するのは自然な成り行きだったんだ。
──パラダイス・ロストは全員がオリジナル・メンバーで、ドラマーだけ交替していくという“スパイナル・タップ状態”ですが、常に理想のドラマーを探しているのでしょうか。
ニック・ホルムズ:そういうわけではないんだよ。本当は初代ドラマーのマシュー(アーチャー)がずっといてくれればよかったけど、彼はライブで体力が続かなかった。スタミナの問題だったんだ。彼とは今でも友達だよ。それに決してドラマーをコロコロ変えてきたわけでもないよ。エイドリアン・アーランドソンは6年在籍してきたし、変化が必要になったんだよ。
──前作に続いてハイメ・ゴメス・アレラーノをプロデューサーに起用したのは?
ニック・ホルムズ:ハイメは若いプロデューサーだけど、ビンテージな機材が好きなんだ。サンプルやループは好きではない。彼自身がドラマーだということもあって、ドラムスのサウンドにこだわりがあったんだ。今回ひとつの目安としたのは、ブラック・サバスの『13』のドラム・サウンドだった。あの熱く生々しいサウンドは素晴らしかったよ。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのブラッド・ウィルクが叩いているんだ。ロニー・ジェイムス・ディオが在籍していた時期の『ヘヴン・アンド・ヘル』のヴィニー・アピスも素晴らしかったし、ヘヴィ・メタルのドラムスはかくあるべきという名演だった。
──パラダイス・ロストの音楽性はどこまでダークでヘヴィになっていくのでしょうか。
ニック・ホルムズ:どこまでも暗い深みに堕ちていくよ。グレッグはじっくり時間をかけて曲を書いて、それを俺に聴かせてくれる。彼の音楽は常に人間の暗黒面を追求するものであり続けたんだ。もし彼がレゲエの曲を書いたとしても、ダークなレゲエになるだろうな(笑)。これからも可能な限り同じ仲間たちと、真っ暗な道を進んでいくつもりだ。
取材・文:山崎智之

Photo by Tony Woolliscroft, Danny Payne

パラダイス・ロスト『メデューサ』

2017年9月1日 世界同時発売

【50セット通販限定 CD+Tシャツ+直筆サインカード】¥6,000+税

【CD】¥2,500+税

※日本盤限定ボーナストラック収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き

1.フィアレス・スカイ

2.ゴッズ・オブ・エンシェント

3.フロム・ザ・ギャロウズ

4.ザ・ロンゲスト・ウィンター

5.メデューサ

6.ノー・パッセージ・フォー・ザ・デッド

7.ブラッド・アンド・ケイオス

8.アンティル・ザ・グレイヴ

《ボーナストラック》

9.シュラインズ

10.シンボリック・ヴァーチュー

《日本盤限定ボーナストラック》

11.フローズン・イリュージョン
【メンバー】

ニック・ホルムズ(ボーカル)

グレッグ・マッキントッシュ(リード/リズムギター)

アーロン・エイディ(リズムギター)

スティーヴ・エドモンドソン(ベース)

ワルテリ・ヴァイリネン(ドラムス)

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